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鴻海も苦戦、集まらぬ中国の労働者 若者定着せず

 中国の製造現場で労働者の確保が一段と厳しさを増している。多くの工場が深刻な人手不足に直面し、人件費は右肩上がりで上昇を続ける。安価な労働力を強みに「世界の工場」と呼ばれた中国の変調。世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)会社、台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業も直撃している。

 大型工場が集まる中国南部の深セン市(広東省)郊外にひときわ巨大な工場がある。米アップルから携帯電話や部品の製造を受託する鴻海の中国子会社、富士康科技集団(フォックスコン)本部だ。

■閑散とする募集窓口

 12月初旬、同工場の南門にある従業員募集窓口は閑散としていた。並んでいたのは若い男女30人。警備員は「2~3年前は300人以上いたのに」と首をひねる。

 中国国内の従業員は130万人。深セン工場だけで30万人が働く。中国全土の農村から従業員を集め、安価で豊富な労働力を売り物に急成長した。同社の輸出総額は中国全体の約6%を占める。だが、この成長方程式は暗礁に乗り上げている。

 「いつも人手不足だ」。鴻海幹部は打ち明ける。採用担当者は中国各地を行脚し、地方政府や専門学校で採用活動を連日続ける。2012年の基本給は2200元(約2万9000円)と5年前の4倍近いが、労働者は集まらない。トップの郭台銘氏が「100万台のロボットを導入して人間と置き換える」と語るほど深刻だ。

なぜ従業員が足りないのか。「農民工」と呼ばれる出稼ぎ労働者の数が不足しているのではない。11年の出稼ぎ総数は2億5300万人。08年より3000万人弱多い。変わったのは農民工の意識だ。

 清華大学の調査によると、1960~70年代生まれの農民工の1社での平均勤続期間は4.2年間だった。だが80年代生まれは1.5年間、90年代生まれは0.9年間だ。鴻海の人事担当者は「若い農民工ほどきつい労働に我慢できない」と分析する。

 同社の深セン工場、四川省成都の工場などで今年に入り、衝突が相次ぎ発生した。多くは警備員が従業員に注意したことがきっかけだ。若い労働者は豊かになりかけた時代に生まれ、甘やかされて育った。出稼ぎに出ても実家に仕送りはしない。短期間の仕事で稼いだ賃金で食いつなぎ、蓄えがなくなったら再び就職する若者が増えている。

 移り気な労働者をつなぎ留めるため給与は右肩上がりで上昇する。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、深セン市の基本給はベトナムの3倍近い。ミャンマーと比べると約5倍だ。

 ■アディダスなど工場閉鎖

 この30年あまりの中国の成長を支えた賃金の相対的な安さは薄れ、世界の製造業は中国での生産見直しに動き始めている。米ナイキは09年に中国の自社工場を閉鎖し、アディダスも今年10月に追随した。

 中国は所得向上やネットの普及で労働者の権利意識が高まる一方、所得格差は拡大した。中国共産党は労働者の不満緩和を狙って所得倍増を打ち出し、これが激しい賃上げ要求につながる。安い労働力に頼った成長モデルは限界が近づいている。

(日本経済新聞より)

 中国では,今ちょうど新卒大学生の就職活動が盛んな時期だ.TVの報道を見ると,大学生の就職先には金融業界が人気の様だ.インタビューを受けた学生は,金融業界志望の理由に「安定」を挙げていた.

出稼ぎ民工に,金融機関に就職の道が開かれているとは思えないが,製造業で働く若者は減っている.東莞市にある人材市場では,三次産業の求人が全体の半分を超えたと言う記事を昨年読んだ.

このメルマガでは何度も,中国は既にローコスト生産国ではないと申し上げて来た.人海戦術によるモノ造りをしようにも,作業員が集まらない.

中国全体が豊かになりつつある.沿岸部と内陸部の格差が問題になっているが,成長率と言う切り口で見れば,ここ数年は内陸部の方が豊かになったと言う実感が高いのではなかろうか?

既に出稼ぎ民工は,マズローの欲求5段階で言う所の,生存欲求と安定欲求をクリアしており,その上の欲求が顕在化していると思われる.「苦役」に耐え,自己を犠牲にしてでも,田舎の家族の生活を支えなければならない若者は激減してしまっただろう.

今の若者が「きつい労働に我慢出来ない」のではなく「きつい労働に我慢する必要がなくなった」と理解した方が良さそうだ.

日本では,「女工哀史」「集団就職」の世界から,徐々に発展し「新人類」と呼ばれる若者が登場した.中国では,この歴史をたった10年で到達してしまった.短期間に激変しているが,我々は日本で既に経験して来たことだ.

「きつい仕事」だから若者が永く働かないのではなく,仕事を通した自己成長を実感出来ないので,働きがいが湧かない.こう考えれば,まだ打つ手はあると考えている.

日本の若者には,清掃員と言う仕事は人気がないはずだ.
しかしディズニーランドに集まる学生アルバイトには,カストーディアル(清掃係)が一番人気の職種だと聞いた.カストーディアルと言う名前であっても,清掃員であることには変わりはない.ここに若者の労働意欲を引き出す秘訣がありそうだ.


このコラムは、2012年12月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第287号に掲載した記事に加筆修正しました。

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即戦力なんて存在しない

 「即戦力なんて存在しない。だから育てるんだ」スティーブ・ジョブズの言葉だ。

スティーブが創業したピクサーは、ハリウッドでは特異な存在だった様だ。

普通のハリウッド企業は、脚本などのアイディアはお金を出して買う。
必要な人材は、フリーランスで雇用する。
人材は必要な時に、即戦力を買って来ると言う訳だ。
仕事がある時だけに、人材を調達すれば、経営は楽になる。

しかしピクサーは持ち込みのアイディアは使わない。人材は社員として雇用する。
つまり、外のアイディアには金を払わない。その代わり、人財を育てるのに金を使い、内部からアイディアが生まれる様にする。

こういう考え方は、昔の日本企業が持っていた考え方だ。
「家族主義」「人は育てて使う」こういう考え方が、効率優先の短期業績主義経営によって忘れられている。

短期業績主義以外に、従業員の流動性も、中国に於いて日本的経営を難しくする要因となるだろう。折角育てても、すぐに辞めてしまうのでムダだ。人材育成は諦めた、と言う日本人経営者に会った事もある。

しかし、使い捨ての企業に労働者が魅力を感じる事はない。本当の所は、人財育成をしないから人は辞めて行く。即戦力だと思って金で買って来た人材は、すぐに金でよそに買われて行く。

従業員を「人材」(ヒューマンリソース)と考えれば、必要なリソースを金を使って準備をすれば良いと言う考えになるだろう。
しかし本当に使える「人財」はヒューマンキャピタルだ。
人を財産に変えるには、自分たちで磨き上げるしかない。


このコラムは、2013年3月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第301号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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