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人為ミスの対策

 先週は人為ミスについてコラムを書いた.今週は人為ミスの対策について事例を紹介したい.

人為ミスの対策として,安易に検査の二重化をしてはならない.
検査は不良の選別しか出来ず,品質の向上には貢献しない.客先出荷品質という限定された品質の保証が出来るだけだ.

例えば,不具合品が客先で見つかり,検査を二重化する.
しかし検査後に不具合品が混入したとすると,検査を二重化しても効果はない.
抜き取り検査を追加しても,AQL保証レベル・抜き取り数量と不良発生率を考慮すると,無意味な場合がほとんどだろう.全数検査で見逃した不良を,抜き取り検査で発見できる確立は,限りなくゼロだろう.
やるとすれば,検査員を換えて再度全数検査をするしかない.これとて検査員が二人とも不良品を見逃す確率をゼロに出来るわけではない.

事例として,ケーブルアッセンブリィを考えてみよう.
デスクトップPC用電源の出力ケーブルを想像していただきたい.いくつものコネクターが決められた長さの線材に取り付けられ,束線バンドで決められた位置を束線してある.

電気検査で発見できない人為ミスは,
コネクターの型式が間違っている.
コネクターの数が足りない(多い).
線材の仕様が違っている.
配線の長さが間違っている.
束線バンドの型式が間違っている.
束線バンドの数が足りない(多い).
束線バンドの位置が違っている.

通常,最終検査として上記のミスは,検査治具を使った目視検査が行われている.更に検査を二重化しても,生産コストがあがるだけで意味は無いだろう.

それよりは,結線作業,束線作業を治具化して間違いが発生しないようにする.この方が現実的であり効果的だ.
生産開始時にハツモノ検査を実施する.これは抜き取り検査の意味ではなく,間違った治具や製造指導書を使ってしまった場合の,修理手戻りを防ぐための自衛検査だ.


このコラムは、2011年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第198号に掲載した記事に加筆修正しました。

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人的要因に対する改善

 5月から隔週で開催しているQCC道場が佳境に入っている。対策実施、効果確認のフェーズに入っている。目標を達成すると年間効果額が100万元、200万元と言うチームがある。大変楽しみだ。

今回は人的要因に対する改善対策のノウハウをメルマガ読者様にもお伝えしたい。例えば人為ミスで発生する不具合、技能の熟練不足で発生する不具合、を改善し不良削減や効率改善の対策を考える場合の考え方だ。

原因分析を「人為ミス」「技能不足」で終わってしまうと、往々にして「教育訓練の強化」「作業指導書に厳格に従わせる」などの抽象的かつ効果を実感出来ない対策となる。多分これでも効果は出るだろう。それは効果を測定する際に、サークルメンバーの思いがバイアスとなり作業員が頑張るからに他ならない(笑)この様な効果は長続きしない。

原因分析を「人為ミス」「技能不足」から更に一歩二歩深める事が、より良い対策を見いだすコツだ。

「人為ミス」がなぜ発生するのか?更に掘り下げると、作業方法が不適切とわかる。どのように不適切か?やりづらい、手間がかかる、と更に問題点を掘り下げる。そうすれば、作業方法を変える、治具を作る、自動化するなどのより具体的かつ効果が実感出来る対策を考えつく事が出来るはずだ。

「技能不足」も同様にどの作業のどういう技能が不足しているか、まで分析を深めれば、どんな作業訓練をすれば良いか、又は新人でも作業出来る様にするためにはどうすれば良いか、と言う具体的な課題を見つける事が出来る。


このコラムは、2017年7月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第535号に掲載した記事に加筆しました。

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福知山線脱線事故

時事通信社

 JR西日本・福知山線脱線事故が発生したのは2007年4月25日。丸11年の先週いくつかの報道を目にした。

4月11日に配信したメルマガ第652号「組織事故」で福知山線脱線事故は組織事故の一つだったとご紹介した。

運輸安全委員会は、福知山線脱線事故の調査報告書を発行している。
全261ページ+別添資料の膨大な報告書だ。

簡単にまとめると以下のようになる。

原因:
 本件運転士のブレーキ使用が遅れたため、本件列車が半径304mの右曲線に制限速度70km/hを大幅に超える約116km/hで進入し、1両目が左へ転倒する様に脱線し、続いて2両目から5両目が脱線したことによるものと推定される。

以上の原因は、脱線に至る物理的原因だ。運転士のブレーキ操作が遅れた誘引があるはずだ。

誘引:
 事故発生前に伊丹駅で停止位置を通過してしまい、車掌が非常ブレーキをかけ停止位置に後退して停車している。運転士はこのミスを内緒にしておいて欲しいと車掌に車内電話で頼んでいる。
本件運転士は2004年6月に片町線下狛駅で所定停止位置行き過ぎ事故で13日間の「日勤教育」を受けている。日勤教育とは、重大インシデント、規約違反、ヒヤリハット事象を起こした者が受ける教育で数日から一月以上続くケースもある。懲罰的な要素が強い教育指導だ。本件運転士は日勤教育を避ける事に気をとらわれブレーキをかけるのが遅れている。
日勤教育には、事故またはヒヤリハットが発生した原因を分析する事が含まれているというが、本件運転士の日勤教育の記録を見ると指導官との指導問答、感想文のような本人レポートしか残っていない。

この脱線事故を組織事故としたのはここにある。
日勤教育を受けている間は、同僚運転士の目にさらされる事になる。
教育指導というより、数日間も説教を聞かされているだけ。
これではヒヤリハットや失敗を隠蔽する風習が組織にはびこり、ヒヤリハット事例で問題の未然防止どころか再発防止さえおぼつかなくなる。

ヒヤリハットや失敗を責任追及すれば、問題は隠蔽され必ず再発する。
ヒヤリハットや失敗を共有すれば、発生原因を分析し再発対策が可能となる。

失敗を称賛する必要はないが、失敗を学びに変え、再発対策、未然対策を称賛する組織文化を持つべきだと思う。

永田町の役人、旧国鉄、旧財閥系企業など古い因習があり、変わる事が難しいとは思うが、変わらねば恐竜やマンモスの様に死滅してしまうだろう。


このコラムは、2018年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第661号に掲載した記事です。

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帰宅難民

© freepic

 先週の大雪により、首都圏を相当混乱した様だ。帰宅時間帯にターミナル駅で入場規制が行われている映像を見た。若い頃金沢に住んでおり、太平洋側大都市の積雪に対する脆弱性を嗤って、雪かきの憂さ晴らしをしたものだ(笑)

帰宅難民に関して冷泉彰彦氏がメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』に面白い論考を書いておられた。

大雪の予報が出ていたにも関わらず多くの帰宅難民が発生したのは、目で見なければ納得しない、実際に何かが起きて実感しないと動けない、という日本人の悪しき習慣によるものだ、と冷泉氏は指摘している。

「雪が積もり始めないと退社の決断ができない」
「鉄道が運休になって初めて帰宅指示が出た」
など笑えない事例は、情報入手の速度、判断の速度以前の問題であり、「先走って判断したら外れた時に非難を受ける」という組織文化、「見える化しないと動けない」という心理的習性が日本の組織にある、と冷泉氏は指摘している。

三現主義は、現場で現物を手に取り現実をきちっと見て判断せよ、と教える。
したがって見える化しないと動けないという弊害を生むのだろうか?

私には別の日本的習性が帰宅難民問題を発生させたのだと思える。
それは「横並び習性」だと思うがいかがだろう。

「全員即刻退社」と指示をすれば、皆すぐに退社する。
「帰宅困難になりそうな者は早めに退社」と指示をすると、互いの顔を見合いなかなか退社できない。こういう習性がないだろうか?
つまり集団の中で、突出するのを避ける。個よりは群れを尊重する。農耕民族であり村社会の日本に、ありそうな習性だ。

しかしこれは日本人だけの習性ではない様だ。
米国心理学者・アッシュのは次のような実験をした。8人中7人がサクラで、簡単な問題に一斉に答える実験をする。7人のサクラがわざと間違った答えを示すと、被験者も間違った答えを選択する傾向にあるそうだ。これを「集団同調行動」という。

人為ミスと簡単に片付けてしまう問題・事故も人の心理に迫る分析をすれば、より有効な再発防止対策を見つけることができるはずだ。

参考:「ヒューマンファクター10の原則」


このコラムは、2018年1月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第622号に掲載した記事に加筆したものです。「今週のニュースから」は「失敗から学ぶ」と改題し同じ趣旨で継続執筆しています。

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ミスをなくす作業方法

 人為ミスが発生すると、ミスの原因を十分に調べないで「作業者に再教育」「作業者に注意するよう指導」などという再発防止対策を、報告書に書いていないだろうか?
もちろん教育・訓練や指導は重要であるが、これでは効果を期待できない。

人為ミスが発生した原因を、行動まで分解して、どこに問題が有るのか突き止めれば、有効な再発防止をすることができるはずだ。

日本にはすばらしい工場がある。「日本で一番大切にしたい会社」で紹介されている日本理化学工業だ。

この工場は、知的障害者を積極的に雇用している。全従業員の70%は知的障害者だ。

知的障害を持った作業員たちが、工場で製品を作っているのだ。
当然ミスは頻発する。それをミスが起きないようにどんどん作業方法を改善してきたのだ。

例えば原材料の投入は、正確に材料配分を計量しなければならない。
量り間違えれば、全部不良だ。こういう工程も、障害者が担当している。

材料ごとに、材料の棚、コンテナ、投入用のバケツが同じ色にしてある。
そして計量用の分銅も同じ色だ。
このような作業方法の工夫によって、ミスが起きないようにしている。

こういうのがホンキの再発防止対策だ。
人為ミスが発生したときに、安易に「作業員の再教育」と言ってしまうのが、恥ずかしくさえ思える。


このコラムは、2011年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第228号に掲載した記事です。

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