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アマゾンロボ競技会 日本、「問題設定力」に敗因

 ロボカップとの共同開催で行われた「アマゾン・ピッキング・チャレンジ(APC)」。三菱電機など日本勢も最新の技術を搭載したロボットで勝負に挑んだが、優勝はかなわなかった。技術面で後れを取ったわけではないのに、世界で勝てない。敗因を探れば、実用化段階で飛躍する道筋が見えてくる。

 キュイーン、キュイーン――。7月1日、APCの会場となったライプチヒメッセのホール4。アームの先に空気圧で対象物を吸い付ける機構の音が至る所で響いた。

(日本経済新聞電子版より)

 日経新聞の解説によると「APC」とは、米アマゾン・ドット・コムが自社施設を効率化させる目的で2015年から始めた物流の自動化技術を競うイベント。競技の課題は、各チームのロボットが制限時間内に食品や衣類、玩具などが入った棚から、指定された物を取り出して箱に詰めるという内容だ。ロボットは一度起動したら遠隔操作せず、無人で動かす。つかみにくく壊れやすい品物の移動に成功すると高得点。途中で落としてしまったり、誤った商品を取ったりしたら減点となる。

以前東大出身の研究者が米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)主催の災害救援ロボットコンテストに参加し1位を獲得した。国内では、大学が軍事産業の研究をする事へのアレルギー体質があり、災害救援と言う平和利用にも関わらずDARPA主催と言う事で批判が集まった。結局彼らが起業したロボット研究ベンチャーはグーグルに買収されている。

鉄腕アトム世代の私には、忸怩たる思いがある。

APCは産業用ロボットでありこのような懸念はないのだが、日本勢は2年連続の惨敗だ。

優勝したチーム・デルフト(オランダ)は、チームメンバーの拘束時間は朝7時から夜中の12時まで。毎日徹底して改善点を議論する、と言う体躯会系のノリでロボット開発に取り組んだそうだ。彼らは、ソフトやハードの専門家をそろえたが、周囲がやっていることを各メンバーに理解させた、と言っている。
これらの姿勢は、チームワークを重視し、「すり合わせ」を得意とする日本のやり方ではないだろうか?

結局の所、オランダチームの戦略「まず最初にやったのは競技で求められていることのリストアップ。技術から始めていない」が勝敗を分けたと思う。

日本チームは敗因を「全体を通じて統合的に考えることが足りなかった。個別最適の誤謬(ごびゅう)に陥った」と分析している。

ニュースタイトルにある様に「問題設定力」が不足していたと言う事だ。
「問題設定力」の手前に「顧客要求理解」がある。いくら「問題解決能力」が有ったとしても、顧客要求と違う方向に問題設定したのでは勝てるわけがない。

例えば「完成品倉庫が狭い」と困っている製造工場の問題は、倉庫が狭いことではなく、出荷量より沢山作ると言う問題であるはずだ。出荷量より沢山作る原因を追及すれば、歩留まりが悪いので余分に生産投入する、段取り替えに時間がかかるから、生産効率を考えて余分に生産する、と言う解決課題に至る。

問題設定が「完成品倉庫が狭い」であれば、倉庫を広くする、借りる、収納効率を高めると言う解決策しか出ない。

一方で「出荷量より沢山作る」と問題設定すれば、歩留まりを上げる、段取り替えを短縮し可動率を上げる、と言う本質的解決策が出て来る。

ロボットコンテストの敗因「問題設定能力不足」は、製造業にも教訓を与えてくれるはずだ。

日本チームは、今回の敗因を糧に来年こそ優勝してほしい。
このままでは、日本勢はロボットの構成部品メーカの役割しか出来ない。


このコラムは、2016年7月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第485号に掲載した記事に加筆しました。

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