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おにぎりとおみそしる

 小さな白いおにぎりと具のないおみそしる これは、わたしにとって、わすれる事のできないごはんです。
わたしは、東日本大しんさいで、自分の家にいられなくなり、ひなん所で生活していました。その時の食事の内ようです。
それまでのわたしは、おやつを食べて、食事の時には、テーブルにはたくさんのおかずがあって、食後には、デザートまでありました。それが、あたり前だと思っていました。
とつぜんのさいがいを受け、ひなん所で生活をしてみて、わたしが食べていたものが、とてもめぐまれていた事に気が付きました。何日間も、おにぎりとおみそしるだけを食べていましたが、ふしぎとあれが、食べたい、これが、食べたいとは、思いませんでした。おなかがすいて、食べる事ができることだけで、うれしかったからです。
白いおにぎりから、中に梅ぼしが入ったおにぎりになった時は、とてもうれしかったです。
ひなん所から、東京にいどうした時に、はじめて、おかずのついたごはんを食べました。弟が大好きな野菜を見て、「食べていいの。」と聞きながら食べていました。とても、うれしそうでした。

今もまだ、自分の家には帰れないけれど、テーブルには、わたしの好きな食べ物がたくさんならびます。季節のフルーツもたべられるようになりました。
ひなん所で、テーブルも無くて、おふとんをかたづけて、下を向いて食べた小さなおにぎりと具のないおみそしるの味は、ぜっ対にわすれません。こまっているわたし達にごはんを作ってくれた人達の事もわすれません。

ひなん所にいた時は、あまりわらう事ができませんでした。でも、今は、わらってごはんを食べています。つらい事やこわい事もたくさんありました。今は、ごはんを食べて、おふろにはいって、おふとんにねむれる事が、とてもうれしいし幸せです。
これからも、食べ物をそまつにしないで、楽しくごはんを食べていきたいと思います。 (全文)

この文章は、東日本大震災の影響で、福島県浪江町から埼玉県ふじみ野市に避難している小学4年生の常盤桃花さんが書いた作文「おにぎりとおみそしる」だ。この作文が注目を集め、埼玉県教育委員会が震災に関わる出来事を題材に作った道徳教材「彩の国の道徳 心の絆」にも採用された。

突然この様な文章を引用したのは、2012年4月5日に記録したEVERNOTEのメモを偶然見つけたからだ。この作文をEVERNOTEにメモした事すら忘れていた。
作文を読み返し、また涙が出た。
震災からもう4年が経った。当時の事を忘れない様にしたい。


このコラムは、2015年2015年5月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第422号に掲載した記事です。

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18年前に電源喪失対策検討 「重大性低い」安全委結論

 東京電力福島第一原子力発電所が東日本大震災時に全ての電源を失い炉心溶融を起こした問題で、国の原子力安全委員会の作業部会が1993年に、全電源喪失対策を検討しながらも「重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていたことがわかった。安全委は13日、当時の報告書をウェブで初めて公開した。今後詳しい経緯を調べるという。

 報告書は安全委の「全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループ」が作った。専門家5人のほか東電や関西電力の社員も参加。安全委の作業部会はどれも当時は非公開で、今回は情報公開請求されたため、公表した。

 米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した。その結果、国内では例がなく、米国と比較して外部電源の復旧が30分と短いことや、非常用ディーゼル発電機の起動が失敗する確率が低いなどとした。「全交流電源喪失の発生確率は小さい」「短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていた。ただし明確な根拠は示されていない。

(asahi.conより)

 FMEA(故障モード影響分析)についてはこのメルマガでも何度も紹介した。

FMEA

原子力発電所の設備用交流電源が失われるという、潜在故障に関して18年前に対策を検討したという。これがFMEAだ。

FMEAでは、潜在故障を、故障の発見容易度、故障の発生頻度、故障の影響度を評価する。
18年前の検討では、

  • 発見容易度:
    これは記事には書かれていないが、電源が失われればすぐに分かるはずだ。これはリスク点数は低いと判断しただろう。
  • 発生頻度:
    非常用のディーゼル発電機の起動が失敗する確率は低い、と判断している。
  • 影響度:
    外部電源の復旧が早いので影響は少ない、と判断している。

18年前の検討が不十分だったため、大事に至っている。
その内容を再検討してみたい。

発見容易度に関しては、異論はない。

  • 発生頻度に関して:
    故障モードを発電機の起動失敗だけ上げているところに問題がある。
    非常用発電機の故障、非常用発電機の水没、発電機燃料の喪失、電源配線系統の故障などもっと想定しなければならない潜在故障があったはずだ。
  • 影響度に関して:
    外部電源の復旧にかかる時間の絶対値が記載されていないが、外部電源が復帰するまでには、原子炉が危機的な状況(炉心溶融)には至らないと判断したのだろう。
    これも外部電源喪失の潜在故障検討が不十分といわざるを得ない。

潜在故障をきちんと列挙していれば、過去のデータ(米国と比較して外部電源の復旧が30分早い)が役に立たないのは明白だったはずだ。

FMEAではこれらの三つの指標を掛け算し、PRN(危険優先指数)を求める。PRN値が高いものから優先的に事前対策を講じておくというのが、FMEA手法だ。

しかし自動車業界などではPRN値が低くても、影響度の高い潜在故障モードには事前対策を施すようにしている。
「非常用電力の喪失」という潜在故障モードは、炉心溶融という最高レベルの故障影響度を持っていたはずだ。

最大の問題点は「米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した」というアプローチの間違いだと考える。米国の原子力発電と日本の原子力発電はその方式も、立地条件も異なる。安易に他の事例を、そのまま取り入れてOKとするべきではないだろう。

米国と比較して外部電力の復旧が(平均?)30分早いなどという過去のデータが論拠となるはずがない。

事故には莫大な授業料がかかる。
今回の東日本震災でも、かけがえのない人命を含む莫大な授業料を払っている。この中から、教訓を得ることが必要だ。

潜在故障モードとして不足しているところはないか、潜在故障モード発生原因の推定に不足はないか、総点検をしなければならない。

我々は常に進化している。
18年前の結論をどれだけ高く超えられるかが、次世代に継ぐ我々の責任だろう。

あなたの会社ではFMEAは常に進化していますか?


このコラムは、2011年7月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第214号に掲載した記事です。

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八木澤商店

 TV東京の番組「カンブリア宮殿」で、八木澤商店を知った。陸前高田にある創業100年を越える味噌・醤油を造る老舗だ。東日本大震災で、壊滅的な被害を受けている。

震災時に河野通洋社長(当時は専務)は、従業員と共に裏山の神社に非難した。
目の前に津波の濁流により社屋が流されるのを見ながら、今ある現預金で、従業員に何ヶ月給与を払い続けられるか考えたそうだ。被災時のパニック状態の中で、良く冷静にそこまで考えられたと感心する。非現実的な状況を目の前にしても、心をフロー状態に保つことができたのだろう。

震災後先代から社長を引継ぎ、パートを含む全従業員の雇用を継続すると宣言し、その場で給与を支払っている。工場も商品も皆流されている。売り上げの目処もない。ナミの経営者では出来ない事だ。
そういう志しの高さが有るから、被災を免れた経営者から、当分の生産場所を提供してもらえたのだろう。

番組中で河野社長が語った事を紹介しよう。

  • 強い者が生き残る世の中を作るよりは、皆が安心して暮らせる世の中を作る方がよほど難しい。それをやる人達は「青臭い」と言われ指をさされて笑われるだろう。でもそれが出来るのが日本の中小企業だ。
  • 日本の中小企業は、地域の中で思いの長い持続可能な社会を作り続けて来た。
  • 10年間同じことをやっていたら、皆消えてなくなる。だから皆が集まって学んで、磨き合って、新しい価値を作る。
  • 普通は衣食足りて礼節を知ると言う。震災時には衣食が足りていなくても、日本人は義で活きて行ける。
  • 人のためになんとかするから、自分自身が活きられる。
    人のために役立っていると言う自覚が有るから活きられた。自分が食えなくても、自分の服が無くても、そういう話しが一杯あった。人のために動くから自分が強くなれる。
  • 人を助けようと思った人が亡くなってしまった。
    水門を閉めに行くと言う社員を止められなかった河野社長がそう語ったとき、彼の目に涙があふれているのが、私のかすむ目にも見えた。
  • 震災と言う困難を乗り越えた河野社長の奮闘は、称賛に値する。しかしこの番組の本当の価値はそこではない。同じ様に被災した中小企業同士が、お互いに励まし合い、工夫をして新しい価値を作り出している事に注目したい。

一つ一つの中小企業は、力が無いかもしれない。しかし皆で協力すれば強くなれる。常に心に留めておくべき教訓を得た。


このコラムは、2015年3月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第415号に掲載した記事です。

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福島原子力発電所

 東日本大地震による大津波の影響で、福島原子力発電所の制御システムが壊滅的なダメージを受け、今もまだ危機的な状況にある。自衛隊、消防庁、電力会社などの人々の、被爆をも恐れぬ献身的な活動に、目頭が熱くなる。

われわれ日本民族の未来を懸けた戦いはまだまだ終わりではないが、福島原子力発電所の事故に関して、自分が受け取った教訓について書きたい。

原子力発電所の事故につながる地震・津波の天災を「最も準備ができている日本と日本国民に与えた、神の試練」とする海外のコメントがあった。災害時に略奪、暴動が発生する国の人々にとって、地震で棚から散乱した商品を拾い上げてレジに並ぶ人々を見るのは、奇跡に思えるだろう。

災害時といえど、人としての誇りと他人を思いやる気持ちを保ち続けることが出来る日本人の民族性を、誇りに思っている。

そして今回の原子力発電所の事故は、非常事態用の安全装置、緊急冷却装置や緊急用発電施設が、すべて機能を失ってもまだチェルノブイリの様な本格的危機の発生を抑えている。しかも福島原子力発電所は、チェルノブイリ事故の発生以前にすでに運転を開始している。

40年近く前に設計された原子力発電所のフォールトレラント性(事故許容性)が非常に高かったため、想定外の地震、津波が発生してもまだ危機的な状況に至っていない。

非常用のバックアップ設備が津波により一気に機能しなくなった、しかも制御システムも瞬時に重大な機能不全に陥ったはずだ。
このような状況下で、チェルノブイリのような危機的状況の発生を抑えられているというのは、日本の原子力発電所のフォールトレラント設計の高さを証明している。

全ての制御機能を失うという事は、全ての窓にカーテンがかけられ、全ての計器が正しい値を示さない自動車を運転することと同じだ。しかも車をその場で停止するだけではない。路肩の安全な場所に移動して停止する必要がある。高度な危機対応能力がなければ、出来ることではない。

これらのフォールトレラント性、危機対応能力が海外のメディアから高く評価されている。中国のTV報道によると、中国本土、台湾ともに日本の事例を元に国内の総点検を開始している。中国では、今申請中、建設中の原子力発電所は全て凍結されたようだ。

高い評価を受けたとしても、まだ危険な状態を脱しきれていない。
M9級の大地震、20m級の津波が同時に発生したのだから、止むを得ないとは当事者ならば誰も考えないだろう。人の命が懸かっている、諦められるはずはない。

このような状況は、工場経営にも起こりうる。
天災だけではない。生産フル稼働中に生産設備が故障。停電時に自家発電機が故障。PCのデータをバックアップ中にPCがフリーズ。つまり期待していたバックアップ機能がうまく作動しない事故。

従業員のストライキ中に火災が発生。部材の調達遅延と、在庫部材のロット性不良が同時発生。生産が遅れ、出荷を航空便に切り替えようとしたら航空会社がストライキ中。つまり単一の事故は想定していたが、二重に事故が発生する場合。

今回の福島原発事故を教訓に、事前に対応を検討することは可能だ。
しかし全てのケースを予め想定しておくことは困難であろう。予想不可能の事故が発生した場合の対応優先順位を予め決めておく必要がある。

人命・人身への影響は第一優先とする。
次に顧客への製品供給を守る。つまり代替が利かない設備や材料の確保を優先。(たぶんこの優先順位は、業界を超えた共通の原則だと思う)

この様に決めておいた優先順位に従って、対応を決定してゆけば、大きな間違いは発生しないだろう。

最悪の事態は、トップリーダが冷静な判断力を失うことだ。
これを防ぐためには、平常時より部下に緊急時の心得を指導し、模擬演習をしておくことだ。実はこの模擬演習は部下の緊急時対応能力を育成するためだけではなく、緊急時に自分自身が冷静を保つ訓練の意味もある。

【この記事を書いた時には、まだ原子力発電所が危機的状況にあることは報道されていませんでした】


このコラムは、2011年3月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第197号に掲載した記事です。

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自粛を自粛

 東日本大震災で広がっている花見やイベントなどの「自粛ムード」について,内閣閣僚からも,行きすぎると経済に悪影響が出かねないとの懸念が出始めた.復興構想会議に任命された村井宮城県知事は「過度な自粛をしないで消費を促してほしい」と菅首相に要望している.

隅田川の屋形船は,9割がた売り上げが落ちているそうだ.
被災して辛い避難生活を強いられている人たちのことを思うと,花見などと浮かれる気持ちにはなれないのは分かる.しかし政府や自治体の指導者が,花見を自粛せよというべきではない.

被災していない我々こそ,消費をして国の経済を支えるべきだ.復興にかかる費用を,消費税や事業税として負担しなければならない.

復興には15兆円ほどかかると言われている.気の遠くなるような金額だ.国民一人ひとりが,税金で負担しようとすれば一人当たり,12万5千円.一家族を4人とすれば,各家庭の税負担は50万円増えることになる.やはり企業が利益を出して,たくさん事業税を納めてもらわなければならない.

景気を冷え込ませてはいけない.
個人消費が伸びれば,企業の収入が上がり,納税額も上がる.被災地への義捐金と同じように,個人の消費も被災者を支え,被災地の復興に貢献することになるはずだ.

中国の航空会社が,被曝を恐れ帰国する中国人に対して航空券の売値を1万元に上げたと聞いた.通常ならば5000元で往復航空券が買える.しかし日本の企業がそのようなさもしい商売をするはずはない.

思い切って大型の液晶TVを買う.そして製品の裏側隅に「東日本大震災復興のため購入」と書いておく.きっとその製品を買ったことを永く誇りに思えるはずだ.家族は皆それを大事に使うだろう.

私達の様に海外で働いている者は,必死で働いて家族に少しでもたくさん仕送りをする.工場の経営者も,利益を出し日本の本社に還元する.

震災の影響で生産量が落ちている工場は,生産が落ちている間に生産改革を実施して,高利益体質に生まれ変わる.

それぞれが,それぞれの立場で今しなければならないことを,精一杯する.それが,日本の社会を明るくし,被災者を支え,被災地を復興させることになるはずだ.

今回の震災が,人類が未だ受けたことのない規模の災害ならば,人類が未だ達成したことがない復興を,我々日本人が果たそうではないか.


このコラムは、2011年4月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第200号に掲載した記事に加筆修正しました。

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利他の力

 東日本大地震,福島原発事故に関するニュースや,ツィッターのつぶやきを拾ってみた.

事故後、福島第1、第2原発に入った東芝の技術者は100人以上。日立製作所から来ている120人とともにケーブル敷設など重要な業務を担当している。前線を支える後方部隊は約600人。20キロメートル圏外に複数設置した仮設の待機所には常時、交代要員が詰めている。

ぜんぜん眠っていないであろう旦那に、「大丈夫?無理しないで。」とメールしたら、「自衛隊なめんなよ。今無理しないでいつ無理するんだ?言葉に気をつけろ。」と返事が。彼らはタフだ。肉体も、精神も。

父が明日、福島原発の応援に派遣されます。半年後定年を迎える父が自ら志願したと聞き、涙が出そうになりました。「今の対応次第で原発の未来が変わる。使命感を持って行く。」家では頼りなく感じる父ですが、私は今日ほど父を誇りに思ったことはありません。無事の帰宅を祈ります。

宮城県石巻市にある「イトーヨーカドー石巻あけぼの店」は11日の地震で建物が一部損壊した。電気、ガス、水道が止まり、店員は来店客200人を店外に誘導して営業を中止した。
その後午後6時、被災を免れた飲料水やカップ麺、乾電池など数十種類の商品が店頭ワゴンに並んだ。営業を止めたのはわずか3時間だった。

駅員さんに「昨日一日一生懸命電車を走らせてくれてありがとう」って言ってる小さい子供たちを見た。駅員さんは泣いていた。俺は号泣した。

お菓子の袋を持ってレジに並んでいた子供が、レジ横の募金箱にお金を入れて、お菓子を棚に戻して出て行った。店員さんの「ありがとうございます」という声が震えていた。

 これらのニュースやつぶやきに触れるたびに落涙していた.今もこのコラムを書きながら,流れる涙を止めることが出来ない.いつまでも感動しているだけではいけない.この出来事をしっかり考えて見たいと思う.

原発事故現場では,被曝を恐れず自らの命を賭けて戦っている人たちがいる.
被災地で救援活動をしている人たちも,疲労の限界を超えて働いている.
被災地では,自宅や家族の安否も確認できないまま,緊急必需品の販売をする人たちがいる.

こういう人々は,自らを省みず他人のために働くことが出来る人だ.
利己を排し利他を求める行動に,多くの人は感動と感謝と尊敬の念を持つ.
利他の力を持つ人間が多くいる組織は強い.

「滅私奉公」「国のため」「会社のため」という道徳観が,戦後の経済復興を支えた.焦土となった日本の都市を見て,今の繁栄を想像できた人がいただろうか?国民全員が「豊かになりたい」という渇望とも言える目標を,共通の道徳観の元に共有し,一歩一歩努力をしてきた結果だ.

「滅私奉公」「国のため」「会社のため」という道徳観は,今の日本では薄れている.国を代表するスポーツ選手も「日本のために」と発言する人は少なくなった.
「ゲームを楽しみたい」「(自分の)目標に向けてよい結果を出したい」という発言が普通になってきており,世間もそれを受け入れ始めている.

しかし有事ともなれば,利他の力を大いに発揮する.
阪神・淡路大震災での復興や,今回の災害での復興活動がそれを証明している.

では,中国で経営している工場はどうであろうか.
残念ながら,中国人労働者に「会社のため」という「滅私奉公」の精神を要求しても意味は無い.

しかし彼らに利他の力が無いわけではない.
2008年の四川大地震の時に,多くの中国人が利他の力を発揮した.
彼らに利他の力が無いわけではなく,その力を発揮する対象が家族・縁者に限定されているだけだ.

四川大地震の時には,「被災者を救おう」「被災地を復興しよう」という共通の目的・目標が出来たために,利他の力を発揮する対象が広がったのである.

この力を引き出せば,強い組織になる.
そのために「滅私奉公」を強要するのではない.「活私奉公」を説くのだ.
つまり利他の力を発揮すれば,すなわちそれが利己となる,という道理が,原理・原則となる仕組みと仕掛けを用意して置けばよいのだ.

他人に利益をもたらす行動が評価され,処遇が決まる.そういう評価制度を作る.
つまり多くの部下を育てた上司が評価され,昇給・昇格する.顧客や同僚から多くの感謝を集めた従業員が,多くの給与を手にする.

そして企業は,仕事を通して従業員の成長と幸福を追求する場所である,という共通の目的・目標を,理念として伝える.

企業そのものが,利益追求の利己主義から,顧客満足,従業員満足の利他主義に切り替わらねばならない.

そして顧客,従業員がその利他の力が自分に及ぶのを実感すれば,感動,感謝とともに,自らも利他の力を企業に対して発揮するだろう.


このコラムは、2011年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第198号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ピンチはチャンス

 東日本大震災の影響で,納入がストップ,生産が停止しそうだと予測しておられる中国工場がある.納入先が被災して生産が止まっている.納入先のベンダーが被災しており,生産が継続できない.さまざまな理由で,生産を止めざるを得ない工場も多いのではないだろうか.

198号のメルマガで,生産が止まる時こそチャンスだと書いた.生産が止まっている時に,徹底的に生産改革をするのだ.ライン稼働中には出来ないレイアウト変更.人海戦術を脱皮して,セル生産方式を導入する.ピンチをチャンスに逆転する発想が必要だ.

随分昔のことだが,自社の生産工場をインドネシアに立ち上げたとたんに,予定していた受注がストップしてしまったことがある.立ち上げたばかりの工場に生産を回せない.来る日も来る日も採用したばかりの作業員の訓練をした.その結果,一期生の作業員は生産を始める前から,多能工になっていた.そして量産を始めた時から,すばらしい工場になった.一期生の作業員は皆優秀な現場監督者になった.意図したわけではなかったが,受注ゼロのピンチがチャンスに変ったのだ.

別のチャンスが訪れている工場もある.

細々と板金プレス加工をしている日本の工場がある.東日本大震災の被災地に建設する仮設住宅用の蛍光灯照明器具の反射板の受注が一気に来たそうだ.元々生産量が少ないので手加工で生産していた.そこに一気に大量注文が舞い込んだ.生産が追いつかない.しかし金型を新規に製作しても,投資を回収できそうもないと悩んでおられるそうだ.

これは中国でモノ造りをしている我々にもチャンスだ.中国で安価な金型を作り,輸出してあげれば日本を救うことが出来る.

こういうチャンスが,他にいくらもあるような気がする.
震災による景気の行方を心配したところで,どうにか出来る訳ではない.心配するより,行動することが重要だ.

この大ピンチをチャンスに変える方法を考えよう.
ピンチを変えれば(Change)チャンス(Chance)となる。


このコラムは、2011年4月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第200号に掲載した記事に加筆修正しました。

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東日本大地震の中国経済への影響

 昔はアメリカがくしゃみをすれば,日本が風邪を引くといわれたものだ.しかしその逆はあまり聞かなかった.当時は日本がくしゃみをした位では,アメリカはびくともしなかったのだろう.

しかし今回の地震(くしゃみどころではないが)で,世界中に流行性感冒をばら撒いてしまったようだ.世界中に流通する製品のキーコンポーネントに,日本製の部品が使用されているからだ.

当然その生産拠点の中国にも影響を与える.
被災してラインストップした日本企業からの部品供給が止まる.または,直接被災していなくても,被災地の工場から部品を仕入れていれば,遅からぬ時期に部品供給が止まる.

またメルマガ読者のC様からご指摘をいただいたが,日本からの出荷が放射性物質汚染の影響で,一律止まってしまう可能性もある.

その結果,中国でモノ造りをしている工場のラインが止まってしまう.日本から部品を購入していない工場でも,納入先の工場が止まってしまえば,連鎖的に操業停止となる.

しかし恐れることは無い.
このメルマガでは再三申し上げているが,ピンチはチャンスだ.
2008年末の世界金融危機の時も同じことを申し上げた.
景気低迷で生産が落ちている時こそ,生産革新のチャンスだ.フル生産している時には,思い切ったレイアウト変更や,将来に向けた生産方式革新には取り組みにくい.生産量が落ちている時に,そうした10年先を見込んだ生産改革をすべきだ.

今のまま生産を継続していては,早晩行き詰まるはずだ.最低賃金が毎年20%程度上昇している.このまま10年間同じ比率で上昇したとすれば,10年後の最低賃金は6倍以上になる.その時今と同じモノ造りをしていて,利益が出せるだろうか?

金融危機の時に,10年後のモノ造りを目指したクライアント様は,バッチ生産方式だったのを一気通貫生産に切り替えた.今では他の部品も同じ工場に集約している.

別のクライアント様は,大口ジョブの失注を機会に生産革新に着手した.創業以来続けてきた生産方式を変え,スペース半分・生産効率1.5倍を手に入れられた.

ピンチをチャンスに変えるのは,経営者の仕事だ.
最悪の災害に暗い顔をしていても始まらない.
世界最悪の災害を,最高のチャンスに換えよう!
我々が業績を伸ばして,日本の復興資金を稼ごう!


このコラムは、2011年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第198号に掲載した記事に加筆修正しました。

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