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奥的斯電梯の事故

 地元のタブロイド紙によると,奥的斯(オーチス)製のエレベータ事故が東莞市内で続いて発生している.

 以前このメルマガで,日本国内のエレベータ事故に関するコラムを何度か書いたことがある.

「東大でシンドラー製エレベーター事故 学生1人けが」
「エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが」
「同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡」
「シンドラー製エレベーター、全国5500台を緊急点検 国交省、事故の再発防止めざす」

また,私自身が中国でアパートのエレベータに閉じ込められた話も書いた.

日本でも中国でも,エレベータ事故は発生している.しかし私自身の経験では中国の方が圧倒的に頻度が高い.
日本では,週5日は毎日最低2回エレベータで上り下りを24年間していた.しかしエレベータに閉じ込められたことは一度もない.中国で生活するようになり6年しか経っていないが,既に4回エレベータに閉じ込められている.
計算をするまでもなく,日本と中国の事故発生確率には有意差がある.

最後にエレベータに閉じ込められた時は,牽引ワイヤが切れ,安全停止装置により停まったそうだ.10階から7階まで落下した.乗り合せた私を含む3名には怪我はなかった.

この事故から程なく9月9日に,近所のオフィスビルのエレベータが19階から地下1階まで落下した.この事故も牽引ワイヤが切れたものと思われるが,この時は13人1000kgの定員を遥かにオーバする21人が乗っており,安全停止装置は役に立たなかったようだ.20人が怪我をしている.

このオフィスビルのエレベータは,私のアパートと同じくオーチス製だ.

更に新聞の報道によると,
9月19日:オフィスビルのエレベータが6階から4階まで落下.
10月14日:マンションのエレベータが3階から地下1階まで落下.

これら全てオーチス製のエレベータだそうだ.

オーチスのエレベータが東莞だけで,2ヶ月弱の間に4回事故が起きている.アパートのエレベータ事故は報道されていないので,まだ他にも同様な事故が有った可能性はある.

オーチスといえば,日本で最初のエレベータを日本銀行本店に入れた老舗メーカだ.

中国では,西子電梯と合弁で西子奥的斯が生産をしている.東莞でメンテナンスをしているのは大力士電梯という会社だ.この会社もエレベータを設計・生産している.

さすがのオーチスも,広い中国ではメンテナンス網を構築する力がなかったのだろか.緊急時には迅速に現場に駆けつけ,乗客の救出を行わなければならない.私の場合は45分ほど待たされた.万が一けが人がいれば,手遅れになる可能性もある.

しかし通常の点検・メンテナンス,修理は緊急性よりは,確実性が要求される.万が一の場合には人命に影響を与える設備だ.エレベータは一度設置されると,ビルがある限り,定期的にメンテナンスの仕事が来る.しかもユーザには選択の余地はない.エレベータのメンテナンス会社はさしたる営業努力をしなくても,先々の売り上げが見込める.メンテナンスがいい加減ならば,更に故障修理の売り上げが増える.

事故があっても,オーチスの新規売り上げが減るだけだ.メンテナンス会社は,当分売り上げ計画通りの収入がある.

先週のコラムでは,建設機械のコマツは,保守サービスが競争源泉だと書いた.

「アフターサービスを競争原理に」

エレベータ会社も,同様だろう.
メンテナンスは,自社もしくは直系子会社でやるべきだと考える.競争源泉の現場は,外注にしたり,変動経費の要員化をすべきではない.
短期経営数字を追求することにより,現場力を失ってしまった企業を,我々はたくさん見てきた.


このコラムは、2011年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第220号に掲載した記事に加筆しました。

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