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「ヒヤリハット手帳」を作成、ミスを最大限防ぐ

 仕事のミスは防ぐべきものだが、気の緩みや勘違いなどで、思わぬミスをしてしまうことはよくある。そんなミスにすぐ気づき、「ヒヤリとする」「ハッとする」。そこまではいい。問題はその後だ。小さなミスをしたあなたは、ホッと胸をなで下ろして、やり過ごしていないだろうか。やってしまったミスと正しく向き合い、その後のミスを防ぐ方法を紹介する。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 記事は「ヒヤリハット」を個人資産として手帳に蓄積しよう、と言う趣旨だ。
私は「ヒヤリハット」を組織資産として蓄積活用することを推奨している。

「ヒヤリハット」と言うと、ハインリッヒの法則を想起される方が多いだろう。労働災害を調査したところ、1件の重大事故の背後には29件の軽事故が発生しており、300件のヒヤリハットが発生している、という経験則を見つけている。これがハインリッヒの法則だ。

ヒヤリハットをなくすことで重大事故を防ごうと言うのが、災害防止の考え方だ。災害防止と同様に、ヒヤリハットをなくすことで顧客クレームも予防出来ると考えられる。

例えば、作業員が生産中の製品がいつもと違うと言う違和感を持った。それを班長に告げたところ、製造ミスに気が付き全数修復した。もしこの作業員が気が付かなかったら、もしくは気が付いても何も言わなかったら、大量の不良が客先に流出するところだった。
この話は実際にあった例で、この作業員には報奨金が与えられた。詳細は記憶にないが、当時にしては破格の金額だった。

設計でも同じ様なことは有る。検図や設計レビューで気が付けば良いが、生産開始後に気が付くと、相当な損失となる。金額だけではなく、製品リリースが遅れる事が致命傷となることも有る。

この様なヒヤリハット体験を、組織の知恵として蓄積する仕組みを持つ。この仕組みが機能する為には、まずはミスを隠さない組織文化が必要だ。

前職時代には、過去数年間の設計ミス事例を洗い出し、1項目1ページの定型レポートを作った。このレポートを分析し、設計レビューチェックリストを作成した。設計完了後、設計者自身でチェックをし、チームリーダが設計者と面談で確認しながらダブルチェックをすると言う仕組みを作った。設計審査は、このチェックリストが完成しなければ開催出来ないルールとした。

このチェックリストを運用し始めてから、設計ミスは格段に減った。
実際には、チェックリストだけではなく計算機支援でデザインルールチェックも入れた。デザインルールは、上記の設計ミス事例集から抽出している。

プリント基板に後加工でパターンカットやジャンパ線を追加する事はほとんど無くなった。ほとんどと書いたのは、設計後仕様変更があり、プリント基板に後加工をする必要が発生する事が時々有ったからだ。(こちらは別の方法で削減しなければならない。)

しかし、チェックリストを作っても運用が形式的になれば効果は期待出来ない。ルールとは別に、チョットした仕掛けを入れた。
上述したチェックリスト運用ルール中のチームリーダとのダブルチェックは設計者に対する教育効果を狙っている。若手の設計者が、先輩の失敗と言う「財宝」から学ばなければ、それこそ宝の持ち腐れだ。

製造のミスも同様だ。工程内不良が事故に於けるヒヤリハットに当たる。
工程内不良の原因をしっかり分析し、再発防止をする。これを作業指示書に反映するとともに、次の機種の作業指示書には最初から再発防止を組み込むようにしておく。

このようにして組織でヒヤリハットを蓄積共有し、活用する事が重要だと思っている。特にこれからの中国でのモノ造りは、単純に製造部門だけのモノ造りでは無くなって来る。工程設計、製品設計も中国でやる様になるだろう。この様な考え方を導入しておかねばならない。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に加筆しました。

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続・モノ造りの変遷

 先週は、日本の大手企業が設計・製造を外注化し設計・製造の現場力を下げているのではなかろうか、と言う問題提起をした。

先週のコラム「モノ造りの変遷」

経営効率を考えると、設計者の育成に時間がかかる設計部門、生産設備などの固定費を抱える製造部門は経営を重くする。それらを外注に出し、固定経費を変動費化する。そして経営資源を価値創造の商品企画に集中することになる。

しかし設計・製造を外注化したとしても、製品の品質保証は自社に有る。当然、外注化した設計・製造の品質保証をしなければならない。

製品の検査に関与するのは得策ではないだろう。せっかく付加価値の高い商品企画に集中しようと言うのに、付加価値を生まない検査を取り込んでは意味がない。

品質保証の鉄則は「源流管理」だ。最終検査に注力するより製造工程に遡る、製造より設計に遡って管理する。

具体的には、設計・製造のレビューや審査に遡って先に問題をつぶしておく事が必要となる。レビューや審査で成果を出すためには設計・製造の現場力がなければならない。と言う事で、問題は振り出しに戻ってしまった(笑)

中堅中小企業でも人財の不足などで、源流管理が難しくなっている事例を見る。

前職時代にファブレス事業部(製造は全て社外の生産委託先)の品質保証部門責任者として同様な問題を抱えていた。(当時は当たり前の事だったので問題と言う認識はしていなかった)

他の事業部を含め品質保証部門には生え抜きの品質保証マンは殆どいなかった。
研究開発、製品設計、生産技術、製造、商品企画、営業など様々な経験を持ち品質保証を担当しているメンバーばかりだった。

設計出身の者は、設計レビュー・審査で潜在的問題を嗅ぎ分ける事ができる。
しかし別の経歴を持った者はそれは出来ない。逆も然りだ。品質保証部門に色々な経歴を持った者を集めれば良い訳だが、簡単ではない。

私が実践して来た方法は、設計で発生した問題、製造で発生した問題を収集し事例集を作る事だ。

自社の問題だけではない。部品、材料の仕入れ先、生産委託先、同業者の問題も収集した。同業者の問題など知る事は不可能だと思ったら、不可能となる。可能になる方法を考えれば良いのだ。

例えば、コンピュータの電源ユニットの回収が新聞記事に出れば、秋葉原でジャンク屋を回り、回収対象品を探しまわる。手に入れた回収対象品を分解し問題を探る。それでも原因が分からない時は、顧客の品質担当者から聞き出す。
コンペチターの製品なので、当然顧客の品質担当者はコンペチターから報告を受け不具合内容を知っている。興味本位で聞いたのでは教えては貰えない。同様な問題で、顧客に迷惑をかけないためにコンペチターの電源ユニットを分解し原因を分析していると知れば、先方も教えてくれるモノだ。

そうやって、電気電子部品、半導体、プラスチック成型、機構部品、化学材料などの信頼性問題を沢山仕入れ、それが設計や製造のチェックリストになっている。それらの内、公開しても問題ないモノはホームページで公開している。参考にしていただければ光栄だ。

コラム:信頼性技術

自社に設計・製造部門がなくても、このような努力により、設計レビューや製造レビューで問題を未然に防ぐ現場力を持つ事が出来るだろう。


このコラムは、2017年11月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第585号に掲載した記事です。

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モノ造りの変遷

 日本の大手製造業のモノづくりが最近大きく変わってきているように感じる。

日本は伝統的にモノ造りの職人に対して尊敬の念を持つ心がある。(経済的に優遇されているかどうかはちょっと疑問に思うところもあるが、いかがお感じだろうか?)その伝統が日本の製造業の根っこの所を支えてきたように思う。
近年それが変わってきたように感じている。

明治以降近代化が進み、日本は先進国のモノマネを始める。当時日本製品は世界から「安かろう悪かろう」の代名詞として認識されていた。戦後の復活期にデミング博士から教えられた品質管理を愚直に徹底。小集団活動により改善を繰り返し、品質、コストダウンを追求した。そして「モノ造り日本」という称号を得て、経済大国に成長した。その背景には勤勉な日本人労働者がいる。

ここまでは、先頭ランナーの背中を追いかけていればよかった。
先頭に飛びたしてしまってから、ちょっと勝手が違ってきた。もうマネをする相手がいない。自ら価値を創造しなければならない。そんな時期にバブル崩壊がやってきた。

その時期に、日本的伝統を捨て欧米流の合理主義経営に飛びついた。
製造や設計の外部リソース化により、製造や設計を変動費化し経営を身軽にしようとした。アップルやグーグルなどの優良企業の様に、商品開発による顧客創造を目指したと言えるのではなかろうか?

中堅中小企業がこの様な戦略を取っているとは思えないが、大企業がこの戦略で、製造や設計の現場力を落としている様に思えてならない。

一方中国のモノ造りの変遷は以下の様になるだろう。
先進国の生産委託を受け入れることにより、先進国のものづくり技術や設備を取り込んだ。そして安価な労働力を背景とし、同一規格製品の大量生産により経済成長を果たす。急速に経済発展した中国は労働コストの優位性を失ない、次の展開を目指さねばならなくなっている。

中国の新興民営企業は、独自製品の設計・生産を始めている。しかし残念ながら、中国企業は現場力を極める姿勢がまだ足りない。設計力をつけてきた企業は次の段階(設計品質保証)を目指すことになる。

日本の製造業が進んできた道を、経路は違っても中国企業がキャッチアップしてくる。日本企業も次のステップに向かわねば追いつかれる。


このコラムは、2017年10月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第582号に掲載した記事です。

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