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設計審査を企業文化とする

 先週のコラムにK先輩の「八つの成功行動」を紹介させていただいた。その中の「設計審査を企業文化とする」を少し解説したい。

設計審査は「予防保全」の中で最高に効果が高い事前品質保証活動だと考えている。

K先輩と私が勤めていた会社では、設計審査がきちんと製品実現プロセスに組み込まれていた。開発技術部が、ISOのためにやる証拠主義の、手打ち式ではない。初期設計審査、中間設計審査、最終設計審査と設計のステージに会わせ、3回の設計審査が行われる。

私は、国内にいる限りすべての設計審査に出席し、将来に禍根を残さぬ様議論を尽くした。事前に設計者達が作成したレポートにはすべて目を通し審査会議に出席したモノだ。私が海外の生産委託先指導に出かけているときは、部下が同じ事をしていた。

新製品ばかりではなく、マイナーチェンジなどの設計変更にも設計審査を開催していた。さすがにこの場合は設計変更規模に会わせ2回又は3回を、初期設計審査で審議決定する。設計変更の場合に限り、初期設計審査は紙上開催可能にする様、事業部ルールを作っていたので、設計変更の場合は、最終審査だけの場合もあり得る。

私がいた事業部は、量産かつ短期立ち上げの製品が多く、量産開始後に問題が発生すると、工場が混乱するばかりでなく、顧客にも迷惑をかける可能性がある。そのため設計審査が、効果的に運用される必要があった。

私たちの事業部は、生産を100%外部に委託するファブレス事業部だったため、特に量産開始後の生産性、工程内不良などに関しては、量産試作審査、量産移行審査等で、事前確認をすることにしていた。

ここまで書くと、利益幅のある付加価値の高い製品を生産していた様に思われるかもしれない。しかし私たちが生産していたのは、電源ユニットであり、納入単価が3$を切り、部品費比率が80%を超える様な薄利製品だ。この様な製品だから、問題を事前に潰しておかねばならない。量産開始後何か問題が発生すれば、利益はあっという間に吹っ飛ぶ。

日系企業の多くが、日本本社で設計をしている。そのため中国工場では設計審査にほとんど口を出せない(もしくは出さない)場合が多いと思う。

台湾企業も、設計は台湾本社で、中国工場は生産するだけという所が多い。中国に設計部隊を持たそうとしても、失敗している例が多かった。

中国工場は、本社の設計の言う通りに造る,と言う主従関係が出来てしまい、生産技術のエンジニアの士気が上がらない事が多い。彼らは何かと言うと、設計が悪いと言い、自分で問題を解決する事を放棄してしまう。

そういう工場に、量産試作審査、量産移行審査,出荷判定会議を導入した。

試作は開発設計者の機能確認のためだけではなく、事前に品質保証計画を立てる、生産性を評価する,と言う名目で、中国工場の責任で行うことにした。その試作中に、設計上の問題点をすべて洗い出し、量産試作審査をする。この時点で、設計が一定レベルを超えていると判断出来る場合は、審査合格。問題点は設計部門にフィードバックする。

量産移行審査では、量産試作審査で上げた問題点がすべて解決しているか確認をする。正当な理由なく問題点が未解決の場合は、設計部門に差し戻し。量産をしない。と言う制度を作った。

台北の設計者達がどう捉えたかは分からないが、経営者も工場も大賛成だ。このシステムを運用して、一番喜んだのは、工場の生産技術エンジニア達だ。彼らは、それまで台北の設計エンジニアの言う事は、どんなに筋が通らなくても「神の声」と同じで従うしかなかった。それが、工場側から量産しない。といっても良いのだと、教えた訳だ。やる気にならないはずがない(笑)

それだけの権限を得れば、当然責任も負わねばならない。
出荷判定会議では、最初の出荷ロットの生産により、その後の生産が問題なく継続出来る事を確認し、以降工場サイドで責任を持つ,とサインアップする。

こういう品質保証システムを、企業文化の一部とする。つまりこの工場には、「台北の声は神の声」と言うのが常識だった。それを品質保証システムを企業文化とすることにより、品質が上がるばかりでなく、工場エンジニアの士気も上げることができた。


このコラムは、2013年10月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第330号に掲載した記事に加筆しました。

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