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作業員の離職率

 先週は明治大学で経営学部の学生さんに講義をした。バリバリ理系出身の私が社会科学を勉強している学生さんに講義などおこがましいが、我が師匠の故・原田則夫師の経営哲学を紹介させていただいた。

毎週日替わりで現役の著名経営者が講義をする。私から見ると、大変羨ましい授業だ。その特別講義のトップバッターとして登壇させていただいた。
私の場合は、私が著名経営者と言う訳ではなく、原田則夫師の経営哲学伝導者として、呼んでいただいている。

その講義の後に、中国人留学生からご相談を受けた。
彼女のお父様は、中国で300人規模の工場を経営されているが、従業員の離職率が高くて困っている。どうすれば作業員を定着させることができるか、と言うのがご相談の趣旨だ。

非常に問題意識の高い現実的なご質問だと感心した。
日本の学生も頑張れ!と思わず心の中で叫んでしまった。
自分が20代の頃は、経営的な問題意識は微塵もなかったので、えらそうな事は言えないが(笑)

「離職率が高い」と言う現象に対して、解決課題をどう定義するかを、まず考える。

「離職率を下げる」と言うのも解決課題になるが、他にも解決課題は設定可能だ。つまり離職率が高くて問題になるのは、作業員の熟練度が不足する、人員の確保が難しい、などの原因により、生産性、品質、納期などを、望む範囲にコントロール出来ない事だ。

従って「離職率を下げる」以外にも、「少人数で生産出来る様にする」という解決課題も出て来るはずだ。

今回はとりあえず、「離職率を下げる」と言う解決課題に関して、根源的なアドバイスをさし上げた。

まず従業員が辞める理由を理解しなければ、離職率を下げる事は出来ない。ここで多くの経営者や経営幹部が犯す間違いは、最近の若者は理解出来ない、と考える所に有る。

「違い」に着目すれば、当然理解出来ない。
たとえ「違い」を見つけることができたとしても、それがどうマネジメントの役に立つのか考えてみると良い。今の若者は、上からの指示に従うことに慣れていない。では指示をせずに仕事をしてもらうことができるだろうか?
多くの一人っ子は、両親祖父母に大事に育てられたから、叱るとすねる。では叱らずに仕事を教えることができるだろうか?

「違い」を理解してもマネジメントの役には立たない。
「違い」に着目すれば、このように矛盾する事ばかり列挙することになる。

「違い」ではなく「共通点」に着目すべきだ。
70后、80后、90后どの世代にも、経営者でも作業者でも、人間としての共通点があるはずだ。その共通点に着目すれば、年代の差、職位の差は無くなる。その共通点は、幸せになる事だ。幸せになる事は、人として共通の人生の目的と言って良いだろう。

仕事を通して成長することにより、幸せになる。これが実感出来れば、人は簡単には離職しなくなる。なぜなら、仕事と人生の目的が一致するからだ。逆に言えば「仕事を通して成長することにより、幸せになる」と言う理念に納得出来ない人は、辞めてもらった方が企業にとって好結果となるはずだ。


このコラムは、2014年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第382号に掲載した記事に加筆したものです。

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若者の労働意識の変化

 先週の編集後記で、中国の品質低下について以下の投げかけを読者様にした。

最近友人が、中国の業務品質が2010年を境に低下している、と言っていました。
私には余りその実感がなかったのですが、周りの人何人かに聞いてみたら、同様に最近工程内不良が増えている、客先クレームが増えた、とおっしゃる方がありました。日系企業です。

もし本当ならば、品質を上げて来ている中華系企業に追いつかれることになります。
大変興味があります。色々な人に聞いていますが、まだ答えの様なモノは、全く見つかりません。本当に最近品質が落ちて来ているのか?それはなぜか?
ご意見・情報がある方は、ぜひお聞かせください。

この一週間で集まったご意見は,「最近品質が低下している」というご意見が多数派だった。
メルマガにも書いたが,私は品質低下のトレンドを感じていない。

皆さんのご意見の共通点は「人材採用難」だ。

  • 必要な人数を確保出来ない。
  • 採用してもすぐに辞めてしまうので,技能訓練が間に合わない。
  • 女工さんを採用したいが集まらない。

急激な需要増のため,急遽作業員を大量に雇用した。そのため工程内に混乱が見られる。と言う方もあったが,これは一時的な現象とお考えだった。教育訓練が間に合わなかったタイムラグで,混乱が生じているだけでトレンド
ではない,修正可能だと言うご意見だ。

人材採用難にはいくつか要因があるだろう。

  • 一人っ子政策による労働人口減少。
     私の周辺(内陸からで稼ぎに来ている製造業勤務者がメイン)には,兄弟がある人ばかりだ。しかも三人兄弟なんてのは少ない方で,六人兄弟の人もいる。しかし全体統計から見れば,減少傾向にあり、これからも続くだろう。
  • 若者の労働意識の変化
     若者の製造業離れが進んでいる。既に来年の卒業生(中国では9月が新学期)の就職活動が始まっている。東莞の技術系大学でも、多くの企業が参加し説明会を開催した。製造業に集まった履歴書は,全体の10%ほどしかなかったそうだ。
  • 仕事に対する「我慢」が出来なくなって来た。
  • 仕事よりも余暇を重要視する。

労働意識の変化も原因を「一人っ子政策」と考える人が多い。

2000年頃の出稼ぎ労働者は、ほぼ例外なく給料日には銀行の窓口に並んだ。田舎の弟,妹の学費,家族の生活を支えるため仕送りをするのだ。

深セン市の最低賃金は2004年と比較すると,2.6倍に上がっている。
農村の所得上昇はそんな高い上昇率ではないが,出稼ぎマネーを参入すれば、農村地域の生活も相当豊かになっているだろう。

若者達は「我慢が出来なくなった」のではなく「我慢する必要がなくなった」のだ。

これは先に経済成長を遂げた日本は既に知っていた事だ。
日本の中にヒントがある。私は東京ディズニーランドがそのヒントだと思っている。

従業員の90%がアルバイト。年間離職率は50%!毎年9,000人のアルバイトが入れ替わっている。
それでも毎年入場者数を増やし,98%のリピート顧客を抱える。
2012年度の売り上げは約4,000億円、522億円の利益を出している。
この成果は,アルバイトが来園者に感動を与え続けているからだ。

この構図が中国の工場と同じだと気が付いた。
従業員のほとんどが農村からの出稼ぎであり,一定期間働いたら故郷に帰る。50%はないにしても,離職率は高い。学生アルバイトと同じだ。

学生アルバイトを使って成果を上げているディズニーランドのマネジメントを研究すれば,中国の工場経営にも役立つはずだ。これに気が付いた時は相当興奮した(笑)
以来ディズニーランドのマネジメントに関する書籍を読みあさり,TDL出身の方の話を聞きに行ったりした。

ディズニーランドの学生アルバイトの労働意欲が高いのは,

  • 自分の仕事(作業)と企業の目的・理念の関連を理解している。
  • 誇りを感じられる職場環境がある。
  • やりがいを持てる仕組みとしかけがある。

だと考えている。

中国より先に豊かになった日本の若者が意欲的に働く。
このメカニズムを理解すれば,一人っ子の労働意欲も高めることができる。

参考図書「9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方」


このコラムは、2013年12月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第342号に掲載した記事に加筆修正しました。

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ある社長の悩み・離職率

 仕事柄経営者の方とお話をさせていただく事が多い.
この方の悩みは作業員の離職である.作業員の離職率は年率で50%ほどに達している.

離職率対策として,近隣の工場より高額の給与を出している.また福利厚生も格段に良い.宿舎は広く一部屋に4人,二段ベットではない.食事はトレーに乗せたぶっ掛け飯ではなく,丸テーブルに座ってちょっとしたレストラン並の食事が出る.年に一回従業員を慰安旅行に連れて行っている.

ここまでしても離職率が下がらない.自分にはもう打つ手が無いというのだ.離職する作業員の理由は「仕事がつまらない」ということらしい.

いくら給与や福利を良くしても仕事に対するモチベーションが上がらなければ,辞めてしまう作業者はいるだろう.ひところのように,お金を稼いで田舎の弟,妹を学校に通わせなければならない,家族の生活を支えなければならないという状況が少なくなってきている.最近は工員さんでも立派な携帯電話を持っている時代だ.

仕事のモチベーションは仕事で上げなければならない.
仕事が楽しくなるのは,仕事を達成し上司や仲間から認められる,仕事を通して自己成長の実感がある,という状況になったときだろう.

既に中国は豊かになってきており,給与をたくさん出して「安全・安定の欲求」を満たしただけでは不十分になってきている.
「人から認められる」「自己実現」というより高度な欲求を満たしてあげなければ仕事に対するモチベーションは維持できないだろう.

従業員の離職に関してはこちらもご参照ください。
高離職率
離職率と多能工化のジレンマ
作業員の離職率


このコラムは、2008年4月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第31号に掲載した記事に加筆しました。

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高離職率

 先週の雑感「離職率と多能工化のジレンマ」に読者様からメッセージをいただいた。

※F様のメッセージ
 深セン市にある弊社は、日系の電子部品生産会社で、従業員1100人程度です が、作業員の離職率の高さ(定着率の低さ)が喫緊の課題です。今回の離職率に関する雑感は、同感です。

F様の工場では試用期間(3ヶ月)以内に辞めて行く従業員が多いそうだ。離職率が高いと言ってもそれほど高い訳ではない。しかし従業員数が多いので、毎月数十人採用し続けなければならない。
先週ご紹介した中国企業は、離職率が更に一桁高い(苦笑)今まで色々な工場を見て来た私にとっても、衝撃の離職率だ。

ご紹介した中国企業の場合は、1週間以内に辞める者が多いそうだ。
彼ら自身の分析によると、募集時に提示している給与に引かれて応募して来る者が多くあるが、その給与が毎日3時間残業込みの金額である事が、1週間で分かり、辞めて行く。と言う事だそうだ。

では、一人当たりの生産性を上げてより多くの給与を支払える様にする、と考えれば良いのだが、先週のコラムに書いた様にあまりに離職率が高く作業員の教育訓練の暇がない。そのため作業を単純化し大量の人員で生産。離職率は改善されず、悪循環のままと言う状況だ。

離職率の高い企業には共通点があると感じている。
新しく入って来た従業員の「居場所」がないのだ。居場所とは抽象的な言い方だが、安心して居られる場所と言う意味だ。組織や一緒に働く者が自分に関心を持ってくれている、自分の存在を認めてくれる、と言う感覚の事だ。

デール・カーネギーは「人を動かす」の中で、組織や仲間に必要とされている、組織や仲間に対して貢献出来ていると感じれば、人はモチベーションが上がると言っている。

参考:「人を動かす」デール・カーネギー著

工場経営の師匠原田則夫師は、新人採用時に1週間かけて新人教育をしていた。
新人研修の講師は二年目の工員がボランティアで担当する。

新人研修の後、職場に配属されると3ヶ月は班長と交換日記を義務付けられる。交換日記制度で、新しい環境に対する不安を取り除き、企業文化に慣れさせることができる。日記で新人の心の変化が読み取れるので、班長から適時適切な対応が可能となり、新人の離職が防げる。新人は、班長から自分に対し関心を持ってもらっている、組織から守られていると言う感覚を持つので、辞めようとは思わない。それでも辞めようと思う人は、組織文化に合わないので早めに辞めてもらった方が良い、と言うことになる。

新人教育の教師役を2年生の工員が担当すると言う所にも秘訣がある。教える為に勉強するばかりではなく、教えると言う行為が自分に自信を与える。組織や、新人に対して貢献出来ていると言う実感を持つ事になる。

教えあい、学びあう。互いに尊重する。そんな風土・文化があれば、居心地が良い組織になると思う。その結果離職率も下がるはずだ。


このコラムは、2017年7月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第535号に掲載した記事に加筆しました。

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離職率と多能工化のジレンマ

 最近「無料工場診断」で携帯電話を生産している中国企業を訪問した。携帯電話生産の中国企業を訪問指導するのはこれで2社目となる。

この2社に共通しているのは、大勢の作業員を工程に投入するスタイルの生産方式をとっている事だ。そして高離職率と言う共通の悩みを持っておられる。

生産に多人数を投入すれば一人当たりの作業は少なくなり、短期間で作業員を作業習熟させる事が出来る。離職率が高くても、新規に雇用した作業員を短期で戦力化出来ると言うメリットがある。

しかし作業員が多く離職率も高いので、採用が難しくなる。
少人数で生産出来る方式にすれば採用は楽になる。
少人数で生産するためには、一人当たりの作業を増やさねばならない。更に多能工化する事により少人数生産で生産効率が上がる。
しかしここで、離職率の高さが問題となる。作業員が作業習熟する前に離職。多能工育成など不可能な状態だ。

TWI(企業内職能訓練)により、作業習熟化の効率は上がる。副次効果として離職率の低下も期待出来る。実際TWIを導入した企業で離職率が下がるという副次効果が出ている。
しかしこの企業の様に、月次離職率を年間離職率と間違えるほど離職率が高い職場でも有効かどうかはちょっと不安だ(苦笑)

先ずは組織と従業員の関係性を改善する必要があると判断した。
この企業には、先ず行動変容研修の中国人コンサルを送り込んだ。

これで現場監督者と経営層の意識改革が出来れば私たちの出番となる。


このコラムは、2017年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事に加筆しました。

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組織の成長

 組織は、継続的に成長を続けなければならない。停滞は退歩だ。
しかし多くの企業では、優秀な社員の離職によって組織力が落ちてしまう。

以前生産委託していた台湾企業は、8年間で10人の工場長と知り合った(笑)
工場長が替わると、品質が不安定になる事も有った。現場の組長・班長の離職はより直接的に影響が有る。生産ラインを固定し、4M変動の中に組長・班長の変動報告も義務づけていた。しかし組長・班長の離職をくい止める訳にも行かず、変動時に生産現場の指導・確認をすることになる。

工程内直行率を監視していると、人の変動と品質変動が相関関係にあることがよく分かる。当然この様な状況は生産委託先が改善しなければならない。
しかし、相手の努力を期待して品質レベルの変動に一喜一憂するのは堪えられない。生産委託先に出向き、必死に支援することになる。
当時は、自分たちはリーダの育成は出来たが、生産委託先の組織育成が出来なかったと悩んでいた。

中国でハンセン病元患者を支援するボランティア活動をしている「家(JIA)」の代表・原田燎太郎氏の話を聞いていて気が付いた。
彼らのメンバーは学生であり、長くても4年で変わって行く。年間離職率25%の組織で、組織の成長をどうやって維持するのか、疑問に思い質問してみた。

実は原田氏も同じ悩みを持っているそうだ。
人が入れ替わるたびに、活動がぶれてしまう事が有るそうだ。
しかし8カ所ある活動支部のうち、広西省南寧支部のボランティア活動だけがぶれていない。実はその事に気が付いているのだが、原因は今の所分からないそうだ。

原田氏には、ぜひその理由を究明して欲しいとお願いをした。
理由が分かれば「家(JIA)」は、どの活動支部も人の変動に左右されなくなる。
そして私が独立前に悩んでいた「組織の育成」に対して、今考えている仮説と答え合わせが出来るのではないかと期待している。


このコラムは、2015年9月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第441号に掲載した記事を加筆修正したものです。

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