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ハインリッヒの法則

 このメールマガジンを読んでおられる方で「ハインリッヒの法則」をご存知ない方はおられないだろう。ハインリッヒという名前を知らなくても「ヒヤリ・ハット」といえばご存知であろう。

大怪我を負うような事故1件につき軽傷事故が29件、事故にはならなかったがヒヤリ・ハットするような事象が300件ある、という経験則をハインリッヒの法則とよんでいる。

これは安全災害だけではない。
例えばお客様の苦情を放置していた結果、保険金未払いで金融庁から業務停止命令を受けた保険会社もある。

我々製造業でも同じだ。
ある製品の工程内不良が0.7%あった。特に出荷を止めなければならないほど不良率が高かったわけではない。しかし全て同一部品による同一現象の不良であった。出荷を見合わせ、解析をした結果部品のロット不良と判明した。検査合格品でも動作環境によっては市場で不良現象が出る可能性があった。

以前指導していた中国企業は、『售后服務部』(アフターサービス部門)に寄せられる顧客からの情報は設計部門にも製造部門にも共有していなかった。

製造部門の工程内不良、アフターサービス部門の顧客からの情報、これらはヒヤリハット情報といっても良いだろう。

不良率だけではなく、不良現象別に不良率をリアルタイムに集計していれば異常を早期発見できる。大量の工程内不良が発生する前に対策することが可能になる。その結果不良が市場に流出するという最悪の結果を未然に防ぐことができる。

アフターサービス部門の情報を全社で共有すれば、顧客クレームの無い製品を設計できるようになるはずだ。また修理情報などから部品の寿命データを収集できる。この結果顧客に対する予防保全サービスの提案ができるようになるし、新製品の設計に活かせば、他社との差別化にもつながるはずだ。

製造の不良情報、アフターサービスのクレーム情報、修理情報などネガティブに捉えることなく、社内で共有する体制を作るべきだ。


このコラムは、2018年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第751号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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奥的斯電梯の事故

 地元のタブロイド紙によると,奥的斯(オーチス)製のエレベータ事故が東莞市内で続いて発生している.

 以前このメルマガで,日本国内のエレベータ事故に関するコラムを何度か書いたことがある.

「東大でシンドラー製エレベーター事故 学生1人けが」
「エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが」
「同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡」
「シンドラー製エレベーター、全国5500台を緊急点検 国交省、事故の再発防止めざす」

また,私自身が中国でアパートのエレベータに閉じ込められた話も書いた.

日本でも中国でも,エレベータ事故は発生している.しかし私自身の経験では中国の方が圧倒的に頻度が高い.
日本では,週5日は毎日最低2回エレベータで上り下りを24年間していた.しかしエレベータに閉じ込められたことは一度もない.中国で生活するようになり6年しか経っていないが,既に4回エレベータに閉じ込められている.
計算をするまでもなく,日本と中国の事故発生確率には有意差がある.

最後にエレベータに閉じ込められた時は,牽引ワイヤが切れ,安全停止装置により停まったそうだ.10階から7階まで落下した.乗り合せた私を含む3名には怪我はなかった.

この事故から程なく9月9日に,近所のオフィスビルのエレベータが19階から地下1階まで落下した.この事故も牽引ワイヤが切れたものと思われるが,この時は13人1000kgの定員を遥かにオーバする21人が乗っており,安全停止装置は役に立たなかったようだ.20人が怪我をしている.

このオフィスビルのエレベータは,私のアパートと同じくオーチス製だ.

更に新聞の報道によると,
9月19日:オフィスビルのエレベータが6階から4階まで落下.
10月14日:マンションのエレベータが3階から地下1階まで落下.

これら全てオーチス製のエレベータだそうだ.

オーチスのエレベータが東莞だけで,2ヶ月弱の間に4回事故が起きている.アパートのエレベータ事故は報道されていないので,まだ他にも同様な事故が有った可能性はある.

オーチスといえば,日本で最初のエレベータを日本銀行本店に入れた老舗メーカだ.

中国では,西子電梯と合弁で西子奥的斯が生産をしている.東莞でメンテナンスをしているのは大力士電梯という会社だ.この会社もエレベータを設計・生産している.

さすがのオーチスも,広い中国ではメンテナンス網を構築する力がなかったのだろか.緊急時には迅速に現場に駆けつけ,乗客の救出を行わなければならない.私の場合は45分ほど待たされた.万が一けが人がいれば,手遅れになる可能性もある.

しかし通常の点検・メンテナンス,修理は緊急性よりは,確実性が要求される.万が一の場合には人命に影響を与える設備だ.エレベータは一度設置されると,ビルがある限り,定期的にメンテナンスの仕事が来る.しかもユーザには選択の余地はない.エレベータのメンテナンス会社はさしたる営業努力をしなくても,先々の売り上げが見込める.メンテナンスがいい加減ならば,更に故障修理の売り上げが増える.

事故があっても,オーチスの新規売り上げが減るだけだ.メンテナンス会社は,当分売り上げ計画通りの収入がある.

先週のコラムでは,建設機械のコマツは,保守サービスが競争源泉だと書いた.

「アフターサービスを競争原理に」

エレベータ会社も,同様だろう.
メンテナンスは,自社もしくは直系子会社でやるべきだと考える.競争源泉の現場は,外注にしたり,変動経費の要員化をすべきではない.
短期経営数字を追求することにより,現場力を失ってしまった企業を,我々はたくさん見てきた.


このコラムは、2011年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第220号に掲載した記事に加筆しました。

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見えないものに対する感度

 先週の「アフターサービスを競争原理に」に対し,読者様からメッセージをいただいた.

※T様のメッセージ
 Z様のおっしゃる、「物のコピーは簡単、サービスのコピーは簡単にできない」、全く同感です。見える物に対して、中国人は敏感ですが、見えない物に対しては、概して非常に鈍感であると思います。

コマツの,保守サービスの事例に対していただいたZ様のメッセージに更にメッセージをいただいた.

モノのコピーは大変得意な中国だが,サービスに関しては上手く真似ができない.
保守サービスに関しては,ニュースからに書いたように,サービス以前の問題かもしれない.

レストランなどのサービス産業でも,これでよく客が我慢するなぁと感心する.料理や,店構え,内装には敏感でも,ウェイトレスのサービスには鈍感だ.

サービスだけの問題ではない.
海賊版のDVDやCDを販売している店では,最新映画のDVDが15元,古いCDアルバムが25元ということがざらにある.
なぜならCDは2枚組みだからだ.
コンピュータソフトなどは,たいていはCD一枚なので,8元だ.

目に見えるハードで値段が決まる.
目に見えないソフトには価値が置かれていない.

中国という国は,経済成長に伴い,インフラなどのハードウェアは急速に充実してきた.しかし,国民のソフトウェアはまだ発展途上だ.

元々儲かることに敏感な,人たちだ.ひとたびソフトウェアが儲かると分かれば,急速にキャッチアップしてくると期待しているのだが.


このコラムは、2011年10月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第228号に掲載した記事に加筆しました。

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アフターサービスを競争原理に

 先週のメルマガ「知行一致」に,読者様からメッセージをいただいた.

※Z様のメッセージ
 坂根社長のお話、確かにNC旋盤の操作では、機械加工の原理は理解できません。僕自身も汎用旋盤で学びました。
汎用旋盤ならどうにか使えこなせますが、NC旋盤はお手上げです。(笑) 

 また、「コマツの競争力の源泉は、アフターサービス力にある。」この言葉に、日本企業の将来のヒントがあると思います。モノは簡単にコピーできますが、サービスのコピーは簡単にはできません。

基礎から理解しなければ,応用はできない.
NCマシンの操作ができても,それは職人ではなくプログラムオペレータに過ぎない.中国の工場を見ていると,最新設備を操作できる者が「上」とみなされているようだ.

3D-CADが使えても,金型が設計できるわけではない.基本ができていなければ,ただのお絵かきだ.
NCマシンも3D-CADも,素材を加工するという最終目的の手段だ.手段が目的化しては本末転倒だ.

建設機械を購入されるお客様の目的は,工期どおり建設物を依頼主に引き渡すことだ.最新の機械を買うことが目的ではない.それを効率よく運用することがお客様の期待だ.

お客様の期待に応えられる様に,サービス体制を整える.修理・整備を迅速にすることにより,機械のダウンタイムを短くする.建設機械というものは往々にして,交通の不便な所で使うものだ.建設機械がどこで稼動しているか正確に把握してすることにより,サービス時間を短縮することができる.

そのためコマツの製品にはGPSが装備されており,コマツのサービスセンターは販売した製品がどこで稼動しているか正確に把握している.この情報が,保養部品をどこのサービスステーションにどれだけ準備すれば良いかの基準となる.ムダやムラを排除した効率の良いサービス計画を立てることが出来る.

このデータは,営業活動にも活用できる.

業種,業態が異なっても,アフターサービスによるお客様の利便性や安心を付加価値とすることが出来れば,価格競争に巻き込まれないビジネスができる.常に「顧客目線」で,顧客の期待を上回る価値を提供し続ければ,価格勝負の企業と十分競争ができるはずである.


このコラムは、2011年10月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第227号に掲載した記事に加筆しました。

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