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頭と胸挟まれ死亡 立体駐車場の点検中 名古屋

 23日午前10時50分ごろ、名古屋市中村区名駅3丁目の立体駐車場「エムテックサンパーキング」で、設備点検をしていた愛知県蟹江町蟹江本町のビルメンテナンス会社員佐藤洋一さん(49)が自動車運搬用のエレベーターに頭と胸を挟まれ死亡した。中村署は、駐車場の男性アルバイト従業員(51)が過ってエレベーターを作動させたとみて、業務上過失致死の疑いもあるとみて調べている。

(asahi.comより)

 痛ましい事故が発生してしまった.
以前メンテナンス作業によって引き起こされた事故について解説をした.

今回はメンテナンス作業中の事故である.
装置は安全を考慮して設計してあるはずだが,メンテナンス作業中の安全までは考慮してないであろう.そもそも安全装置そのものも点検をしなければならないので,メンテナンス作業に万全の安全性を考慮して設計するということは不可能であろう.

従って現場での作業安全確保のための仕掛けを造りこんでおく必要がある.例えば操作盤に「メンテナンス作業中」などの札を下げ,安易にスイッチ操作しないようなポカ除けを準備しておく.メンテナンス中は操作スイッチにカバーを付けはずさないと操作できないようにする.
などの工夫をしなければならない.

あなたの工場ではメンテナンス中の作業安全をどのように確保されているだろうか.再度点検されることをお勧めする.


このコラムは、2008年2月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第22号に掲載した記事です。

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エレベーター、扉開いたまま急上昇 東京・台東区

 エス・イー・シーエレベーター(東京都台東区)が保守管理する同区根岸5丁目のビルのエレベーターで、人が降りた直後に扉が開いたまま、突然、かご部分が天井近くまで上昇する事故が起きていたことがわかった。同社管理のエレベーターでは、06年6月に港区で同様の事故があり男子高校生が死亡、警視庁が業務上過失致死容疑で捜査を続けている。

 同社によると、事故は今月11日午後3時ごろ発生。7階建てビルの5階から乗った男性が3階で降りた直後、扉が開いたままの状態でかごの部分が急上昇し、7階を約1メートル過ぎて止まったが、けが人はなかった。制御盤内部の故障が原因とみられるという。エレベーターは30年以上使用している日立製。法定の定期検査を昨年8月に、月1度のメンテナンスを事故3日前の8日に行ったばかりだった。

(asahi.comより)

 メンテナンス直後の事故というのは意外と多いものだ.
特に気をつけたいのが,メンテナンス時に変更した設定の戻し忘れ.メンテナンス作業時に機能を殺しておいた安全装置を戻し忘れると労災事故が発生する可能性がある.

部品の自動実装機,プレスマシンなど作業者の手が機械の中に入ると機械が安全停止するようになっている.このままではメンテナンスができないので,一時的に安全装置を解除してメンテナンスをする.作業完了後に安全装置を戻すのを忘れても,機械は正常に動いているように見えるので気がつかない.

以前こんな例を聞いたことが有る.
装置内でX線を使用しているため,装置内部に手を入れる扉を開けたときはX線が止まるように安全装置がついていた.メンテナンス時にX線が正しく出ているかどうか調べるために,扉の開閉を検出するマイクロスイッチをテープで止めて扉が閉まっている状態にしておいた.点検完了時にマイクロスイッチのテープをはがすのを忘れ運転を開始.このため運転中に扉を開けるたびに作業者がX線に被爆していた.幸いX線の量が微弱であったため人体への影響は心配なかったが,目に見えないだけに深刻な事故だといえよう.

今回のエレベータ事故はメンテナンスから3日後に発生しているので別の原因だと思われるが,メンテナンス作業後の点検項目,方法をチェックリストにしておくとポカよけに役に立つだろう.
今回の事例から,配線コネクタの不完全挿入,ねじの締め忘れなどの想定される原因に対してチェック項目を追加したら良いと考える.

それにしてもこのメンテナンス会社は前回の事故が教訓として活かされていなかった様である.


このコラムは、2008年1月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第18号に掲載した記事です。

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中華機の速度計、異常原因は虫? 会社が国交省に報告

 佐賀空港(佐賀市)の滑走路を越えて離陸し、速度計の異常で引き返した中華航空チャーター便(ボーイング737―800型機)について、同社は9日、「速度を計る装置に虫が詰まり、計器が正常に働かなかったとみられる」と国土交通省に報告した。

 同省によると、この装置は「ピトー管」と呼ばれ、機首についている。飛行機が進むときの風圧を測定し、これをもとに速度を算出する仕組み。装置の吸い込み口に虫が詰まっていたが、種類や数は不明という。

(asahi.comより)

現場・現物を見ていないのでいい加減なことはいえないが,一回のフライトでピトー管に虫が詰まってしまうと言うことは,ありえないだろう.そうであればこの手の障害がしょっちゅう世界中で発生しているはずだ.

日常メンテナンスが十分行われていなかったのではなかろうかと想像している.日常点検,メンテナンスと言うのは予防保全活動として重要な役割を担っている.

工場で仕事をしていても,似たような場面に良く出会う.
生産現場を見ていて半田槽のスプレーフラクサーのノズルの動きが遅くなっているのを見つけた.

スプレーフラクサーというのは,半田付け前にプリント基板の半田面にフラックスを吹き付ける機械である.空気圧を利用してノズルを左右に振りながら,コンベア上を流れてくるプリント基板の下からフラックスを吹き付ける仕組みになっている.

早速半田槽のメンテナンスを担当しているエンジニアを呼び,現象を見せた.エンジニアは装置を見るなり「分かりました」と答えノズルを左右に振るための空気圧をちょっと上げた.これで確かにノズルの動きはスムースになった.しかしノズルの動きが遅くなっていた原因に対しては何も対策が打たれていない.

ノズルの摺動部に粘度の高いフラックスがこびりついて,ノズルの動きを阻害している.これに対しては何も改善がされていないのである.これをそのままにして,問題が顕在化するたびに空気圧をあげてゆくと最後には大きな問題となるはずである.

日々の点検,メンテナンスをきちんとやっておくことによりこういう不具合は未然に防ぐ事が出来るわけだ.また上述の例のように,問題が顕在化した時点できちんと対応しておかないと,更に大きな問題となって再現するはずである.


このコラムは、2007年10月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第3号に掲載した記事です。

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朝日新聞ヘリの緊急着陸、部品の摩耗が原因 運輸安全委

 東京都健康長寿医療センター(板橋区)の敷地内にある空き地に4月、朝日新聞のヘリコプターが緊急着陸した原因について、運輸安全委員会は17日、「回転翼を操作するスイッチの部品が摩耗していて操縦に障害が生じた」とする調査報告書を公表した。

 報告書によると、ヘリは4月27日午後、取材から戻る途中に板橋区上空で操縦装置に不具合が生じた。機長は速度を上げようと、回転翼の傾きを操作する「コレクティブスティック」を引き上げようとしたが上がらず、空き地を見つけて着陸した。

 安全委がスティックの摩擦抵抗を緩めるスイッチ部分を調べたところ、ねじが緩んでがたついていた。このため、部品の一部が摩耗し、スイッチを最後まで押し込めない状態になっていたことが分かった。スイッチのねじ部分は覆いがあるため、「目視による点検は不可能だった」と指摘。メーカーに「材質を摩耗しにくいものに変えることが望ましい」とした。

 朝日新聞社広報部の話 予防的に緊急着陸しました。今後も安全運航に一層努めます。

朝日新聞ディジタルより

 私はヘリコプターのメカニズムに関しては,まったくの素人だ.従ってこのコラムは,ヘリコプターの事故を題材にした,メンテナンス,予防保全に関するコラムとして読んでいただきたい.

記事によれば,事故はネジの緩みにより部品が磨耗,コレクティブスティックが操作不能になったということのようだ.運輸安全委員会の報告書には,部品の耐摩耗性をあげることをメーカに推奨しているという.

しかし,部品の磨耗がネジの緩みにより発生したのならば,ここに対策を打たねば事故を未然に防ぐことは出来ないだろう.耐摩耗性の向上だけでは,延命になるだけだ.

常に振動がかかっている部分に使用されるネジは,点検増し締めが必要だ.
しかしこのネジは外部から目視不可能という.ネジの緩みがメンテナンス不良などの人為的原因により発生したのでなければ,ネジは点検増し締めが可能な構造にしなければならないだろう.

操縦不能によって発生するリスクは,乗客,乗務員の生命の危険だ.これはトップクラスのリスクであり,最優先で改善しなければならない.

4月の事故が12月に報告されたのでは,同型ヘリの他の機体に対して点検・予防保全をするのが手遅れになる.

工場の設備も同様だ.
万が一事故があったときは,リスク(生命財産への危険,生産継続への障害など)により優先度,緊急度を決定して,すぐにアクションをとるべきだろう.

設備ばかりではない,車載用の電装モジュールなどは,生産時にモジュール内部のネジ締めは厳重に管理されている.ネジ一点ごとに締め付けトルク,斜行によるネジの浮きがチェックしている.これは抜き取りや目視検査によって行われるのではない.工程内で100%自動検査が行われている.


このコラムは、2010年12月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第184号に掲載した記事に加筆したものです。

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ライオンエアの737MAX墜落、迎角センサーに異常か

 インドネシアのLCC大手ライオン・エア(LNI/JT)のジャカルタ発パンカルピナン行きJT610便(ボーイング737 MAX 8、登録番号PK-LQP)が現地時間10月29日に墜落したことを受け、FAA(米国連邦航空局)は同11月7日、737 MAX 8と9に対して機体の安全性を確保するための整備や改修を指示する「耐空性改善
命令(AD)」を発行した。

 ボーイングによると、事故機が機体の姿勢制御時に、翼と対向する空気の流れの角度「迎角」を検出する「AOAセンサー(Angle of Attack sensor)」から入力される値に誤りがあったという。

(以下略)
全文

(Aviation Wireより)

 10月29日に発生したライオンエア・ボーイング737機の墜落事故の続報が入ってきた。

仰角センサー(AOA)の故障により、B737の制御コンピュータが失速を回避するために機首を下げ墜落したようだ。

米国連邦航空局が発行した耐空性改善命令(AD)には、同様の故障が起きた時のために、パイロットの対処手順が書かれているのだろう。

今回の墜落事故の原因は「AOAの故障」だった様だ。
いくつかの記事を参考にすると、この機体は過去に対気速度計が4回故障している。さらに事故の前日にはAOAが故障し交換している。

ここまでの情報で事故原因を推定すると、
対気速度計を修理する際にAOAに損傷を与えてしまった。
前日のAOA交換がうまくいかなかった。

  • 壊れていない方のAOAを交換した。(AOAは機体の左右に2個あるようだ)
  • 交換時に壊した。

その上で、交換後の確認検査がなければ、このミスはそのまま流出する。

以前このメルマガで、エレベータのメンテナンスでどの様に重量制限機能を点検しているのかと疑問を呈したことがある。

「全日空便、パネル2度脱落 成田発着の同じ旅客機」

AOAが正しく交換できたかどうか、飛行してみてわかるというのでは困る。多分シミュレーションによる検査装置があるのだろう。

今回の事故は修理のミスと確認検査で問題があったのではなかろうか?

修理・メンテナンス時に問題を作り込んでしまう事例はよくある。

今回の墜落事故の原因はまだ判明していないが、自社の中を「正しく修理、メンテナンスができたことを正しく確認をする」という観点で見直してみる価値はありそうだ。


このコラムは、2018年11月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第745号に掲載した記事に加筆しました。

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同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡

 金沢市で女性が挟まれて死亡したエレベーターは、2006年に東京都港区で高校生が死亡したエレベーターとブレーキなど主要部分が同型だったことがわかった。同様のエレベーターは全国に約80台ある。金沢の事故機は06年の事故原因の対策をしており、国土交通省は別の不具合があった可能性があるとみて調べている。

 シンドラーエレベータ社によると、同型なのはブレーキのほか、巻き上げ機や制御盤などエレベーターの基幹部分。同社は2日、80台のうち約8割の点検を終えたが、異常は見つかっていないという。

 06年の事故を調査した国交省の報告書によると、扉が開いたままかごが上昇して男子高校生が挟まれた。ブレーキが中途半端にかかった状態で運転を繰り返したためブレーキパッドが摩耗。ブレーキのききが弱くなり、ブレーキをかけてもかごが上昇してしまった。製造後の定期点検では、こうした不具合が見つけられなかった。

 事故後、シンドラー社は同型のブレーキではパッドの摩耗を検知するセンサーを取り付けるようになった。金沢の事故機にもセンサーは取り付けられていた。しかし今回も、女性が扉の開いたエレベーターに乗り込もうとしたときにかごが急に上昇して挟まれた。

 金沢の事故機には2日までの石川県警や国交省の調査では目立った異常は見つかっていないため、06年の事故とは原因が異なるとみられる。ブレーキの不具合以外の点検ミスや、エレベーター本体に製造上の欠陥があった可能性を視野に入れ、国交省は事故機の調査だけでなくシンドラー社や保守業者にも話を聞く方針だ。

(asahi.comより)

 中国でエレベータに乗るときは,細心の注意が必要だ.
私は今のアパートに引っ越して5年目になるが,その間に5回エレベータに閉じ込められている.そのうち4回目は,エレベータの牽引ワイヤが切れ,2,3階分落下した.普段から激しい異音がしていたのに,壊れるまで修理されなかった.

近所のホテルのエレベータは,21人(!)乗せ19階から地下1階まで落下し重症を含むけが人を6人も出した.積載重量オーバーのセンサーが正常に動作していなかった,と思われる.

別のオフィスにあるエレベータ乗った時に,扉が閉まるのを止めようとして手を出し,ヒヤリとしたことがある.通常扉に付いているバンパーがなくなっていたのだ.バンパーにリミットスイッチが連動しており,扉が閉まったことを検出するようになっているはずだ.何かの都合で,バンパーがごっそり外され,センサー回路を殺して運転していたものと思われる.

いくらまともに設計製造してあっても,いいかげんなメンテナンスでは,正常に運用は出来ない.
メンテナンスとは,点検により壊れているところを探して,修理することではない.壊れる前に,修理をすることをメンテナンスと言う

今回取り上げたシンドラー製エレベータの事故は,メンテナンスの問題ではないと思う.
素人の大胆な考えを言わせてもらえば(笑),ブレーキがかかっている状態で,上昇用の牽引ワイヤー巻上げモーターが回っていると言うのが解せない.設計不良なのではなかろうか?

モータはエンジンと違って,簡単にON/OFF出来るはずだ.
ブレーキが作動した時点で,モータの回転を止めれば,このような事故は発生しないはずだ.

もしエレベータの専門家がいらっしゃったら,なぜブレーキがかかっている状態でモーターをOFFに出来ないのか,是非教えていただきたい.

もう一点,エレベータ専門家に教えていただきたいことがある.
エレベータには積載重量を計測するセンサーが付いていると思う.たくさん人が乗ると,ブザーが鳴り扉が閉まらなくなり,事故防止の保護が働くようになっている.
この保護機能は,エレベータの定期点検でどのように点検しているのだろうか?点検中のエレベータをしばしば見かけるが,点検作業員が1tの点検用重りを持っているのは見たことがない.
上記の21人乗りのエレベータ落下事故以来,ずっと気になっている疑問だ.

もしご存知の方がおられたら,是非教えていただきたい.
この記事にはコメントを残せるようにした。


このコラムは、2012年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第282号に掲載した記事です。

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エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが

 東京メトロは29日、有楽町線平和台駅(東京都練馬区早宮2丁目)のエレベーターでかごをつっているワイヤロープが切れ、乗っていた女性がけがをする事故が起きていたと発表した。

 同社によると、事故が起きたのは26日午後3時。エレベーターが地下1階から地上へ上昇中にかごが急降下し、安全装置が作動して緊急停止した。同社が調べたところ、ワイヤロープ3本が全て切れていた。女性は緊急停止の際、しりもちをつくなどして2週間の打撲を負った。

 安全装置は一定速度以上の降下を感知した際、かごの横からブレーキパッドをあてて落下を防ぐ仕組みになっている。

(asahi.conより)

 実は私も29日午後8時(現地時間)頃,マンションのエレベータに閉じ込められていた.
日本ではエレベータに閉じ込められるなどという経験は一度もない.
今のマンションに引っ越してきてから4度目の事故だ.

以前の3回は,途中で止まってしまった,扉が開かなくなったという比較的軽度の事故だった.しかし今回はかなり重度の事故だった.

外出のため12階から下りのエレベータに乗った.
動き出してすぐ,異常な揺れに気が付いた.10階で2名乗せ下降する際に,同様の揺れを感じたと思ったら激しく揺れ,急降下を始めた.同時にかごの上部に,何かが落下して激突している音も聞こえた.

たぶんワイヤが切れたのではなく,滑車のような部品が破損してエレベータのかごに落下してきたのではあるまいか?もしくはワイヤが切れた後,安全停止のためのブレーキパッドをいくつか吹き飛ばしながら,停止した?

エレベータのワイヤーとか滑車など運行の安全部品が切れたり,破損するということはあってはならない.ましてやブレーキパッドなどのように,事故発生時の安全装置が機能しないというのは致命的な欠陥だ.そのために定期的メンテナンスが法律で定められているはずだ.

平和台駅のエレベータは7月14日に保守点検を受け問題はなかったそうだ.私のマンションのエレベータには5月に保守点検を受け,次回点検は来年5月となっていた.
しかしこのエレベータは,6月に故障し,部品待ちで一ヶ月近く止まっていた.

記録上は,修理後に点検が行われなかったことになっている.

保守点検,修理後というのはとかく事故が発生しやすいものだ.

点検中に部品を破損したのに気が付かない.点検のための措置を戻し忘れる.などのミスが発生する可能性がある.特に安全停止ブレーキなどのように,普段使わない機能は点検方法をよく検討しないと,うまく点検できていない,点検のための処置を戻し忘れて事故になる,などの潜在問題がある.


このコラムは、2011年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第216号に掲載した記事です。

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全日空便、パネル2度脱落 成田発着の同じ旅客機

7日から8日にかけ、成田空港を発着した全日空便の同じ旅客機から、脱出用シューターを収納する強化プラスチック製のパネル(縦60センチ、横135センチ、重さ約3キロ)が2度脱落していたことが9日、全日空への取材で分かった。

いずれも飛行中に落ちたとみられるが、見つかっていない。飛行に問題はなかった。全日空は同機を整備点検し、原因を調べている。

同社によると、脱落があった機体はボーイング767で、パネルは左主翼の付け根付近に取り付けてあった。7日夜、中国・アモイから到着後になくなっていることが判明。同じ大きさの新しいパネルを取り付けて運航したが、8日夕に中国・大連から戻った際にもなくなっていた。

アモイや大連の出発時にはパネルは脱落していなかったという。〔共同〕

日本経済新聞より

 最近旅客機による重大インシデントが続いている。ANA機のパネル落下事故を整理すると、以下の様になる。

7日、アモイ→成田便がパネル落下。
8日、大連→成田便の同機が再びパネルを落下。

パネルは強化プラスチック(FRP)製。左の主翼の付け根にある緊急脱出用スライドを収納するパネル。緊急脱出時に、高圧窒素を使ってパネルを開き格納された脱出シュータを出す様になっている。

旅客機に乗ると、離陸時に「扉をオートマティックモートにし、相互確認を行ってください」と言う乗務員向けの機内放送が毎回ある。駐機時には扉はマニュアルモードとなっており、扉を開けても脱出シュータは出ない様になっている。飛行中は、オートモードにし異常時に扉を開ければ、脱出シュータが出る様にしておく。今回の落下パネルは主翼後方のシュータ用なので、主翼上の非常口が開くとパネルを吹き飛ばす様になっているのだろう。

全日空は「非常時にパネルを外すための高圧窒素ボトルからわずかな窒素が漏れ、パネルのロックが外れた」と原因を説明している。

原因分析が正しければ、成田の整備工場での修理時に「わずかな窒素漏れ」は修理されているはずだ。翌日同じ事故が再発している。従って以下の問題があったと推測される。

  • 原因推定(又は漏れている場所の特定)が間違っていた。
  • 原因推定はあっていたが、修理が正しく出来なかった。
  • 修理後の点検も正しく行われなかった。

ところで脱出シュータの日常点検整備、修理後の点検はどう行われるのだろう。実際に脱出シュータを出す検査は「破壊検査」になるので出来ない。擬似的に検査をする事になるだろう。

航空機のメカニズムはよくわからないので、エレベータの事例で考えてみよう。
以前近隣のホテルでエレベータが最上階から地下2階まで落下し、乗客が怪我をする事故があった。新聞報道によると、21人!もエレベータに乗っており、緊急時ブレーキが機能しなかった様だ。エレベータは最大13人、1000kgの積載能力しかなく、オーバーすればブザーが鳴り扉が閉まらないはずだ。
従ってこの事故は、エレベータの牽引ワイヤの破断と積載オーバーの検出機能不全の二つが重なった事になる。
緊急ブレーキも機能しなかったが、こちらは設計仕様(定員13人、1000kg)をオーバーしており、緊急ブレーキが正常であっても事故は防げなかっただろう。

日常点検で牽引ワイヤの劣化は発見出来るはずだ。(中国における点検整備は壊れたら修理と解釈されている様だ・苦笑)
しかし積載オーバの検出機能はどの様に検査されているのだろうか?
しばしばエレベータの点検整備の現場を目撃するが、1000kgの錘りも、13人の点検作業員も見た事はない。重量センサーの出力端を操作し擬似的に検査しているのだろう。この場合重量センサーに故障があれば検出出来ない。

今回の全日空機事故も本質原因の他に、正しく検査が行われない流出原因がありそうだ。
あなたの工場で行われている設備点検に「落とし穴」がないか一度点検をしてはいかがだろう。


このコラムは、2017年10月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第571号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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四川航空機事故

 

「中国機、1万メートル上空で窓脱落 体の半分が外に」

 中国メディアによると、中国・重慶からチベット自治区ラサに向かっていた四川航空のエアバスA319型機(乗客・乗員計128人)が14日、成都に緊急着陸した。高度約9800メートルの上空を飛行中に操縦室の窓が突然、破損して脱落。副操縦士が外に吸い出されそうになり、操縦室内の気温も零下20~30度に急低下したという。

 中国メディアの取材に応じた機長の話によると、窓が割れたのは成都まで100~150キロの地点。副操縦士の体の半分が操縦室の外に吸い出されたが、シートベルトをしていたため、転落せずに済んだ。副操縦士は顔と腰を負傷した。

全文

(朝日デジタル)

 重慶や四川の中国企業の指導で四川航空は何度か利用したことがある。他人ごとではない事故だ。
5月14日に発生した事故なので、まだ事故原因などの発表はない。

最近同種の事故が発生している。
「女性の上半身が機外に、乗客ら引っ張り戻す 米国機事故」

こちらの事故は、1万m上空を航行中のノースウェスト機で客席の窓が割れ女性乗客が吸い出され死亡している。国家運輸安全委員会(NTSB)が調査中だが、エンジンが金属疲労を起こしていた可能性が指摘されている。

四川航空機の場合は操縦席の窓が破損しているので、ノースウェスト機の事故とは違う原因だろう。また1万m上空を航行中だったので、バードストライクも考えにくい。

過去の同様事故を探してみると、1990年6月10日に発生したブリティッシュ・エアウェイズで操縦席の窓が割れ機長が機外に吸い出された事故があった。
この時の事故は、メンテナンス時に規格外のネジ(正規品より短い)で窓枠を固定したことが原因だった。

航空機事故の事故原因は「メンテナンス」に関連するものが多いという印象がある。上記米、英の事例も、御巣鷹山の事故もメンテナンスの問題だった。

我々製造業もメンテナンス直後の事故(災害だけでなく不良発生も含む)発生事例は多くある。この機会にメンテナンス手順、実際の作業、記録方法などを見直してはいかがだろうか。

今回の四川航空機事故は、中国民用航空局が事故原因調査をすると思われる。
公正な調査が行われ、原因が公表されることを期待したい。


このコラムは、2018年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第670号に掲載した記事に加筆しました。

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異常感度を上げる

中国で生活をしていると,「異常」と感じる閾値の差を思い知らされる事が多い.

ジムの蒸気サウナの温度がなかなか上がらなくなったことがある.普通15分もあれば,十分熱くなるのだが,1時間かかっても熱くならなくなってしまった.受付の事務員に,壊れているから直すように言っても,全く改善されない.痺れを切らせてナゼ直さないかとマネージャに聞くと,壊れてないと言い張る.

蒸気は出ている.熱くなるのに時間がかかっているだけだ.と言う.
では,ナゼ時間がかかるのかと聞けば,2つあるヒータの内1本が切れたと言う.こういうのを「壊れた状態」と言うのだと教えても,「使える」と言い張る.

彼らにとって,正常と異常の間にある閾値は,使える・使えないの閾値だ.使えている間は,正常であり,異常ではないという判断だ.

同様なことに,工場の現場でも良く直面する.
例えば,
プラスチック成型工場.4個取りの金型が,バリの発生がひどくなり,4個あるキャビティの内3個が使えなくなってしまった.この状態でも,1個取りの金型として生産を継続している.

電子PCBアッセイ生産工場.半田DIP槽のスプレーフラクサーのノズルが,フラックス残渣が固まり揺動動作が緩慢になっている.指摘をしても,ノズルの動力源(圧縮空気)の圧力を上げるだけ.

電子製品の組立工場.プラスチックケース組み立て前に,内機に塗布した接着剤の量が明らかに多すぎる.しかしケース組立員は何事もなくケースを組み立ててしまう.

こんな実例を挙げたらきりがない.

異常と正常の間にある閾値が,我々の期待と違いすぎるのだ.
この違いを是正するために,ひとつずつ「異常状態」を教えていたのでは,手がかかりすぎる.

例えば,人間は「健康」と「病気」の二つの状態だけではない.
人の健康状態は「健康」「健康ではない」「病気」の三つの状態があるはずだ.
つまり「健康」「病気」以外に「まだ病気ではないが,健康とは言えない」状態がある.
この「健康ではない」状態を放置しておけば,すぐに病気になる.

工場も同じだ.
「正常」「異常」の二状態以外に,「異常とは言い切れないが,正常ではない」状態がある.
「正常」状態をきちっと定義をしておき,それ以外の状態になった場合の行動を決めておく.

「異常」の範囲を定義しようとすれば,まだ発生していない異常も列挙する必要がある.しかし「正常」の範囲を定義することは比較的容易だ.「正常ではない」状態を全て「異常」と定義することにより,「異常感度」は上がるはずだ.


このコラムは、2010年8月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第166号に掲載した記事に加筆しました。

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