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折り紙基板

 村田製、「折り紙基板」に吹く5Gの追い風

 村田製作所に次世代通信規格「5G」の追い風が吹きそうだ。注目を集めているのは、長年存在を公開してこなかった秘蔵っ子、高機能基板「メトロサーク」だ。
電子部品を載せる基板といえば堅い板状のイメージがあるが、メトロサークは鶴を折る折り紙のような柔軟性を持つ。5G時代に主力の積層セラミックコンデンサー(MLCC)に続く、新たな屋台骨となるかもしれない。

全文

(日本経済新聞)

 折り曲げられるプリント基板は以前からある。FPC(フレキシブル基板)と呼ばれている。従来型のプリント基板間を接続するために開発され、その後部品を実装し折り曲げることにより実装効率を上げるのに貢献している。

しかし村田製作所の折り紙基板(メトロサーク)は折り曲げるだけではなく、たたむことができる。メトロサークはFPCより応用範囲が広がりそうだ。

日経の記事を読むと、メトロサークの開発は2008年から開始している。2017年まで開発を外部に公表していない。多分、革新的な技術に他社の追従はないと自信があったのだろう。特許の有効期間が10年近く伸びたのと同じだ。

以前のメールマガジンでサムソンの折りたたみスマホ「Galaxy Fold」の発売遅延をご紹介した。

「Galaxy Fold」発売延期

Galaxy Foldは再発売されており、連続折りたたみ試験の様子がTV広告で紹介されている。サムソンはこの評価を発売前に完了しておくべきだった。

もちろん村田製作所の皆さんがこのメルマガを読んでいたとは思えないが(笑)
村田製作所は研究開発だけではなく、信頼性評価にも十分な時間をかけたのだと思う。これが日本企業の企業文化であり、顧客から信頼される要因だと思う。


このコラムは、2019年10月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第889号に掲載した記事です。

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リチウム電池の評価

 先週のメルマガでリチウムイオン電池の研究でノーベル賞を受賞された吉野教授の言葉「失敗しないとダメ」をご紹介した。

「失敗しないとダメ」

実は40年近く前にリチウム電池の評価をしたことがある。リチウムイオン電池ではなく、充電ができない一次電池・リチウム電池だ。当時私が所属していた設計チームは新規に開発する電子計装装置のバックアップ電源としてリチウム電池を使うことを検討していた。

当時の電子回路は消費電力が大きく、小さなボタン電池では短時間しかバックアップできない。工場のオートメーションに使う製品なので、長期休暇や保守点検期間などを考えると、最低でも一週間はバップアップする必要がある。

そこでリチウム電池を採用することを設計チームのリーダが検討していた。単三サイズのリチウム電池ならば、バックアップ時間は問題ない。しかしまだリチウム電池は日本での市場実績がない。イスラエルのタディラン社くらいしか扱っていなかった。

重厚長大・信頼性第一主義のプロセスオートメーション業界にはなじまない部品だった。当時20代だった私にリチウム電池を評価をするよう指示された。電池の評価などしたことがなかった。会社の図書室や近隣の公共図書館でリチウム電池に関する論文を探し回るところからスタートした。

いくつも文献を見つけた。その全てが英文で読解に時間を要した(苦笑)
その中に、そのものズバリ、リチウム電池の評価に関する論文を発見。英和辞典片手に読解した。「ショットガンテスト」という項目があった。初めは意味がわからなかったが、評価手順を読んで驚いた。

ショットガンにリチウム電池を装填し、厚さ○インチの樫の板に向かって射つという試験だった。当然電池は壊れてしまうが、試験によって爆発・炎上などの危険な状態にならないことが評価条件だ。

耐衝撃性を勘案するならば、70cm(机からの落下)かせいぜい2m位からの自然落下を考えれば良かろう。爆薬の力で樫の板に打ち付けるという評価が何を想定しているのか理解できなかった。しかしそのくらいの厳しい条件で評価をしなければならない部品だということと理解した。

さすがにショットガンテストは自分ではやらなかった(笑)
評価試験は全項目合格し、私たちの製品に採用することになった。幸いな事に40年近く経った今でも、このリチウム電池に起因する事故は聞いたことがない。

しかしリチウムイオン電池の事故は度々市場を騒がせている。

このメルマガでも幾度となく取り上げた。
リチウムイオン電池の事故

リチウムイオン電池では、「ショットガンテスト」のような気迫の評価は実施されなかったのだろうか。

■□ 閑話休題 □■
上述のリチウム電池評価報告書は発行後、規定に従って回覧ののち戻って来た。表紙に赤ボールペンで「よく書けてる」と開発担当専務のコメントがあった。
当時ものすごく嬉しかったのを今でも鮮明に覚えている。


このコラムは、2019年11月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第901号に掲載した記事に加筆しました。

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「Galaxy Fold」発売延期

 米国時間4月22日、またしてもサムスンの折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」に関する悪い知らせが飛び込んできた。同製品をめぐっては先週、早期に生産されたレビュー用端末の画面が破損するという報告が複数寄せられていた。サムスンは、26日に予定していた同製品の発売を延期することを認め、「数週間のうちに」新しい発売日を発表すると述べた。

 「ディスプレイについて報告された問題を検査したところ、ヒンジの上下の露出部分における衝撃が関係している可能性があることがまずわかった。端末内部の物質がディスプレイの表示性能に影響していたケースもあった」と、サムスンは声明で述べた。「このフィードバックを十分に評価し、さらなる社内テストを実施するために、Galaxy Foldの発売を延期することにした」(サムスン)

 同社は、このデバイスを予約注文していたユーザーに電子メールを送り、「2週間以内に、より具体的な出荷情報」を通知すると述べた。出荷されるまでは端末代金がユーザーから徴収されることはなく、気が変わった場合は、出荷前ならば注文をキャンセルすることができる。

(CNET Japan より)

 「折りたためるディスプレイ」という驚きをもって迎えられたサムスンのGalaxy Foldの落胆ニュースだ。

発端はレビュー用にメディアに配布したサンプル機のディスプレイ故障だ。サムスンはサンプル機の故障に関して以下のように言っている。
“何人かのデバイスは可能な限り最高のユーザーエクスペリエンスを保証するために、Galaxy Foldがさらなる改善を必要としていることを我々に示してくれました。このフィードバックを十分に評価し、内部テストを実行するために、Galaxy Foldの発売を延期することにしました。”

プロトタイプを展示会などで発表することはありうるだろう。しかし発売日を決定して発表した商品で、このような事例はお粗末としか言いようがない。

当然4月26日発売の初ロット生産前に、製品の信頼性評価、妥当性評価は完了していたはずだ。

折りたたみ式ディスプレイという新技術を搭載したスマホであれば、折りたたみ耐久評価が完了していなければならない。例えば商品の耐用年数3年、1日の折りたたみ回数を10回と定義すれば、10,000回程度の開閉評価をすれば分かることだ。つまり1秒に1回開閉する検査機を作れば約3時間もあれば評価可能だ。

またユーザが保護フィルムを誤って剥がしてしまう事が,故障原因の一つであると言っているが、こういう問題を事前に洗い出す事が「妥当性評価」だ。

開発の立場で考えれば、いち早く市場に投入して業績に貢献したいと考える。
しかし品質保証の立場で考えると、顧客利益を守る(品質損失を最小限にする)ために必要な手続きを踏みたいと考える。どちらが良い、悪いということではないと思うが、どちらを優先するかが企業文化であり、それを評価するのは消費者だ。


このコラムは、2019年5月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第820号に掲載した記事に加筆したものです。

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