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千丈の堤も蟻の一穴から

「鉄パイプ落下の現場、業者変え作業再開 新たな防止策も」

 和歌山市の12階建てビル屋上の工事用足場(地上約45メートル)から鉄パイプ(重さ約5キロ)が落下し、直撃を受けた通行人の男性(26)が死亡した事故で、中断されていた足場の解体作業が23日朝、再開された。発注元の会社によると、安全確保徹底のために業者を変更し、新たな業者が決まるまで作業を中断していたという。

(朝日新聞より)

 NHKの報道によると、落下物が通行人や作業員に当たる事故はこの10年間で少なくとも44件発生、14人が死亡している。

本件死亡事故現場では、四日前に鉄パイプの落下事故が発生している。死傷者はなかったが「ヒヤリ・ハット事故」だ。

足場解体業者は鉄パイプを固定する金具が緩んでいたことが事故原因とし、以下の再発防止策を提示した。

  • 金具がゆるんでいないかすべて確認
  • 落下物を防ぐための防護ネットを設置する
  • 鉄パイプに落下防止のロープを取り付ける

しかし工事再開後翌日、再び鉄パイプが落下し死亡事故となった。

上記の再発防止が行われていれば、事故は発生しなかったはずだ。
業者が再発防止を遵守しなかったと考えるのが妥当だろう。
しかし上記の再発防止は全て行ったのだろう。ただし再発防止に以下のような問題があったのではなかろうか。

  • パイプ固定金具の緩みは全て確認した。しかし解体作業のために固定金具は緩める必要がある。
  • 防護ネットは設置した。しかし足場全て解体撤去前に防護ネットを外してしまった。
  • 鉄パイプ落下防止ロープは取り付けた。しかしロープの固定方法が悪く、パイプが傾いたときに落下した。

こんな状況が容易に推測できる。
つまり以下のようは状況だったと思われる。

  • まとめ作業で固定金具を先に全部緩めてしまった。
  • 全ての作業終了前に防護ネットを外してしまった。
  • 落下防止ロープの掛け方が不適切だった。

今回の事故の真因は、再発防止策を安易に検討・実行したことだろう。

  • 対策検討時のリスク検討が不足していた。
  • 対策実施時の作業手順が現場作業員に明確に指示されていなかった。

せっかく「ヒヤリ・ハット」の時点で事故防止のチャンスがあったのに残念だ。
「千丈の堤も蟻の一穴から」のたとえ通り安全事故の防止対策は細心の注意力を以てせねばならない。


このコラムは、2019年11月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第907号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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中国製ベビーベッドを米国で回収 乳幼児2人死亡

 【ニューヨーク=中前博之】米国のベビー用品メーカーのデルタ・エンタープライズ社は21日までに、中国などで製造されたベビーベッドを使用して乳幼児2人が死亡する事故があったとして、約160万台のベビーベッドをリコール(回収・無償修理)すると発表した。日本で流通しているかどうかは不明。

 同社は死亡例の詳細は言及していないが、ベビーベッドの両側の柵を支える留め具に不備がある可能性があるという。同社はウェブサイト上で、2006年以前に中国で製造されたベッドは「直ちに使用を中止」するよう呼び掛けている。

 ロイター通信によると、ベビーベッドは中国のほかに台湾、インドネシアでも製造されている。

(NIKKEI.NETより)

また中国製だ,という論調の記事である.
タイトルには「中国製ベビーベット」と書いてあるが,記事の最後に申し訳程度に「中国の他に台湾,インドネシアでも製造されている」とある.

詳細を米国の消費者製品安全委員会のホームページで確認してみると,これは工場の製造問題ではなく,設計上の問題のように見える.

ベビーベットの柵を固定しているピンが外れるかなくなっているのに気が付かず,柵が落ちて幼児が挟まれたようだ.

デルタ・エンタープライズ社も回収はしていない.
交換用の固定ピンもしくは改造用の固定ピンを製品にあわせて送ってくれるだけである.
この製品を特定するために「中国製」「台湾製」「インドネシア製」という言葉が出ているだけである.

昨今,中国製食品問題や,中国製玩具問題などが多発しており,またもや中国の工場の問題と決め付けて記事を書いたのではなかろうか.少なくとも同社のホームページを見れば,リコールしているという記事はかけないはずである.

この調査の過程で,以下の工夫が参考になった.

交換用の固定ピンは,従来の物と色が変えてある.
これは固定ピンの付け忘れ,脱落などを看える化するためだ.
意匠デザイン的には違和感があるかもしれないが,初めからそのようにデザインすれば違和感なくデザインできるはずだ.

このベビーベッドのように利用者が組み立てをする製品については,このような工夫がリスク回避につながるだろう.

また生産工程内でも,工程飛ばしを防ぐためのアイディアに応用できそうだ.


このコラムは、2008年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第57号に掲載した記事に加筆しました。

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スピード出すぎる滑り台

スピード出すぎる滑り台、15人がけが…オープン前に使用禁止

 生駒山上遊園地(奈良県生駒市)にある滑り台で6、7両日、子ども約15人が頭に軽いけがを負っていたことがわかった。滑り台は、13日にオープン予定の有料ゾーンに新設され、子どもらはプレオープンに招かれていた。遊園地の運営を手掛ける近鉄は、当面は使用中止にするとしている。

読売新聞オンラインより

 記事によると、滑り台はチューブ形で長さ25メートル、高低差10メートル。負傷した子供達は滑走中に上部に頭をぶつけ、たんこぶや擦り傷ができた。スピードが出すぎて、体が浮き上がるなどしたことが原因と考えている様だ。

更に近くにある別のチューブ形の滑り台では、8日に女性従業員が試験的に滑った際、右足が引っかかるなどして骨折している。

遊具業界での評価手法に関して無知だが、今回の事故を「妥当性評価」で発覚した不適合と考えて見た。

まず安全性を考慮に入れて設計する。体格、体重などにより滑り台の諸元を決定るす。設計結果はシミュレーションや過去の知見などにより問題ない事を設計検証する。
完成した滑り台現物が設計諸元と一致している事を確認するのが、検証評価だ。
そのあと実際に使用して見て、設計時に想定できなかった使用法がないことを確認するのを妥当性評価という。
妥当性評価の最終段階では、実際に子供が滑って想定外の滑り方がないことを確認する。

記事だけでは判然としないが、安全性の検証評価が完了する前に妥当性評価を行ってしまった様に見受ける。

6、7日の事故が発生した時点で安全性検証をやり直すべきだった。しかし8日には女性職員が骨折する事故を発生させている。「骨折」と記事に書いてあるが「全治◯ヶ月の重傷」と表現すべき負傷なのではなかろうか?

13日の営業開始に合わせて、本来行わなければならない確認ステップを省略してスケジュールの遅れを挽回しようとしたのではなかろうかと疑念を感じる。

安全より優先すべきスケジュールなどない。


このコラムは、2019年7月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第850号に掲載した記事に加筆しました。

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粉じん引火か、幹部ら拘束 中国工場爆発、死者69人に

 中国江蘇省昆山市の経済開発区にある「中栄金属製品」の工場で2日朝に起きた爆発による死者は69人にのぼり、約190人が負傷した。工場で、これだけ大規模な惨事が起きることは中国でも珍しく、事態を重くみた習近平(シーチンピン)指導部は陣頭指揮のため、王勇・国務委員を現地に派遣した。

 国営新華社通信などによると、爆発は自動車のホイールの研磨をする作業場で起きた。工場内の粉じんに引火したのが原因とみられる。当局は同社の幹部ら5人の身柄を拘束し、安全管理などに問題がなかったか事情を聴いている。

 爆発があった工場に通じる道路は2日、警察官らが封鎖した。出入りができなくなったものの、多くの人たちが集まっていた。

 隣の工場の男性工員(24)は「大砲のような、ものすごく大きな音がした。働いている工場のガラスが割れた」。近くの工場に勤務する趙東舟さん(28)は、けが人を運ぶなど救援活動に参加。「全身がやけどで真っ黒になった人たちが次々と出てきた。焼けてしまって、服も身につけていなかった」と興奮気味に話した。

 姉が爆発のあった工場で働いているという許雨朋さん(32)はネットで事故を知って駆けつけた。「何が起きたのか、まったくわからない。姉の携帯電話もつながらない。心配でたまらない」と顔をゆがめた。

 ホームページなどによると、同社は1998年に設立された台湾企業。従業員は約450人で、アルミニウムのめっき加工などを手がけている。中国メディアは、同社が米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)に部品を供給していると伝えた。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同開発区には昨年7月時点で、200社以上の日本企業のほか、約2千社の台湾企業などが入居している。

 日本企業の駐在員らでつくる昆山市日本人同郷会は、日本企業への被害は確認していないという。

(朝日新聞電子版より)

 爆発と言うと、引火性の高い物質が原因と考えがちだが、引火性の無い物質が爆発を起こすことがある。それが「粉塵爆発」だ。

引火性が全くない綿や小麦粉でも爆発は発生する。粉塵爆発の条件は、

  1. 空気中に一定の割合で微粒子粉塵が存在する。
  2. 発火エネルギー
  3. 酸素

この3点が揃うと粉塵爆発を起こす。

アルミニウムは引火性も燃焼性も無い。しかしアルミニウムの微粒子が空気中に一定の割合で存在すると、爆発を起こすことがある。

爆発の引き金となる発火エネルギーは、開閉器や電動機からのスパーク、稼働部分の摩擦熱が原因となる。また静電気放電によるスパークですら原因となる。

小さな発火エネルギーでも、局所的に空気中の浮遊微粒子が加熱され、そのエネルギーが近隣の浮遊微粒子に一気に連鎖し、爆発が起きる。

アルミ粉は、水と激しく反応し水素を放出する。放水消化をすると、二次爆発が発生する可能性もある。作業現場に消化スプリンクラーが設置されていると更に被害を拡大することになる。

綿や小麦粉の粉塵で爆発が起きた事例もある。粉塵が発生する現場は注意が必要だ。

対策は、
清掃、排気により空気中の粉塵を減らす。
粉塵環境の電設設備は、防爆対応品とする。
静電気の発生を抑える。(アイオナイザーはコロナ放電によりイオンを作っているので、逆に発火エネルギーを与えることになるかもしれない)

あなたの工場は大丈夫だろうか?
アルミニウムと言うキーワードではなく、粉塵と言うキーワドに着目すれば、金属加工だけではなく、木工、紙、粉体製品にも、適用範囲が広がる。


このコラムは、2014年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事に加筆しました。

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豊洲市場ターレ事故

 東京都江東区の豊洲市場で8日午前0時過ぎ、市場内を走る小型運搬車、ターレット(ターレ)に乗った運送業の男性(50)が、荷物搬送用のエレベーターの扉に頭や首などを挟まれ、搬送先の病院で死亡した。警視庁によると、豊洲市場では昨年10月の開場以降、エレベーターの扉にぶつかる事故がほかに3件起きており、都は業界団体と連携して安全対策の強化を検討するという。

(朝日新聞デジタルより)

 新任の都知事がちゃぶ台返しをして迷走した豊洲市場で悲惨な事故が発生してしまった。

事故現場のエレベータは、高さ3.13m、幅3.75m、奥行き4.5m。扉は上下に開閉する仕組みとなっている。
事故発生時の様子が防犯カメラに残っており、エレベーターの上側扉が下がりつつあるところに男性が乗り込む様子が映っていた。

豊洲市場では昨年10月の開場以降、エレベーターの扉にぶつかる事故が他に3件発生している。都は業界団体と連携して安全対策の強化を検討するという。ターレが関わる死亡事故は今回で2件目だ。

今までの再発防止対策は、貼り紙などによる「注意喚起」だ。
人の注意力に依存する対策が有効だとは思えない。エレベータに乗り遅れれば戻ってくるまで待たねばならない。仕事の効率を考える人ならば、エレベータの待ち時間をなんとか減らしたいと考える。貼り紙など対策にはならない。

製造業の現場で仕事をしておられる方には、どのようにすべきか気がついておられると思う。このメールマガジンを本件の関係者が読んでおられるとは思えないが、有効な対策の考え方を記しておく。

「人の注意力」に依存する再発防止対策は、効果が実感できない対策の最右翼だ。注意しなくても事故が発生しない対策が本当の対策だ。疲労、心配事など様々な要因で注意力が散漫となることを前提として対策を考えねばならない。

記事によるとエレベータの扉は上下に開閉する構造となっている。上扉が下降中にターレが侵入し事故が発生している。

この状況を分析すれば、上扉が下降を開始した時点では下扉は上昇を開始しておらずターレが扉を通過できたはずだ。

したがって扉開閉の順序を変更し、下扉を先に上昇、ターレが通過できない高さとなったのちに上扉を下降させる。エレベータの制御プログラムを書き換えるだけで、変更可能のはずだ。

最初のエレーベタ事故は、ターレがエレベータ扉に衝突しただけだ。この事故が今回の人身事故につながるという「想像力」があれば、事前に対策が出来ていたはずだ。

今回の問題は、エレベータ設計者の安全考慮不足と考えるべきだ。
エレベータの死亡事故は繰り返し発生してる。それらの原因を設計時に排除する仕組みがなかったのだろうか?


このコラムは、2019年4月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第426号に掲載した記事に加筆しました。

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JR運転士を書類送検へ 三重・名松線の無人走行事故

 津市白山町のJR名松線家城(いえき)駅で4月、車両の入れ替え準備中だった回送列車(1両編成)が無人で約8キロ自走した事故で、三重県警は、ブレーキをかけずに列車を離れた男性運転士(25)を業務上過失往来危険の疑いで、近く書類送検する方針を固めた。

 県警などによると、男性運転士は4月19日午後10時ごろ、JR名松線家城駅で車両の入れ替え準備中に列車のエンジンを始動させたまま、ブレーキをかけずに運転台を離れ、列車を同市一志町の井関―伊勢大井駅間の踏切付近まで8.5キロ自走させ、衝突などの危険を生じさせた疑いが持たれている。

 名松線では06年8月、今回と同様に家城駅に止めてあった無人の列車が車輪止めの付け忘れなどが原因で自然に走り出す事故があり、男性運転士が業務上過失往来危険の容疑で書類送検され、起訴猶予となった。

 捜査関係者は、今回も運転士のみを送検する理由について「JR側の再発防止策が不十分だったわけではなく、運転士の過失が大きいと判断した」としている。

(asahi.comより)

 記事にある06年8月の事故は,車輪止めのつけ忘れに加え,エンジンの停止時に空気圧が抜けてブレーキが緩む構造だったことが分かり,JR東海はエンジンを切った場合も制動の機能が落ちないようブレーキの機構を改良していた.

つまり,車輪止め忘れと言う人為ミスが発生しても,ブレーキの欠陥を改善することにより問題が発生しないようにしている.言ってみればポカ除けをしてあったわけだ.

今回の事故では車輪止めをはずした後にブレーキをかけ忘れている.ポカ除けがしてあっても人為ミスを起こしたのだから,今回は書類送検となったようだ.

もちろん人の命を預かる業務をしている者が「ついウッカリ」でも良いというわけでは無い.
しかし人の命にかかわる作業であるからこそ,人の注意力に頼らない徹底的なポカ除けを考えるべきだろう.

工場の不具合発生にも同様の人為ミスはある.その不具合に対し「作業員に注意し,再教育した」「作業員を罰して,担当業務からはずした」などというレベルの低い対策を良く見かける.

今回のニュースをポカ除けの観点で見直してみよう.

06年の不具合は車輪止めを付け忘れている.そのためブレーキの性能を上げて(欠陥を改善して)対策とした.

今回の事故ではブレーキをかけ忘れている.人為ミスとしては同じレベルのミスだ.エンジンをかけた状態では車輪止めをつけないわけだから,ブレーキのかけ忘れが直接事故につながる場面は多いはずだ.

例えば駅に停車した際に運転席からプラットホームに降りるという状況はいくらでもあるだろう.
従って車輪止めの付け忘れと言う人為ミスよりもブレーキのかけ忘れと言うミスの方がリスクは高いだろう.

リスク=影響×発生確率と考えた時,上記のミスはどちらも同じ影響度であり,ブレーキのかけ忘れのほうが発生確率が高そうだ.

車輪止め忘れよりもブレーキかけ忘れに対するポカ除けをする方が優先度が高いはずだ.
列車の運転手は指差し点呼で人為ミス防止をしているが,これは自己チェックの機能しかなくポカ除けとはいえない.

例えばブレーキレバーを引かなければ運転席の扉が開かない構造にするなどは比較的簡単に出来るのではないだろうか.こういうのがポカ除けだ.

京浜東北線脱線再発防止対策

 先週のニュースからに、京浜東北線で発生した工事用車両と回送列車の衝突脱線事故をご紹介した。

同様の事故は

  • 1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも発生。作業員5人が死亡。
  • 2003年10月、JR京浜東北線の大森─大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。

このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。典型的な「うっかりミス」による慢性的再発問題だ。再発防止対策が有効ではないため、期間をあけて慢性的に再発することになる。

この事故に対する有効な再発防止対策を検討する事を、先週のメルマガで読者の皆様に提案をした。お考えになっただろうか?残念ながら私に対策をメールして下さった読者様はお一人しか居なかった。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。
  • 工事用車両は車輪に非電導ため自動列車制御装置(ATC)が効かない。(ATCシステムは左右の線路を電気的に短絡することにより、車両の位置を750m間隔で確かめることができる)

この条件で、再発防止対策を考えてみよう。

このような問題が発生すると、一番気の毒なのは下請け業者だ。
事故で亡くなるのは下請け業者の社員であり、事故によってその下請け業者は指名業者から外されたり、一定期間出入り禁止となったりする。その結果倒産廃業となる事もあるだろう。
国鉄時代からの風習で下請け業者は、お上には逆らえないと言う体質が受継がれている様に思う。

以前の事故に伴い「点検を厳格にする」と言う対策をとってもJR職員は現場にすら居なかったと報道されている。

「うっかりミス」がきちんと防げないのは、なぜうっかりしてしてしまうのかにメスを入れずに、単純に点検を厳格にするなどとするからだ。うっかり点検を忘れる、と言うミスもあり得るはずだ。

点検で「うっかりミス」を防ぐためには、点検動作をしなければ、次の工程に進まない様にするくらいやらねば有効とは言えない。

本事例には上手く適合出来ないかも知れないが、一世代前のボーイング社の旅客機の扉には「うっかりミス」防止対策がしてあった。(先週乗ったB787にはこの仕掛けがなくなっていた)

航空機の扉は、着陸後開ける時にマニュアルモードにしなければならない。オートモードのまま扉を開けると、脱出用シュートが出てしまうからだ。そして離陸する前に扉を「うっかり」マニュアルモードのまま締めてしまうと非常事態の時に扉を開けても脱出シュートが出ない。
マニュアル・オートの切り替えをうっかり忘れない様に、扉の開閉レバーを操作する時に必ずマニュアル・オート切り替えレバーに付いているピンを抜く動作が必要になっている。こういう仕組みが点検動作による「うっかりミス」防止だ。製造現場では「ポカよけ」と呼んでいる。
ただ点検を厳格にすると言っても有効とは言えない。

しかし本事例の本質的対策は、点検ではない。ATCを有効にすれば良いのだ。トラックを改造した工事用車両だから、左右の車輪間で電気的導通がない、だからATCが効かない。その通りだろう。しかしATCが効かない理由を考えても意味はない。ATCさえ効けば、今あるシステムで衝突回避は出来るはずだ。

トラックのタイヤのままでは、左右の車輪で導通を取るのは難しいだろう。
しかしタイヤは、鉄道用の車輪に変更されている。チョットした工夫で左右の車輪の導通が取れ、ATCのシステムが働くはずだ。

※上海のN様の再発防止対策。
ポイントは「下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した」という部分かなと思いました。

つまり、「うっかり手順を間違えてしまった場合」でも事故が起きないような対策を取る事がポイントです。なぜなら「下請け業者」というのは自社ではないので、場合によって変わる可能性があります。

現下請け業者へ対策を講じても、何かの原因で下請け業者が変わってしまい、仮に今回の事故の教訓が伝わらないようなことがあれば再び事故が起きてしまうからです。

私が注目したのは、「ATC」です。本来ATCはうっかり手順を間違えた時に作動する装置のはずです。それが工事用の車両だけ対象外になっていることが問題だと感じました。

「ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外」
この対象外を対象内にする改良を加える事を義務化すると再発防止に繋がるのではと思いました。

満点をさし上げてよい回答だと思う。
私も(多分)N様もJRの仕事をした事はないので、ピントがずれているかも知れないが、今あるシステムで上手く行く方法を考えるのが良いと思う。
問題が発生するたびに個別に対応する再発防止対策を考えると、再発防止対策だらけとなり、管理しきれなくなる。例外処理を作らない様に再発防止を考えるのが肝要だ。


このコラムは、2014年3月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第352号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線、現場の線路閉鎖されず 工事手順ミスか

 JR東によると、線路内での作業は「線路閉鎖」の後で始める手順だった。現場の「閉鎖責任者」の端末から、JRのシステムを経由して運転席に停止信号を送る仕組みだ。閉鎖されれば電車は減速し、現場の手前で止まる。だが京浜東北線の北行きは事故当時、線路閉鎖に向けた確認作業中。乗客がいれば大惨事につながった可能性がある。

京浜東北線の回送電車が横転 川崎で進入の作業車と衝突

 回送電車は横浜市のJR桜木町駅で乗客を降ろし、東京都大田区の蒲田駅に向かっていた。一方、工事用車両(全長5・1メートル、幅2・5メートル、重さ9・5トン)はガソリンを動力に、単体で動く。川崎駅の東側から西側へ、順に東海道線の下り(南向き)と上り(北向き)、京浜東北線の南行きの各線路を閉鎖して横断。同線北行き線路上で、車輪走行の準備をしていた。

 JR東は「本来は工事管理者から、工事用車両の運転手に作業開始の指示があるはずだが、その有無は確認中」としている。

 同様の事故は1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも起き、回送電車にはねられた作業員5人が死亡。2003年10月にはJR京浜東北線の大森―大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。

 今回、電車は自動列車制御装置(ATC)も搭載していた。電車間の位置を検知し、後続列車が停止する仕組みだが、ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外という。

 鉄道アナリストの川島令三さんは「現場に業者をチェックするJR東の担当者が不在なのは問題。コスト削減のためか現場を業者任せにする態勢が続いている。業者への指導にも責任がある」と指摘する。

(朝日新聞デジタルより)

 東急東横線の追突事故に引き続きJR東日本でも衝突事故を起こしている。
乗客が乗っていない車両の事故だったのが、不幸中の幸いだった。しかし反対側に脱線していれば、乗客を乗せた列車と衝突した可能性もある。

工事用車両と言うのは、小型トラックを線路を走らせるためにタイヤをレール用の車輪に交換した改造車の事だろう。

日経新聞の記事も合わせ読むと、事故発生の状況は以下の通りだった様だ。

工事用車両の男性運転手(43)が神奈川県警の聴取に「作業時間を間違え、閉鎖される前の線路に車をのせてしまった」と話している。
事故当時、工事管理者(JR職員)らは現場近くで打ち合わせをしていた。
工事管理者らは、JR東日本の調べに「作業開始の指示は出していない」と説明している。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。

と言うことになろうか?

国交省は、緊急対策会議を招集している。

さてこのメルマガを読んでおられる読者様は、この事故に対してどのような再発防止対策を取ったら良いとお考えだろうか?
本業と関係なくても、この様な人為ミスに対しどう再発防止を立てるか、思考訓練のために考えてみていただきたい。
お考えになった事故再発防止対策をぜひ教えていただきたい。このメールにご返信いただければ、私に届く。

私の再発防止対策は来週のメルマガで発表する。


このコラムは、2014年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第351号に掲載した記事に加筆しました。

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大型クレーン車横転

 先週の失敗から学ぶで「神戸製鋼所データ改ざん」を考えてみたが、今週も神戸製鋼所グループ企業の事故事例だ。

「神戸製鋼でクレーン倒れる 1人死亡、3人けが」

 26日午後4時ごろ、兵庫県高砂市荒井町新浜2丁目の神戸製鋼所高砂製作所で、作業員から「クレーンが倒れ、けが人がでている」と高砂市消防本部に119番通報があった。
(中略)
 倒れたのは、神戸製鋼所の関連会社「コベルコ建機」(本社・東京)が製造した移動式大型クレーン。同社が敷地内にある試験場に持ち込んで性能のテストをしていたところ、クレーンが折れて倒れ、近くにあった建物の一部も壊したという。

(朝日新聞より)

 他のニュースも併せて考えると、事故は以下のように発生したようだ。
クレーンはアームを伸ばすと長さは最大約200メートル。最大つり上げ能力は1,250トンあり、事故時は性能テストを行っており、約130トンの重りを下げて旋回していた。2名の作業員が事故に巻き込まれ死亡している。

事故原因はまだ判明していないが、アームが根元から折れ複数箇所でバラバラになっていたようだ。クレーンアームの材料強度が不足していた、設計強度が足りたかった、製造過程のミス、の可能性が考えられる。

該当のコベルコ建機は以前、
クレーン・フォークリフトの分解整備を無認証の工場で行う。
クレーン・フォークリフトの技能講習を時間短縮して実施。
という不正が見つかり、監督官庁から指導・処分が行われたこともある。

先週のメルマガでは、神戸製鋼所のデータ改ざんは「川上企業のおごり」だと論じたが、コベルコ建材は同じ神戸製鋼グループではあるが川上産業ではない。しかし大きな企業グループの一員であるという傲りが有ったのではなかろうか?
「誇り」と「傲り」は一音違うだけであり、表と裏のような関係だ。企業文化根底に「誇り」があるのと「傲り」があるのでは、全く違ってしまう。

ちょうど池井戸潤「空飛ぶタイヤ」を読んでおり、このニュースを見てそんな感想を持った。


このコラムは、2018年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第700号に掲載した記事に加筆しました。

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シンドラー製エレベーター、全国5500台を緊急点検 国交省、事故の再発防止めざす

 国土交通省は清掃会社の従業員がシンドラーエレベータ社製のエレベーターで死亡した事故を受け、来週にも緊急点検を実施する。対象は全国にある同社製のエレベーター約5500台。原因究明を徹底し、事故の再発防止を目指す。

 同省は都道府県などに通知を出す。事故の原因とみられるブレーキのほか、カゴの停止位置や扉の開閉を制御する装置、ドアのスイッチ、エレベーターの巻き上げ機などを集中的に調べる。

(中略)

 事故機は2006年に起きた事故のエレベーターと、ブレーキや制御装置などが同型。国交省は09年から、新設エレベーターに安全装置をつけることなどを義務化した。だが既存エレベーターに装置をつけさせる強制力はなく、今回の事故機にも設置されていなかった。

 シンドラー社製エレベーターの事故は今年10月31日に金沢市のホテルで発生した。エレベーターに乗ろうとした清掃会社の従業員が扉が開いたまま上昇したカゴの床と扉上部の枠の間に挟まれて死亡した。同社は06年にも東京都の集合住宅で死亡事故を起こしており、再発防止策が急務となっている。

(日本経済新聞より)

 先週お伝えした,金沢でのエレベータ死亡事故の続報だ.

他の記事から,以下のことが分かっている.

  • 2006年に高校生が死亡した事故は,シンドラー社の同型機である.
  • 東京の事故機,金沢の事故機は,前後4ヶ月以内に設置されてた.
  • 06年当時の調査では,当初ブレーキに異常な磨耗痕を発見していないが,3年がかりでブレーキパッドの磨耗を事故原因として特定した.
  • この原因調査を受けて,国土交通省は扉が開いた状態でかごが動いたら自動停止する保護機能の設置を再発防止として,09年から義務付けている.
  • しかし金沢の事故機は,1998年に設置されており,規制の対象外だった.
  • 金沢の事故機も,06年と同様に扉が開いたまま上昇をしている.
  • 金沢の事故機は15年間点検異常は発見されていない.

これらの事実から推定すると,06年に事故調査は真の原因に達していなかった.したがって国土交通省の再発防止対策は,真因対策ではなかった.しかし真因対策ではなくとも,事故防止の効果があるはずだ.何らかの故障が発生しても,人身事故には至らない.設置済みのエレベータにも対策を実施すべきだったと考えられる.
国土交通省の強制力がなくとも,エレベータ業界,特に事故を発生させたシンドラー社は自主的にでも,再発防止を設置済みエレベータにも実施すべきだったろう.

一故障で即人身事故につながるようでは,人の安全に関わる装置としては信頼性が十分とは言えない.逆に言うと扉が開いた状態で,上昇・下降の駆動系にインターロックがかかっていないと言う設計に問題がある.

先週に引き続き素人の大胆原因予測をすると(笑)

  • エレベータの制御ロジックにバグがあり,一定の条件が揃うと扉が開いたまま上昇してしまう.
  • 外来ノイズなどの影響により,制御回路が誤動作する.

これらの疑いを調査するためには,

  • 制御ロジックの設計検証,妥当性確認を何処までやったか.
  • 耐ノイズ性能はどのようにして検証したか.
  • 通常耐ノイズ性能は,タイプテスト(試作機でのテスト)しかしないが,耐ノイズ性能が量産品でも保証される論理に漏れはないか.

と言うことを,設計時の検証記録から調べる必要があるだろう.

それにも増して,事故機の現場・現物での検証が重要なことは言うまでもない.設計がキチンと保証されていても,製造過程,メンテナンス過程で瑕疵が発生することはありうる.

このような事故を再発させないためには,該当企業の真摯な事故原因調査が必要だ.役所に「調査される」と言う態度ではなく,業界全体の威信回復に向けて,積極的,自発的に行動していただきたい.

この事件から,以前ご紹介したタイヤのハブ破損事故を思い出してしまう.
「空飛ぶタイヤ」池井戸 潤

自社の利益のみを考えて,リコール隠しの様な事は避けていただきたい.


このコラムは、2012年11月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第283号に掲載した記事を修正加筆したものです。

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