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レーザープリンタに発火の恐れで無償部品交換を実施

NEC、レーザープリンタ「MultiWriter2800/2800N」に発火の恐れで無償部品交換を実施

NEC は、2008年6月19日、ビジネス向けモノクロレーザープリンタ「MultiWriter2800/2800N」において、発火の恐れがある不具合が判明し、無償にて部品交換を行う、と発表した。

これら製品において、製造元である富士ゼロックスが2007年12月までに回収した使用済定着器(トナーを紙に定着させる部品)のうち3件にベアリングの破損を確認。

富士ゼロックスがさらに調査を進めたところ、ベアリング破損に起因し、まれにランプが連続通電状態となり発火に至る可能性があることが判明した。

(japan.internet.comより)

 この記事からでは故障のメカニズムが分からないが、例えばベアリングが破損し紙送りがうまく行かなくなった状態で、定着ランプが点灯しっぱなしになると、印刷中の紙が加熱して発火の可能性があるのかもしれない。

市場から戻ってきた使用済み交換部品をきちんと解体調査をしている。そこで見つかった不良から、市場不良発生の可能性を察知。躊躇せず無償の部品交換を告知。

大変すばらしい対応だと思う。
無償交換の対応に躊躇して、万が一市場で発火事故でも発生してしまえば、もっと莫大な費用が発生したはずだ。「安全」に影響のある故障については、第一優先で対応しないといけない。万が一の場合、一発で市場から退場宣言を受けるくらいのダメージがある。

以前にも書いたが、市場サービス部門を持っている会社は自社製品の市場での稼動状態を比較的正確に把握する事が出来る。

「金属疲労と溶接不足が原因 名古屋・エスカレーター事故」

今回のように使用済み交換部品をただ捨てる(または再生する)だけではなく、きちんと解体検査をすることにより、市場不良を事前に察知する、設計寿命の検証など多くの情報が得られるものだ。


このコラムは、2008年6月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第39号に掲載した記事です。

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エアバック回収

 以前このメルマガで、タカタのエアバック回収問題を論じた事がある。

ホンダの竹内取締役「本業の改善、タカタが全て消した」
タカタ、納入価格の引き下げ見送り要請 車各社に

問題は一向に収束の気配がなく、ますますエスカレートしている様に見える。
メルマガには、タカタに対して厳しめのコメントを書いたが、いろいろな力学が働いているようで、タカタに対して気の毒な印象を持っている。

通常リコール責任は、完成品メーカにあるはずだ。そのためリコールに関してタカタは積極的な発言を控えて来た。これが米国消費者に「消極的な態度」と言う印象を与えたようだ。それが米国自動車業界(もしくはそれに肩入れしている人々)にとって絶好の攻撃対象になってしまったのではないだろうか。
米国にとって自国が自動車産業を生み出し、育てたと言う自負があるだろう。それが東洋の小国に取って代わられた、と言う忸怩たる思いがあるようだ。

巨額にふくれあがったリコール費用や、制裁金でタカタの経営が危ういと聞いている。
自動車部品から撤退して、本業に戻ると言う選択肢はもうないだろう。自動車部品に参入して、構えが大きくなってしまった。撤退は即倒産廃業の意味を持っている。

今更だが、このような事態に至らないために打つ手がなかったのか考えてみた。
タカタは後戻りできないかもしれないが、同じリスクを冒さないために他業界の経営者も考える必要があると考えている。

同じ自動車部品業界のBOSCH社は、顧客に提供する部品に関して「搭載要件書」を提示し、想定外の使用方法による事故から、自己防衛しているそうだ。

これは購入部品だけではなく、設計の再利用を目指す「モジュール化」にも必要な事だ。適用する製品と、設計モジュールのインターフェイスをきちんと定義しておかねば、設計不適合が発生する。インターフェイスとは、取り付け寸法だけの事ではない、環境条件、適用範囲など全てを含む。

以前システム製品の設計をしていた頃、あるメーカのCRTディスプレイを採用した事がある。採用が決定し、サンプル機の提供を受けた時に、先方の品証エンジニアが来社した。当方でCRTディスプレイを組み込む最終製品を見せてくれと要求された。まだ市場リリースしていない製品だ。即諾する訳にはいかない。理由を聞くと、想定外の使用(実装)がされていないか品質保証の立場で確認させてほしい、と言う事だった。
メーカ側の品質保証部門としては、当然の理由と判断し関連部署を説得し、要求に応えた。

品証エンジニアは、CRTディスプレイが組み込まれた状態を確認し、CRTのアノードキャップの端から25mm以内に金属の機構部品があるから、25mm以上の距離を確保してくれと要求して来た。

CRTのアノード電極は25kVの電圧が印火されており、空間距離を25mm開ける様にと言う要求だ。アノード電極には、半径25mm以上の絶縁キャップがついており、過剰な要求だと感じたが、メーカの品質保証の姿勢に敬意を評し、要求通り設計変更に応じた。

当然機構設計者は快諾する訳はない。既に設計は終わっているのだ。従って機構部品に追加工をする事になり、強度計算をやり直し、コストもあがる。そこをなんとか、と説得した(笑)

この時、先方の品証エンジニアから「最終製品の品質保証を確かにしたい」と言う姿勢を学んだ。後に自分自身が品質保証部門に異動した時に、基本理念となった。

セットメーカと部品メーカは、利益対立する存在ではない。顧客の顧客まで品質保証する、運命共同体だ。
セットメーカは、部品メーカを守る気概を持たねばならない。
部品メーカは、セットメーカを支える気概を持たねばならない。


このコラムは、2015年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第449号に掲載した記事に加筆しました。

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ユニクロ、女児向けジーンズ6万5000本を回収

ファーストリテが子供用ジーンズ6万5000本を自主回収、内側の金具の一部が突起

 [東京 13日 ロイター] ファーストリテイリング傘下で国内ユニクロ事業を担うユニクロ(山口県山口市)は13日、全国のユニクロやインターネット通販で販売した女児向けジーンズの一部商品約6万5000本を自主回収すると発表した。内側の金具の一部が突起した商品があり、着用時に皮膚を傷付ける可能性があるという。

 回収するのは「KIDS(GIRLS)ストレッチスリムストレートジーンズ」。販売済みの商品から2件、在庫から9件の不具合が見付かっている。 

ロイター東京外為市場ニュース(2008年11月13日)

2008年9月末にもユニクロは回収事故を発生させている.このときは起毛ブラシの折れた金属破片が製品に混入している事が分かり,市場回収をした.
販売済みの16,184点から1件クレームが発生した時点で,倉庫在庫63,189点を総点検し16件の不良を見つけている.

品質保証の実務をした事がある人間にとっては,ユニクロは良く努力をしていると分かる.
しかし市場回収は最善の策ではない.

消費者はそのような努力に対して無関心である.新聞告知や回収作業にいくら金がかかっていようが関係ない.また回収だ,という事実のみである.

回収対象品を購入しなかった顧客までが,やはり中国製は…とネガティブな印象を持つ深刻な問題だ.

最善の策は,工程の中で不良を作りこまないことだ.

問題となった「内側金具の突起」の原因工程リベット打ち作業の治工具,作業方法を工夫して不良を発生させない.治工具の日常点検・メンテナンスを徹底する.

また針やブラシなどが折れたときは,作業が継続できないような仕組みを作りこむ.
折れた針は徹底的に回収する.

針などは金属検知装置で検査可能だが,ジッパー,ホックなど商品に初めから金属が付いていることの方が多いだろう.探知機には感度を調整する機能があるが厳しすぎると全てNG,ゆるすぎると折れ針が混入していてもOKとなってしまう.

何度やってもNGとなると検査員は,装置の技術員を呼んで調整しなおしてもらう.
ありがちだが,技術員はひょいと感度を調整して終わり.これでは何のために検査をしているのか分からない.OKサンプルと故意に折れ針を混入させたNGサンプルを使ってきちんと感度調整をすべきである.
こういうやり方は電子部品・製品の検査では当たり前のようにやる.

しかし衣類の場合は,これでも検査は不完全になるだろう.
例えば金属ジッパーの横に小さな折れ針があったとしたら検出は不可能だ.

従って基本どおり,工程内で折れ針が混入しないことを保証するしかない.


このコラムは、2008年11月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第63号に掲載した記事を修正・加筆したものです。

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20年以上前の製品保証について

 ソニーが1968~1990年に生産したテレビで発煙・発火の可能性があるので,使用を中止して欲しいと社告を出した.

詳しい内容は分からないが,
「長期間の使用で、内部の部品が劣化し、色むらを抑える回路の周辺から発火したという。」
という記述から見ると,デガウス用コイルの絶縁劣化でも発生したのかもしれない.

この報道で2チャンネルの書き込みがどっと増えている.
トリニトロンCRTが燃えるとか,全く理解していない人たちの書き込みが,大部分を占める.
しかし発煙・発火の可能性があるのに「使用中止」のお願いだけとは何事だ,という書き込みは正論だろう.

42年前に製造した製品の品質保証をしなければならない,というのは同じく品質保証の仕事をしてきた人間にとって,同情したくなる一面はある.

無償修理といっても,トリニトロンCRTを交換となると,不可能だろう.20年以上前に生産された製品の修理部品を再生産するのは,相当な労力だ.しかも20年以上前の製品を修理する意味はあるだろうか.修理しても来年地デジ移行により,使えなくなる製品だ.

この様なロジックが,品質保証担当者の脳裏に浮かんだとしても当然だろう.
「新しい物に買い換えよう」たぶん一般的な消費者はこう考えただろう.

しかし故障モードが問題だ.おとなしく機能停止になる故障モードであれば,ソニーのテレビは42年間使えたと,故障したにもかかわらず,よい印象を持つことになる.だが発煙・発火となると話は別だ.消費者の不安は「ブランド力」の低下になる.
ソニーはモノ造りから離れようとしている.自らモノ造りをしていないソニー製品の販売は「ブランド力」に頼ることになるはずだ.
自らモノ造りをしなくなったがために,よりいっそう「品質保証」に注力しなければならないはずだ.
品質保証とは,顧客の満足と安心を保証することだ.


このコラムは、2010年6月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第157号に掲載した記事に加筆しました。

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