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18年前に電源喪失対策検討 「重大性低い」安全委結論

 東京電力福島第一原子力発電所が東日本大震災時に全ての電源を失い炉心溶融を起こした問題で、国の原子力安全委員会の作業部会が1993年に、全電源喪失対策を検討しながらも「重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていたことがわかった。安全委は13日、当時の報告書をウェブで初めて公開した。今後詳しい経緯を調べるという。

 報告書は安全委の「全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループ」が作った。専門家5人のほか東電や関西電力の社員も参加。安全委の作業部会はどれも当時は非公開で、今回は情報公開請求されたため、公表した。

 米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した。その結果、国内では例がなく、米国と比較して外部電源の復旧が30分と短いことや、非常用ディーゼル発電機の起動が失敗する確率が低いなどとした。「全交流電源喪失の発生確率は小さい」「短時間で外部電源等の復旧が期待できるので原子炉が重大な事態に至る可能性は低い」と結論づけていた。ただし明確な根拠は示されていない。

(asahi.conより)

 FMEA(故障モード影響分析)についてはこのメルマガでも何度も紹介した。

FMEA

原子力発電所の設備用交流電源が失われるという、潜在故障に関して18年前に対策を検討したという。これがFMEAだ。

FMEAでは、潜在故障を、故障の発見容易度、故障の発生頻度、故障の影響度を評価する。
18年前の検討では、

  • 発見容易度:
    これは記事には書かれていないが、電源が失われればすぐに分かるはずだ。これはリスク点数は低いと判断しただろう。
  • 発生頻度:
    非常用のディーゼル発電機の起動が失敗する確率は低い、と判断している。
  • 影響度:
    外部電源の復旧が早いので影響は少ない、と判断している。

18年前の検討が不十分だったため、大事に至っている。
その内容を再検討してみたい。

発見容易度に関しては、異論はない。

  • 発生頻度に関して:
    故障モードを発電機の起動失敗だけ上げているところに問題がある。
    非常用発電機の故障、非常用発電機の水没、発電機燃料の喪失、電源配線系統の故障などもっと想定しなければならない潜在故障があったはずだ。
  • 影響度に関して:
    外部電源の復旧にかかる時間の絶対値が記載されていないが、外部電源が復帰するまでには、原子炉が危機的な状況(炉心溶融)には至らないと判断したのだろう。
    これも外部電源喪失の潜在故障検討が不十分といわざるを得ない。

潜在故障をきちんと列挙していれば、過去のデータ(米国と比較して外部電源の復旧が30分早い)が役に立たないのは明白だったはずだ。

FMEAではこれらの三つの指標を掛け算し、PRN(危険優先指数)を求める。PRN値が高いものから優先的に事前対策を講じておくというのが、FMEA手法だ。

しかし自動車業界などではPRN値が低くても、影響度の高い潜在故障モードには事前対策を施すようにしている。
「非常用電力の喪失」という潜在故障モードは、炉心溶融という最高レベルの故障影響度を持っていたはずだ。

最大の問題点は「米国で発生した全電源喪失の例や規制内容を調査した」というアプローチの間違いだと考える。米国の原子力発電と日本の原子力発電はその方式も、立地条件も異なる。安易に他の事例を、そのまま取り入れてOKとするべきではないだろう。

米国と比較して外部電力の復旧が(平均?)30分早いなどという過去のデータが論拠となるはずがない。

事故には莫大な授業料がかかる。
今回の東日本震災でも、かけがえのない人命を含む莫大な授業料を払っている。この中から、教訓を得ることが必要だ。

潜在故障モードとして不足しているところはないか、潜在故障モード発生原因の推定に不足はないか、総点検をしなければならない。

我々は常に進化している。
18年前の結論をどれだけ高く超えられるかが、次世代に継ぐ我々の責任だろう。

あなたの会社ではFMEAは常に進化していますか?


このコラムは、2011年7月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第214号に掲載した記事です。

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続・魅力工学

 8月3日配信の第701号「魅力工学」で、婚活サイトのプロフィールが魅力的に見えるキーワードをAIが解析したという事例をご紹介した。

この記事に読者様からメッセージをいただいた。

※Z様のメッセージ

701号のフレーズ 
“私たちに必要なのは「正解」ではなく「新しい答え」だと思う。”
心に刺さりました。
私は、「現在」は「過去の行動」によって作られ、「未来」は「現在の行動」によって変えられると思っています。
ゆえにAIの描く未来は、過去の延長線上のもので、過去を超えることができない。過去を超えるためには、「新しい答え」が必要なのでしょうね。

メッセージをいただいて、「正解」と「新しい答え」についてもう一度考えてみた。

AIは「いいね」をもらった回数とプロフィール中の言葉や写真との相関を求め、相手に好感を持ってもらえるプロフィールや写真を分析した。

例えば平安時代の絵画を見ると、ぽっちゃり系の女性が描かれている。多分当時の絶世の美女は、現在では特定の男性にしかモテないだろう。人の好みは変化してしまう。しかしその変化は急激なものではない。婚活サイトのビッグデータを解析して出た答えは2、3年の単位であれば「正解」だろう。解析を繰り返していれば、AIが出す答えは「より正しい答え」と「新しい答え」を両立させることができるだろう。

失敗事例も過去のデータだ。
10年、20年前の失敗事例が現代に役に立たないかというと、全く逆でいまだに過去の失敗が繰り返されている。しかし失敗事例をビッグデータとしてAI分析したという話は寡聞にして聞いたことがない。

航空機の事故は、徹底的に原因解析され再発防止が徹底される。
しかし他の業界では、類似の事故が再発している。例えば、寿命モードで故障した電子部品が原因で火災事故が発生するような事故は、しばしば発生する。

こういう業界にAIによるビッグデータ解析をすれば、未然防止(開発時に対策)することができるのだろうか?AIがこういう方面にも応用できれば、別の意味で「魅力工学」となるだろう。
素晴らしい着想だと喜んだが、5秒後にダメだと悟った(笑)
魅力工学でAIが分析したのは相関関係だ。
しかし事故防止には相関関係は役に立たない、事故と原因の因果関係が必要だ。


このコラムは、2018年8月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第705号号に掲載した記事です。

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長目飛耳

 幕末の教育者・吉田松陰は松下村塾で明治維新の志士、明治政府の政治家を育成している。松田松陰は「飛耳長目」と題したノートをいつも携えていたと言われている。

「飛耳長目」は春秋時代の思想家・管仲の言葉から出ていると知り調べてみた。管仲の言葉を弟子が編纂した「管子」の九守が原点のようだ。

『一曰長目,二曰飛耳,三曰樹明;明知千里之外,隠微之中,曰動姦,姦動則変更矣。』
中国では『長目飛耳』というようだ。

一に長目、二に飛耳、三に明察、千里の外に隠れたるわずかな邪悪を洞察し、動乱を阻止する。という意味になるだろう。

これは治世のみならず、我々製造業に携わる者にとっても示唆のある言葉のように思える。

僅かな変化に目を凝らし、微かな異音に耳を凝らす。そして異常の兆候を知る。
それにより不良の発生を事前に察知し、問題が起きる前に手を打つ。

千里眼の能力がなくても、変化に気付く感性があれば可能だ。

例えば組み立て工程で不良部品を入れる箱に、規格外のネジを見つけた時に作業者が規格外のネジに気がついて除去したと安心してはいけない。すでに組み立て終わった製品に規格外のネジが使用されていないか?と心配する。そしてなぜ規格外のネジが混入していたのか原因を調べる。このような感性が「長目飛耳」だと言えるだろう。


このコラムは、2019年5月13日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第822号に掲載した記事に加筆しました。

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空港でカートが暴走、係員が別車両で突っ込み阻止

 米シカゴのオヘア国際空港で9月30日、ケータリング用のカートが制御不能になって暴走する騒ぎがあった。カートは駐機場にあった機体に衝突する目前で、アメリカン航空の誘導員が暴走を食い止めた。

 (中略)

カートは円を描いて暴走しながら、近くにあった航空機の機首の方へと徐々に近づいていた。そこへアメリカン航空の誘導員が別の車両に乗って現れ、カートに突っ込んで暴走を食い止めた。

 (中略)

アメリカン航空は声明を発表し、カートを止めた従業員の素早い行動を評価した。暴走したカートはアクセルが引っかかって制御不能になっていたことが判明。同航空の従業員にけがはなかったが、便の出発には10分の遅れが出た。

(CNN.co.jpより)

 詳細は報道されていない。推測すると、旅客機に機内食を積み込む作業中にカートのアクセルペダルが戻らなくなり、制御できなくなった。カートに搭乗していた作業員は危険を感じて飛び降りた?飛び降りる際にハンドルを切り速度を落とそうとしたのではなかろうか。
ハンドルが切ってあった事が幸いし、別の車両でカートを停止させる事ができた。またはハンドルから手を離すと、ハンドルが片側にロックし同じ場所を旋回するように安全設計がされていたのかもしれない。

根本原因に対する対策を考えると、アクセルペダルが引っかからないように設計する。引っかかった場合安全側に停止する仕組みを入れる、などが思いつく。
しかし「引っかかったことを検出して…」と考えると、複雑になってしまう。
こう言う仕組みは単純なほど良い。今回の事例では、主電源を落とす非常停止ボタンをつければ良いだろう。

工場の設備も問題が発生した場合、安全側に停止する仕組みを組み込んでおくべきだ。


このコラムは、2019年10月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第886号に掲載した記事に修正加筆しました。

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不良対策

 不良が発生したら、再発防止対策を検討する。当たり前のように聞こえる。
しかし「不良が発生したら再発防止対策を検討する」この様な姿勢だから不良がなくならない、と私は考えている。

例えば、家庭では散らかったり汚れたりすると整頓や掃除をする。しかし工場の5Sは散らかる前に整頓し、汚れる前に清掃をする。だから散らからないし、汚れないのだ。

不良も同様だ、不良が発生してから対策をするのでは遅い。不良が発生する前に対策をすれば、不良は発生しない。

詭弁の様に聞こえるかもしれない。しかし市場回収をしなければならない不良、従業員・工場設備の安全に関わる事故が発生すれば、企業の存続に即影響する。

不良が発生する前に行う対策を「未然防止対策」という。
他社事例、他業種・他業界事例を自社に適用し、同様な問題が発生しない様に対策を検討する。こういう活動が不良が発生する前の不良対策活動だ。

例えば、アルミ製品の加工工場で粉塵爆発が起きたら、製粉工場、木工工場等も対策を検討し、未然に対策を実施しておくという具合だ。

毎週水曜日配信の「失敗から学ぶ」のコラムはそういう趣旨で書いている。
先週のアエロフロート機着陸失敗事故では、操縦室内のリーダシップについて考えたが、どの様な組織・チームでも同じことが起きうるだろう。

つい先日発生した伊丹空港での保安検査ミスによる大混乱も、製造業にとって参考事例になるはずだ。


このコラムは、2019年9月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第882号号に掲載した記事です。

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伊丹空港保安検査

 全日空(ANA)によると、26日午前7時すぎ、大阪(伊丹)空港の全日空便の保安検査場で、女性係員が手荷物にナイフを持ち込んだ乗客を見つけたが、誤って乗客に返却した。係員が誤った対応に気付き、約2時間40分後の同9時40分ごろから、搭乗待合室にいた他の乗客も含めて全ての手荷物検査をやり直し、空港ターミナルが混乱している。

 保安検査場を約2時間にわたって閉鎖し、検査場を通過した乗客らもいったん外に出すなどして安全を確認した。同社によると、この影響で午前9時40分以降の全便の運航を見合わせ、遅延や欠航が相次いだ。午前11時50分現在、到着便を含めて計14便の欠航が決まった。

 捜査関係者によると、40~50代男性が折りたたみナイフを1本所持し、係員が誤って「この長さなら大丈夫」と通したという。

(神戸新聞より)

 この事故により、南側ターミナルは午前9時30分ごろから午前11時59分まで約2時間30分にわたり閉鎖となった。伊丹発着の28便が欠航となった。
男性が持っていたのはアーミーナイフ。航空法第86条では、刃物などの危険物の機内持ち込みを原則禁止している。保安検査員は男から持ち込んで問題ない旨の説明を鵜呑みとし、保安検査を通過させた。

 ANAは保安検査場の入場を停止後、搭乗済みの乗客も降ろして再検査を実施。午前11時44分までに、南側保安検査場を通過したすべての乗客を一般エリアに誘導し、正午から保安検査を再開した。

問題の男は特定されず、事態収拾前にナイフを持ったままANA機に乗って伊丹空港を離れた様だ。

何が起きたのかは想像の域は出ないが、この事例をどう学ぶかを考えたい。

この事故の根本原因は、保安検査でナイフを男に返却した係員の「判断ミス」だ。保安検査では、ハサミでさえ機内持ち込みを禁止されることもある。

判断ミスに対する対策は、更に分析しなぜ判断を誤ったかを特定しなければならない。

係員のミスさえなければ、問題は発生していない。
しかし問題の影響がここまで拡大したのは、係員のミス発生後の対応に問題があったと考えられる。

我々製造業に馴染みのある表現で言えば、不良発生後の修復処置が適切でなく問題の波及範囲が拡大してしまった、ということになろう。

この様な事態が発生した場合の修復処置手順は以下の様になるだろう。

  1. 保安検査を通過した乗客(搭乗済みの乗客を含む)全員を保安検査前に戻す。
  2. 保安検査後のエリア、搭乗開始済みの機内で問題のナイフを捜索する。
  3. 捜索終了後再度保安検査を実施。

今回の事件の影響が拡大したのは、修復処置に手間取った、且つ乗客への情報提供が不十分だったからだろう。

しかも問題のナイフとそれを持った男は、発見されていない。

7時から9時40分まで修復処置に手をつけられなかったのは、この様な事態が想定できていなかったためと考えられる。今回の問題は保安検査で100%食い止めるめるべき問題ではあるが、この関門が破られたら、という想定をするのが未然防止だ。
「関門が破られたら」という想定をFMEAでは「潜在不良」と定義している。


このコラムは、2019年10月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第883号に掲載した記事に修正加筆しました。

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トヨタ、ヴィッツ8万台リコール 窓開け閉めで不具合

 トヨタ自動車は21日、乗用車ヴィッツ8万2226台(05年1月~8月製造)のリコール(回収・無償修理)を国土交通省に届け出た。運転席のドアにある窓を開け閉めする電気スイッチの内部がショートして、窓の開閉が
できなくなる恐れがある。これまでに32件の不具合が報告され、08年11月には、島根県でスイッチから発火した事案もあった。けが人はなかった。

(asahi.comより)

 トヨタがおかしい.
この8月にトヨタは中国市場で窓の開閉スイッチの不具合によりヤリスを含む68.8万台のリコールをしたばかりだ.

「トヨタ、中国で乗用車68万台をリコール 窓の開閉装置に不具合」

ヤリスは名前が違ってもヴィッツそのものだ.中国でリコールを発表して2ヶ月経ってから日本国内で回収を発表している.しかも中国で回収対象となっている他の車種,カムリ,カローラ,ビオスについては記事には何も触れられていない.

市場での発煙事故から14ヶ月かかっての回収発表だ.

国内市場向けの車は国内で生産しているだろうから,問題のスイッチメーカは中国で回収対象となったメーカとは違う可能性もある.しかし68.8万台の回収事故に対して,水平展開が図られなかったのだろうか.

簡単な事だ.
スイッチの故障モードに対してFMEAを全車種に展開すれば良いだけだ.

  • 検査容易度:スイッチベンダー,工程内でのこの不良モード検出度
  • 故障率:この不良モードの予測故障率
  • 影響度:この不良モードが完成車の運転に与える影響度
     パワーウィンドウが開閉できなくなったとしても,重大な影響はないと考えてはだめだ.運転手がパワーウィンドウに気を取られて運転ミスをすれば即人身事故につながる.これは完成車メーカが一番良く知っているはずだ.

この評価を使用しているスイッチの構造,製造方法ごとに実施すれば,どの車種が危ないかすぐに分かったはずだ.

トヨタはモノ造りに関しては自動車産業を超えて世界中の企業から尊敬・研究の対象となっている.
そのモノ造りの根底にあるのが「顧客中心主義」「品質第一の心」だと理解している.
最近立て続けに発生した回収問題が,トヨタ崩壊の予兆でないことを祈るばかりだ.

このような大きな回収問題を発生させても,まだ生き残っているのはトヨタという強い体力を持った大企業だからだ.中堅・中小企業ならばひとたまりもない.

設計段階,生産移行段階から安全レビューを実施するなど予防保全的な仕組みを構築する必要がある.


このコラムは、2009年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第122号に掲載した記事に加筆したものです。

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衛星「ひとみ」運用を断念 太陽電池パネルが分解か

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は28日、通信が途絶えていたX線天文衛星「ひとみ」の運用を断念したと発表した。電源の太陽電池パネルが根元から分解した可能性が高く、回復は見込めないと判断した。X線を観測してブラックホールなどの詳しい様子を調べる計画だったが、研究も停滞することになる。

 衛星は2月17日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げられ、3月26日午後4時40分ごろから地上と通信ができなくなった。機体が複数に分解、回転していることが観測で判明していた。

 JAXAが原因を調べたところ、衛星の姿勢制御のプログラムが不十分で機体が回転。衛星は自動的に噴射で立て直そうとしたが、事前に送った信号に設定ミスがあり、逆に回転が加速した。このため、太陽電池パネルや長く伸びた観測用の台の根元に遠心力がかかり壊れたとみられるという。

 JAXAは当初、通信が途絶えた後も3月28日までは衛星からの電波を短時間確認できたとし、パネルが太陽の方向を向くようになれば復旧の可能性があるとしていた。しかし、電波は別の衛星のものだと判明したという。

 JAXAの常田佐久・宇宙科学研究所長は会見で謝罪し、「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」と述べた。

 X線を観測して宇宙の成り立ちを探るX線天文学は日本のお家芸とされ、ひとみは6代目の衛星。米国などとの共同開発で、日本は打ち上げ費を含め約310億円を負担していた。

(朝日新聞電子版より)

 初代X線天文衛星「はくちょう」以来3代目「ぎんが」の活躍で日本はX線天文学の中心的役割を果たして来た。しかし、4代目「あすか」は制御不能。後継機は打ち上げ失敗。5代目「すざく」も故障。と言うていたらくだ。
しかも問題は「はやぶさ」の様に遥か彼方での探索ではなく、地球周回軌道でオペレーションが出来なかったことにある。今まで多くの技術蓄積が有る分野での失敗だと言うことを重く捉えなければならない。

記事によると、姿勢制御プログラム(もしくはパラメータ?)のミスと、姿勢制御の遠隔操作ミスが重なった為に衛星の回転が加速したようだ。プログラムのバグも操作ミスも、一括りにしてしまえば「人為ミス」だ。

二流の企業であれば対策として「人員の再教育」などいうだろう。
JAXA研究所長は「人間が作業する部分に誤りがあった。それを検出できなかった我々の全体のシステムにより大きな問題があった」といっている。

私には、この姿勢は正しいと思える。人のミスが原因としてしまえば、対策は困難だ。人のミスを発生しにくくする、ミスを事前に検出すると言う「全体のシステム」を改善しなければならない。

プログラムにはバグが有るのが前提だ。
いかにバグを事前に検出するか、バグが有っても致命故障にならない様に冗長性を持たせるか、と考えるべきだろう。
操作ミスも同様だ。操作ミスが起きる要因(間違えやすい、操作しにくいなど)を極力排除し、ミスが致命傷にならない冗長性を持たせる。

衛星と言う限られた資源の中で冗長性を持たせるのは困難かも知れない。しかしコントロールセンターにシミュレータを置き、操作結果がどうなるか検証してから、遠隔操作のコマンドが送られる様にする事は可能だろう。


このコラムは、2016年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第474号に掲載した記事に加筆修正しました。

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品質不良のアフターフォロー

 以前一緒に仕事をした台湾人から久し振りにSkypeでチャットの呼び出しがあった.

生産委託工場の品証部経理をしていた人で,お互い職場が変わっても時々連絡をくれる.
中国語でのチャットは正直疲れるのだが(笑)昔一緒に仕事をしていた人から連絡がもらえるのは楽しいものだ.

今彼は蘇州方面にある,医療器具メーカの品証経理をしている.今回の報告は客先からの不良クレームの件であった.

OEMユーザに出荷した新製品第一ロットの製品の主銘版ラベルの貼り方向が間違っている,というクレームだ.

ちょうど国慶節休暇の最中であったが,彼は休暇中どこにも行くあてがなかったので(笑)即バスと電車を乗り継いで顧客の工場に出向いた.

顧客側はすぐ来てくれるとは考えていなかったようで,休暇中の訪問を大歓迎してくれた.
彼は叱られると覚悟をしていったのが,嬉しい肩透かしであった.
しかも帰りには,次のロットからシェアを上げてもらえる,という約束をもらって帰ってきた.
営業がいくら頑張ってももらえなかったシェアをいとも簡単にもらえた.
そんな事を嬉しそうに話してくれた.

しかし喜んでばかりはいられない.
原因の特定と再発防止が必要である.例によって「作業者に注意します」という報告書を書くつもりだったようだが(苦笑)事情を聞いてみると,最初の仕様決めのときに問題があったようだ.

OEMユーザの図面にはラベルの方向が明示してなかった.

彼には受注時に,顧客仕様が製品設計に十分な情報が揃っているかどうかもレビューするようにアドバイスした.

顧客不良に対するアフターフォロー(後始末)も大事だが,不良を発生させないビフォアフォロー(前始末)はもっと重要だ.

以前開発のエンジニアをしていた時に,新製品に某OEMメーカのCRTディスプレイを採用した事がある.
採用決定後OEMメーカの品証部から最終完成品を見せてくれと申し入れがあった.OEMメーカの品証エンジニアは我々の製品をチェックし,高電圧(25kV)のアノードキャップから25mm以内に金属筐体があるので設計変更をしてくれと申し入れてきた.

アノードキャップは絶縁体でできており,アノード電極(25kV)がむき出しになっているわけではない.従って筐体を設計変更する必要はないと感じたが,OEMメーカの心意気に感心した私は,すぐにメカ設計チームに設計変更を要求した.

こういうのが本当の品質保証活動だと思うのだ.


このコラムは、2008年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第59号に掲載した記事です。

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問題解決の優劣

 問題に優劣なし、問題解決に優劣有り。
 問題に気付かぬは問題外。
 処置のみするは下。
 再発防止をするは中。
 未然防止をするのが上。

現場の改善指導をしていてこの標語を思いついた。
問題には影響の大小、重軽はある。リコールに発展する市場問題、工程内で発見出来る不良問題など、経営に与える影響の大きさは同じではない。従って問題に対する対応の優先順位や緊急度の違いはある。しかし問題そのものに優劣がある訳ではない。

問題に優劣はなくとも、問題解決には優劣がある。
問題解決を誤って倒産、と言う事例を挙げればきりがないだろう。

使用期限切れ材料で問題を起こした飲料会社は、問題解決を誤り倒産。
ゴキブリ混入問題を起こした食品会社は、工場・設備を作り直し清潔の見える化を徹底した。たった1件の問題にここまで対応し、消費者の信頼を回復。

この差は大きいが、違いは僅かだ。
問題発生時に世間(お客様)から逃れようとするか、真っ向から対応するかの違いだ。

問題解決の優劣を検討してみよう。

「問題に気付かぬは問題外」
 これは説明するまでもないだろう。
職場で発生しているヒヤリハット問題に気が付かず放置した結果、安全事故が発生する。
工程内で発生している慢性不良に気が付かず(麻痺して)放置、客先に流出、最悪市場まで流出。

「処置のみするは下」
 処置とは、発生した問題を正常に復帰させることをいう。次の様な例で理解出来るだろう。
設備から異音が発生。調査の結果扉を固定しているねじが緩んで、扉が設備の振動と共鳴し異音発生と原因が分かった。
ねじのまし締めをするのが処置。
なぜねじが緩んだのかを原因究明しないと問題解決は出来ない。

人為ミスに対し、ミスをした作業者に「注意」「再教育」「罰金」をするのが処置。
なぜ人為ミスが発生するのかを原因究明しないと問題解決は出来ない。

「再発防止をするは中」
 前述の例で言えば、再発防止とは次の様な対策となる。
なぜねじが緩んだ→ねじに振動がかかり続けた。なぜネジに振動がかかった→モータが振動した。なぜモータが振動した→モータのプーリーが偏心。
と解析の深度を深めれば、プーリーの偏心を修正する事が再発防止となる。

人為ミスも同様に解析し、やりにくい、分かりにくい、間違えやすいなど人為ミスが発生する原因を除去する事で再発防止となる。

再発防止の中でもランクが存在する。

  • 人の注意力に依存する対策(例えば目視検査)は下の下。
  • 検査で不良を除去するのは下。
  • 発生原因を除去する生産方法の改善(例えば治具の活用)は中。
  • 発生原因そのものを除去する(例えば設計変更)は上。

「未然防止をするのが上」
 未然防止とは、まだ発生しない問題に対し対策を実施する予防保全だ。
例えば次の様な問題に対する事前対策が未然防止対策だ。

  • 工程内で発生したヒヤリハット。
  • 設計、生産に於ける潜在不良。(FMEAが活用出来る)
  • 他社事例、異業種事例。

このコラムは、2017年6月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第533号に掲載した記事に加筆しました。

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