点検」タグアーカイブ

シンドラー事故、検察側が控訴 元課長の無罪判決

 東京都港区の公共住宅で2006年、高校2年の市川大輔さん(当時16)が死亡したエレベーター事故で、業務上過失致死の罪に問われた「シンドラーエレベータ」の元保守第2課長の原田隆一被告(46)を無罪とした東京地裁判決について、東京地検は9日、控訴したと発表した。

 9月29日にあった地裁判決は、原田元課長を無罪(求刑・禁錮1年6カ月)とする一方、保守会社「エス・イー・シーエレベーター」の幹部ら3人を、禁錮1年6カ月~1年2カ月執行猶予3年の有罪とした。エス社の幹部側は即日控訴していた。

(朝日新聞電子版より)

 エレベータの扉が閉まらない状態で上昇を始め、エレベーターの床と天井の間に挟まれ死亡する、という考えられない事故だ。裁判ではブレーキ部品の異常摩耗が、メンテナンス時に発見できたかどうかが争点になったようだ。

しかしブレーキ部品の摩耗という1故障だけで、致命事故につながる様では十分な安全設計ができているとは思えない。故障状態でも正常に動作することを要求する訳ではない。最悪、ブレーキ部品が摩耗した場合事故に至らない様にブレーキ機能のバックアップを用意する、またはアラームをだして動作を停止する。

メンテナンスだけで事故を防ぐのは限界がある。
少なくとも摩耗を可視化しなければ、見逃しはあり得る。例えばタイヤは摩耗すると、交換の警告サインが出る様に路面との接地部分がデザインされている。

以前、近所のホテルでエレベータが最上階から地下2階まで落下する事故があった。この時は、定員13人(1000kg)に対して21人乗客が乗っていた。事故の直接原因は、牽引ワイヤの断裂とかブレーキ故障かもしれないが、13人を超えて乗ってもアラームが発生しなかったところにも原因があるはずだ。

この事故事例から、エレベータのメンテナンス時に積載オーバー検出機能はどのように検査しているのか疑問に思っている。中国だけではなく日本でもエレベータの点検作業に出会うことはしばしばある。しかし重量オーバの検査用錘りは見たことがない。重量センサーの出力を擬似的に操作する方法では、重量センサーそのものの故障を検査発見できない。

また検査記録も単純に、レ点を入れるだけでは本当に検査したかどうか不明だ。検査を行ったことが証明できるような記録を残さなければならない。

例えば、半田ごてのコテ先温度の検査では、合格のレ点を記録するだけでは不十分だ。コテ先の測定温度を記録しなければならない。

今回の事故も摩耗が事故前に発生していたかどうかが、争点になった。メンテナンス記録に摩耗が点検検査されており、交換修理の要不要を正しく判断したという記録が残っていれば、裁判が長期化することはなかっただろう。というより、事故そのものが発生しなかっただろう。

工場の中には、点検検査の記録(チェックシート)がたくさんあるはずだ。何かあった時に、証拠として機能するかどうか見直しされてはいかがだろうか。


このコラムは、2015年10月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第445号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

シンドラー製エレベーター、全国5500台を緊急点検 国交省、事故の再発防止めざす

 国土交通省は清掃会社の従業員がシンドラーエレベータ社製のエレベーターで死亡した事故を受け、来週にも緊急点検を実施する。対象は全国にある同社製のエレベーター約5500台。原因究明を徹底し、事故の再発防止を目指す。

 同省は都道府県などに通知を出す。事故の原因とみられるブレーキのほか、カゴの停止位置や扉の開閉を制御する装置、ドアのスイッチ、エレベーターの巻き上げ機などを集中的に調べる。

(中略)

 事故機は2006年に起きた事故のエレベーターと、ブレーキや制御装置などが同型。国交省は09年から、新設エレベーターに安全装置をつけることなどを義務化した。だが既存エレベーターに装置をつけさせる強制力はなく、今回の事故機にも設置されていなかった。

 シンドラー社製エレベーターの事故は今年10月31日に金沢市のホテルで発生した。エレベーターに乗ろうとした清掃会社の従業員が扉が開いたまま上昇したカゴの床と扉上部の枠の間に挟まれて死亡した。同社は06年にも東京都の集合住宅で死亡事故を起こしており、再発防止策が急務となっている。

(日本経済新聞より)

 先週お伝えした,金沢でのエレベータ死亡事故の続報だ.

他の記事から,以下のことが分かっている.

  • 2006年に高校生が死亡した事故は,シンドラー社の同型機である.
  • 東京の事故機,金沢の事故機は,前後4ヶ月以内に設置されてた.
  • 06年当時の調査では,当初ブレーキに異常な磨耗痕を発見していないが,3年がかりでブレーキパッドの磨耗を事故原因として特定した.
  • この原因調査を受けて,国土交通省は扉が開いた状態でかごが動いたら自動停止する保護機能の設置を再発防止として,09年から義務付けている.
  • しかし金沢の事故機は,1998年に設置されており,規制の対象外だった.
  • 金沢の事故機も,06年と同様に扉が開いたまま上昇をしている.
  • 金沢の事故機は15年間点検異常は発見されていない.

これらの事実から推定すると,06年に事故調査は真の原因に達していなかった.したがって国土交通省の再発防止対策は,真因対策ではなかった.しかし真因対策ではなくとも,事故防止の効果があるはずだ.何らかの故障が発生しても,人身事故には至らない.設置済みのエレベータにも対策を実施すべきだったと考えられる.
国土交通省の強制力がなくとも,エレベータ業界,特に事故を発生させたシンドラー社は自主的にでも,再発防止を設置済みエレベータにも実施すべきだったろう.

一故障で即人身事故につながるようでは,人の安全に関わる装置としては信頼性が十分とは言えない.逆に言うと扉が開いた状態で,上昇・下降の駆動系にインターロックがかかっていないと言う設計に問題がある.

先週に引き続き素人の大胆原因予測をすると(笑)

  • エレベータの制御ロジックにバグがあり,一定の条件が揃うと扉が開いたまま上昇してしまう.
  • 外来ノイズなどの影響により,制御回路が誤動作する.

これらの疑いを調査するためには,

  • 制御ロジックの設計検証,妥当性確認を何処までやったか.
  • 耐ノイズ性能はどのようにして検証したか.
  • 通常耐ノイズ性能は,タイプテスト(試作機でのテスト)しかしないが,耐ノイズ性能が量産品でも保証される論理に漏れはないか.

と言うことを,設計時の検証記録から調べる必要があるだろう.

それにも増して,事故機の現場・現物での検証が重要なことは言うまでもない.設計がキチンと保証されていても,製造過程,メンテナンス過程で瑕疵が発生することはありうる.

このような事故を再発させないためには,該当企業の真摯な事故原因調査が必要だ.役所に「調査される」と言う態度ではなく,業界全体の威信回復に向けて,積極的,自発的に行動していただきたい.

この事件から,以前ご紹介したタイヤのハブ破損事故を思い出してしまう.
「空飛ぶタイヤ」池井戸 潤

自社の利益のみを考えて,リコール隠しの様な事は避けていただきたい.


このコラムは、2012年11月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第283号に掲載した記事を修正加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡

 金沢市で女性が挟まれて死亡したエレベーターは、2006年に東京都港区で高校生が死亡したエレベーターとブレーキなど主要部分が同型だったことがわかった。同様のエレベーターは全国に約80台ある。金沢の事故機は06年の事故原因の対策をしており、国土交通省は別の不具合があった可能性があるとみて調べている。

 シンドラーエレベータ社によると、同型なのはブレーキのほか、巻き上げ機や制御盤などエレベーターの基幹部分。同社は2日、80台のうち約8割の点検を終えたが、異常は見つかっていないという。

 06年の事故を調査した国交省の報告書によると、扉が開いたままかごが上昇して男子高校生が挟まれた。ブレーキが中途半端にかかった状態で運転を繰り返したためブレーキパッドが摩耗。ブレーキのききが弱くなり、ブレーキをかけてもかごが上昇してしまった。製造後の定期点検では、こうした不具合が見つけられなかった。

 事故後、シンドラー社は同型のブレーキではパッドの摩耗を検知するセンサーを取り付けるようになった。金沢の事故機にもセンサーは取り付けられていた。しかし今回も、女性が扉の開いたエレベーターに乗り込もうとしたときにかごが急に上昇して挟まれた。

 金沢の事故機には2日までの石川県警や国交省の調査では目立った異常は見つかっていないため、06年の事故とは原因が異なるとみられる。ブレーキの不具合以外の点検ミスや、エレベーター本体に製造上の欠陥があった可能性を視野に入れ、国交省は事故機の調査だけでなくシンドラー社や保守業者にも話を聞く方針だ。

(asahi.comより)

 中国でエレベータに乗るときは,細心の注意が必要だ.
私は今のアパートに引っ越して5年目になるが,その間に5回エレベータに閉じ込められている.そのうち4回目は,エレベータの牽引ワイヤが切れ,2,3階分落下した.普段から激しい異音がしていたのに,壊れるまで修理されなかった.

近所のホテルのエレベータは,21人(!)乗せ19階から地下1階まで落下し重症を含むけが人を6人も出した.積載重量オーバーのセンサーが正常に動作していなかった,と思われる.

別のオフィスにあるエレベータ乗った時に,扉が閉まるのを止めようとして手を出し,ヒヤリとしたことがある.通常扉に付いているバンパーがなくなっていたのだ.バンパーにリミットスイッチが連動しており,扉が閉まったことを検出するようになっているはずだ.何かの都合で,バンパーがごっそり外され,センサー回路を殺して運転していたものと思われる.

いくらまともに設計製造してあっても,いいかげんなメンテナンスでは,正常に運用は出来ない.
メンテナンスとは,点検により壊れているところを探して,修理することではない.壊れる前に,修理をすることをメンテナンスと言う

今回取り上げたシンドラー製エレベータの事故は,メンテナンスの問題ではないと思う.
素人の大胆な考えを言わせてもらえば(笑),ブレーキがかかっている状態で,上昇用の牽引ワイヤー巻上げモーターが回っていると言うのが解せない.設計不良なのではなかろうか?

モータはエンジンと違って,簡単にON/OFF出来るはずだ.
ブレーキが作動した時点で,モータの回転を止めれば,このような事故は発生しないはずだ.

もしエレベータの専門家がいらっしゃったら,なぜブレーキがかかっている状態でモーターをOFFに出来ないのか,是非教えていただきたい.

もう一点,エレベータ専門家に教えていただきたいことがある.
エレベータには積載重量を計測するセンサーが付いていると思う.たくさん人が乗ると,ブザーが鳴り扉が閉まらなくなり,事故防止の保護が働くようになっている.
この保護機能は,エレベータの定期点検でどのように点検しているのだろうか?点検中のエレベータをしばしば見かけるが,点検作業員が1tの点検用重りを持っているのは見たことがない.
上記の21人乗りのエレベータ落下事故以来,ずっと気になっている疑問だ.

もしご存知の方がおられたら,是非教えていただきたい.
この記事にはコメントを残せるようにした。


このコラムは、2012年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第282号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが

 東京メトロは29日、有楽町線平和台駅(東京都練馬区早宮2丁目)のエレベーターでかごをつっているワイヤロープが切れ、乗っていた女性がけがをする事故が起きていたと発表した。

 同社によると、事故が起きたのは26日午後3時。エレベーターが地下1階から地上へ上昇中にかごが急降下し、安全装置が作動して緊急停止した。同社が調べたところ、ワイヤロープ3本が全て切れていた。女性は緊急停止の際、しりもちをつくなどして2週間の打撲を負った。

 安全装置は一定速度以上の降下を感知した際、かごの横からブレーキパッドをあてて落下を防ぐ仕組みになっている。

(asahi.conより)

 実は私も29日午後8時(現地時間)頃,マンションのエレベータに閉じ込められていた.
日本ではエレベータに閉じ込められるなどという経験は一度もない.
今のマンションに引っ越してきてから4度目の事故だ.

以前の3回は,途中で止まってしまった,扉が開かなくなったという比較的軽度の事故だった.しかし今回はかなり重度の事故だった.

外出のため12階から下りのエレベータに乗った.
動き出してすぐ,異常な揺れに気が付いた.10階で2名乗せ下降する際に,同様の揺れを感じたと思ったら激しく揺れ,急降下を始めた.同時にかごの上部に,何かが落下して激突している音も聞こえた.

たぶんワイヤが切れたのではなく,滑車のような部品が破損してエレベータのかごに落下してきたのではあるまいか?もしくはワイヤが切れた後,安全停止のためのブレーキパッドをいくつか吹き飛ばしながら,停止した?

エレベータのワイヤーとか滑車など運行の安全部品が切れたり,破損するということはあってはならない.ましてやブレーキパッドなどのように,事故発生時の安全装置が機能しないというのは致命的な欠陥だ.そのために定期的メンテナンスが法律で定められているはずだ.

平和台駅のエレベータは7月14日に保守点検を受け問題はなかったそうだ.私のマンションのエレベータには5月に保守点検を受け,次回点検は来年5月となっていた.
しかしこのエレベータは,6月に故障し,部品待ちで一ヶ月近く止まっていた.

記録上は,修理後に点検が行われなかったことになっている.

保守点検,修理後というのはとかく事故が発生しやすいものだ.

点検中に部品を破損したのに気が付かない.点検のための措置を戻し忘れる.などのミスが発生する可能性がある.特に安全停止ブレーキなどのように,普段使わない機能は点検方法をよく検討しないと,うまく点検できていない,点検のための処置を戻し忘れて事故になる,などの潜在問題がある.


このコラムは、2011年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第216号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】