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データを看える化

 工程内不良率のデータをきちんと収集しているが、何のために収集しているのか不明という事例を良く見る。

工場全体の工程内不良率が毎日集計されており、翌日にはそのデータが出てくる。データは各ラインから上った生産ロット毎の工程内不良率をエクセルで集計している。ピボットテーブルまで使った高度な集計処理をしている。

しかし出てきたデータはただの数字の羅列で、ここからは何を言いたいのか、データを収集した意図が見えてこない。

まずはデータを看える化する。
工程内不良率を折線グラフにするだけでも相当に違う。
更にこのデータから何をしたいのか、その意図に従ってデータを加工する。データを加工すると言ってもデータそのものを加工するわけではない。データの見せ方を加工するという意味だ。

工程内不良の発生要因によって層別をする。
例えば部材ロット、生産ライン別にデータを層別し、各要因の工程不良率に対する影響度を分散分析により評価する。
この分析により部材のロットが工程不良に与える影響が支配的であり、生産ラインの違いは誤差と判断できれば、工程内不良をp管理図でモニターしていれば、部材の品質改善に役立てる事ができる。

工程内不良を低減しようとして部材を全数検査した後生産投入した。しかし工程内不良率は上がってしまった。
この様な場合に、事前に工程内不良の支配的要因が何かを把握していなければ、部材の検査・選別方法が悪いのか、工程内不良の支配的要因が部材以外にあるのかを判断する事ができない。

品質管理には統計的手法が威力を発揮する。
中国語の良いテキストは見た事が無いが、日本語ならば良いテキストはある。
これは日系企業にとって有利な条件だと思う。あなたの工場でもこの優位性を活用してみてはいかがだろうか。


このコラムは、2009年7月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第108号に掲載した記事です。

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実験計画法

 毎月定期的に開催している「品質道場」で、統計的品質管理もテーマとして取り上げている。そこで分散分析も教えている。随分前になるが、工程改善を指導していた工場で、実験計画法を教えようとしたことがある。分散分析が理解出来れば、その延長で実験計画法も使える様になるはずだと考えた。

しかし日本から赴任しておられた経営幹部から、実験計画法はハードルが高い、と辞退された(苦笑)その時は諦めたが、計算式を埋め込んだワークシートを用意し、実験計画法の意味と使い方を理解してもらえば応用出来るはずだと、チャンスを待っていた。

たまたまQCC活動を指導しているお客様工場で、現状の加工技術を別の技術に置き換えて圧倒的なコストダウンを目指すサークルが出て来た。加工条件を決めるために実験計画法を応用するチャンスが来た。満を持して先週末に半日かけて実験計画法の研修をした。

間接部門を含めて十人前後の中国人幹部に実験計画法を教えた。
本来応用して欲しいサークルのリーダは、全く違うアプローチを考えていた様で、余り熱心に研修を聞いていなかった(苦笑)研修の終盤になって、この研修は自分のためにやってくれたんだと気が付いた様だ(笑)

更に数学とは縁がなさそうな製造部門の女性管理者も非常に興味を持ち、研修後に質問で食いついて来た。数式は理解出来ないが、意味は理解出来た様だ。

途中で気が付いたリーダと、女性管理者の二人が実験計画法を応用して成果を出せば、この会社では普通に実験計画法を使う様になるだろう。今週は全力でフォローする予定だ。


このコラムは、2015年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第424号に掲載した記事です。

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教育と培養

 『培養』という言葉は、中国語で育てるという意味だ。
教育という言葉は、教え育てるという意味なので広義に考えると『培養』も含まれる概念であろう。ここでは知識教育という狭義の意味で使っている。

『教育不如培養』教育は『培養』に及ばずという意味だ。知識を教えただけでは、なんら役には立たない。能力を育てて初めて戦力となる。

中国人リーダクラスに言うことは立派だが、行動が出来ない人をよく見かける。
先日は中国人経営者と議論したが、立派な理念を持っておられる。しかしその理念を具体的な形として組織に落とし込むことが出来ていない。

頭で分かっていても行動する能力が開発されていなければ意味がない。いわゆる頭でっかち状態だ。しかも悪いことに知識が他者との差別化要因だと勘違いしている人が多く、自分の知識を他人に教えようとしない。

知識を教えることは重要だが、それを能力に変換することがより重要だ。
わが社は教育に金をかけている、と安心していてはいけない。知識を能力に変換する過程(『培養』)を十分にしているかどうかが問題だ。知識を能力に変換する過程が、OJTだと考えている。

従業員には知識は評価されないことをよく教え込まなければならない。その知識を活かして行動する能力を身につけて初めて評価されるのだ。能力とは、知識を他人に分かりやすく教えるられること、知識を実際の現場で活用できることだ。

最近、統計的品質管理の研修プログラムを作っている。
目指しているのは知識を教えることではなく、能力を育てることだ。普通に知識を教える講義の倍は手間がかっている。

中国の書店に行くと、統計的品質管理について書いた書籍は何冊か見つけることはできる。しかしその基礎となる統計確率理論に関する書籍は、いまだに見たことがない。

同じように、携帯電話の修理のための書籍はたくさんあるが、携帯電話の基礎となる高周波通信の基礎やネットワーク交換技術に関する書籍は見かけない。

余談だが、中国で売られている携帯電話の修理指南書には驚くべきものがある。どこで手に入れるのか、携帯電話の部品表、内部プリント基板のパターン図、レイアウト図まで掲載してある。基礎技術よりは、明日から応用できるテクニックがよりもてはやされている。

統計的品質管理の研修プログラムでは、統計確率理論の基礎がない人に、それを応用・活用する能力を身に付けて貰わなければならない。難しいことを簡単に教える。それを活かす能力を育てる。それが私の任務だと理解している。


このコラムは、2010年6月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第158号に掲載した記事です。

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統計的思考

 私の世代は、高校3年の時に数学で統計と確率を勉強した。全員ではなく、理系クラスだけだった。大学に進学して電子工学を勉強したが統計確立理論とその応用は、夏期集中講座があっただけだ。それらの教育を受けて、統計確率理論を応用する統計的思考が身に付いたとは言い難い。工学部にいた時でさえ、どのように応用出来るかよく理解できず、単位取得が最重要目的だった(笑)

就職して、回路設計エンジニアとして仕事を始めた。製品の精度を決める回路部品の精度を決定する際に、部品の最大値・最小値を使って計算していた。最大値・最小値で設計すると、必要以上に高精度の部品を使うことになっているのでは?と言う疑問があり、当時普及し始めたPCでプログラムを組み、シミュレーションで証明しようとしたことがある。

それを見た先輩が見かねて、「バラツキ」について教えてくれた。
今思い出せば「大数の法則」を分かり易く教えてもらった。これが私にとって最初の実践的統計思考との出会いだった。

その後、品質保証の仕事をすることになり、40代にして統計確率理論を再勉強した。この時に身につけた統計的思考が今でも役に立っている。

統計数字は、身近な所にもある。
例えばTV番組の視聴率。先週のニュース番組の視聴率は20.2%だった、と言う会話がよく出て来る。ほとんどの人は、自分がどの番組を見ていたかを報告した記憶は無いはずだ。放送局の方も、今何人の人が番組を見ているかを知る方法はない。視聴率は、無作為に選ばれた家庭をサンプルとして、全体(日本の視聴者)を統計的に計算し推定している。本来視聴率は幅を持っている。

こういう統計的思考法は、品質管理に大いに役に立つ。
例えば、工場で生産した製品は全て全く同じに出来ている訳ではない。バラツキがある。生産したモノを全て計測出来れば、そのバラツキの範囲を知ることができ、製品規格の範囲に入っているかどうか検証出来る。しかし、計測にコストがかかる。または計測をすると出荷出来なくなる場合もあり得る。製品強度とか、アンプルに入った薬液の量などは、計測が破壊試験となるため、全数検査は出来ない。サンプルの計測により、全体を推定する統計手法が必要になる。

製品のバラツキを減らす工程改善をした。改善の前後のデータから、改善の効果があるのかないのか、こういう判断をするのを「検定」と言っている。

実は統計的思考は、ギャンブルにも応用可能だ。
長・半ばくちをする場合、10回やれば5回は偶数が出る、こう考えるのは平均値だけを考えているのと同じだ。統計的思考を使えば、10回の内8回長の目が出るのは、偶然のバラツキなのか、イカサマなのか判断出来る。

外貨投資に出て来るボリンジャーバンドは、過去の値動きのバラツキを示している。例えば2σのボリンジャーバンドを越えるのは、過去のバラツキから判断すると、2.3%となる。

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竹槍の戦い


このコラムは、2012年12月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第287号に掲載した記事です。

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竹槍の戦い

 顧客企業の技術部門を指導している。技術的な解決課題を挙げてもらった。
10項目の課題が上がった。そのほとんどは彼らの固有技術で解決可能な課題だ。
それぞれの課題は製造部門の努力でなんとかしのいでいる状態であった。そのため生産効率が上がらないでいる。

一般的に言って、私自身がそうであった様に(笑)設計者という人種は新しいモノ好きで、過去に設計した製品のメンテナンス(設計改善)を嫌がる傾向がある。そこをなだめて、今製造が困っている課題を設計の力で解決するというテーマに取り組んで貰っている。(彼らを納得して動かすコツがある・笑)

ほとんどの課題は1ヶ月以内にほぼ解決しており、改善の効果確認待ち状態となった。これで製造部門は相当生産性が上がるはずだ。設計者が見積もった改善効果は、かなり過小評価してあった。意外にも、彼らは遠慮がちだ(笑)

しかし1点だけ、プレス部品の不良が解決の見込みが立っていない。
このプレス部品は、深絞り加工で加工時に亀裂が入ってしまう。不良が大量にあり溶接で亀裂をつなぎ研磨をしてなんとか形状を出している状態だ。強度が必要な部分ではない。外観意匠を保つために後の工程でも追加工が必要になっている。この加工は彼らにも技術はなく、ベンダーに加工してもらっている。しかもベンダーにも技術がなく、亀裂が入っており明らかに不良でも納入して来る。

そのような状態なので、ベンダーとともに改善をしようにも手探り状態だ。
手当り次第に良いと思われる方法を試して一喜一憂している。いきなり金型を修正してみて、不良が半分になってたと報告して来た。半分になったと言っても、サンプルが少ないので有意差は認められない。
まさに「竹槍の戦い」状態だ。

統計的に評価をするアプローチを教え、不良が発生する要因を全て挙げる様に宿題を出して今回の指導を終えた。プレス加工に関しては私も素人同然だ。しかし問題解決のための管理技術は分かる。次回は彼らの検討をどう確かめ、不良を減らすかというステップに入る。相当困難が予測される。万が一好ましい効果が上がらなくても、この経験はきっと彼らの成長につながるはずだ。竹槍だけではなく、管理技術という新しい武器を実装する事が出来る。

久しぶりに骨のある課題と取り組んでいる。


このコラムは、2016年9月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第493号に掲載した記事です。

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統計思考力

 以前「統計学が最強の学問である」という本を空港の書店で発見し、一気に読んだ。

「統計学が最強の学問である」西内 啓著

先週末は「統計思考力」という本をBOOK OFFで見つけ即買いした(笑)

不透明な時代を見抜く「統計思考力」神永 正博著

どちらも数式を使わずに、統計学の意味を伝えようという趣旨で書かれている。

私は製造現場で統計学を応用できる様に指導をしている。
統計学の意味を理解するだけではなく、実際に活用しなければならない。
しかし私も、極力数式を使わない様にしている。
数式はExcelが勝手に計算してくれるので、その意味を理解してもらう様にしている。数式で説明してしまった方が簡単だが、その数式を見て理解するにはある程度の素養が必要となる。

そんな訳で、この二人の著者の努力には大いに共感できる。

私の場合は現場で応用するという必然性がある人に教えているので、彼らより楽だろうと思う。統計理論や確立理論となじみのない人に対して、統計学に興味を持ってもらう様に書かねばならない。このつかみがなければ、本は手にとられない。

神永氏は「ゆとり世代は学力が低い」は本当か?という問いでつかみに成功している様に思う。少なくとも「統計力」などというマニアックな分野で出版し、文庫化を果たし
ている。多分多くの人がこの本を手にしたのだろう。

じっくりこの本を分析し、どうしたら数学に興味がない人をこちらの世界に引き込めるか研究したい(笑)


このコラムは、2015年10月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第445号に掲載した記事です。

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「うそには3種類。うそ、大うそ、そして統計」中国の信頼性に疑問

 経済規模で世界一に上り詰める勢いの中国。だが、同国の経済関連統計の信頼性には相変わらず疑問が付きまとう。

 事前予想と大きくかけ離れた中国の月次貿易統計に今年、エコノミストらが異議を唱えた。3週間ほど前には、景気の先行きを示す指標のひとつ、製造業購買担当者景気指数(PMI)で、中国国家統計局と金融機関の数字が正反対の内容を示した。さらに、インフレ率の計算方法についても疑問が投げ掛けられている。

 中国の統計の信頼性については、ほかならぬ李克強首相がかつて疑問を呈したことがある。内部告発サイト「ウィキリークス」が10年に公開した米外交公電によると、今年3月に首相に就任した李氏は、遼寧省で党委書記を務めていた07年、当時の駐中米国大使に、中国の一部の統計は「人為的なもの」で信頼できないと話した。

 米外交公電によれば、李氏は遼寧省の経済動向を判断する際に注目するのは電力消費、鉄道貨物取扱量、銀行融資の3つだけで、「他の統計、特に国内総生産(GDP)は参考にする程度だ」と笑いながら話したという。

■データ粉飾の強い動機

 統計上では中国の経済規模は10年に日本を抜いて世界2位となった。アナリストらは、米国が100年以上守ってきた世界首位の座を中国に奪われるのも時間の問題だとみている。

 北京大学の教授(財政学)で、米シンクタンク、カーネギー国際平和財団の上席研究員でもあるマイケル・ペティス氏は、中国が統計を集計するスピードについて、経済規模がはるかに小さいフランスよりもずっと速いと指摘。フランスの統計は中国の統計に比べて質がかなり高いとされている。

 中国についてのコンサルタント会社の代表で、在中国日本大使館経済部参事官を務めた経歴も持つ津上俊哉氏によると、中国の地方政府トップの評価は主に実績に基づいて行われる。地方の経済をどの程度、発展させたかという点が最も重視され、発展の度合いの指標とされるのがGDPだという。津上氏は「地方政府のトップは昇進のため、GDPを増加させようと過酷な競争を繰り広げている。彼らは統計も扱うため、データ粉飾の強い動機が生まれる」と説明した。

■公式GDPは実態より大きい?

 中国の地方政府が発表するGDPの合計が、国全体のGDPを大きく上回ることはよく知られている。

 中国のGDP成長率は公式統計で11年が9.3%、12年が7.8%とされているが、英銀スタンダード・チャータードのエコノミスト、スティーブン・グリーン氏は今年発表したレポートの中で、同じ年の中国のGDP成長率をそれぞれ公式統計を大きく下回る7.2%、5.5%と算出した。

 北京大学のHSBCビジネススクールで教えているクリストファー・ボールディング氏は今月発表した論文で、歪められた消費者物価指数(特に住宅関連)は、中国の経済規模を実態よりもかなり大きくみせていると論評した。

 英ロンドンのキャピタル・エコノミクスの中国エコノミスト、ワン・チンウェイ氏はAFPに、「データが信頼できるものでなければ、どんな政策や改革の意思決定も間違ったものになるだろう」と述べた。

(AFP BBNewsより)

 統計がウソであると言う論調には肯首し難いものがある。統計が不正確(もしくは恣意的に操作がある)、もしくは統計を使ってウソをつくと言うのはあり得るが、統計そのものがウソだと言う事はない。

中国の経済指標に対し、世界中のエコノミストから疑問符を投げかけられているのは、上記の統計データが不正確だ、と言う事だ。しかもその不正確さは恣意的なものがある、と言う疑惑をもたれている。(公開の秘密と言ってよいレベルだと思うが・笑)

中国の場合は、国家経営が事業部制の会社の様になっており、各省長は業績により評価され、中央からの考課・査定が決定する。
中国のソーシャル・クライマー(社会登山家?笑)たちは、人民の幸福よりは共産党内での自分の地位に関心がある。粉飾決算まがいの事が行われていても不思議ではなかろう。

日本でも少し大きな会社では、似た様な事が発生しているだろう。
もっとも本当にウソをついてしまえば、背任行為になるので、仕入れ先に支払い延期のお願いをしたりする。利益が出ている様に見えれば、来期の予算割当が増え、事業部の経営自由度が増える。こんな事情で、経営データが操作される。
その結果、期末を高収益で終わっても、期初の四半期は大赤字なんて事を繰り返すことになる。

李首相は、経営判断の指標として電力消費、鉄道貨物取扱量、銀行融資の3つを使っていたそうだ。最終的には、総収入から総支出を差し引いた利益で判断すれば良いのだが、たいていの場合タイムラグがあり、リアルタイムに判断する材料にするのは難しい。業績の「代用特性」として電力消費、鉄道貨物、銀行融資を使う、と言う事だ。

この代用特性が間違っていると、経営はあらぬ方向に行く。
例えば売上額を、業績の代用特性にすると、売り上げを確保するために値引きをする。売り易い商品を、原価率に関係なく拡販する。と言うことになる。

同様に、長期的指標、短期的指標の違いも重要だ。
短期売り上げを重視すれば、無理な販売をすることになり、顧客は疲弊する。そして、顧客の生涯売上額を減らすことになる。その結果,新規顧客開拓に多額の経費が必要となり、収益体質が悪くなる。

ところで、正しい統計データであっても、嘘をつく事は可能だ。
データのバラツキを無視してデータを恣意的に分析する、と言うのがよくある手口(笑)だ。

例えば、既に2,3年生産している製品でも工程内不良率は,生産のたびに変動する。特に問題が発生していなくても、毎回同じ工程内不良率と言う事はまれだ。平均工程内不良率が0.9%、今回生産の工程内不良率が0.8%だったとき、これがバラツキによるモノか、不良率が改善したのかは判断出来ない。統計的に検証する必要がある。
不良率の実力は0.9%ではなく、0.9%±○%と表現しなければならない。

テレビの視聴率も同様だ。
視聴率の算出は、全世帯で計測している訳ではない。モニターとなっている世帯に取り付けられた機械で計測する。いわゆるサンプリング調査だ。サンプル数は関東一円で300世帯だそうだ。従って発表される視聴率には大きな誤差が含まれることになる。
視聴率のコンマ何%の上下で一喜一憂する事は、意味がない。


このコラムは、2013年8月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第324号に掲載した記事です。

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平均値と中央値

 最近コロナウィルス治療薬の治験のニュースで「中央値(メディアン)」と言う言葉を目にした方も多いだろう。

治療薬の効果を確認する場合、2群のサンプル(患者)に対して治験の薬とプラセボ(治療効果がない偽薬)を投与して、効果が出る期間を測定。両群で治癒期間に有意差があれば、効果ありと判定する。この時治癒期間を平均値ではなく中央値を使う。

中央値とはサンプルデータを大きさ順に並べてちょうど真ん中にある値をいう。
治験の場合は、治験薬を処方した群とプラセボを処方した群それぞれの治癒期間を大きさ順に並べ中央の治癒期間で薬効の有無を判定することになる。

なぜ平均値ではなく中央値を使うのか、ちょっと考えてみよう。

治療効果がない場合、治癒期間は長くなる傾向にある。
効果があっても被験者のばらつきによって治療期間が長い治験者がいると、治癒期間の平均値は大きくなる。するともともとプラセボを処方された群との差が小さくなってしまい、治療薬の効果が薄まって見えてしまう。

例えば年収で考えるとわかりやすいかもしれない。
年収300万円の社員が10人、社長が3000万円の年収の会社の平均年収は6000万円÷11≒545万円となる。しかしこの会社には年収545万円の人は一人もいない。
中央値は300万円。この会社の人の年収を代表する値は平均値より中央値の方が適切と考えて良いだろう。つまり分布が正規分布ではなく、離れ値がある場合は中央値でその集団を代表させるのが妥当となる。

治験の場合、薬の効果でなく被験者の自然治癒力で回復する人が混じる可能性がある。この場合治癒期間は長めになると予測される。

集団の特性を代表する値には、平均値、中央値、最頻値があり、目的に合わせて使い分ける必要がある。


このコラムは、2020年11月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第1056号に掲載した記事です。

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