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JR運転士を書類送検へ 三重・名松線の無人走行事故

 津市白山町のJR名松線家城(いえき)駅で4月、車両の入れ替え準備中だった回送列車(1両編成)が無人で約8キロ自走した事故で、三重県警は、ブレーキをかけずに列車を離れた男性運転士(25)を業務上過失往来危険の疑いで、近く書類送検する方針を固めた。

 県警などによると、男性運転士は4月19日午後10時ごろ、JR名松線家城駅で車両の入れ替え準備中に列車のエンジンを始動させたまま、ブレーキをかけずに運転台を離れ、列車を同市一志町の井関─伊勢大井駅間の踏切付近まで8.5キロ自走させ、衝突などの危険を生じさせた疑いが持たれている。

 名松線では06年8月、今回と同様に家城駅に止めてあった無人の列車が車輪止めの付け忘れなどが原因で自然に走り出す事故があり、男性運転士が業務上過失往来危険の容疑で書類送検され、起訴猶予となった。

 捜査関係者は、今回も運転士のみを送検する理由について「JR側の再発防止策が不十分だったわけではなく、運転士の過失が大きいと判断した」としている。

(asahi.comより)

 記事にある06年8月の事故は,車輪止めのつけ忘れに加え,エンジンの停止時に空気圧が抜けてブレーキが緩む構造だったことが分かり,JR東海はエンジンを切った場合も制動の機能が落ちないようブレーキの機構を改良していた.

つまり,車輪止め忘れと言う人為ミスが発生しても,ブレーキの欠陥を改善することにより問題が発生しないようにしている.言ってみればポカ除けをしてあったわけだ.

今回の事故では車輪止めをはずした後にブレーキをかけ忘れている.
ポカ除けがしてあっても人為ミスを起こしたのだから,今回は書類送検となったようだ.

もちろん人の命を預かる業務をしている者が「ついウッカリ」でも良いというわけでは無い.
しかし人の命にかかわる作業であるからこそ,人の注意力に頼らない徹底的なポカ除けを考えるべきだろう.

工場の不具合発生にも同様の人為ミスはある.その不具合に対し「作業員に注意し,再教育した」「作業員を罰して,担当業務からはずした」などというレベルの低い対策を良く見かける.

今回のニュースをポカ除けの観点で見直してみよう.

06年の不具合は車輪止めを付け忘れている.
そのためブレーキの性能を上げて(エンジン停止後にブレーキが緩むという欠陥を改善して)対策とした.

今回の事故ではブレーキをかけ忘れている.人為ミスとしては同じレベルのミスだ.エンジンをかけた状態では車輪止めをつけないわけだから,ブレーキのかけ忘れが直接事故につながる場面は多いはずだ.

例えば駅に停車した際に運転席からプラットホームに降りるという状況はいくらでもあるだろう.

従って車輪止めの付け忘れと言う人為ミスよりもブレーキのかけ忘れと言うミスの方がリスクは高いだろう.
リスク=影響×発生確率と考えた時,上記のミスはどちらも同じ影響度であり,ブレーキのかけ忘れのほうが発生確率が高そうだ.

車輪止め忘れよりもブレーキかけ忘れに対するポカ除けをする方が優先度が高いはずだ.
列車の運転手は指差し点呼で人為ミス防止をしているが,これは自己チェックの機能しかなくポカ除けとはいえない.

例えばブレーキレバーを引かなければ運転席の扉が開かない構造にするなどは比較的簡単に出来るのではないだろうか.こういうのがポカ除けだ.


このコラムは、2009年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第107号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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列車逆走事故

 メールマガジン829号「失敗から学ぶ:列車の制御、新時代へ」で鉄道の自動運転システムをご紹介した。
「列車の制御、新時代へ」

その後間もなく自動運転の列車事故が発生した。
「逆走列車側に不具合か 「駅の合図は正常」 横浜の事故」(朝日新聞ディジタル)

記事によると「シーサイドライン」の車両が終着駅・新杉田駅で進行方向とは逆向きに走り出し、車止めに激突。乗客14人が重軽傷を負った。

その後の調査が以下のように報道されている。
運行制御装置側には問題が見つかっていない。
列車の電気系統の断線により方向転換の指示が伝わらず、逆走した。

新聞記事から判断すると、
駅側の制御装置と列車の制御装置間の通信には問題はなかった。
列車の制御装置と駆動機器間に断線があり、方向転換がなされず逆向きに走行。

「逆走、電気系統に断線 指示、伝わらず シーサイドライン」(朝日新聞ディジタル)

このようなシステムを設計する場合、中央制御装置と列車制御装置間の通信は司令/確認のプロトコルを入れるはずだ。例えて言うと、中央指令室の運行管理官と運転手の間で司令と確認が交わされるのと同様のやりとりが、中央と列車の制御装置間で行われているはずだ。
このプロトコルが成立しない場合(中央から走行方向切り替えの指示に対して確認の応答がない)安全側に動作するように設計する。

同様に制御装置と運行機器間でも双方向のやり取りがあるはずだ。
例えば加速の指示を出すとスピードメーターからのフィードバックが得られる。
今回の事故原因が「断線」によるものだとすると、モータの反転装置からのフィードバックがなくても正常と判断する「設計欠陥」があったはずだ。

自動機がある生産現場でも同様の問題がないか点検してみる必要があるだろう。
例えば非常停止ボタンを押した場合、安全に停止するかどうか。
→主電源を落としてしまうと危険な場合もありうる。

コンベアの駆動モータをオンにしたらコンベアが動いているか。
→なんらかの理由でコンベアが動かなければ、駆動モータが過熱し火災発生。

プレス機などのエリアセンサーが機能しているか。
→エリアセンサーの電源が入っていない場合安全側に動作するか。

シーサイドライン事故の記事を見た時に「サイバーテロ」が最初に思い浮かんだ。IOTにより我々の生活の利便性が格段に上がってる。しかしその裏でリスクも大きくなっていることを認識していなければならない。


このコラムは、2019年6月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第835号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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列車の制御、新時代へ

 以前メルマガに2007年に発生した「福知山線脱線事故」について書いた。
この事故以来ATS(自動停止システム)の導入が加速した。

5月26日付の朝日新聞に新しい列車制御システム・ATACSの記事が出ていた。
列車の制御、新時代へ 位置情報発信、車間保つ 路線データ搭載、脱線防ぐ

従来のATSは750mの閉塞区間に車両が1編成しか入らないように制御していた。
線路は全てつながっているように見えるが、実際には短い線路が1本ごとに電気的に結ばれている。これを750mを単位として閉塞区間が設けられ、車輪で左右の線路を短絡している区間に列車が存在している、と判断する仕組みとなっている。

この仕組みでも問題はないのだろうが、自動車を改造した工事用車両は左右の車輪間に導通がないので、ATSではどこにいるか見えない。都心の通勤時間帯の過密ダイヤでは750mに1編成では乗客輸送が間に合わない。

新たに導入されるシステムは「無線式列車制御システム」といい、位置情報を列車自らが無線で発信する方式のようだ。

しかし「なんとまぁ時代遅れな」という感想を禁じ得ない(笑)

自動車はGPSを頼りに無軌道で自動運転を模索する時代だ。
軌道上しか走らない鉄道の方が、自動運転に近いはずだ。自動運転となれば、運転手がミスを咎められることを恐れて過速度運転することもないはずだ。
乗用車事故が発生すれば数人から十数人の死傷者が発生する。それに対し列車事故が発生すれば数百人規模の死傷者が出る。慎重にならざるを得ないのは理解できる。

しかし過去の不幸な出来事を克服するのが、進歩だ。
我々の生産現場でも「前例がない」「リスクがある」などの言い訳で新しい事への挑戦を避けていないだろうか?前例がないから、画期的な進歩が得られる。リスクがあるなら、事前にリスクを洗い出し未然防止をする。

「失敗から学ぶ」とは失敗を恐れて身を縮めることではない。


このコラムは、2019年5月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第829号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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福知山線脱線事故

時事通信社

 JR西日本・福知山線脱線事故が発生したのは2007年4月25日。丸11年の先週いくつかの報道を目にした。

4月11日に配信したメルマガ第652号「組織事故」で福知山線脱線事故は組織事故の一つだったとご紹介した。

運輸安全委員会は、福知山線脱線事故の調査報告書を発行している。
全261ページ+別添資料の膨大な報告書だ。

簡単にまとめると以下のようになる。

原因:
 本件運転士のブレーキ使用が遅れたため、本件列車が半径304mの右曲線に制限速度70km/hを大幅に超える約116km/hで進入し、1両目が左へ転倒する様に脱線し、続いて2両目から5両目が脱線したことによるものと推定される。

以上の原因は、脱線に至る物理的原因だ。運転士のブレーキ操作が遅れた誘引があるはずだ。

誘引:
 事故発生前に伊丹駅で停止位置を通過してしまい、車掌が非常ブレーキをかけ停止位置に後退して停車している。運転士はこのミスを内緒にしておいて欲しいと車掌に車内電話で頼んでいる。
本件運転士は2004年6月に片町線下狛駅で所定停止位置行き過ぎ事故で13日間の「日勤教育」を受けている。日勤教育とは、重大インシデント、規約違反、ヒヤリハット事象を起こした者が受ける教育で数日から一月以上続くケースもある。懲罰的な要素が強い教育指導だ。本件運転士は日勤教育を避ける事に気をとらわれブレーキをかけるのが遅れている。
日勤教育には、事故またはヒヤリハットが発生した原因を分析する事が含まれているというが、本件運転士の日勤教育の記録を見ると指導官との指導問答、感想文のような本人レポートしか残っていない。

この脱線事故を組織事故としたのはここにある。
日勤教育を受けている間は、同僚運転士の目にさらされる事になる。
教育指導というより、数日間も説教を聞かされているだけ。
これではヒヤリハットや失敗を隠蔽する風習が組織にはびこり、ヒヤリハット事例で問題の未然防止どころか再発防止さえおぼつかなくなる。

ヒヤリハットや失敗を責任追及すれば、問題は隠蔽され必ず再発する。
ヒヤリハットや失敗を共有すれば、発生原因を分析し再発対策が可能となる。

失敗を称賛する必要はないが、失敗を学びに変え、再発対策、未然対策を称賛する組織文化を持つべきだと思う。

永田町の役人、旧国鉄、旧財閥系企業など古い因習があり、変わる事が難しいとは思うが、変わらねば恐竜やマンモスの様に死滅してしまうだろう。


このコラムは、2018年5月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第661号に掲載した記事です。

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組織事故

【中国生産現場から品質改善・経営革新】

 先週のメルマガ第649号ではのぞみ34号の車両台車に亀裂が入るという重大インシデントについて考えた。

「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」


このコラムにM様からコメントをいただいた。

※M様のコメント
 毎回楽しみに拝見させていただいています。「のぞみ34号トラブル」の件、私が思うのは、直接的な関係者の「運航を止める」という事に対する心理的 ハードルを如何に下げられるか、という事が最も重要と感じています。
 「結果的には運航を止めるほどではなかった」というときでも、上層部が「よく止めた」と褒め、外部から発生する非難に対し、上層部のみが受け止め、運航担当者に類が及ばないようにする、これがしっかりとできるか、でき続けるか、だと思います。
 「順調な運航」も鉄道事業者の責任ですが、それ以上に「安全第一」。このような企業文化、企業体質にならないと、このような事故は決して無くならないと思います。

M様のご指摘はもっともだと思う。私も同意見だ。
今回の事故(重大インシデント)の発生は、個人のミス、違反が起こしたものではなく「組織事故」だ。

組織事故とは、組織内に長期にわたり潜在的に存在した欠陥が、知らず知らずのうちに拡大し、事故に至ったものを指す。これらの欠陥は、直接的に事故の発生原因となるものではない。しかし組織の風土や文化という形で組織に定着
し、いくつかの要因が積み重なることによって、大事故を引き起こす場合がある。

参考:ヒューマンファクター10の原則 吉田一雄編著

組織事故の事例は多い。上記参考図書は以下の事例を挙げている。

  • 信楽高原鉄道列車衝突事故
  • JOC臨界事故
  • 横浜市大付属病院患者取り違え事故
  • 雪印乳業中毒事故
  • 関西電力美浜発電所3号機事故
  • JR西日本福知山線脱線事故

各々について詳細は解説しないが、組織事故として共通の要因がある。

  • 組織内で手順・規則が遵守されない風土がある。
  • トラブル情報、失敗経験が共有されない。
  • 潜在リスクに対する認識が弱い。
  • 安全軽視の風潮がある。
  • 責任の所在が不明確。
  • 権威勾配が強く、批判・指摘がしにくい。
  • 安全に対する教育・啓蒙が不十分。

このような組織的要因は、旧式の縦割り組織によく見られる。


このコラムは、2018年4月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第652号に掲載した記事に加筆したものです。

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運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル

最高時速300キロの「のぞみ34号」の台車は破断寸前だった。乗務員は異音などの兆候を察知していたのに、途中駅で「異常なし」と引き継いでいた。

全文

(デジタル版朝日新聞より)

 人身に関わる事故が発生した訳ではないが、重大なヒヤリハット事故だ。
報道から読み取れる事実を時系列に整理すると以下の様になる。

13時33分:のぞみ34号博多駅出発
13時50分頃:乗務員が異臭を報告
      13号車乗客が「もやがかかっている」と申告。車掌も確認。
15時15分頃:岡山駅で保守点検者が乗車。新神戸駅で点検を提案。
      運送指令が問題なしと判断し、運転続行。
16時頃:新大阪到着。保守点検者下車。
    運転手、車掌は「異常なし」とJR東海に引き継ぎ。
16時20分頃:京都駅出発後車掌が異臭を確認。
17時頃:名古屋駅にて車両床下で亀裂油漏れを発見。走行不可能と判断。

今回は何事もなく運行(ほぼ定刻運転だったと推定される)出来たが、脱線事故で多くの死傷者が発生する可能性があった重大インシデントだ。

小倉駅を出発した時点で予兆を発見している。
少なくとも岡山駅で保守点検者が乗車した時点で車両床下を点検すべきだった。

報道によると、岡山駅で保守担当者は輸送指令に「次の駅で止めて点検したらどうか」と進言している。ところが、輸送指令は「運行に支障はない」と判断。

JR西日本は今回のトラブルを受け、社員教育のあり方を改善するほか、「音、もや、臭い」などが複合的に発生した場合は直ちに運転を見合わせ、車両の状態を確認することを徹底するという。「脱線事故後(2005年4月に発生した福知山線脱線事故)、『安全性を最優先する』とやってきたが、生かされていなかった。安全をさらに高めるために努力していきたい」とJR西日本社長は言っている。

この問題の根源は、社員教育や運行判断基準ではない。JRの組織文化に問題の根源が有ると考える。
車両区、指令区、運転区など部門ごとの縦割り組織が国鉄時代から続いているのではなかろうか?部門ごとで責任を押し付けあう体質が残っていないか?

保守点検者は「次の駅で点検してはどうか」と進言するが、指令区から運行続行を指示され従ってしまう。自分の仕事に責任と誇りを持っていれば、次の新神戸ではなく、岡山で車両床下に潜り込んで亀裂を見つけていただろう。
現場から離れた指令区の座席に座ったまま下した運転続行判断が優先される。
運転手、車掌もJR東海に引き継げば責任は終わり。

全てが「定刻運転」第一優先の様に見える。

あくまでも外から眺めた印象だ。事実誤認が有ればお詫びするが、JR職員の方々に問題があるのではなく、JRの組織文化に問題があるのではないかという提言と受け取っていただきたい。

問題の責任を追及する組織は、責任を逃れる、問題を隠す組織風土が生まれる。
問題の原因を追及する組織は、問題を共有し、改善を進める組織風土を持つ。


このコラムは、2017年12月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第607号に掲載した記事に加筆したものです。

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