書籍名:さらば、さもしい経営者
著者:松丸 公則
出版社:文芸社
企業は資本家が利益を得るための道具であり,従業員は労働と引き換えに賃金を得る.20世紀の企業はこのような資本家と労働者の対立関係で成り立っていた.
21世紀の初頭である今,企業を社会的公器と捉える考え方が一般になってきており,資本家と労働者は労働搾取の関係ではなく,協調関係になってきているといえるだろう.つまり,企業の繁栄は資本家が利益を得るためだけではなく,企業繁栄の結果労働者も幸せになる,という関係で理解されている.
しかし企業とは利益を追求するものだという根本は変わっていない.
それに対し21世紀型企業は,従業員を幸せにすることを目的とする.
その結果企業が繁栄する.
21世紀型企業をこのように定義すると,20世紀型企業とは,目的と結果が逆転している.
私が尊敬している伝説の経営者・原田則夫氏が目指した「理想工場」が21世紀型企業なのだと理解している.
出稼ぎ労働者が,退職後田舎に帰っても幸せになれるようにホンキの育成をする.
原田氏の元秘書には,日本語ができるだけではだめだと,会計学を教えた.
彼女は後に格力という中国大手の空調機メーカの社長になっている.
倒産寸前だったSOLID社を,人を育てることを目的とした会社に再生し,あっというまに優良企業にした.
これが21世紀型企業経営だ.
これは工場だけに応用できる考え方,手法ではない.
サービス,販売など全ての業態に適用できる哲学だ.
原田氏の直弟子たちや,私たちのような原田氏の考えに共鳴する者たち(原田チルドレン)が,次々と21世紀型企業を作り上げなくてはならない.
そうすれば大人たちは皆幸せになり,それを見ている子供たちが将来に夢を持つようになる.
子供たちに夢がなくなれば,私たちの未来はない.
この21世紀型企業は,実は昔からその原型が日本の企業の中にあった.
従業員を思いやる「家族経営」がそれだ.
家族経営というと,非近代的な経営管理というネガティブな面に焦点を当てがちだが,人を育てて活用するというポジティブな側面を持っていたはずだ.
従業員の幸せを願い経営をするという21世紀型企業経営の原点がここにあるような気がする.
その証拠に,原田氏を知らない経営者で21世紀企業経営をしている経営者はいる.
「さらば,さもしい経営者」の著書者・松丸公則氏も21世紀型企業経営者だ.
彼は著書中で,従業員は家族だ.家族として迎え入れる人の面接を社長自らせねばならない.
といっておられる.19人の管理スタッフばかりではなく.全ての作業員も自ら採用面接をしている.
彼の工場立ち上げの成功の方程式は,
従業員が幸せになればおのずと経営者も幸せになる.
経営者が幸せになれば幸せな会社が生まれる.
幸せな会社が集まれば社会が幸せになる.
私利私欲を目指すのではなく,人を育て公利公益を目指す.
社会的公器と呼べる企業は大企業だけではない.
公利公益を目指せば,中小企業も社会的公器となり,尊敬される企業となる.
21世紀型理想工場を立ち上げた松丸氏が得た最大のものは,従業員全員で開催した送別会での感動だったのではないだろうか.
著書を読んで私も目頭が熱くなった.
さらば、さもしい経営者