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ユーザ・エクスペリエンス

おもてなしの経営学

書籍名:おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書)
著者:中島 聡 (著)
出版社: アスキー

著者の中島聡氏は,初期の月間アスキーに高校生アルバイトとしてプログラムを書いたりしていた伝説の人である.またマイクロソフトでウインドウズのユーザインタフェイスを設計した人としても有名だ.

「ユーザ・エクスペリエンス」という言葉はソフトウェア・ユーザビリティを越えた「使いごごち」のような概念の言葉である.
中島氏はこの言葉に「おもてなし」という日本語を当てている.

ギーク(エンジニア)オタクっぽい本であるが,製品やサービスをどう設計しなければならないか,という観点で読むとモノ造りへのこだわりが見えてくる.

造る側(サービスを提供する側)のこだわりは「床屋の美学」(自己満足の美学)である.ユーザのためのこだわりを持たなければならない.

ビルゲイツのこだわりは市場を取ること,相手に勝つこと.
一方アップルのスティーブジョブスのこだわりはユーザに感動を与えること.
このこだわりがあるからアップルはコンピュータメーカから脱皮できた.

これが「おもてなしの経営学」である.

「おもてなしの経営学 アップルがソニーを越えた理由」

国際競争力の再生

国際競争力の再生
書籍名:国際競争力の再生―Joy of Workから始まるTQMのすすめ
著者名:吉田耕作
出版社名:日科技連出版社



デミング博士の名前は,品質関係の仕事に従事する日本人で知らないものはいないであろう.
デミング博士は,戦後日本の製造業に統計的品質管理を教え,日本のモノ造りの基礎を築いた恩人である.彼の名前を冠したデミング賞は,TQM(トータルクオリティマネジメント)の進歩に功績のあった民間の団体および個人に授与される,日本最高峰の栄誉である.

日本人にとっては恩人とも言える,そのデミング博士は,本国のアメリカでは無名の統計数学を教える大学教授であった.

しかし,1980年にNBCが「If Japan can… Why can’t we?」というドキュメンタリー番組を放送し,モノ造りの日本を育てたのがデミング博士であることに光が当てられた.
その後フォードでの指導を始めとし,1993年に亡くなる直前までの10年余りを全米で講演・指導をして回った.

このコラムでご紹介する「国際競争力の再生」の著者吉田耕作教授は,そのデミング博士と一緒に全米を講演して回っていた方だ.
吉田教授は,日本に帰国後「西東京ラウンドテーブル」というTQMの指導をしておられた.ラウンドテーブルでは,いろいろな企業から参加したQCサークルの活動を指導する.私も自部署のサークルを派遣していたので,PTAとして何度か参加した.

参加しているサークルは製造業ばかりではなく,花屋さんなどもあり,相互に大いに刺激しあう活動であった.

「国際競争力の再生」には吉田教授が,米国におられた頃の指導事例も載っている.日本でのQCC活動は,製造業が中心というイメージが強い.それがTQC(トータルクオリティコントロール)になって製造業の間接部門の活動に広がり,TQMとなり製造業ばかりではなく,サービス業にも広がりを見せた.
しかし本書に出ている米国での活動事例は,政府機関の事例だ.
ヒスパニックの移民の犯罪率の高さに手を焼いた政府が取り組んだ活動である.
日本でもそうした事例はあるが,非常に少数派だろう.

高度成長の元となったデミング博士が日本に根付かせたQCC活動を,あらゆる組織に展開した米国は,あっという間に復活し,日本はその後のバブル崩壊から失われた20年の時代へと向かう.

非常に皮肉な話であるが,私にはQualityを「品質」と訳した時から,定められた運命のように思える.

つまりモノの質という連想をさせる「品質」という言葉により,クオリティマネジメントは製造業の仕事と勘違いしたのが間違いの元だった.

一方Qualityという言葉に「モノ」という概念は含まれておらず,米国では製造業ばかりではなく,行政,金融までもがクオリティマネジメントに取り組み,再び強いアメリカを実現させたのだ.

国際競争力の再生―Joy of Workから始まるTQMのすすめ
 

吉田教授が提唱するJoy of Workが,日本の未来の鍵ではないかと考えている.
仕事を楽しめない大人たちの姿を見て育った子供たちが,サラリーマンにはなりたくないと考える.その結果日本には,フリーターやパラサイトと呼ばれる若者があふれている.
彼らに仕事に対する夢や希望がなければ,日本の未来もない.
若者や子供たちの夢や希望が,未来そのものだ.

従業員が苦役として仕事をさせられるのではなく,仕事を工夫し効率を上げ楽に仕事をする.そして仕事を通じて達成感を味わう.そうした従業員の人間性を尊重した活動がTQMである.
Joy of Workを合言葉に,イキイキと会社に出かける大人であることが,子供たちに夢と希望を持たせることになるはずである.

さらばさもしい経営者

さらばさもしい経営者
書籍名:さらば、さもしい経営者
著者:松丸 公則
出版社:文芸社



企業は資本家が利益を得るための道具であり,従業員は労働と引き換えに賃金を得る.20世紀の企業はこのような資本家と労働者の対立関係で成り立っていた.

21世紀の初頭である今,企業を社会的公器と捉える考え方が一般になってきており,資本家と労働者は労働搾取の関係ではなく,協調関係になってきているといえるだろう.つまり,企業の繁栄は資本家が利益を得るためだけではなく,企業繁栄の結果労働者も幸せになる,という関係で理解されている.

しかし企業とは利益を追求するものだという根本は変わっていない.

それに対し21世紀型企業は,従業員を幸せにすることを目的とする.
その結果企業が繁栄する.
21世紀型企業をこのように定義すると,20世紀型企業とは,目的と結果が逆転している.

私が尊敬している伝説の経営者・原田則夫氏が目指した「理想工場」が21世紀型企業なのだと理解している.
出稼ぎ労働者が,退職後田舎に帰っても幸せになれるようにホンキの育成をする.
原田氏の元秘書には,日本語ができるだけではだめだと,会計学を教えた.
彼女は後に格力という中国大手の空調機メーカの社長になっている.

倒産寸前だったSOLID社を,人を育てることを目的とした会社に再生し,あっというまに優良企業にした.
これが21世紀型企業経営だ.
これは工場だけに応用できる考え方,手法ではない.
サービス,販売など全ての業態に適用できる哲学だ.

原田氏の直弟子たちや,私たちのような原田氏の考えに共鳴する者たち(原田チルドレン)が,次々と21世紀型企業を作り上げなくてはならない.
そうすれば大人たちは皆幸せになり,それを見ている子供たちが将来に夢を持つようになる.

子供たちに夢がなくなれば,私たちの未来はない.

この21世紀型企業は,実は昔からその原型が日本の企業の中にあった.
従業員を思いやる「家族経営」がそれだ.

家族経営というと,非近代的な経営管理というネガティブな面に焦点を当てがちだが,人を育てて活用するというポジティブな側面を持っていたはずだ.
従業員の幸せを願い経営をするという21世紀型企業経営の原点がここにあるような気がする.

その証拠に,原田氏を知らない経営者で21世紀企業経営をしている経営者はいる.
「さらば,さもしい経営者」の著書者・松丸公則氏も21世紀型企業経営者だ.

彼は著書中で,従業員は家族だ.家族として迎え入れる人の面接を社長自らせねばならない.
といっておられる.19人の管理スタッフばかりではなく.全ての作業員も自ら採用面接をしている.

彼の工場立ち上げの成功の方程式は,
従業員が幸せになればおのずと経営者も幸せになる.
経営者が幸せになれば幸せな会社が生まれる.
幸せな会社が集まれば社会が幸せになる.

私利私欲を目指すのではなく,人を育て公利公益を目指す.
社会的公器と呼べる企業は大企業だけではない.
公利公益を目指せば,中小企業も社会的公器となり,尊敬される企業となる.

21世紀型理想工場を立ち上げた松丸氏が得た最大のものは,従業員全員で開催した送別会での感動だったのではないだろうか.
著書を読んで私も目頭が熱くなった.

さらば、さもしい経営者