カテゴリー別アーカイブ: コラム

四次元ポケット

 土曜日の昼下がりYoutubeでBGMを聞きながら仕事をしていたら、スポットCMで「四次元ポケット」というプロジェクトを知った。

日本の中堅・中小企業の力を組み合わせ、世の中をあっと言わせる物を開発しようと言うコンセプトだ。富士ゼロックスがサポートしている。
富士ゼロックスのホームページから引用すると、

「四次元ポケットPROJECT」コンセプト
これからの日本を支える大きな原動力。それが中堅・中小企業のチカラです。
いま、その得意分野を組み合わせることができれば、世の中があっと驚くようなモノをどんどん実現していくことでしょう。
わたしたち富士ゼロックスは、ITソリューションによるさまざまな支援を通して、中堅・中小企業のビジネスを加速させていきます。

「四次元ポケットPROJECT」概要
国民的人気を誇るまんが「ドラえもん」。
22世紀からきたドラえもんは、四次元ポケットから次々に「ひみつ道具」をとり出し、のび太くんのピンチを助け、夢を叶えてくれます。
こんな「ひみつ道具」がいま実在したとしたら、どんなに楽しいのだろうかと私たちは考えました。そして、複数の企業の技術を駆使して実際に「ひみつ道具」作りに挑戦するという夢のプロジェクトを立ち上げました。
それが「四次元ポケットPROJECT」。
実在する企業の技術やノウハウをそれぞれ連携することで、1社では不可能だった新たな価値を生み出すことができる。
富士ゼロックスはこのプロジェクトに参加する企業の連携をITソリューションで支援します。第二弾は「望遠メガフォン」。

望遠メガフォンとは、ドラえもんのポケットから出て来る秘密の道具で、遠方にいる人にピンポイントで音声を届ける拡声機だ。
望遠メガフォンを造ったプロジェクトメンバーは、ユカイ工学、GOCCO、クロスエフェクト、スイッチサイエンス、海内工業、三和メッキ工業の精鋭達だ。

設計の中心となったユカイ工学は、ロボットベンチャーだ。ロボットと言っても彼らの造るロボットは、産業用のロボットではない。脳波を検出し、感情の変化を耳の動きで表現する「ネコ耳」など、今何の役に立つのか良く分からないが(笑)将来とんでもないアプリケーションに化けそうなモノを造っている。

それを筐体設計、回路基板、板金、メッキの技術を持つ会社が一緒になって、望遠メガフォンのプロジェクトに取り組んだ。ドラえもんの玩具と笑ってはいけない。

超高指向性のスピーカ、肉厚さが違う支柱をプレス技術で造る、距離測定用のレーザ測長機、紙製プリント基板、3Dプリンターを駆使した筐体作成、など各社の技術を持ち寄って完成させた。

それぞれは小さな会社でも、それぞれの技術を持ち寄れば、面白い物が造れる。
それを広告宣伝の形で、大企業がスポンサーする。
こういう動きがもっと盛んになれば、新しい産業が出来るだろう。

先週のコラムにも書いたが、19世紀の産業革命以来、20世紀の軍需産業、21世紀のロボット産業と進化して来た産業に、「おもしろい」を核としたネットワーク型の全く新しい産業が生まれる予感がする。

中小企業連合が活躍した、まいど一号(宇宙衛星)、江戸っ子一号(深海探査機)は、中小企業でも高度な製品を開発製造する事を証明した。
四次元ポケットプロジェクトは、実用よりは将来の夢を造るプロジェクトといっても良かろう。

我々も中国モノ造り企業の力を集め「ニイハオ一号」プロジェクトをやってみたいモノだ。何を造れば良いかはまだ分からないが、残りの人生をかけて見たいと思っている。


このコラムは、2014年9月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第377号に掲載した記事に加筆しました。

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もう一つのブラジルW杯 ロボカップ、日本勢の優勝も

 サッカーの聖地ブラジルで7月下旬、もうひとつのW杯が開かれた。東部の町ジョアン・ペソアで開催された「ロボカップ」はロボットのサッカー世界大会だ。目標は「2050年、人間の世界王者に勝つ」こと。欧米のほか日本や中国など世界約40カ国・地域の研究機関が技術を競った。玩具の域を大きく逸脱したロボの一挙手一投足に企業も熱い視線を注ぐ。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 個人的な希望では、この様な大会は日本勢が優勝を総なめにする位の勢いを持ちたい。

20世紀の産業発展は、軍需によるモノが大きかったと思う。第二次世界大戦後の冷戦時代はミサイルの開発競争が、宇宙航空産業を育てた。敗戦国の日本は、戦闘機零戦を造る力を解体され、宇宙航空産業の下請け企業の地位に甘んじて来た。

21世紀はこの記事に有る様な「平和な競争」が産業を牽引する時代であって欲しいと願っている。

私が注目している産業分野は、航空産業とロボット産業だ。
航空産業は、自動車産業以上に沢山の協力企業を必要とする。つまり航空産業1社で多くの雇用を生む訳だ。

ロボット産業は、日本の労働人口減少に唯一の光明を与えてくれていると思う。
政府が考えている様な、外国人の移民では、日本と言う国のアイデンティティが失われてしまうのではないかと危惧している。

工場の中には、人に混じって色々な形態のロボットが働いている。
街の牛丼屋に行けば、とびきり美人のヒューマノイドが、ユーモアたっぷりに接客している。そんなヒュ-マノイドに恋をしてしまう宅男まで現れる。
そして人間は、より付加価値の高い仕事だけをする。

こうなれば日本人の労働生産性は、飛躍的に上がる。

そしてロボットの量産能力を持つと言う事が意味する所は大きい。
ロボットを兵士とすれば、倒れても倒れても、後から後から兵が現れることになる。これは日本侵略を企てる外国に対して抑止力になるだろう。鉄の意志を持った忠実な兵士が、日産10,000台生産可能、となれば誰も日本と戦争したいとは思わなくなるだろう。


このコラムは、2014年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第376号に掲載した記事に加筆しました。

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ローソン、隠れた技術発掘 食品70社から情報

 ローソンは食品メーカーが活用し切れていない技術を生かして独自商品を開発する。製法や素材など約70社から聞き取った情報を蓄積。自社がもつ売れ筋データと照らし合わせて、複数のメーカーの技術も組み合わせながら2014年度に独自商品を最大100品を発売する。製造過程から深く関与するSPA(製造小売り)を目指す戦略の一環で、消費者にとって選択肢は広がりそうだ。

記事全文

(日経新聞電子版より)

 マーケットを知っている人が、技術を持っている人達を結びつけて、商品を開発しようと言う考え方だ。固有技術があっても商品が開発出来る訳ではない。試作品は作れたとしても、売れなければ商品とは言えまい。

発明王・エジソンの最大の発明は、発明のプラットフォームだそうだ。
高い技術力と豊かな発想があっても、一人では偉大な発明は出来ない。技術が分かる人とマーケットが分かる人、そしてプロデュースする人が、発明には必要だそうだ。この3者のコラボレーションを発明のプラットホームにしたのがエジソンだそうだ。

エジソンが電球を発明した頃は、こういう考えは必要なかったかも知れない。「明かり」に対する市場の要求は明確であり、実現しさえすれば売れる事は確実だ。技術者とマーケッターの調整をするプロデューサーも必要ではないだろう。技術者が諦めなければ、それで十分だ。

しかし、世の中に便利な物が溢れている時代には、「商品を実現する技術」より「商品の市場ニーズ」の方が重要だったりする。

ローソンの取り組みは、市場ニーズを持っている自分たちが、プロデューサーとなり、技術を持った複数の仕入先を組み合わせて、新商品を開発するという考え方だ。

小売り流通業の仕事は、あるモノを仕入れ消費者に届ける、という所から出発している。近年はプライベートブランド商品の様に、独自企画商品をメーカにOEM生産させて販売する、と言う新しい方向性が出て来た。更に複数メーカの得意技術を組み合わせることにより、独自性を高める動きになっていると考えたら良かろう。

大手の製造業で言えば、昔は製造部門が力を持っていたのが、技術部門に移り、最近ではマーケット部門が社内でのプレゼンスが高くなって来ている。産業全体で見ても、ローソンばかりでなく、小売り流通業主動で商品開発が行われる事例が増えている様に思う。

ユニクロが実現した製造小売りの構図が、食品、日用品にも拡大している。
製造小売りと言っても、小売業が製造部門を持つ訳ではなく、垂直分業の形だ。つまり三角形の頂点に小売り流通業が居て、底辺に製造業がぶら下がっている形となっている。

このスタイルでは、中堅・中小の製造業にとっては、依然として下請け仕事の域を脱出することができない。
勿論、他社が真似出来ない突き抜けた技術を持っていれば、下請け仕事と言え、お客様が頭を下げて仕事を持って来てくれる。従って独自技術を磨き続ける事は重要だ。

設計・サービスの付加価値が高く、モノ造りの付加価値が低いとするスマイルカーブ理論が言う様に、設計・サービス機能を持たない製造業は常に下請け仕事に甘んじていなければならないのか?
このメルマガで何度かお伝えして来たが、私はそんな事はないと考えている。

中堅・中小の製造業には設計・マーケティング機能はないかも知れない。しかしそれらのリソースを持っている人達と協業する事は可能だ。それらをまとめるプロデューサー機能が有れば出来るはずだ。
そういう考えで立ち上げたのが、「ソーシャルモノ造り」だ。

色々な技術を持っているメーカが集まって、自分たちの独自ブランドの商品を開発する。足りないリソースは互いに持ち寄る。製造小売業態が三角形の垂直分業ならば、こちらは横並びの水平分業だ。

各メーカは、自分たちの技術を持ち寄りる。「商品データベース」ではなく「テクノ・データベース」だ。
例えば、中島製作所の商品は船舶のプロペラだ。商品だけを考えると、船舶業界しか考えられない。プロペラと言う切り口で考えれば、航空機や扇風機も考えつくだろう。しかし人工関節を思いつきナカジマメディカルと言う新会社設立には至らないだろう。
新会社設立に至った発想は、商品ではなく加工技術に着目したからだ。
プロペラ生産に必要な鏡面研磨技術があったから、人工関節と言うオリジナルブランド商品を持つことができた。

こういう発想を持つことにより、下請けから脱出しオリジナル商品を持つ会社にする事が出来るはずだ。
ぜひあなた会社の独自技術を棚卸ししてみていただきたい。


このコラムは、2014年3月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第355号に掲載した記事に加筆しました。

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中国的QCC事情

 先週土曜日に,広東省質量協会,広東省科学諮詢服務中心主催のQCC成果発表大会「2011科技創新与QC小組成果発表大会」に招待され参加してきた.

1日半で50ほどのテーマ発表をするという,超過密スケジュールだった.
私は,家電メーカ・美的集団,エアコンメーカ・格力,志高,Welling,洗剤メーカ・立白,通信関連・Skywordなど16のテーマ発表を聞いた.全て中国企業のサークルだ.

昔,日本のQCCが活発だった頃を思わせる活気があり,発表者は皆活き活きと発表していた.彼らはまったく原稿を見ずに15分の発表をする.よほど練習をしたのであろう.十分熱意が伝わる発表であった.

発表内容は,ほとんどが不良低減など「問題解決型」のテーマであった.しかも全てが製造部門を中心とした発表であり,間接部門の発表はなかった.このあたりも,日本でQCCが活発だった頃と状況は似ている.

取り組んだ内容を見ると,設計問題としか思えない不良がいくつもあった.本来生産前に解消しておくべき問題点が,先送りされ工程内不良として認識され,対策を打っている,という状況にあるようだ.

初歩的な設計ちょんぼが散見され,まだまだ私が貢献できそうな領域が残っていると確信した(笑)

そんな中に1件だけ「課題達成型」といえる発表があった.
問題を解決するのではなく,「生産効率を2倍にする」の様な課題を設定して,それに取り組む活動を「課題達成型」と呼んでいる.したがって原因分析よりは「あるべき姿」を明確にし,現状とあるべき姿のギャップをいかにして埋めるのか,という活動になる.

問題を解消するのではなく,「現状打破」「新規業務」に対する取り組みには,課題達成型の活動が適している.特に間接部門の取り組みは,問題解決型のQCストーリィに違和感があり,課題達成型のQCストーリィで取り組むとうまく行く事例が多い.

今回の発表でも,課題達成型で取り組んだほうがうまく行きそうなテーマが他にも2件ほどあった.
問題解決型で取り組んでいるため,あるべき姿を明確にせずに,原因分析をして,「非要因」「要因」と振り分けてしまっている.「非要因」の中にあるチャンスを捨てることになる.

実は以前勤務していた会社では1990年代に,間接部門の取り組みや,更に大きな成果を目指した取り組みを活発にするために,「課題達成型」「顧客指向型」というQCストーリィを追加し,「問題解決型」QCストーリィと合わせ新しいQCストーリィを再構成した.

中国企業のQCCへの取り組みは,我々の1990年代の取り組みに一歩近づいたといえるだろう.発表会の熱気や,活動メンバーたちの熱意を考えると,日本をキャッチアップするのはそう遠い時期ではないと感じた.

50数テーマの発表の中に日系企業の発表は1テーマしか確認できなかった.うかうかしていられない.日系企業も,中国企業のQCC活動と交流し,刺激を受けた方がよい.

QCC活動の適切な指導をし,成果とともに,人材の育成を図らなければ,日本企業の優位点はあっという間に埋められてしまうという危機感を持った.

「課題達成型」「顧客指向型」の新しいQCC活動詳細については,こちら書籍をご参照いただきたい.
続QCサークルのためのQCストーリー入門


このコラムは、2011年4月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第201号に掲載した記事に加筆しました。

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設計品質

 独立して中国工場の改善支援を始めた頃、顧客のほとんどが日系企業、台湾企業だった。製品の設計は全て日本や台湾の本社で行う。中国工場の技術は設計のマイナー変更や、生産技術的な設計変更に関わっていた。

生産現場の生産性・品質改善に対して設計は大きな影響力を持つ。
例えば、工程内不良を減らすために治具を工夫して生産するよりも、不良が発生しない様に設計を変えてしまった方が、品質改善効果が高い。何よりも設計力が高まれば、新機種の生産を垂直立ち上げが可能になる。

前職時代に電源装置を担当していた。中国生産委託先での直行率を生産開始後3ヶ月で99.99%以上にした事がある。この生産委託先工場は、台湾本社で自社設計の製品も生産している。しかし工程内不良が100ppmを切る製品はひとつもない。量産開始後3ヶ月で生産を安定化させた事もなかった。

これが出来るのは製品設計や工程設計の品質を高める仕組みを持っていたからだ。

実は独立後最初の契約をくれた顧客は、この台湾企業の中国工場だった(笑)
契約時の約束通り、半年で顧客クレームを1/2にした。台北にいる設計の協力がなくてもこの程度は簡単に行く。

この上のレベルを目指すために設計品質の改善を目指した。
しかし台北にいる製品設計部門を直接指導する事が出来なかった。そこで中国工場側で、新製品試作レビュー、量産移行審査の制度を作り間接的に指導する様にした。試作レビューで設計改善要求を出しても「製造克服」と回答してくる事がままあり、設計品質向上の速度は緩やかだった(笑)

最近は中国企業の指導をする機会が増えた。製品設計部門も同じ場所にある。前職時代に作った設計品質向上の仕組みが使える。
仕組みを簡単に説明すると、失敗事例・改善事例の蓄積とレビューシステムだ。
初めの取り組みは、過去の事例収集が必要だが、これにより急速に設計品質が向上する。その後は継続的に設計品質維持向上が可能になる。


このコラムは、2016年11月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第502号に掲載した記事に加筆しました。

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品質保証と言う仕事

 先週末は,今指導している中国企業の経営会議の報告を受けた.
前回と違って,ほとんどの部門長はグラフを使って自部門の業績を報告出来たそうだ.情けない話だが,このレベルから教えなければならない.

この程度のことでは喜んでいられない.
彼らは広大な土地に宮殿の様な工場を建てて,仕事をしている.私の判断では,この工場は倒産の危機に瀕しており,このまま放置すれば1年以内に倒産だ.しかし経営者を含め,従業員に危機感がないのが決定的な問題だ.まさに血が流れ続けているのに気が付いておらず,大丈夫と言い続けている状態だ.

各自が自分都合で仕事をしており,企業の体を為していない.
設計は,目標コストを設定せずに設計している.この会社では,コスト責任は設計者ではなく,購買部門にある.従って,設計者が指定した部材が高ければ,購買部門の担当者が,勝手に別型番,別メーカに変更できる!図面を渡して,加工品を納入してもらうのならばそれもあり得るが,全ての部材を購買部門がコントロールしている.

営業は,受注し易い条件でしか顧客と交渉しない.その結果極端に利益率が低い仕事を受けてしまう.設定した工場リードタイム未満で仕事を受ける.

無理な価格で受けた仕事は,原価管理部の勝手な判断でコストに合う様に仕様が変更される.その結果サンプルとして1台目の生産をし顧客に見せた時点で,キャンセルを食らう.

品質保証は,源流に遡って保証しなければならないが,モノ造りの最源流である設計,営業がこのような状態だ.

製造部門も同様に「源流管理」の概念に欠ける.
不良は,最終工程で修理して直す.と言う考え方でモノ造りをしている.

現場にも危機感は全くなく,仕事中にぶらぶらと散歩している.そういう状態なのに,残業・休日出勤が常態化している.

この会社に必要なことは,ちゃんとした品質保証システムを取り入れ,それを機能させることだ.

設計レビューシステムはあるが機能していない.
顧客の要求品質をきちんと定義する仕組みがない.この会社の製品は,基本モデルは先に開発されているが,顧客ごとに仕様細部をエンジニアリングする必要がある.従って,受注判定会議を持ち顧客要求仕様のレビュー,受注金額の決定などのステップを踏む必要がある.

これらの品質保証システムを,全体から見てきちんと機能する様にしなければ,受注が増えれば,増えた分だけ不良損失が指数倍で増える.
忙しくなれば忙しいほど赤字が増えてしまうだろう.

この会社の致命的な所は,この様な状況で赤字経営を続けていても,許されてしまう所だ.親会社の利益を食いつぶして,広大な土地に宮殿の様な工場で,のんびりと仕事をしている.働いている従業員は,会社がつぶれても困らない.別の会社に転職すれば良いからだ.
しかし経営者や経営幹部は別だ.会社を潰した経営者・経営幹部を雇う様な奇特な会社はない.

唯一この会社の希望は,品質保証部門のリーダだ.彼は元々設計者であり,製品の設計に熟知している.その彼を「源流管理」の先兵とすべく,意欲と知識を仕込んでいる.

現状この会社の組織は,設計副総経理,営業副総経理,製造副総経理の3人が総経理を補佐する形で経営をしている(少なくとも外観上は・苦笑)そして品質保証部門は製造副総経理の担当になっている.

製造部門と品質保証部門を一人の人間が担当することは,相当難しい.しょっちゅう相反する決断をすることになる.
製造部門は,納期通りに顧客要求品質を満足した物を生産しなければならない.
品証部門は,時として納期を送らせてでも,要求品質を満足させることを優先させなければならないことがある.

この会社の総経理には,品質保証部門のリーダを二段跳びで,副総経理にすることを提案している.そして,この最年少副総経理の給与を一番高くする.総経理が,この決断が出来れば,良い方向に舵を切ることができるはずだ.能力のある者を抜擢するだけではない.その者に一番高い給与を払う.これにより,本人の意欲が上がるだけではなく,全社に品質保証の重要性を知らしめることになる.

実は品質保証部門のリーダは,設計部門に戻りたがっている.
私も,設計エンジニアから品質保証部門に異動した経歴を持っている.次週訪問時に,外から設計部門をコントロールする生きがいや楽しさを彼に理解してもらわねばならない.
もっと難しそうなのは,総経理を納得させることだが(笑)

【続編】
この企業の総経理は、その後転職し複数の企業を統括する立場となった。そして再び我々に声をかけていただいた。彼の傘下にある2工場を1年間指導した。
実は品質保証部門のリーダも総経理自身も納得させることはできなかった(笑)
それでも再び仕事をいただいたのは、実績に満足いただけたからだろう。


このコラムは、2013年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第305号に掲載した記事に加筆しました。

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データで確認する

 常識だと思って、間違った判断している事が、意外と多いのではないだろうか?

例えば、静電気による不良は空気が乾燥している冬の方が多い、と皆が思っているが、実は夏場空調の風が当たる場所の方が帯電しやすかったりする。
ヒューマンエラーについて研究している中田亨氏は、ヒューマンエラーによる労働災害のデータを調べてみると、常識と思っていた事がことごとく違っている。と指摘している。

「ヒューマンエラー対策 事例から見たミス防止の実際」中田亨著

以下の様な事例が上記の書籍に出ていた。

  • 安全事故が多い時間帯:終業時刻間際? または 午前中?
  • 事故が多い季節:夏と冬? または 季節で有意差なし?
  • 事故を起こしやすい人:慌て者、新人,年配者? または 模範的中堅者?
  • 落下事故が起きやすい高さ:3m以上? または 3m未満?

どちらが正解と思われるだろうか?

調査データによると、全て後者だそうだ。
「常識」だと思っている事がただの「思い込み」である、という事が多い様だ。
「こうであるに違いない」と思い込んでいると、全てがその様にしか見えなくなる。他の考えが思い浮かばなくなる。

事実は現場・現物・現実でデータで理解する。
データがないモノは、先ず疑ってかかる。
このくらいの心構えがちょうど良いくらいだろう。


このコラムは、2017年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第518号に掲載した記事に加筆しました。

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サムスン

 先週のメルマガにも書いたが、最近サムスンがリチウム電池、スマホの爆発問題、韓国大統領に絡んだ収賄容疑などで、注目を集めている。

そんな折りにサムスンに関する書籍を読んだ。

「サムスンの決定はなぜ世界一速いのか」吉川良三著

サムスンと言うと、日本メーカに勤める現役の半導体、液晶エンジニアを週末に韓国に招き日本の技術を盗み取ったという印象があり、個人的には好きになれない。この書籍を読むときも、どちらかと言うと著者の李健煕(イゴンヒ)会長(今収賄容疑で話題となっている李在鎔(イジェヨン)の父親)礼賛が鼻に付き気持ちよく読めなかった(笑)

確かに韓国企業にしろ中国企業にしろ、成長著しい企業の意思決定速度は速い。それらの経営トップは即座に意思決定し、事業の舵を切る。一方日本企業は、稟議書を何度も書き直し、結局何も決定せず、行動を起こさない。そんな印象がある。

サムスンは大企業とはいえ、オーナー経営者の企業だ。比較される日本企業はサラリーマン経営者の企業だ。意思決定の速度の違いはある程度やむを得ない、と考えながら読み進めていた。

しかしサムスンを内部から観察した著者の指摘には納得出来る部分が多くある。

「品質は顧客が決める」李健煕会長の言葉だ。
日本品質を誇りに感じるが、それが売れなければ意味はない。開発途上の市場には、その市場にあった品質、価格がある。ここで言う品質とは、工程内品質の事ではない。顧客要求品質の事だ。
工程内品質は、高ければ高い程コストは安くなるはずだ。しかし顧客要求品質を高めれば、コストが上がり販売価格も上げざるを得ない。顧客が要求する品質に対しては、コストをかけるべきだが、顧客が要求していない品質にコストをかけても意味はない。

世帯収入が月額1万円程の家庭で子供に100円のボールペンは買わないだろう。
書き味や最後まで使える様な品質を実現しようとすれば、ペン先端の鋼球の加工精度や、インクのグレードを上げなければならないだろう。それらを犠牲にしても1本10円で買えるボールペンを作らねば市場は取れない。
マーケットイン、ニーズオリエントという言葉はさんざん聞くが、我々は日本品質という呪縛から逃れられないのではなかろうか?

マーケットインとは、市場に合わせた製品を生産する事だ。そのためには多品種少量生産をする事になる。サムスンが生産する携帯電話モデルは数万品種あるらしい。多品種少量生産は本来日本的モノ造りの得意技だったはずだ。

マーケットインが可能になるのは、市場の要求を理解する事がスタートだ。サムスンはターゲットの国々に社員を深く潜入させる。中国に赴任している韓国人の多くは家族帯同で地域に根ざして生活をしている。サムソン電子に電源を納入している企業の指導をしていた事があるので、何人もサムスン電子の社員を知っている。殆どの人は韓国語以外に複数の外国語を話す。(水原のサムスンを訪問したときは韓国語しか話せない人もいたが・笑)

中国は既にローコスト生産国ではない。市場として捕え、マーケットインの製品を生産しなければならない。そのためにサムスンのスタイルを研究する価値はありそうだ。

サムスン、携帯見本市でもトラブル続き

 バルセロナで開催されたスマホの展示会MWCでサムスンは、Note7の後継機を発表しないと決めていたが、展示にトラブルがあったり、グリーン・ピースの活動家の乱入があったりで「何から何までサムスンらしくないイベントだった」そうだ。

日本経済新聞電子版の記事

リチウムイオン電池の爆発問題、経営者の贈賄容疑など弱り目に祟り目とはこの様な状態を言うのだろう。

一頃は、AppleのiPhoneに対抗出来るのはサムスンくらいしかいないだろうと言われた企業が見る影もない。この様な状態に落ち込んでしまったきっかけはやはりリチウムイオン電池爆発事故に発端があった様な気がする。

回収交換品も発煙事故を起こす、などの不手際により新機種の開発が送れた事は否定出来ないだろう。新機種の発表が出来ないMWCは、敗戦消化試合の様なモノだったのだろう。そのような気のゆるみが今回の不手際に影響を与えたと想像出来る。展示会の直前に副会長が逮捕されたのも何らかの影響があったかも知れない。

根本の原因は、リチウムイオン電池の信頼性評価が不足していた事だと推測している。電池は製品のキーデバイスであり、リチウムイオン電池は過去から何度も事故を起こしている「安全対象部品」だ。
電池単体の信頼性評価だけではなく、設計や製造工程、製造方法に潜在的な危険がないか十分に評価すべきだった様に思う。

設計や信頼性試験に問題がなくても、製造過程で問題を造り込む事は十分あり得る。ある友人は、リチウムイオン電池を生産する中国工場(サムソンの関連企業ではない)で、厚さ寸法が規格に入らない不良品を叩いて修理しているのを目撃したと言っていた。製造工程も事前に十分監査しておく必要がある。

事前の品質保証活動(予防保全的品質保証)が不十分であったが故に、最初の事故発生時の原因解析が甘く、対策済みであるとした回収交換品でも事故が再発する事になる。

品質問題は、先手必勝だ。後手に回れば中々収束出来ない。

余談だが、高名な日本人コンサルがサムスンにFMEAを教えたと聞いた事がある。サムスンはその教えを活かしきれなかった様だ。


このコラムは、2017年3月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第518号に掲載した記事に加筆しました。

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サムスンの工場で火災、バッテリ発火が原因か

 CNET Newsの報道によると、サムスンのバッテリ生産子会社Samsung SDIの天津市工場でリチウム電池の不良が原因とみられる火災が発生した。

記事全文

(CNET Japanより)

 記事には、バッテリの不良が原因とみられる小規模な火災が発生したとある。複数のバッテリィを含む廃棄品が発火したと地元消防当局の発表を伝えている。

最初のリコールの原因となったのは、電池の設計問題。交換の電池により発生した事故は製造問題。それに対するサムスンの対策は検査の強化。
本件に関して本メールマガジン第513号では、検査の強化(流出対策)では何も解決しない。発火の原因に対する対策が必要だと指摘した。

私の心配は的中してしまったようだ。
検査を強化すれば、付加価値を生まない検査コストが増加する。しかし少なくとも市場への流出は防ぐことができるかもしれない。現に検査で不良品を発見できている。しかし選別廃棄した不良品が発火事故を起こしている。

この記事を深読みをすると、もっと根の深い「闇」が見えて来る。
目視検査で発見できた不良品が、廃棄後に発火するだろうか?充電することにより、エネルギーを供給しなければ発火事故は発生しないはずだ。

なぜこのような事故が発生するのか考えてみた。

  • 目視検査で不良品を見逃し、充電中に発火。
  • 検査工程の設計が悪く、充電したのちにX線検査装置で内部短絡を発見、発熱している不良品を不用意にゴミ箱に廃棄。

これに対しさらに再発防止対策を検討すると

  • 目視検査の二重化
  • 爆発物処理用のゴミ箱を用意

など、ますますおかしな対策を施すことになる。

肝心なことは、発生原因に対する再発防止対策をすることである。
流出防止対策は「念のため」程度に考えた方が良いだろう。


このコラムは、2017年2月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第515号に掲載した記事に加筆しました。

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