カテゴリー別アーカイブ: 品質保証

宇宙行けば体重減ります 宇宙機構、飛行士514人解析

 宇宙に行くと体重が減る──。宇宙航空研究開発機構の松本暁子医長らのグループが、30~50歳代の宇宙飛行士延べ514人について、宇宙へ行く前後の体重変化のデータを集め、そんな解析結果をまとめた。

 調査対象は、1961年から2004年の間に宇宙へ行った米国、日本、カナダ、欧州、ロシアの飛行士のうち、米航空宇宙局(NASA)の記録があった男性延べ434人、女性同80人。宇宙飛行の前後で体重が平均2.13%減っていた。

 宇宙では、無重力のため筋肉量が減るほか、体液の移動など様々な要因で、体重減少が起きるらしい。地球に帰還し3カ月~1年経った後も、飛行前に比べて平均約1%軽かった。

(asahi.conより)

 こういうデータの出し方は,大変胡散臭い.
例えば私の場合体重68kgなので,2.13%の体重増減といえば,約1.4kgだ.このくらいの体重変動ならば,朝食前と夕食後では十分起こりうる.また2,3kmジョギングしただけでも,その程度の体重は減る.

たまたまあったデータで,科学的な結論を導こうというのが間違いだ.

宇宙に行く前後の体重データには,測定時条件の誤差+測定誤差+宇宙効果が含まれている.測定時条件とは,測定時に空腹だったかどうかなどの身体的な条件による誤差.測定誤差は,測定器具と測定方法による誤差.これらの誤差が,宇宙効果よりも小さくなくては有意とはいえない.

しかも宇宙効果の中には,個人差によるバラツキ,宇宙滞在期間によるバラツキが含まれる.

従ってこの調査によって得られるのは,宇宙に行くことにより「筋肉量の減少」と「体液の移動」によって体重が減少するかもしれないという仮説だけだ.

体重減少のメカニズムを考えると「筋肉量の減少」は,再評価する価値がありそうだ.しかし「体液の移動」に関しては,移動しても体液はまだ体内にあり,体重変動があるとは思えない.

科学的な結論を得ようとするならば,検証可能な仮説を立て,正しいデータにより検証をしなければならない.
当然データには誤差によるバラツキ,効果によるバラツキが含まれる.これは統計的に検証可能だが,正しいデータを取らなければ誤差によるバラツキの方が大きくなってしまい,有意な結論を導くことはできない.

まずは具体的な仮説を設定する.
この例で言えば「宇宙に行く前後で体重減少がある」は,まだ具体的ではない.
「宇宙滞在時に筋肉量が減り体重が減る」という仮設にすれば,具体性が増す.
その仮説に基づき,必要なデータを集める.
この例ならば,宇宙滞在期間と体重減少量との間に相関があるかどうかという仮説を検証するデータを集めればよい.

その上で各個人の体重減少量のバラツキが,誤差によるバラツキより十分大きいことが検証できれば,この仮説は有意であると結論をつけることができる.

今「イシューからはじめよ」という本を読んでいる.
著者の安宅和人氏は,脳神経科学の研究者であり,経営コンサルタントのキャリアを持つという変わった人だ.
本書の中で,問題を解くことを考えるのではなく,まず問題を見極めよ.その上で価値のある結果を導け.と説いている.

今まで問題解決に関する書籍にはたくさん出会ってきたが,安宅氏のようにまず問題を見極めよ,という主張は新鮮であり,もっともだと思う.

ご興味がある方は是非一読をお勧めする.
ただし今回のコラムに書いたような統計的手法について語っている本ではない.

「イシューからはじめよ」


このコラムは、2011年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第213号に掲載した記事を修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

品質意識

 以前「無料工場診断」でお邪魔した工場で,品質保証部ローカルスタッフの皆さんと昼休みに雑談をしたことがある.

アルミダイキャスト製品を中心とした工場だ.
午前中の現場診断で,工程内不良率が高いのがこの工場の問題点だと認識していた.しかし工程内不良品は,また原材料として再利用できる.歩留まりという観点だけを見ていれば,そこそこ良いデータが見えている.従って経営者の問題意識は,リードタイムや納期遵守に関する問題に集中していた.当然工程内不良率を下げてやれば,リードタイム,納期遵守率も改善できる.

品質保証部のスタッフはどんな問題意識を持っているのか興味があり,雑談をしてみた.

彼らの問題意識は「各部署の品質意識が低い」ということだった.
いろいろな部署の実例を挙げて品質意識に関する不満を説明してくれた.

しかし「品質意識が低い」ということは品質保証部にとっては不満ではない.課題だ.
「品質意識が低い」と不満を漏らすということは,自分たちの仕事が全うできていません,ということを言っているのと等しい.

品質保証部の仕事は「品質管理」と「品質改善」だ.
これを通して顧客の満足を得るのが品質保証部の仕事だ.
この二つの任務「品質管理」「品質改善」が円滑に行われるためには,従業員全員の「品質第一のココロ」を養わなくてはならない.

従って品質保証部のスタッフは他部署の人間が「品質意識が低い」という感想や不満を漏らしてはならない.どのようにすれば全社の品質意識が上がるかと真剣に考え,それを実際の施策に落とし込まねばならない.


このコラムは、2009年12月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第130号に掲載した記事に修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

確信ミス

 今週は「ヒヤリハット」に続いてミスについてもう少し考察してみたい。
ミスにはいくつかタイプが有る。

  • 無知ミス:知らない事により発生するミス。
  • うっかりミス:知っているのに何らかの理由で発生するミス。
  • 確信ミス:間違った理解により確信を持って起こすミス。
  • 過信ミス:能力を過信することにより、回避不能となり発生するミス。
    良いネーミングが思い浮かばなかった。ご容赦願いたい。

無知ミスやうっかりミスに関しては、上述したヒヤリハットの様に、有効な対策が有る。作業を定型化したり、ポカよけを入れることにより予防可能だ。

厄介なのは、確信ミスや過信ミスだ。間違った理解や過信により、基本動作を無視してしまうミスだ。チェルノブイリの原子炉メルトダウンは過信ミスによるモノだと言われている。臨界点を越えているのに、まだ制御可能と過信したために手遅れとなった。

30年前のJAL機御巣鷹山墜落事故は、圧力隔壁に修理時に確信ミスが有ったと、事故調査委員会は考えた様だ。
事故機の圧力隔壁交換修理時に、ボーイング社の指示書通りの修理がされず、上下の隔壁をつないだ箇所のリベット留めが不十分で強度が足りない状態になっていた。修理担当者の証言が得られず、調査報告書には記載出来なかったが、事故調査委員の見解は、修理作業員の確信ミスと判断した様だ。
つまり、作業担当者が指示書通りではパーツ間に隙間ができるため問題だと思い込み、隙間ができないように継ぎ板を切断したのではないか。その結果、リベット留めの強度が不十分になった、と推定した。

以前指導したメーカでは、コストダウンの為に保護回路を取ってしまった。
元エンジニアのオーナ経営者の「過電圧保護など必要ないだろ」の一言に誰も反論出来なかった。しかし寿命設計が不適切であり、部品の寿命により過電圧が発生。保護回路がない為に周辺を巻き添えにして破損すると言う市場不良が多発してしまった。この時点で相談を受けても手遅れだ(苦笑)

これらの事例には共通点が有る。局所的な問題点を、全体を理解せずに対処してしまうと、この様なミスが発生する。これは当人が確信を持ってミスを犯しているので、防ぐのは困難だ。

修理にはしばしば「現物合わせ」と言う異常行為が行われる。
ボーイング社の修理事例では、現物合わせをしなければならない理由を検証していれば、飛行中に圧力隔壁が吹き飛んでしまうなどと言う事故は発生しなかったはずだ。

設計変更は本来、変更による影響を検証しなければならない。上述の例では過電圧が発する可能性を漏れなくあげていれば、過電圧保護回路を取ると言うコストダウンはせずに、不適切な寿命設計を発見出来ていただろう。
この寿命設計ミスを修正して初めて、過電圧保護を取ると言うコストダウンが可能となる。ちなみに過電圧保護機能を外しても、2,3点の部品を減らす事が出来るだけだ。金額にすれば数円だ。

いずれの場合も、正規の手順から外れた場合に「標準手順」を愚直に実施する他に事故を回避する手段はないと考えている。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に修正・加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

「ヒヤリハット手帳」を作成、ミスを最大限防ぐ

 仕事のミスは防ぐべきものだが、気の緩みや勘違いなどで、思わぬミスをしてしまうことはよくある。そんなミスにすぐ気づき、「ヒヤリとする」「ハッとする」。そこまではいい。問題はその後だ。小さなミスをしたあなたは、ホッと胸をなで下ろして、やり過ごしていないだろうか。やってしまったミスと正しく向き合い、その後のミスを防ぐ方法を紹介する。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 記事は「ヒヤリハット」を個人資産として手帳に蓄積しよう、と言う趣旨だ。
私は「ヒヤリハット」を組織資産として蓄積活用することを推奨している。

「ヒヤリハット」と言うと、ハインリッヒの法則を想起される方が多いだろう。労働災害を調査したところ、1件の重大事故の背後には29件の軽事故が発生しており、300件のヒヤリハットが発生している、という経験則を見つけている。これがハインリッヒの法則だ。

ヒヤリハットをなくすことで重大事故を防ごうと言うのが、災害防止の考え方だ。災害防止と同様に、ヒヤリハットをなくすことで顧客クレームも予防出来ると考えられる。

例えば、作業員が生産中の製品がいつもと違うと言う違和感を持った。それを班長に告げたところ、製造ミスに気が付き全数修復した。もしこの作業員が気が付かなかったら、もしくは気が付いても何も言わなかったら、大量の不良が客先に流出するところだった。
この話は実際にあった例で、この作業員には報奨金が与えられた。詳細は記憶にないが、当時にしては破格の金額だった。

設計でも同じ様なことは有る。検図や設計レビューで気が付けば良いが、生産開始後に気が付くと、相当な損失となる。金額だけではなく、製品リリースが遅れる事が致命傷となることも有る。

この様なヒヤリハット体験を、組織の知恵として蓄積する仕組みを持つ。この仕組みが機能する為には、まずはミスを隠さない組織文化が必要だ。

前職時代には、過去数年間の設計ミス事例を洗い出し、1項目1ページの定型レポートを作った。このレポートを分析し、設計レビューチェックリストを作成した。設計完了後、設計者自身でチェックをし、チームリーダが設計者と面談で確認しながらダブルチェックをすると言う仕組みを作った。設計審査は、このチェックリストが完成しなければ開催出来ないルールとした。

このチェックリストを運用し始めてから、設計ミスは格段に減った。
実際には、チェックリストだけではなく計算機支援でデザインルールチェックも入れた。デザインルールは、上記の設計ミス事例集から抽出している。

プリント基板に後加工でパターンカットやジャンパ線を追加する事はほとんど無くなった。ほとんどと書いたのは、設計後仕様変更があり、プリント基板に後加工をする必要が発生する事が時々有ったからだ。(こちらは別の方法で削減しなければならない。)

しかし、チェックリストを作っても運用が形式的になれば効果は期待出来ない。ルールとは別に、チョットした仕掛けを入れた。
上述したチェックリスト運用ルール中のチームリーダとのダブルチェックは設計者に対する教育効果を狙っている。若手の設計者が、先輩の失敗と言う「財宝」から学ばなければ、それこそ宝の持ち腐れだ。

製造のミスも同様だ。工程内不良が事故に於けるヒヤリハットに当たる。
工程内不良の原因をしっかり分析し、再発防止をする。これを作業指示書に反映するとともに、次の機種の作業指示書には最初から再発防止を組み込むようにしておく。

このようにして組織でヒヤリハットを蓄積共有し、活用する事が重要だと思っている。特にこれからの中国でのモノ造りは、単純に製造部門だけのモノ造りでは無くなって来る。工程設計、製品設計も中国でやる様になるだろう。この様な考え方を導入しておかねばならない。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

問題解決と問題対処

 1月5日配信のメルマガ「因果関係と相関関係」「ジョブ理論」という書籍をご紹介した。

この書籍の中に日米の自動車工場の比較があった。
米国の自動車業界は、できる限り問題を修復しようとする。
日本の自動車業界は、問題が発生するプロセスを改善しようとする。

米国の自動車業界は、問題を管理しようとした。
問題発生に備え、予備の部品を用意する。問題が発生した製品の修理ラインを作る。生産ラインで発生する問題を管理することで、生産ラインを効率良く稼働する様に考えた。
つまり発生する問題に「対処」する方法を考えた。

一方日本の自動車業界は、生産ラインで発生する問題の原因を徹底的に学習し再発防止を繰り返した。
トヨタが修理工場をなくし、ラインを止めて修理する様にしたのは、問題の再発防止を促進するためだ。生産ラインを改善すれば、生産ラインは高効率で生産できる様になる。
これが問題に対する「解決」だ。

「対処」は問題に対する一時しのぎ。
「解決」は問題の根絶。
と考えていただければわかりやすいかもしれない。

もう一つ例を示そう。

設備点検でネジの緩みを見つけた時に増し締めするのは「問題対処」
設備点検でネジの緩みを見つけた時に原因分析をして対策するのが「問題解決」

問題対処の方が簡単にできる。問題解決には時間がかかることもある。
目先の効率にとらわれ問題対処ばかりしていれば、本当の効率改善は不可能だ。


このコラムは、2018年1月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第619号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

問題解決

 先週のコラムで「物有本末」と言う話をした.

問題解決にも「物有本末」がある.
問題解決の結果,改善効果が発生する,これが「末」だとすれば,「本」は何だろう?

問題発見,解決課題の設定,ここいら辺に「本」がありそうだ.
真の問題を見つける,本質的解決課題を設定する,ここいらで間違いがあると,「末」としての改善効果は期待出来ない.

例えば,ある工程の作業にムダがあることに気が付いた(問題の発見).
作業方法の改善によりサイクルタイムが短く出来そうだ(解決課題の設定).

こう言う形で改善活動を進めると,改善効果は期待出来ない.
問題が真の問題かどうか?解決しなければならない課題は何か?
こう言う考察が抜けている.

本質的課題は,ある工程のサイクルタイム短縮ではなく,全工程の生産性向上のはずだ.従ってある工程のサイクルタイムが,全工程のタクトタイム以下であれば,この問題は真の問題ではない.
従って,この工程のサイクルタイムを短くすることが解決課題ではなく,この工程をなくせないか,と言うのが本質的課題となる.作業自体はなくせなくても,工程はなくすことができるはずだ.

他の例を挙げよう.
顧客に不良品を流出させてしまい,全数再出荷検査をすることにした.
こう言う考え方が「本末」を間違えていると言いたい.

真の問題は,顧客に不良品が流出したことではなく,工程内に不良がある事,その不良が工程内検査で100%捕捉出来ない事だ.
この2点に真の問題があり,ここに解決課題を設定しなければ,不良流出は必ず再現する.工程内で不良が発生し続けていれば,不良流出の可能性は残る.
そして工程内検査で不良捕捉が100%出来ていない,と言う問題にフォーカスしなければ,全数再出荷検査をしても,不良流出の可能性はゼロにはなっていない.

不良流出で,お客様からきつくお叱りをいただく.ここで焦って「全数再検査」などと言う再発防止対策を出してはならない.検査は何も付加価値を生まない.ムダな作業を一生続けなけることになる.

ここで,全体を俯瞰し真の問題は何処にあるのか?本質的解決課題は何か?冷静に考えなければならない.

問題に直面したら,焦って対応を考えるのではなく,一歩引いて高い場所から俯瞰する習慣を持っていただきたい.その際に「物有本末」と呪文を唱えていただいたら良かろう(笑)


このコラムは、2013年6月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第314号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

続・見えない不良

 先週月曜日のメルマガでお約束した様に、書籍「『品質力』の磨き方」から、品質工学(田口メソッド)について、シェアしたい。

「『品質力』の磨き方」長谷部光雄著

品質工学に関してはこちらの書籍も大いに理解を助けてくれるだろう。
「技術者の意地」長谷部光雄著

この書籍は、湿度センサーの開発者が製造部門での不安定性、市場不良を解決すべく奮闘する姿が物語として語られている。品質工学を指導する十文字教授が登場するが、この人は品質工学の元祖・田口玄一教授がモデルだろう。田ー口=十だ(笑)

この2冊の書籍を読んでも即「品質工学」を活用出来る訳ではないが、考え方は理解出来る。その上で品質工学の専門書を読まれるのが良いと思う。

若い頃田口玄一教授の講演を聞いた事がある。残念ながら当時は田口教授の言っている事が全く理解で樹なかった(苦笑)田口メソッドは実験計画法の一種だと思っていた。田口メソッドは実験計画法の直交表を使うが、実験計画法とは全く違う理念に基づいた手法だ。

工程内不良や市場不良の原因を分析する時に、よく「分ければ分かる」と言う。
現象を層別したり、原因となる要因を分け、要因ごとに解析し対策を検討する。そんなやり方が一般的だろう。このやり方が悪い訳ではない。しかしこの方法は不良が発生しなければ、活用出来ない。

一方田口メソッドは「いじめれば分かる」という。
設計時に「いじめる」事により、より堅牢な(ロバスティックな)設計をするのが田口メソッドだ。堅牢な設計とは、製造時の変動や市場環境の変動による影響に対して「鈍感」にしておくと言う意味だ。
製造条件の変動に対して「敏感」であれば工程内不良は減らない。
市場環境の変動とは、ユーザの使い方や経年変化を含む。
これらの変動に対し「鈍感」(ロバスティック)になる様に設計パラメータを決める。

通常は設計パラメータを決定する場合、条件を製品仕様範囲内で検討する。
一方、田口メソッドの場合は、製造や市場での環境変動を仕様範囲を超えて極端に振る。これを「いじめ」と言っている。いじめによって、変動に「鈍感」なパラメータを設定し、特性に対して感度の高いパラメータで特性を調整する。

つまり変動に対する感度(SN比)と狙いの特性に対する感度(S)を同時に評価し設計するのが田口メソッドだ。

田口メソッドは「見えない不良」を設計時に先行対策するのに大いに力を発揮する。それだけではない、巨大化するソフトウェアの評価にも力を発揮する。

田口教授の講演を聴いてもさっぱり分からなかったが、その後もずっと気になっており、当時の部下に品質工学会に入会して勉強してもらった。彼はその後全社のソフトウェア評価の責任者になっている。

中国の日系工場は設計は既に本社で完了している事が多いが、徐々に設計を中国に移管し始めている企業もある。

書籍を読む限り簡単に応用出来そうだが、実際には制御因子、信号因子、誤差因子をどのように決めるかの経験智が必要になる。実践して経験を積むことにより活用出来る様になるだろう。

余談だが、本日ご紹介した書籍「技術者の意地」は、本のソムリエさんからいただいた。本のソムリエさんは、読んだ本を毎日一冊づつ紹介するメルマガを配信しておられる。読んで見たけど紹介に値しない本もあるだろう。年間356冊以上本を読んでおられると思う。驚異の読書量だ。

メルマガ:1分間書評!【一日一冊】

さらに読まれた本をメルマガ読者様にプレゼントしている。
すでに3000冊近くの本をプレゼントしている。郵送料だけでも大変な金額だ。時間をかけてメルマガを書き、さらに読んだ本をプレゼントする。ただの本好きではできないことだ。上記のURLから配信の登録ができる。無料配信だ。ご興味のある方はご登録いただきたい。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

見えない不良

 最近大規模な市場クレーム・リコール問題が多く発生している。
昔と比較して日本企業の技術力が低下しているのではないだろうか?私自身もこの様な危惧を抱いていた。技術力と言うのは設計技術ばかりではなく、生産に関わる現場の技術も含む。

バブル崩壊後、日本の製造業の多くが米国流の株主最優先の経営に傾倒し短期業績を追求した結果「現場力」を失ってしまったのが最大の原因と考えていた。つまり現場の職能工を、派遣社員や臨時工に置き換え人件費を変動経費化する事により経営を建て直そうとした。しかしその結果、現場に有ったモノ造りの力が消散してしまったのが原因と考えていた。

しかし、長谷部光雄氏の『「品質力」の磨き方』と言う書籍を読んで得心した。

『「品質力」の磨き方』長谷部光雄著

長谷部氏はリコーで複写機の開発をして来られた方だ。
彼の主張では、リコールの増加は技術力の低下ではなく、社会的要求の変化だ。

市場クレームやリコール問題が発生する製品は、製造過程では良品であった。工程内検査も、出荷検査も全て合格品だった訳だ。(この書籍が執筆されたのは2008年であり、昨今の検査データ改ざんなどの品質問題には触れていない)
出荷後の使用環境(温湿度や経年変化だけではなく、ユーザの使い方、期待等)の変化を予め想定出来なかった「見えない不良」がリコールの原因だと、彼は主張している。つまり現場力の低下が問題ではなく、開発設計力が市場要求の変化に追従できていない事が、リコール問題の根本原因だと言う。

設計の確からしさ、妥当性の確認が不十分だと言う事だ。もちろん設計評価に十分時間をかけていただろうが「見えない不良」(潜在不良)の想定が時代の変化に対して不十分だったと言う考え方だ。

「見える不良」「可視化で切る不良」は製造現場の力で排除出来る。しかし「見えない不良」を解決出来るのは開発設計工程だけだ。長らく開発設計に携わって来た技術者としての見識だろう。私も開発、品証を経験して来た者として、得心を得た。

書籍から判断すると、長谷部氏は「品質工学」(田口メソッド)に精通した方の様だ。近いうちに『「品質力」の磨き方』から得られた知見をシェアしたいと考えている。


このコラムは、2017年8月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第552号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

品質記録

 先週と今週は、中国民営企業で現場改善を指導している。

現場で以下の様な状況を発見した。完成品の最終検査で不具合が見つかり、不良内容をテープに書いて不良現品に貼付けてある。大きな製品なので、不良品を入れる箱に入れる事は不可能だ。不良品置き場に隔離する事も、現実的ではない。不良を示すテープを貼る事は合理的だと思う。不具合内容も書いてあるので、後の修理処置も明確になる。

しかし驚く事に、この不良は記録されていない。

検査では検査数量,不良数量を記録している。不良の責任工程も記録してある。しかし不良内容が記録されていない。検査記録の目的が、我々の常識とは違っている様だ。彼らの検査記録は、出来高制の給与計算が目的なのだろう、と勘ぐってしまう。

彼らは、生産工程ごとに品質検査をしており、正しく加工出来た事を、1台毎に添付された検査記録表に記録している。ISOの要求だから記録している、と言う事なのだろう。

品質記録は自分たちの改善に活用すべきだ。各工程で発生した不良を記録する様に指導をした。品質管理担当の副総経理が、私の話を聞きながら熱心にメモしているのを見て、少し驚いた。このレベルから指導をしなければならない、と言うのは彼らの伸び代が大きいと言う事であり、私の貢献意欲が大いに刺激される(笑)

何かのコマーシャルで「物より記憶」と言うキャッチコピーが有った様に記憶している。社会が豊かになると、物への欲求より「思い出」の様な精神的な欲求が強くなるのだろう。

生産現場では記憶より記録が重要だ。

この工場の生産記録には、投入台数と完成台数だけしかなかった。更にかかった工数、正規工数よりよけいにかかった時間とその原因などの項目を追加した。

その結果色々な事がデータとして分かる。
生産現場のリーダや管理職は、部材が計画通りに揃わない事が、生産ロスの最大の原因だと主張している。しかしデータから判断出来る事は、生産機種の変更に最も時間がかかっていると言う事だ。

彼らの主張通り,部材調達問題の改善に取り組んでもそれほど大きな効果は見込めないだろう。機種変更段取り時間をいかに短縮するかが、優先課題だ。

この記録から、ある工程では、5月上旬を境に生産性が平均70%向上している事が一目瞭然となった。生産性が急増した境目は、前回指導時に与えた宿題が実施された日だ。

実はこの工程に与えた宿題は2S(整理・整頓)だけだ。
不要不急の部材を整理し、今生産する為の部材を適切な場所に整頓する。たったこれだけの事で生産性が70%向上した。


このコラムは、2016年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第146号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

記憶より記録

 2010年4月5日配信のメルマガで「記憶より記録」と言うタイトルでコラムを書いた。行動主義で部下を評価する、そのためには記憶より記録が重要だ、と言う論旨だった。

今回は別の切り口で「記憶より記録」について考えてみたい。

QCC活動などで問題解決のテーマに取り組む場合、正しく課題を設定する事、原因分析により真の原因を発見する事が重要となる。

原因分析には色々な手法があるが、QC七つ道具の「特性要因図(魚骨図)」を描いて安心してしまうサークルが多い様に思う。確かに特性要因図は、問題の原因となる要因を沢山挙げるための有効なツールだ。その要因が真の原因である事を確かめる。今回の原因ではないが、潜在的不具合要因に対策を検討しておく、などの様に活用する事が出来る。

QCC活動の指導をしている企業で、金属表面処理の不良改善に取り組んでいるサークルがある。何時間もかけて表面処理をした結果、不良となる。その間のコストだけではなく、再処理のために金属表面を化学処理で元の状態に戻す時間とコストが必要になる。彼らの目標は数%の改善だが、その年間費用改善効果は数100万元を越えている。(計算は直接損失コストしか含んでいないが、不良ロットの修復にかかるコストや、納期遅延による顧客信頼ロスを含めるともっと改善効果は高そうだ)

初めてQCC活動をする彼らも、特性要因図を描いた所で安心している(笑)
その結果、表面処理設備の真空ポンプと蒸着の陽極電源の故障が主原因と分析した。彼らは今までの経験(記憶)に従って,不具合発生の要因を挙げ、その中から主原因を選択している。やり方が間違っている訳ではないが、証拠を揃えながら原因分析をしなければならない。

彼らは、金属表面処理の専門家ではあるが、設備(真空ポンプや高圧電源)の専門家ではない。彼らが取るべきアプローチは、過去に発生した設備故障の原因と製品不良の因果関係を記録によって調べる事が最初だろう。その結果、何が主要因であるか絞り込む事が出来、更に真の原因を分析する事が出来るはずだ。真空ポンプや高圧電源は彼らに取って専門外の固有技術であっても、管理技術で分析した結果を元に、設備メーカと協力して原因分析、対策検討が出来るはずだ。

管理技術だけで問題解決をする事は出来ない。しかし「記憶」と言う不確かな状況証拠だけではなく、「記録」と言う客観的な証拠を元に管理技術を駆使し固有技術を持っている人の協力を求める。こういうアプローチで改善が出来るはずだ。


このコラムは、2017年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】