品質保証」カテゴリーアーカイブ

なぜなぜ5回

 原部長は工場の喫煙室で,いらいらしながらタバコを吸っていた.
もう3時になるというのに,今朝行われたミーティング記事録が届いていない.中国生産工場の品質部長として赴任している原部長は,週に一回ローカル
スタッフに,品質会議を開催させている.朝開かれる品質会議の議事録を当日の昼までに提出するのが決まりだ.その議事録がまだ届いていないのだ.

二本目のタバコに火を点けた時に,品質部の陳課長が喫煙室に入って来た.ちょうど良いところだ.
原「陳さん.今朝の議事録がまだ来ていないけど,どうした?」
陳「実は今朝会議が開けませんでした」

なぜ早く報告しないのだ,と言う怒りをぐっとこらえ.
原「なぜ会議が開けなかったの?」
陳「周さんが遅刻して,お昼に出社しました」
周君は,上司の指示にいやな顔ひとつせず,しっかり仕事をする優秀な部下だ.昨日も定時過ぎに急ぎの仕事を頼み,二つ返事で引き受けてくれた.

原「なぜ周君は遅刻しなの?」
陳「寝坊しました」

周君を呼びつけて,しっかりと叱らなければならんと思った原部長だが,日ごろなぜなぜを5回繰り返さねばならないと,部下を指導している手前更に質問を重ねた.
原「なぜ寝坊したの?」
陳「昨日帰るのが遅くなり,寝るのが遅くなったそうです」
原「なぜ遅くなったの?」
陳「仕事が終わらなかったそうです」

よしこれで4回なぜを繰り返したぞ.後1回だ.
原「なぜ仕事が終わらなかった?」
陳「原部長に頼まれた仕事が多すぎました」
原「あっ」
原部長は,今朝デスクの上に昨夜周君に頼んだ資料が置いてあったのを思い出した.

原部長は,なぜなぜ5回を実践して,本当は自分に非があったことを発見してしまった.もしなぜなぜを2回で終わってしまったら,「周君に目覚まし時計を買ってやる」と言う再発防止対策になったはずだ.これでは問題の表面に対策を打っただけになる.

しかし何か釈然としない.では,この場合どのような再発防止対策を打てば良いのだろう?

原部長は,三本目のタバコに火を点けて考え込んでしまった……

これは架空のなぜなぜ5回問答だ.
ここで原部長が,考え込んでしまった原因を考えたい.
これを放置しておけば,原部長の喫煙量が増えてしまう(笑)

なぜなぜ5回をする目的は,真の原因を見つけ,それに対策を打つことにある.不具合現象の表層を見て対策をしても,必ず不具合現象は再発する.

この例では,なぜなぜを5回しても,有効な対策は見つからない.なぜなら,なぜなぜの答えを「他責」にしているからだ.
「原部長が定時後に仕事を与えた」と言う原因は「他責」だ.これでは「上司は定時後に部下に仕事を与えない」などと言う,自分で解決不可能な対策しか出てこない.

なぜなぜの答えを「自責」にすると,「なぜ仕事が終わらなかったか?」と言う質問に対する答えは「仕事量の見積もりを誤った」となる.
仕事の見積もりが正しくできていたとすれば「深夜まで残業になりそうな事を,上司に連絡しなかった」となるはずだ.

対策を,「仕事を頼まれたら仕事量を見積もって報告する」とすれば,上司は,翌日のスケジュールを変更する.人手を更に投入する.
など問題が起きないように事前に手を打てるようなる.


このコラムは、2011年2月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第193号に掲載した記事に加筆したものです。

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こちらの記事もどうぞ「なぜなぜ5回」

駅員が施錠し帰宅、乗客30人駅から出られず

駅員が施錠し帰宅、乗客30人駅から出られず

 福島県石川町のJR水郡線磐城石川駅で6日午後8時半ごろ、駅員(53)が過って駅舎出入り口のドアを施錠し帰宅したため、
乗客約30人が15分間、駅構内から出られなくなるトラブルがあった。

 JR東日本によると、郡山発磐城石川行き上り普通列車が終点の同駅に到着し、乗客が駅から出ようとした際、2カ所のドアが閉まっていたという。
乗客が運転士に「駅から出られない」と状況を説明し、運転士が案内した関係者出入り口から外に出た。

 同駅は駅員1人が日勤のみの勤務となっており、午後7時半に帰宅する際にはドアの施錠はしないことになっている。JRによると、駅員は考え事を
していて鍵をかけてしまったと話しているという。

(asahi.comより)

 当事者の方には申し訳ないが,なんとも間抜けなトラブルである.
しかしこの手の「うっかりミス」に再発防止対策を実施しようとすると結構難しいものだ.

この場合あなたならば,どのような再発防止対策を実施されるだろうか.

作業員の「うっかりミス」を流出させてしまった部品メーカから,「作業員に注意しました」「作業員に再教育をしました」こんな再発対策書を受け取ったことはないだろうか?
私は「作業員を配置換えしました」「作業員を解雇しました」などという対策まで見たことがある.
「ついうっかり」が発生しなくする,または流出しないようにする対策が必要だ.

例えば,駅員の帰宅を最終列車が到着した後にする,という対策は道理にかなっているように思える.しかしこれでは再発防止対策にコストがかかってしまう.

このトラブルに対しあなたはどのような再発防止対策を検討されるだろうか.
こんな対策はいかがだろう.

  1. 駅員は関係者出入り口に施錠し退勤する.駅舎出入り口には施錠をしない.
  2. 駅員は施錠をしないで退勤する.最終列車の運転手または車掌が駅舎出入り口を施錠する.

対策1と2の組み合わせもありだ.

今回のトラブルは間違って施錠をしてしまったという「うっかりミス」だが,施錠を忘れるという「うっかりミス」もありえる.
こちらにもきちんと対策を打っておくのが,「水平展開」または「未然防止」となる.


このコラムは、2009年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第126号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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特殊工程の品質評価

 作業品質を妥当なコストで検査できない工程を「特殊工程」と呼んでいる.

例えば,半田付け作業はその品質を保証しようとすると半田結合点の結合強度を検査しなくてはいけない.これでは破壊検査になってしまい,生産したものが出荷できなくなってしまう.そのため通常は目視検査で半田フィレットの形状,表面光沢などの「代用特性」で検査している.

このような工程が「特殊工程」だ.
では特殊工程の品質保証をどうすれば良いのか.

作業者の技能で品質を保証する.そのため特殊工程作業に従事する作業者は技能訓練を受けた有資格者であることで作業品質を保証している.
その品質保証の記録が,教育訓練記録となる.また使用した治工具の条件・点検記録も品質保証の記録である.

ある工場で部品Aと部品Bを貼り合せる作業があった.
貼り合わせが正しく行われたかどうかは、引き剥がし強度を測定しなければならない。従って、この作業も「特殊工程」に該当する.貼り合せ作業品質の代用特性として部品A,Bのギャップを外観検査で目視検査していた.
貼り合せ作業は治具化をして,作業者は操作スイッチを押すだけ.
従って作業者のばらつきは作業品質には影響しないと考えてよい.
この場合作業者に特殊工程作業者としての教育訓練,資格認定は必要ない.(目視検査の検査員資格は必要だが)

重要となるのは治具の加工精度・能力だ.
この工場では,始業点検で加工治具の貼り合せ押し圧と,押し付けの均一性を感圧紙により検査・記録していた.
品質保証ストーリィとしては問題はないのだが,目視検査で貼り付け不良が多発している.

そこで貼り合せ治具の始業点検記録を見せてもらうと,感圧紙検査の結果が均一になっていない.
始業点検で押しつけの不均一を発見すると、その都度テープを貼って調整していた,と言うことが分かった.しかし均一に押せていない不具合に対して原因対策がされていない。押し付け不均一を発見すると、テープを貼り付けると言う「対処」が行われているだけだ。

「ナゼ・ナゼ5回」とよく言うが,ここでは「ナゼ」を発する前に始業点検を合格させることに集中してしまっていた.
現場のエンジニアに,作業方法と共に作業の目的・意義をきちんと指導しておくことが重要だ.


このコラムは、2009年11月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第126号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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CT写真の表裏見誤り、手術で頭に穴 名古屋の市立病院

CT写真の表裏見誤り、手術で頭に穴 名古屋の市立病院

 名古屋市立東部医療センター東市民病院(名古屋市千種区)で昨年10月、患者のコンピューター断層撮影(CT)写真の表裏を見誤って、本来とは反対の左側の頭部に穴を開ける手術をしていたことが18日、病院への取材で分かった。病院は患者に謝罪し、同市千種保健所に届け出た。

 病院の説明によると、患者は80代の男性。慢性硬膜下血腫のため、市内の他病院から紹介されて入院した。側頭部の左右両側に血腫があり、脳神経外科の主治医が緊急で手術が必要と判断。入院翌日に手術をした際、前の病院で撮影したCT写真の表裏を見誤り、右側頭部の血腫を取り除くはずが、左側頭部の骨に直径1センチの穴を開けた。左側の血腫が小さかったために誤りに気付き、すぐに穴を閉じ、右側を手術した。患者に手術による後遺症はないといい、すでに退院した。

 同病院管理部は「あってはならないミスで大変申し訳ない。緊急の場合でも、院内の電子カルテに写真を取り込んだ上で、手術室の全員で確認するなどの再発防止策を徹底した」と話している。

(asahi.comより)

 初歩的な医療ミスだと思う.左右非対称な部位ならば,間違うこともなかろう.脳などは左右対称なので,写真の裏表を間違えれば,このような事故につながる.

紙焼きではなくフィルムなので,裏表どちらからでも見えてしまう.医療関係には詳しくないが,当然間違いがないようにフィルムには裏表が分かるようなマークが入っていると推測する.

このような失敗を「ポカミス」と言う.

電子カルテに取り込んでディスプレイで見れば,CT写真を裏から見てしまうことはないだろう.しかし電子カルテに取り込む時に裏表を間違えてスキャンしてしまえば,同じミスが発生する.

従ってこの再発防止対策は,ミスが発生する場所を他に移しただけと言える.

手術には,執刀助手,麻酔医,看護師など複数のスタッフが参加するはずだ.これらの人達が,CT写真を見ながら,事前ミーティングをしていれば,クロスチェックが働き,この様なミスは発生しないだろう.

私の偏見かもしれないが,医療現場というのは主治医・執刀医の独断が通ってしまう様に思える.
高度な専門家ほどこのような状況に陥り,ごく初歩的なミスを犯してしまう事があるのではないだろうか.

リーダであればこそ,部下のミスを叱る前に,自分もミスを犯す可能性があることを認め,部下の意見に耳を傾ける必要がある.これは自分の権威を落とすことにはならない.意見を述べさせることは,部下育成には必要なことだ.

そのためには日頃から「ホウレンソウ」環境を整えておかねばならない.
部下からの意見が上がって来なくなれば,「裸の王様」と同じだ.
部下が上司の意見に異を唱えない環境では「ホウレンソウ」は育たない.

ホウレン草が「酸性土壌」では育たないのと同様に,
ホウレンソウも「賛成土壌」では育たない.


このコラムは、2011年1月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第189号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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マニキュアに発がん物質 ダイソー、一部販売を中止

マニキュアに発がん物質 ダイソー、一部販売を中止

 100円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業(広島県東広島市)は17日までに、マニキュアの「エスポルールネイル」の一部商品から発がん性物質のホルムアルデヒドが検出されたため、販売を中止したと発表した。健康被害の報告はないとしている。

 同社によると、エスポルールネイルは8月発売で全148商品あり、検出されたのは「5 ビーチピンク」など26商品。自主回収し、購入者には返金する。全商品の検査を月内に終える予定で、検出されなかった商品の販売は続ける。

 大創産業は「直ちに重篤な健康被害が発生する可能性は極めて低いが、敏感な体質の場合、アレルギーのような反応を起こす可能性がある」と説明。混入原因を調べている。商品は大阪市の会社が中国で製造し、発売後の自主検査で発覚。管轄する大阪府に報告した。

(日本経済聞電子版より)

 ダイソーは、生産委託時(又は商品購入契約時)にホルムアルデヒド非含有を確認し、製品仕様に明記しているはずだ。記事には自主検査で発覚とある。定期的に自主検査をしていたが、店頭に並んでからホルムアルデヒドを検出してしまったのだろう。

混入原因は調査中との事だが、いくつかの可能性がある。

  • 4M変更による混入
     通常4M変動は意図的に発生するモノだ。従って変動後の確認を徹底していれば、回収は防げたはずだ。
  • 意図しない事故で混入
     意図しない「変更」が発生する事により混入があったとすると、事前に確認する事は不可能だ。生産ロットごとに非含有を保証する仕組みが必要となる。

4M変動が発生しているのに、変動管理手順が実施されない事もあり得る。この場合も生産ロットごとの保証が必要になる。

生産ロットごとの抜き取り検査もロット保証の手段となるが、以前発生したインスタント焼きそばのゴキブリ混入のような事故は、抜き取り検査では見つからない。

どのようにマニュキュアを生産しているのか分からないが、加工バッチごとに検査する事が可能だと思える。瓶詰め工程後にホルムアルデヒドが混入する事は考えにくいので検査により100%製品保証できるだろう。

納入後の抜き取り検査は100%保証する事は困難だ。しかもコストがかかる。上流で管理するのが品質保証の鉄則だ。

インスタント焼きそばの事故は、幸いにして多くのファンの支持により業績に影響を及ぼすような深刻な事態には発展しなかった。
しかしダイソーの様にいくらでも代替えが効く商品を取り扱っている業態では回収・販売停止は深刻な影響になりかねない。


このコラムは、2015年10月19日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第446号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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相次ぐ異物混入、マック謝罪 経営不振に追い打ち

相次ぐ異物混入、マック謝罪 経営不振に追い打ち

 チキンマックナゲットなどから異物が見つかったのを受けて、日本マクドナルドは7日、記者会見を開いた。食品への異物混入は最近、他社でも相次いで見つかっており、消費者には不安が広がる。ただ、食べられる物まで廃棄に
追い込まれている面もあり、冷静な対応を呼びかける声も出ている。

 「多くのお客様に多大なご迷惑とご心配をかけ、深くおわび申し上げます」

 日本マクドナルドホールディングスの青木岳彦上席執行役員は東京都内で開いた記者会見で、深々と頭を下げた。

 会見で公表した異物混入4件は、すべて報道が先行した。

全文はこちら

(朝日新聞より)

 ソフトクリームからプラスチックの破片、チキンナゲットから青いビニール片、チキンナゲットから白っぽいビニール片、フライポテトから人の歯!。「歯」が食品から出て来たと言うのは、前代未聞だろう。新聞を読んでいて、危うく椅子から転げ落ちそうになった。

日本マクドナルドの基準では、「健康に影響があったり、被害が大きく広がる恐れがあったりするものを公表する」としている。今回発表した4件も社内の公表基準にはあたらない、と言っている。しかしアイスクリームを食べた少女が、プラスチック片で口内を切っているのに、「健康に影響がない」と考えているのだろうか?立派な人身事故だ。

謝罪の記者会見には、執行役員が対応している。
日本人的な感覚では、社長以下上級役員が5、6人並んで頭を下げる、という光景を想像する。たった2人だけ?しかも上級執行役員?と感じた人も多いのではないだろうか。

論理的に考えれば、人数や役職は関係ないだろう。4件の事故に責任を持っている人が出て来て謝罪し、今後の対策を説明し、消費者に安心してもらう、これが出来ていれば、良いはずだ。

しかし、消費者は論理的には考えていない。「社長を出せっ!」と言う事になる。しかも記事を見る限り、消費者が安心出来る材料は何も説明されてない。
(朝日新聞の記事に載っていないだけ、と言う可能性も有るが。)

ペヤングのゴキブリ混入事故の時は、そこまでやるか?と言う対策を宣言した。設備を一新し、清潔に生まれ変わった工場をマスコミに公開すれば、漏泄した汚い生産設備の写真も、帳消しになるだろう。

日本マクドナルド程の「大企業」となると、品質問題で潰れてしまうかも知れないと言う危機意識が低いのかも知れない。どんなに大企業でも、老舗企業であろうと、品質問題を起こし対応を間違えれば、一発退場になりかねない。経営者はその様は危機感を持っていなければならない。

消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

消えたペヤング 虫1匹に払う数十億円の代償

 カップ焼きそば「ペヤングソースやきそば」が全国から一斉に姿を消した。原因は商品混入を指摘された1匹の虫。製造する「まるか食品」は全商品を自主回収し、生産を全面停止。数十億円かけて設備の刷新も検討しており、周囲から「そこまでやるのか」と驚きの声も漏れる。年間売上高約80億円の中堅企業にとって負担は重い。まるか食品はなぜ、これほどの「代償」を払うことにしたのか。そして耐えられるのか。

全文はこちら

(日本経済新聞より)

 虫一匹で、年商80億円の会社が潰れるかも知れない。
市場からの回収費用、生産設備の刷新などで数十億の費用がかかると言う。更に、生産停止による機会損失や、従業員の雇用を考えれば、年商分くらいの金額は吹き飛んでしまうだろう。最も深刻なのは、消費者の信頼を失ってしまった事だ。これは金額では換算出来ない。未来に渡って課せられた負債となる。

品質問題で、企業が丸ごと無くなってしまったのを何度も見て来ている。

品質保証関連の仕事をされている方は、対岸の火災と、高みの見物をしている場合ではない。自社の中を再点検する必要があるだろう。特にB to C製品を扱っている場合、今回の様に一発退場を、食らう事がある。

以前勤務していた会社は、B to B製品を取り扱っていたが、私がいた事業部でB to C製品を、販売したことがある。当時品質保証部長をしていた私は、自社製品の噂がネットに出ていないか、日々検索していたモノだ(苦笑)
幸い、たまに検索に引っかかるのは商品に好意的な書き込みしかなかったが、毎日ヒヤヒヤしていた。当時東芝クレーマー事件が話題になっており、神経を尖らせていたモノだ。

このような問題を回避するためには、潜在的問題を先手で改善しておくしか方法はない。新聞記事には「初動の対応が悪い」と指摘があったが、事が起きてからでは遅いのだ。

例えばペヤングの工場内部の写真(多分工場勤務者からの漏泄だろう)を見ると、お世辞にも奇麗な工場とは言い難い。食品工場としては、かなりお粗末だ。とても顧客に公開出来る工場ではない。設備を更新したとしても、今のままの設備管理では1年で顧客に見せられる工場では無くなるだろう。基礎化粧品のメーカが、毎日生産設備を分解清掃している事を、TVコマーシャルに流した事がある。もし、まるか食品にまだチャンスが有るとすれば、このくらいの事をやらなければ、失われた信頼は取り戻せないだろう。

問題が起きてしまってからでは遅い。
品質保証の本来の仕事とは、発生した問題の後処理ではない。問題が起きない様にする事が、本来の品質保証の仕事だ。


このコラムは、2014年12月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第404号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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作業ミス対策

 単純な作業ミスによる不良の再発防止対策にお困りだったりしないだろうか.
「作業者に注意をした」「作業者に再教育をした」「作業者に罰金を課した」「検査の追加」など,対策の効果が実感できないような再発防止対策が報告されてくる事がままある.

一番驚いたのは掲示板にA4用紙一杯に「作業に注意します」と何度も繰り返し書かれた反省文?が張り出されているのを見たときだ.多分現場の班長さんが,作業者にどう指導してよいかわからず,学校で同じような罰を先生から課せられたのを思い出して,同じ事をしてみたのであろう.

笑ってはいけない,班長さんはこれでも真剣に考えたのであろう.
上位職者がきちんと班長を指導できていないのが問題だ.

まずは作業ミスがどうして発生するのかを分析する必要がある.

  • 疲労による作業ミス
  • ついうっかりミス
  • ついうっかり作業飛ばし

一般に1件の不良が顕在化する影には,工程内で見つける事が出来た不良が29件発生,300件の「ヒヤリ・ハット」する出来事があるといわれている.(ハインリッヒの法則)

顕在化した不良だけを見ていると,なかなか原因が分からない.これらの潜在不良に着目して分析する必要がある.

時系列で,曜日別で,作業員別で,生産機種ごとに,など色々な切り口で見る事が出来る.

こういう分析により作業員の疲労度やぼんやり度に法則が見えれば,対策を打つ事が考えられる.

どんなに注意していても所詮は人間である.ミスは必ずある.
疲労を軽減する作業になっているか.注意力に頼る作業になっていないか.
という着眼点で対策を考える.

またミスが発生しない仕組み,ミスが発生しても流出しない仕組み「ポカよけ・ダブルチェック」を導入する.

それでもどうしても作業者の技量に頼らざるを得ない場合はある.
こういう場合は「作業者の再教育」という対策にならざるを得ない.
「作業者の再教育」という対策が悪いわけではない.

  • 教育効果がきちんと確認できているか.
  • 教育効果が実感できるものか.
  • 新人作業員,別の作業員にも教育が確実に行われる様になっているか.

ということが保証できていれば,対策として合格点がもらえるであろう.


このコラムは、2008年10月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第56号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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貧乏輸出大国・中国

 先日中国で工場経営をしておられる方からこんな話を聞いた.
中国は廉価大量生産品をどんどん作り輸出することにより,世界中にどんどん貧乏を輸出しているというのだ.

非常に面白い論点だと思う.
安い物を更に安くして,自らどんどん苦しくなっている.更に世界中の競争相手も苦しくしている.「貧乏輸出大国」という表現はなかなか言いえて妙だ.

しかし我々はこの競争に巻き込まれるわけには行かない.
良い物を造って,高くても喜んで買っていただける,
こういう戦略で商売をしなければ未来はない.

最低賃金が毎年十数%上昇しても,毎年生産性を30%改善すれば良いだけだ.
工夫に工夫を重ねより高品質・高付加価値の製品を作る.
お客様中心主義で高フレキシビリティ生産をする.
これが日本のモノ造りの心だ.

我々は中国の社会・文化の中でモノ造りをさせていただいている.しかし日本のモノ造りの心だけはローカライズをしてはならない.むしろこういう環境であるからなおさら日本のモノ造りの心を際立たせなければならない.


このコラムは、2008年9月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第51号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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ホンダが品質保証体制を強化

ホンダが品質保証体制を強化、相次ぐリコールを受けて担当役員を配置

 ホンダは2014年10月23日、全社の品質保証体制を強化すると発表した。2013年9月に発売した「フィット」(図1)と同年12月に発売した「ヴェゼル」(図2)のそれぞれのハイブリッド車(HEV)が、リコールを繰り返していることを受けたものである。

 同社の四輪事業本部に「品質改革担当役員」を置き、同役員が本田技術研究所の副社長を兼務する体制にする。担当役員には専務執行役員(現・四輪事業本部第一事業統括)の福尾幸一氏が、2014年11月1日付で就任する。さらに、技術研究所の開発体制を見直し、生産・品質・カスタマーサービスなどの各部門が連携してチェックする体制を整える。こうした新体制によって、品質問題の撲滅を目指すという。

 「フィットハイブリッド」は発売直後の2013年10月と12月、2014年2月と7月の合計4回にわたってリコールを繰り返した。フィットハイブリッドと同じパワートレーンを搭載する「ヴェゼルハイブリッド」についても、2014年2月と7月に2回のリコールを行った。ホンダによるといずれも、「モーターとエンジンを組み合わせて制御するシステムの開発過程において、様々な使い方を想定した検証が不十分だったため」と説明している。

(日経テクノロジーオンラインより)

 この記事を読んで、ホンダに品質保証担当役員がいなかった事に、驚いた。当然品質保証組織は有っただろうが、そのトップが部長・本部長など中間管理職と言うのはいかがなモノだろうか。品質保証が機能する・しないの問題ではない。経営者が品質保証を重視していると言う姿勢を示すために、役員クラスの経営幹部が品質保証部のトップにいるべきだと考えている。

ホンダのような大企業が、そのための人財がいなかったとは考え難い。
営業担当役員、製造担当役員、技術担当役員などはいたはずだ。品質保証担当役員がいなければ、この会社は品質保証を重視していないと、社内外の人は考えるだろう。

人財が豊富にいない中小企業でも、品質保証重視を社内外にアピールする方法は有るはずだ。

ある企業経営者は、技術部、製造部が品証部に協力しないと言う問題に直面した時に、品証部長の給与を他の部長より高くしたそうだ。たったこれだけの事で、各部長が品証部長に協力する様になり、部門間の協調が上手く行く様になったそうだ。これも経営者が「品質保証重視」を社内にアピールする方法の一つと言えるだろう。

 ところで、ホンダのHPのリコール告知は、そこそこ詳しく現象・原因が記述されており、ある程度参考になった。

過去のフィット、ヴェゼルのHEV車リコールを調べ、私なりに二つに整理してみた。

  1. 組み込みソフトウェアのバグが原因となるリコールが大半を占めている。
  2. モジュール化し再利用をするためリコール対象が一気に増える。

最近はあらかたの製品が、マイクロコンピュータによって機能を実現している。
ソフトウェアをバグなしで設計する事は、事実上不可能だ。従って、デバック、設計検証、妥当性検証と言う手段でバグを発見修正することになる。
どこまで使用者の立場で検証出来るかが、検証の優劣になる。属人的なセンスに依存しがちな検証を、漏れなくダブりなく検証項目を挙げる仕組みを作る事が重要だ。

そして、検証に先立ち検証計画を立てる。計画を立てて検証作業に入らないと、ずるずると際限なく検証を続けることになる。この計画書を具体的かつ詳細に作れば、検証作業を外注化する事が可能になる。
しばしば、外注に仕様書を投げ、完成品を社内の若手設計者が検証する、と言うやり方を見る。しかし、検証を外注化し、若手設計者に設計・実装の仕事を与えた方が、設計者の育成効果が高いと思う。

ところでこの様な、検証システムを作ったとしても、設計者はバグゼロを目指して設計しなければならない。
人命の安全が最優先であり、協力工場に対し、不良ゼロは当たり前、と言っている以上、ソフトウェアと言えどバグゼロは当たり前でなければならない。

以前トヨタが、リコールを連発した時に「コストダウン目的のモジュール化」が過度に行われた結果だと言う批判的な記事を多く見た。

モジュール化とは、部品を組み合わせて作った機能ユニット(モジュール)をどの製品にも再利用すると言う意味だ。

しかしモジュール化の本当の狙いは、設計を標準化し、品質を安定させる事だ。その結果設計コスト、品質損失が下がると言う事であり、コストダウンが目的ではないはずだ。

問題は設計のモジュール化ではない。

第一の問題は、モジュールのインターフェイス仕様の定義に曖昧さが有る事。
インターフェイス仕様と言うのは、モジュールを組み込む際の製品との取り合いと表現すれば分かり易いだろうか。
最も単純なインターフェイスは、モジュールを製品に組み込む時のネジ位置だ。
例えば、動力ユニットで言えば、出力トルクや馬力の性能だけでなく、車体に取り付ける方法、タイヤの径、車体の重量等々、どの範囲で再利用出来るかを明確に定義したのがインターフェイス仕様だ。

第二の問題は、モジュールを応用した場合の検証が不十分な事。
当然モジュール自体は設計検証が完了した状態になっているが、組み合わせの検証を省略して良いと言う訳ではない。


このコラムは、2014年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第395号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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