月別アーカイブ: 2010年2月

【統計的品質管理】計数値による工程管理図

長さ,電圧,重量,時間など量として測定できるデータを「計量値」と言います.
計量値を使った統計的品質管理(SQC*1),統計的工程管理(SPC*2)の方法として,以前「エックスバーアール管理図」について説明しました.

*1SQC:Statistical Quality Control
*2SPC:Statistical Process Control

一方,不良の数,事故数など一つ,二つ……と数えるデータを「計数値」と言います.
例えば,サイコロを何度か振って一の目が出る回数が計数値です.サイコロを振って一の目が出る確率は,1/6です.従って60回サイコロを振れば10回一の目が出るはずですが,実際にはそうならない.10回を中心にばらつきます.このばらつきを二項分布に従ったばらつきと言います.
サイコロを振る回数をうんと増やしてやると,ばらつき方は正規分布に近づきます.
この性質を利用して「計量値」で使ったエックスバーアール管理図と同じように,計数値でも統計的品質管理,統計的工程管理が出来ます.
統計的に品質管理する場合に,不良数を使うのがpn管理図,不良率を使うのがp管理図です.
次にpn管理図,p管理図による統計的品質管理,統計的工程管理の方法について説明します.
pn管理図
To be continue
p管理図

【儲かる工場の作り方】第十一話「省エネ」

省エネ
不況に勝つ「省エネ」

環境問題に対する取り組みとして「省エネ」の重要度は高くなっている。儲かる工場の観点では、省エネはコストダウンだ。電気、ガスなどのエネルギー源を節約することによりコストダウンになる。

まずは計測すること。どこにエネルギーのムダがあるか調べ、省エネ目標を作ることだ。動力系ばかりではなく、照明なども調査対象とする。小さな節約量でも、チリも積もれば大きな量となる。

人材もエネルギー源

工場の一番大きなエネルギー資源といえば「人材」だ。人材を「工数」として捉えては、エネルギー源という発想は出てこない。人は他のエネルギー源では代替が利かぬ「情熱」というエネルギーを発生する。

品質も生産性も最終的には「人質」の勝負だ。人質を上げるためには従業員一人ひとりの情熱エネルギーが必要だ。従業員の情熱エネルギーを効率よく発生させることが、儲かる工場の「省エネ」だ。

ではどうすれば従業員が情熱エネルギーを発揮するようになるか?残念ながら知識や技能は教えられるが、情熱は教えられない。初めが肝心である。まず情熱のある人を選ぶ。そして一人ひとりが仕事を通して夢を実現するよう、正しく指導することだ。

与えられた仕事では情熱エネルギーは発揮しにくい。自らの夢の実現のためならば、情熱エネルギーは自然と発揮される。

初めに手間をかける

ゼンマイ駆動の玩具自動車を想像して欲しい。まずゼンマイを巻き上げ、駆動力を与える。そして目標に向かって正しく方向付けし手を離す。スタート地点のほんの僅かな誤差が、目標から大きくずれることになる。間違った方向に進めば、すぐに方向を修正する。

仕事も同様である。まずはその意義を説明し、情熱エネルギーという駆動力を与える。そして正しく目標を与える。後は任せる。

しかし、任せたままにしてはだめだ。特にスタート直後はフォローが大切だ。目的・目標を正しく理解しているか?やり方を間違えていないか?きちっとフォローする。順調にスタートしたら、後は任せる。

往々にしてこの逆をしている上司が多い。簡単な説明で仕事をスタートさせる。そして締め切りの間際になって、正しく仕事が行われていないのを知り、あわてて方法論まで指導してしまう。

これでは余計に手間がかかるばかりではなく、部下の情熱エネルギーを発揮しにくい。部下を信頼(信じて頼る)するのではなく、部下を信用(信じて用いる)することにより情熱エネルギーを引き出すことができる。

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年4月号に寄稿したコラムです.

モノ造りの分担

 日本の発展を支えてきたのは,間違いなく製造業だった.しかしモノ造り日本の地位を中国に奪われた感がある.GDP(国内総生産高)第二位の地位も中国に明け渡すことになりそうだ.
 日本のモノ造りは,高品質・高機能の物を,コストダウンし大量に作ることに精力を集中してきた.
 その結果,物と一緒に「貧乏」も大量に生産することになった.
 日本におけるモノ造りの戦略を考え直す必要がある.
モノ造りの分担
 図はモノ造りを,設計技術(商品を設計する技術)と製造技術(製品を製造する技術)の2軸で考え,4つのカテゴリーに分けてみた.
 つまり商品,マーケット,ビジネスを作り出す創造的技術と,生産方式やモノ造り技能などを作り出すテクノラート技術だ.前者はR&D(研究開発),後者をT&M(テクノラート&マイスター)と言ってよいだろう.
領域1:
 高度な設計技術と高度な製造技術を必要とするモノ造り.例えば,モノを作るための生産設備などである.先端のモノ造りをするための設備には,先端の先を行く設計技術と,モノ造りをするための精度の1桁2桁上を行く精密な加工技術が必要になる.この分野は,日本で死守したい領域だ.
領域2:
 設計技術は高くないが,高度な製造技術を必要とするモノ造り.例えば,日本の職人が代々受け継いでいる技能・技術である.日本にはこの領域の優れた技能・技術がある.これは日本で伝承して行くべき領域だ.
領域3:
 設計技術は高いが,製造技術は高くないモノ造り.例えば,CPUの設計には高度な設計技術が必要だが,PCの生産にはたいした技術は必要ない.必要な生産設備を買ってくれば生産可能となる.この様なモノ造りはどこで生産しても同じである.大きな市場を持つ中国で生産するのが合理的だ.
領域4:
 設計技術,製造技術ともに低いモノ造り.例えば,規格大量生産品などのコスト勝負の製品だ.この様なモノ造りは,ローコスト生産国で生産しなければ,利益が出ない.
 領域2のモノ造りは,日本では職人が代々技能・技術を伝えてきた.しかし一方で,高度な加工技術の「大衆化」が起こっている.ノートPC・MacBook Proの筐体はアルミ削り出しであるが,中国で生産している.NCマシンを持っていれば加工可能となった.
 例えば金属の鏡面加工.iPodの鏡面加工は,新潟の小林研業が加工していた.しかし今では中国の職工でも加工可能だ.
 小林社長は発想を転換する.

「私のところは、もっと難しい研磨に挑戦するだけよ。要求以上の品質で磨いて、製品のグレードを高める付加価値商売なんです。誰でもできる汎用品ばかりを手がけていたのでは、とうに潰れていたからね」

そして小林社長は,事業を少量高付加価値の生産に切り替えた.

「ナベ、カマの汎用品をやっていたんじゃ、中国に負ける。もっと複雑で小ロットの工業部品の研磨に転じよう。これだったら、高度な手わざが生かせるはずだ」と決めると、4000万円をかけた自動機を売り飛ばしてしまった。機械による工程の自動化を突き詰め、現代的な大量生産を推し進めるか、それとも、家内制手工業の枠にとどまりながら、精緻な技術を強みにするか、それは大きな岐路だった。

 この様に明確にモノ造りの領域を絞り込んで,職人が持っている技能・技術を日本に伝承してゆかねばならないと考えている.
引用は「あっぱれ!ニッポンの技術 頭は帽子をかぶるためにあるんじゃない――技能とアイデアの「磨き屋」魂 小林 一夫氏」から.

錫ウィスカー

ウィスカーホイスカという言い方もあるが,本稿ではウィスカーと表記する)というのは,髭状に成長した単結晶のことを言う.錫ウィスカーによる短絡不良現象は,1940年代から知られている.錫めっきの表面から錫ウィスカーが髭状に成長し,回路を短絡するという不良である.この不良現象は,製造工程では発見できず,市場にて稼働中に発生する.いわゆる信頼性不良である.

ウィスカーの発生メカニズムは機械的残留応力によるものといわれている.しかしそのほかの要因も複雑に絡み合っており,加速試験の条件など模索状態といってよいだろう.(一般には,-40℃-90℃の温度サイクル試験が用いられている)

昔観察された錫ウィスカーは,ICの錫めっきリードに発生した.図1に示すようにICリードの肩の部分からウィスカーが発生する.この部分は曲げ加工が入っており,錫めっきへの残留応力により,錫ウィスカーが発生したと考えられている.

Whisker図1 ICリードからの錫ウィスカー

金属端子に半田付け性を良くする為に錫めっきをした製品なども同様な錫ウィスカーが発生する可能性がある.ただしめっき層に機械的な残留報力がなければ,錫ウィスカーは発生しない.従って曲げ加工などをめっき前に施しておけば安全だ.

あらかじめ,めっきされた錫めっき鋼板などを加工すると,同様に錫ウィスカーが発生するが,めっき処理(光沢有り・無しなど)によって変わる.光沢錫めっきの方が錫ウィスカーが発生しやすいといわれている.

また錫に鉛を添加したものをめっきすると,錫ウィスカーは発生しない.従って有鉛半田めっきのリードでは錫ウィスカーの問題は発生しない.

環境問題により,鉛の使用が禁止されて以来,再び錫ウィスカーの問題が発生している.同時に回路の高集積化により,部品の間隔が狭くなっており不良の健在化も上がっている.RoHS施行の直前に,鉛フリー錫めっきの使用を禁止するセットメーカが出てきたり,かなり混乱した.

最近では,積層セラミックチップコンデンサーの端子部分の錫ウィスカー発生が問題となった.図2はNASAのホームページに公開されている積層セラミックチップコンデンサーの電極部分に発生した錫ウィスカーの写真である.

Whisker(MLCC)図2 チップコンデンサーの錫ウィスカー

このチップコンデンサーは,図3のような回路基板に実装されており,回路パターンへの接合は導電性エポキシ接着剤を使用している.このため半田付け作業による,錫めっき部分の残留応力開放が行われなかったものと考えられる.

Whisker図3 チップコンデンサの実装状況

宇宙空間で使用する場合は,ウィスカーが他の電位と接触していなくても,プラズマ放電が発生しショートする場合がある.

このように同様の信頼性問題であっても,時を隔てて再度問題となることがままある.
過去の事例を,過去のモノと片付けておかず,しばしば見直すことも必要だ.

デミング博士の統計的品質管理

製造業に携わる人でデミング博士の名前を知らない人はまずないだろう.
戦後の日本復興の原動力となった製造業にとっては,デミング博士は恩人とも言える.1950年デミング博士が日本の経営者に教えた「統計的品質管理」は,その後TQM(Total Quality Management)へと発展してゆく.
デミング博士の教えに基づき,品質経営に取り組み「品質第一」のモノ造りによって「モノ造り日本」の発展と名誉を得た.しかしデミング博士自身は自国・米国では無名の統計学者としてニューヨーク大学で教鞭をとっていた.
1970年代から,日本のモノ造りに押され続けてきた米国は,日本の強さの秘密を研究した.そしてデミング博士が日本のモノ造りに与えた影響を再発見したのだ.1980年米国のTV局・NBCが放送した“If Japan Can, Why Can’t We”でデミング博士が再評価されることになる.
その後フォードがデミング博士を顧問として招き,業績回復を図り過去50年間勝てなかったGMの利益を上回ることになる.米国ではその後製造業だけにとどまらず,あらゆる業界がデミング博士の教えを受け業績を伸ばしている.
デミング博士のセミナーは,1993年12月20日に亡くなる10日前まで続けられ,参加者が20万人を越えたと言われている.
デミング博士の教えによって米国産業界は再び力をつけた.
一方,皮肉なことに日本はバブルの崩壊でどん底に落ちてゆく.自信を失った日本の経営者たちは,そのころ力を盛り返した米国の経営スタイルの表面だけを真似したのだ.しかし米国の復興は経営手法にあったのではなく,米国流にアレンジした日本の経営哲学だ.
以下はデミング博士の経営14原則である.これは1950年から日本の企業が成長してゆく様子を観察した中から生まれている.もう一度,日本が本来持っていた強みの源泉に着目したい.

デミング博士の経営14原則

  1. 競争力を保つため、製品やサービスの向上を常に心がける環境を作る。最高経営者がその責任者を決める。
  2. 新しい哲学を採用する。我々は新たな経済時代にいる。遅延、間違い、材料の欠陥、作業の欠陥などの一般常識となっている水準には満足できない。
  3. 全品検査への依存を止める。品質は統計的手法で向上させる(完成後に欠陥を見つけるのではなく、欠陥を防止せよ)。
  4. 価格だけに基づいて業者を選定することを止める。価格と品質によって選定する。統計的手法に基づく品質保証のできない業者は排除していく。
  5. 問題を見逃さない。全体(設計、受け入れ材料、製造、保守、改良、トレーニング、監視、再教育)を継続的に向上させるのがマネジメントの役割である。
  6. OJTの手法を導入する。
  7. 職場のリーダーは単に数値ではなく品質で評価せよ。それによって自動的に生産性も向上する。マネジメントは、職場のリーダーから様々な障害(固有の欠陥、保守不足の機械、貧弱なツール、あいまいな作業定義など)について報告を受けたら、迅速に対応できるよう準備しておかなければならない。
  8. 社員全員が会社のために効果的に作業できるよう、不安を取り除く。
  9. 部門間の障壁を取り除く。研究、設計、販売、製造の各部門の人々は様々な問題に一丸となって対応しなければならない。
  10. 数値目標を排除する。新たな手法も提供せずに生産性の向上だけをノルマとしない。
  11. 数値割り当てを規定する作業標準を排除する。
  12. 時間給作業員から技量のプライドを奪わない。
  13. 強健な教育プログラムを実施する。
  14. 最高経営陣の中で、上記13ポイントを徹底させる構造を構築する。

デミング博士の助手として全米でのセミナーに同行した日本人がいる.
吉田耕作氏である.更に詳しくは吉田耕作の著作をご一読いただきたい.
「国際競争力の再生―Joy of Workから始まるTQMのすすめ」