以前中国で生産委託をしていたのは台湾企業の中国工場が殆どだったが,不良解析&再発防止レポートでまともなモノを受け取った記憶がない.
独立してそういう工場の指導をして初めて分かったが,CE(カスタマーサポートエンジニア)と呼ばれる苦情処理係がいて彼らが顧客に対するレポートを書いてる.
驚くことに彼らは自社製品の技術的なことは全く理解してない.
ただ少しだけ英語ができるので,別にいる解析エンジニアのレポートを英文に直しているだけなのだ.
台湾人経営者の人事政策で,比較的給与の高い電気回路エンジニアは一人だけ雇い,レポート作成専門の英語が少しだけできる人間でエンジニアの効率を上げようという考えだろう.
しかし英語ができるといっても電子・電気工学の知識は乏しい.
ある日レポートをチェックしていて「Solder Silk」という単語が出てきて驚いた事がある.
何のことかさっぱり分からない.暫く考え込み,それが『锡丝』(Solder wire)のことだと気が付いた.漢字に一文字ずつ英単語を当てるのでこんな珍訳が発生する.
しかも現物も現場も見ずに解析から再発防止対策まで一人で作文しているだけ.
だから再発防止は,作業者に注意した,作業者を教育した,作業者を罰した,という役に立たない報告しかできない.
当然まともな顧客からはクレームが来て,レポートを再提出することになる.
こういう事を何度か繰り返していると,経営者にクレームが入り現場に雷が落ちることになる.
まともなリソースをきちんと割り当てていない経営者自身の責任なのだが,現場に対して何とかしろとしか言わない.
この工場では,まずレポートの構成から教育した.
解析の仕方とか,再発防止の考え方などを教え,デスクに座っている連中の尻を叩いて現場に追い出していた(笑)
彼らが書いてきたレポーはも何度もダメ出しをして書き直させる.
営業からはレポート提出期限の督促がしつこく来る.やむを得ず自分で書いて提出することも何度かあった.
それでもCEたちは嫌がらず夜遅くまで,時に休日でも出てきてレポートの書き直しをする姿勢には感心する.
中には殆ど指導をしなくても書ける様になった子もいた.彼女は文科系の学校しか出ていない.
彼らはやり方をきちんと指導をされていないだけなのだ.
辛抱強く指導してやればすこしずつでも良くなるものだ.
月別アーカイブ: 2009年1月
【華南マンスリーコラム】グーでやる気向上
美点凝視
今月はグー.グー・チョキ・パーのグーではない.「グッジョブ」のグーだ.親指を立ててグー,褒める時のポーズだ.
良いところを見つけたらすかさず褒める.毎日何度でも笑顔でこれをやる.
部下を育てる時には,欠点を矯正するよりは,長所を伸ばす方が簡単だ.「美点凝視」部下の良い点をしっかり見てそれを褒める.
欠点は仕組みで補う.例えば「ついうっかり」の人にはチェックリストを使う方法を教える.「ついうっかり」を防ぐ仕組みを考えさせる.
激しいコスト競争,毎年上がる人件費,不況による受注減など暗い話題が多い.更に毎日部下の欠点を叱っていたのでは指導者の心も暗くなってしまう.部下のよいところを探して褒める,このほうは精神衛生上も良いと思うがいかがだろうか.
褒めたおす
有名な経営者で叱り飛ばすことを信条にしておられる方がおられる.叱り続けることにより,部下の反骨精神を引き出し,能力を高めるという考えだ.
反骨精神のない人間はどんどん辞めて行き,強い人だけが残る.ではただ叱っていれば良いかというとそうではない.表面的には見えないが,それで成功している経営者は人格で従業員から慕われているはずだ.
それよりは褒めたおすことで部下のやる気,成長意欲を引き出すほうが楽だ.というのが私の考えだ.
しかしこれは叱らなくて良いということではない.
一万元を叱らず,一毛を叱る
叱ることは相手の成長を願う愛情表現だ.ミスがあれば叱らなければならない.
大きなミスをした人間には怒りたくなる気持ちをぐっと抑え,ミスを起こした原因と対策を一緒に考えさせる.
会社に一万元の損失を与えたことは本人が一番理解しているはずだ.そこばかり叱ったのでは相手は萎縮し,次から叱られないようにしか仕事をしなくなる.
しかし一毛を無駄にする人間は思いっきり叱らなければならない.例えば作業台にネジが一つ落ちている.これを叱らなければ,皆がネジ一本くらいという気持ちになる.こういう気持ちが全従業員に蔓延すれば,あっという間に一万元の損失になる.
作業台に落ちているネジが製品に取り付けるべきものであれば,更に大きな損失になる.いつもネジが落ちている工場ではそれを防ぐ手立てはない.
このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.