月別アーカイブ: 2018年12月

博学、篤志、切問、近思

xiàyuē:“xuéérzhì(1)qièwèn(2)érjìnrénzàizhōng。”

《论语》子张第十九-6

(1)笃志:志,意为“识”,此为强记之义。
(2)切问:问与切身有关的问题。

素読文:
曰わく、ひろく学びてあつこころざし、せつに問いてちかく思う。仁そのうちり。

解釈:
ひろく学んで見聞をゆたかにし、理想を追求して一心不乱になり、疑問が生じたら切実に師友の教えを求め、すべてを自分の実践上の事として工夫するならば、最高の徳たる仁は自然にその中から発展するであろう。

篤志を「理想を追求し一心不乱」と訳しています。日本語では「困っている人や気の毒な人への思いやり。社会のためになる事業・運動などに熱心で、協力を惜しまないこと。」という意味です。ただ一心不乱にというだけではなく、世のため人のためという意味が込められている様に思います。
ただ知識としての博学ではなく、理想に燃え、身近な問題として考え、行動する。そういうところに「仁」が生まれると理解しました。

大辞林(第三版)より

京浜東北線脱線再発防止対策

 先週のニュースからに、京浜東北線で発生した工事用車両と回送列車の衝突脱線事故をご紹介した。

同様の事故は

  • 1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも発生。作業員5人が死亡。
  • 2003年10月、JR京浜東北線の大森─大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。

このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。典型的な「うっかりミス」による慢性的再発問題だ。再発防止対策が有効ではないため、期間をあけて慢性的に再発することになる。

この事故に対する有効な再発防止対策を検討する事を、先週のメルマガで読者の皆様に提案をした。お考えになっただろうか?残念ながら私に対策をメールして下さった読者様はお一人しか居なかった。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。
  • 工事用車両は車輪に非電導ため自動列車制御装置(ATC)が効かない。(ATCシステムは左右の線路を電気的に短絡することにより、車両の位置を750m間隔で確かめることができる)

この条件で、再発防止対策を考えてみよう。

このような問題が発生すると、一番気の毒なのは下請け業者だ。
事故で亡くなるのは下請け業者の社員であり、事故によってその下請け業者は指名業者から外されたり、一定期間出入り禁止となったりする。その結果倒産廃業となる事もあるだろう。
国鉄時代からの風習で下請け業者は、お上には逆らえないと言う体質が受継がれている様に思う。

以前の事故に伴い「点検を厳格にする」と言う対策をとってもJR職員は現場にすら居なかったと報道されている。

「うっかりミス」がきちんと防げないのは、なぜうっかりしてしてしまうのかにメスを入れずに、単純に点検を厳格にするなどとするからだ。うっかり点検を忘れる、と言うミスもあり得るはずだ。

点検で「うっかりミス」を防ぐためには、点検動作をしなければ、次の工程に進まない様にするくらいやらねば有効とは言えない。

本事例には上手く適合出来ないかも知れないが、一世代前のボーイング社の旅客機の扉には「うっかりミス」防止対策がしてあった。(先週乗ったB787にはこの仕掛けがなくなっていた)

航空機の扉は、着陸後開ける時にマニュアルモードにしなければならない。オートモードのまま扉を開けると、脱出用シュートが出てしまうからだ。そして離陸する前に扉を「うっかり」マニュアルモードのまま締めてしまうと非常事態の時に扉を開けても脱出シュートが出ない。
マニュアル・オートの切り替えをうっかり忘れない様に、扉の開閉レバーを操作する時に必ずマニュアル・オート切り替えレバーに付いているピンを抜く動作が必要になっている。こういう仕組みが点検動作による「うっかりミス」防止だ。製造現場では「ポカよけ」と呼んでいる。
ただ点検を厳格にすると言っても有効とは言えない。

しかし本事例の本質的対策は、点検ではない。ATCを有効にすれば良いのだ。トラックを改造した工事用車両だから、左右の車輪間で電気的導通がない、だからATCが効かない。その通りだろう。しかしATCが効かない理由を考えても意味はない。ATCさえ効けば、今あるシステムで衝突回避は出来るはずだ。

トラックのタイヤのままでは、左右の車輪で導通を取るのは難しいだろう。
しかしタイヤは、鉄道用の車輪に変更されている。チョットした工夫で左右の車輪の導通が取れ、ATCのシステムが働くはずだ。

※上海のN様の再発防止対策。
ポイントは「下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した」という部分かなと思いました。

つまり、「うっかり手順を間違えてしまった場合」でも事故が起きないような対策を取る事がポイントです。なぜなら「下請け業者」というのは自社ではないので、場合によって変わる可能性があります。

現下請け業者へ対策を講じても、何かの原因で下請け業者が変わってしまい、仮に今回の事故の教訓が伝わらないようなことがあれば再び事故が起きてしまうからです。

私が注目したのは、「ATC」です。本来ATCはうっかり手順を間違えた時に作動する装置のはずです。それが工事用の車両だけ対象外になっていることが問題だと感じました。

「ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外」
この対象外を対象内にする改良を加える事を義務化すると再発防止に繋がるのではと思いました。

満点をさし上げてよい回答だと思う。
私も(多分)N様もJRの仕事をした事はないので、ピントがずれているかも知れないが、今あるシステムで上手く行く方法を考えるのが良いと思う。
問題が発生するたびに個別に対応する再発防止対策を考えると、再発防止対策だらけとなり、管理しきれなくなる。例外処理を作らない様に再発防止を考えるのが肝要だ。


このコラムは、2014年3月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第352号に掲載した記事に加筆しました。

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京浜東北線脱線、現場の線路閉鎖されず 工事手順ミスか

 JR東によると、線路内での作業は「線路閉鎖」の後で始める手順だった。現場の「閉鎖責任者」の端末から、JRのシステムを経由して運転席に停止信号を送る仕組みだ。閉鎖されれば電車は減速し、現場の手前で止まる。だが京浜東北線の北行きは事故当時、線路閉鎖に向けた確認作業中。乗客がいれば大惨事につながった可能性がある。

京浜東北線の回送電車が横転 川崎で進入の作業車と衝突

 回送電車は横浜市のJR桜木町駅で乗客を降ろし、東京都大田区の蒲田駅に向かっていた。一方、工事用車両(全長5・1メートル、幅2・5メートル、重さ9・5トン)はガソリンを動力に、単体で動く。川崎駅の東側から西側へ、順に東海道線の下り(南向き)と上り(北向き)、京浜東北線の南行きの各線路を閉鎖して横断。同線北行き線路上で、車輪走行の準備をしていた。

 JR東は「本来は工事管理者から、工事用車両の運転手に作業開始の指示があるはずだが、その有無は確認中」としている。

 同様の事故は1999年2月、東京・品川のJR山手貨物線でも起き、回送電車にはねられた作業員5人が死亡。2003年10月にはJR京浜東北線の大森―大井町間で、乗客約150人を乗せた電車が、補修工事で線路内に置き忘れられた機材と衝突し、立ち往生した。このため、保守作業前の線路閉鎖を徹底させるなど点検を厳格にしてきたが再発は防げなかった。

 今回、電車は自動列車制御装置(ATC)も搭載していた。電車間の位置を検知し、後続列車が停止する仕組みだが、ガソリンが動力の工事用車両は車輪に電気が通らないため、作動の対象外という。

 鉄道アナリストの川島令三さんは「現場に業者をチェックするJR東の担当者が不在なのは問題。コスト削減のためか現場を業者任せにする態勢が続いている。業者への指導にも責任がある」と指摘する。

(朝日新聞デジタルより)

 東急東横線の追突事故に引き続きJR東日本でも衝突事故を起こしている。
乗客が乗っていない車両の事故だったのが、不幸中の幸いだった。しかし反対側に脱線していれば、乗客を乗せた列車と衝突した可能性もある。

工事用車両と言うのは、小型トラックを線路を走らせるためにタイヤをレール用の車輪に交換した改造車の事だろう。

日経新聞の記事も合わせ読むと、事故発生の状況は以下の通りだった様だ。

工事用車両の男性運転手(43)が神奈川県警の聴取に「作業時間を間違え、閉鎖される前の線路に車をのせてしまった」と話している。
事故当時、工事管理者(JR職員)らは現場近くで打ち合わせをしていた。
工事管理者らは、JR東日本の調べに「作業開始の指示は出していない」と説明している。

この事故原因を記事から整理してみると、

  • 下請けの工事業者が「うっかり」手順を間違えて作業した。
  • JR東日本職員が不在であり、管理監督責任を果たしていなかった。

と言うことになろうか?

国交省は、緊急対策会議を招集している。

さてこのメルマガを読んでおられる読者様は、この事故に対してどのような再発防止対策を取ったら良いとお考えだろうか?
本業と関係なくても、この様な人為ミスに対しどう再発防止を立てるか、思考訓練のために考えてみていただきたい。
お考えになった事故再発防止対策をぜひ教えていただきたい。このメールにご返信いただければ、私に届く。

私の再発防止対策は来週のメルマガで発表する。


このコラムは、2014年3月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第351号に掲載した記事に加筆しました。

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産業構造の転換期

 日経新聞で二つのニュースが目を引いた。
一つは、三菱重工のMRJ公開。二つ目は、Jディスプレイの深谷工場閉鎖だ。

日本の産業は、大手メーカで成り立っている訳ではなく、全体の95%を占める中堅中小企業も重要な役割を果たしている。

中堅中小企業を含む「日本丸」が産業界の変遷を乗り越えて航海を続けている。つまり、繊維、家庭電気製品、情報応用製品、自動車、航空機と時代と共に、産業を牽引する業界が変遷して来た。

二つのニュースがこの変遷を象徴している様に感じた。
この変遷に淘汰されるもの、生き残るもの、様々なドラマが続いている。

我が世を謳歌した繊維業界は、大部分を開発途上国に生産を奪われている。日本の独壇場だったメモリーも液晶も、台湾、韓国に取って代わられた。うかうかしていると、自動車産業も中国にテイクオーバーされるかもしれない。

しかし繊維メーカは、素材メーカとして建築材料や航空機材料を供給している。メモリーで負けても、その半導体微細加工技術は液晶パネルに活かされ、次にまたその技術が活かされる製品が出て来るだろう。

中堅中小企業も、家電、事務機器、自動車と、顧客を変えつつ生き残って来た。自動車分野、航空機分野の下請けに参入する中堅中小企業が増えて来るだろう。

しかし良く考えると、変遷の影で、がら空きとなった業界が有るはずだ。例えばカラー液晶パネルの大型化に伴い、モノクロの小型液晶パネルの生産を継続する企業はほとんど無くなった。しかし一眼レフカメラのファインダー標示など、まだ小型液晶パネルが必要な製品は残っている。

市場規模は小さくても、競合がいない。
ひょっとすると、大変旨味のある仕事なのかもしれない。

時代が変化しているときはチャンスだと良く言う。変化に乗ることができれば、チャンスが広がる。しかしあえて変化に取り残された部分に注目すると、違うチャンスが見えるかもしれない。


このコラムは、2014年10月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第394号に掲載した記事に加筆しました。

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高品質の日本米、官民で輸出障壁越えろ

 

「使っているコメを分けてくれませんか」

 シンガポールの名門ホテル、シャングリラに店を構える懐石料理店「なだ万」の料理長、石塚隆也(42)は客からよくこんな注文を受ける。なだ万が同国や香港で使うのは農機メーカー、クボタから仕入れたコメだ。
(以下略)
全文

(日本経済新聞電子版より)

 海外に住んでいると、日本米の美味さが身にしみて分かる。

この記事によると、精米した後にコンテナに積載して輸出するので、日本米と言えど味は劣化する。赤道直下のシンガポールでは、コンテナ内の温度は60℃を超える。
クボタはこれを解決するために、シンガポールに精米所を設け、日本から玄米でコンテナ輸送をしている。

中国では、日本米の輸入規制が有る。以前試しに少量日本米を輸入した際は、国内産の数倍の単価でも、飛ぶ様に売れた。中国に輸入する米は、中国検疫当局が認定した精米所で精米しなければならない。現在日本国内には一カ所しかなく、認可の申請を出しても、検疫官が来てくれないそうだ。

クボタと同じ方法を採用すれば、中国国内で精米出来、味の劣化だけではなく、非関税障壁も突破出来そうな気がする。

何事も諦めなければ、突破口が見つかるモノだ。

「神子原米」と言う能登羽咋市のブランド米が有る。これも諦めなかった一人の市役所職員が作り上げたブランド米だ。

故郷の羽咋市で住職をする高野誠鮮氏は、市役所の臨時職員として仕事をしていた。そして「限界集落」神子原村の活性化プロジェクトを担当する。「限界集落」と言うのは人口の半数以上が65歳を超える集落をさす。いわば、放っておけば近いうちに消滅してしまう、絶滅危惧村落と言う意味だ。当時、村で最年少の人は50歳だったと言う。このまま行けば、新しく子供が生まれる可能性は、ほぼゼロだ。

まず村の経済基盤を確立しようとした。当時は一戸当りの平均収入は年間90万円にも満たない状態だった。村の生産物と言えば米しかない。棚田で栽培される米はコシヒカリであり、天然のわき水がある、一日の寒暖の差が大きい事などにより、味は評判だ。しかし農協経由で出荷する米は「石川米」として扱われる。農協に出荷せずにブランド米として販売しようと農家に説得するが、賛同者はわずか3戸。全体で5、60戸ある農家の95%からは賛同が得られなかった。

ちゃんと売れる様になったら、皆で会社を興してブランド米として販売する事を約束して、高野氏自身がマーケティングをした。

神子原米をブランディングするために、誰かに食べてもらおうと考えた。「神子原米」にこじつけて米国大統領(当時はブッシュ)とローマ法王に手紙を書いた。ブッシュからは何の返事もなかったが、バチカン市国大使館から電話が来た。ローマ法王に神子原米を献上することができた。

これが有名になり、2年目はあっという間に完売となる。
売り切れ後も、問い合わせの電話が鳴り止まない。東京から電話をして来たと言う女性に「既に売り切れですが、東京の有名デパートならばまだ在庫が有るかも知れません」と高野氏は答える。そして数日後東京のデパートから、神子原米を取り扱わせてくれと電話が入る。高野氏のマーケティングマジックで、どんどん販路が広がって行った。

その後酒も造ろうと考え、外国人が、日本酒に対する感想をブログなどに書き込んでいるのを、ネットで集め分析する。「ワインのような」「フルーティ」と言うキーワドに着目し、日本酒をワイン酵母で作ってしまう。能登は杜氏が多くいて、ワイン酵母で清酒を作るなんて到底認められるモノではなかろうが、それをチャレンジしてしまう。

高野氏は、国内での販売促進のために、ローマ法王や欧米人の酒に対するイメージを使った。「マーケットに聞け」と良く言うが、国内マーケットに販売するために、世界のブランドを作ろうとしたのが、高野氏の戦略だったと推測している。

中小企業にブランドを作る資金などない、と諦めてはいけない。
高野氏の手元に有ったのは、羽咋市の地域振興予算60万円だけだ。高野氏には自らのアイディアと情熱以外に使える物はなかったはずだ。

ただ、高野氏はこのプロジェクトを担当する際に上司への稟議はしない、事後報告を市長にすればよい、と言う約束を取り付けている。事なかれ主義の同僚、上司に足を引っ張られないポジションを予め確保した。

金はなくとも、情熱とアイディアがあれば何とかなる。
そして革新に着いて来れない旧守派に足をとられない仕掛けを用意しておく。こんな所が、不可能を可能にするコツだろうか。

高野誠鮮著
「ローマ法王に米を食べさせた男」


このコラムは、2014年10月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第394号に掲載した記事に加筆しました。

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マニュアル人間

 先週のコラム「無印良品のムジグラム」を読んだ読者様から、「マニュアルも良いけど、マニュアル通りにしか仕事ができない従業員は余り価値がないよね」「マニュアル通りに仕事をさせると、やらされ感が高くなりモチベーションが上がらないと思う」と言う意見をいただいた。

もっともなご意見だと思う。
例えばウチの近所に欧州系のスーパーマーケットが有る。買い物のレシートをサービスカウンターに持って行くと、正式発票を発行してくれる。私は月末にまとめて発票を発行してもらっている。
どういう理由からなのかは分からないが、レシート3枚で発票1枚を発行してくれる。いつものベテランの職員だと問題はないのだが、新人とおぼしき職員が対応してくれるときは、毎回何らかの摩擦が有る(笑)先月は4枚のレシートを持って行った。新人職員曰く「4枚目のレシートは、3枚揃うまで発票は発行出来ません」当然これは間違いで、1枚でも発票を発行しなければならない。
どういうマニュアルで仕事をしているのか不明だが「How to」だけ教えるから、こういう残念な結果となる。マニュアル仕事にはありがちだが、マニュアルになぜそうしなければならないのか「Why」を追加する事で解消出来るはずだ。

マニュアルは、決められた最低基準を共有するモノだ。マニュアル通りに仕事が出来て、その仕事に就いて良いと言うレベルになる。更にパフォーマンスを上げるためには、マニュアルを越えた仕事ができなければならない。

マニュアル仕事でモチベーションが下がるというのも、一面の真実だろう。
無印良品の松井会長は、現場の意見をマニュアルに反映する事で、現場のモチベーションを維持しようとしている。しかし全ての職員が、マニュアルの改訂に関わる事が出来る訳ではなかろう。自分の意見が採用されなかったと言うネガティブな感情を持つ人も出て来よう。

私は、モチベーションはマニュアルの有無とは関係が無いと考えている。

東京ディズニーランドは職員の90%が学生アルバイトであり、毎年30%が入れ替わる。この様な職場では、きちんとしたマニュアルがなければ運営出来ないだろう。マニュアルに従って、仕事をしていてもゲストに感動を与えるようなすばらしい仕事ができる。

例えば、レストランのウェイトレスはマニュアルにより、お子様ランチは9歳以下のお子様にだけ提供する、と言う事は知っている。しかしお子様ランチを注文する夫婦の話を聞き、お子様ランチを提供し深い感動を与えている。(この話しを知らない方は、「ディズニーランド、お子様ランチ」でネットを検索していただきたい。その前にハンカチかティッシュを準備される事をお勧めする・笑)

マニュアル通りに仕事をしていたのでは、こういう感動をゲストに与える事は不可能だ。ディズニーランドと言う組織の風土・文化が、ゲストに感動を与えようと言うモチベーションを高めるのだろう。これはマニュアルの有無とは無関係だ。


このコラムは、2014年10月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第394号に掲載した記事に加筆しました。

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マズロー第六段階欲求

 先週末は第八期品質道場の最終回「品質意識向上」を開催した。
人の意識・意欲はどの様なメカニズムで動くのか?社会学者や心理学者の実験・研究を紐解き、それを組織の品質意識向上にどう役立てるのか?というテーマで勉強した。

20世紀にはあらゆる角度で人のモチベーションに関する研究が行われその成果が発表されている。しかしその研究成果が十分経営に生かされていないと常々感じている。

例えば「マズローの段階欲求説」は人の欲求を五段階に分け、下位の欲求が満たされると、上位の欲求を望む様になる、という理論だ。
五段階の欲求は以下の様になっている。
第一段階:生理的欲求
第二段階:安全欲求
第三段階:社会的欲求
第四段階:尊厳欲求
第五段階:自己実現欲求

中国人従業員のほとんどは、第一段階、第二段階の生理的欲求、安全欲求を満たしている。それでもなお、金銭が労働に対する主要因であると考えている経営者が多くおられる様に感じる。

ほとんどの従業員は、社会的欲求(所属している組織や集団に守られていると感じることができる)、尊厳欲求(仲間や組織が自分を承認していると感じる)を満たしている、または望んでいる段階だと思う。
その上で「自己実現」を目指すことになる。

というのがマズローの段階欲求説だ。
従って、金銭的なインセンティブよりは、より挑戦的な仕事を達成し仲間や上司から賞賛されることの方がモチベーションが上がるはずだ。

ところで「自己実現」を果たしてしまった人は、どこに行くのだろう?
もう死んでもいいという境地になるのだろうか(笑)
達観してしまえば、もうこの世には未練はないのかもしれない、と小人の私は考えていた(苦笑)

マズローは五段階欲求説を発表後、晩年に第六段階の欲求を発表している。
実は恥ずかしながら最近知った。

その第六段階の欲求は「自己超越欲求」と言われている。
自己実現の次は自己超越というとなんだか当たり前の様に思えるが、自己超越とは「利己」を超えて「利他」の境地に至るということだ。

自己実現までの段階はすべて「自分」が中心だ。自己生存欲求、自己成長欲求、自己実現欲求。自己が他人や社会・組織との関係で自己実現するまでの欲求で五段階は終わっている。

その先は他人の利益「利他」を目指す、というのは私たち仏教徒(葬式の時にだけ仏教徒になる潜在的仏教徒を含む)にとってとてもわかりやすい。

つまり自己実現を果たした人は、世のため人のために貢献することを欲求する。
自己超越欲求とは、社会貢献欲求と言い換えてもいいだろう。これには終わりはない。自己実現を果たした後も永遠に続く欲求だ。これなら何歳まででも生きられる(笑)


このコラムは、2018年5月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第663号に掲載した記事に加筆しました。

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仁は遠からず

yuē:“rényuǎnzāirénrénzhì。”

《论语》述而第七-30

素読文:
子曰わく:“仁とおからんや。我仁をほっすれば、ここに仁いたる。”

解釈:
仁とは遠くにあるものでは無い、切実に求めればそこに仁はある。

下村湖人の「論語物語」では孔子が以下の様に言っています。

「元来、仁というものは、そんなに遠方にあるものではない。遠方にあると思うのは、心に無用の飾りをつけて、それに隔てられているからじゃ。つまり、求める心が、まだ真剣ではないから、というより仕方がない。」

下村湖人著「論語物語」 P63

「仁」とは自分の外にあると考えると、青い鳥を探す子どもの様に、なかなか見つけることができません。自分の心の中に「仁」があると考えれば、それを育てることができます。

検査不正

スバルは28日、自動車の性能を出荷前に確かめる検査での不正が、ブレーキやステアリング(ハンドル)をめぐって新たに見つかったと発表した。これまでの不正は排ガスや燃費で判明していた。車メーカーではさまざまな検査不正が相次ぐが、安全性能での不正発覚はスバルが初めて。

(朝日新聞より)

社外弁護士による調査で新たに分かったことは以下の2点だ。

  • フットブレーキの制動力を検査しなければならないのに、サイドブレーキを併用して検査した。
  • ハンドルの操舵角が検査規格に入らないので、タイヤや車体を押して検査合格となるようにした。

私は日本自動車業界の品質を信頼していた。しかし業界の闇は深いようだ。

新たな検査不正発覚でスバル中村社長が謝罪会見を行っている。
会見の中で「再検査のためのリコールは行わない」と明言している。その根拠として以下のように説明している。

  1. 道路運送車両法の保安基準には違反しておらず安全性能には問題ない。
  2. ブレーキなどの性能は、「全数検査」の後に別途行う「抜き取り検査」で確認している。

スバルという会社は品質管理、品質保証とは何かを理解しているだろうか?
出荷時の性能が市場で使用される期間変わらないことはあり得ない。そのため保安基準より厳しい出荷基準を設定しているのではないか?
抜き取り検査とは、工程内検査を含む品質管理が正しく行われていることを確認するための品質保証行為だ。工程内の全数検査で不正検査が行われていたのに抜き取り検査で品質をどう保証するというのだろうか?

なぜこのような不正が横行するのか、もっと冷静に分析をしなければならない。

  • ブレーキ制動力の検査規格は、保安基準より厳しく設定されており安全上の問題はないと製造現場が判断している。
  • 制動力検査不合格となるとタイヤを外しブレーキ部品の再調整が必要となり製造現場が混乱する。
  • 操舵角の精度に対する工程能力が不足しており、検査後の調整が常態化していた。
  • 最大操舵角の足りなくても事故に至ることはない、という認識が現場にある。

などの背景があったのではなかろうか?
だから検査不正をしても良いというわけではない。検査をごまかすのではなく、社内検査基準が厳しすぎるのであれば、適正な検査基準に変更すべきだ。または設計改善・工程改善により工程能力を改善すべきだ。

完成車メーカは、下請け業者に納品品質不良を0ppmせよと指導していると聞く。
車や人の安全を守るという自動車業界の理念と理解している。高邁な理念は、この様な不祥事により完成車メーカの下請けいじめに堕落する。


このコラムは、2018年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第727号に掲載した記事に加筆しました。

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大型クレーン車横転

 先週の失敗から学ぶで「神戸製鋼所データ改ざん」を考えてみたが、今週も神戸製鋼所グループ企業の事故事例だ。

「神戸製鋼でクレーン倒れる 1人死亡、3人けが」

 26日午後4時ごろ、兵庫県高砂市荒井町新浜2丁目の神戸製鋼所高砂製作所で、作業員から「クレーンが倒れ、けが人がでている」と高砂市消防本部に119番通報があった。
(中略)
 倒れたのは、神戸製鋼所の関連会社「コベルコ建機」(本社・東京)が製造した移動式大型クレーン。同社が敷地内にある試験場に持ち込んで性能のテストをしていたところ、クレーンが折れて倒れ、近くにあった建物の一部も壊したという。

(朝日新聞より)

 他のニュースも併せて考えると、事故は以下のように発生したようだ。
クレーンはアームを伸ばすと長さは最大約200メートル。最大つり上げ能力は1,250トンあり、事故時は性能テストを行っており、約130トンの重りを下げて旋回していた。2名の作業員が事故に巻き込まれ死亡している。

事故原因はまだ判明していないが、アームが根元から折れ複数箇所でバラバラになっていたようだ。クレーンアームの材料強度が不足していた、設計強度が足りたかった、製造過程のミス、の可能性が考えられる。

該当のコベルコ建機は以前、
クレーン・フォークリフトの分解整備を無認証の工場で行う。
クレーン・フォークリフトの技能講習を時間短縮して実施。
という不正が見つかり、監督官庁から指導・処分が行われたこともある。

先週のメルマガでは、神戸製鋼所のデータ改ざんは「川上企業のおごり」だと論じたが、コベルコ建材は同じ神戸製鋼グループではあるが川上産業ではない。しかし大きな企業グループの一員であるという傲りが有ったのではなかろうか?
「誇り」と「傲り」は一音違うだけであり、表と裏のような関係だ。企業文化根底に「誇り」があるのと「傲り」があるのでは、全く違ってしまう。

ちょうど池井戸潤「空飛ぶタイヤ」を読んでおり、このニュースを見てそんな感想を持った。


このコラムは、2018年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第700号に掲載した記事に加筆しました。

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