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第二章:経営は継続とチャレンジ

伝説の経営者・原田則夫の“声”を聴け!
工場再生指導バイブル
99%の安心と1%の心配
六月に開催した原田式経営哲学勉強会にて,元原田総経理秘書・閻苗苗さんの話を聞いた.原田氏は亡くなる前日,トイレのチェックシートの運用について指導をされたそうだ.
このチェックシートは,私が初めてSOLID社を訪問した時に,その内容を見てこの工場はただ事ではないと直感したチェックシートそのものだ.
実はトイレのチェックシートに関する指導は「原田総経理指導語録」にも,別の事例が出てくる.原田氏は,既にうまくできている事でも,それが崩れてしまわないように,何度も再指導を繰り返していたのだ.
経営者は,99%うまく行っている事でも,残りの1%を心配する「継続力」と,99%うまく行かなくても,1%の可能性があれば挑戦する「チャレンジ力」を併せ持っていなければならない,というのが原田流の考えだ.
継続力とは
ここでいう「継続力」とは同じ事をずっと続ける力ではない.
例えば,日本で一番長く継続している企業は,創業578年の金剛組といわれている.では金剛組は千四百年以上前から同じ事を継続してやり続けているかというと,そんなはずはない.それでは絶対に倒産しているはずだ.時代に合わせて進化するから事業が継続出来るのだ.
継続力を持つためには,組織やシステムの中に,「成長のサブシステム」を内蔵している必要がある.
つまり,決められたことがきちんと守り続けられるためには,「規則」「標準手順」が整備されていることが必要だ.そしてその規則や標準手順が,進化・改善される仕組みと仕掛けを持っていなくてはいけない.
技術とか作業を標準化するということは,進歩をその時点で凍結するということだ.世界最高レベルの技術を標準化できたとしても,それが明日も最高であり続ける保証はどこにもない.標準は決めたその時点から,次の改訂準備がスタートしていなくてはならない.
チャレンジ力とは
失敗を怖れず立ち向かう実行力,諦めずに取り組む執着力,成功すると信じる力.それらの力の総体がチャレンジ力だと考えている.
学校では,「成功」の反対語は「失敗」と教えるかもしれない.しかし,経営者にとって,成功の反対語は「何もしないこと」だ.成功は失敗の向こう側にある.失敗を一つずつ積み上げた,その山の頂に成功はある.成功すると信じて執着することが成功のための第一歩だ.
継続力とチャレンジ力は一見正反対の力のようだが,究極のところは共通点がある.つまり継続力には,継続するために改善・改革するチャレンジ力が必要だし,チャレンジ力には,成功するまで執着する継続力が必要だ.
しかし継続力とチャレンジ力という方向性の違う能力を,一人の経営者が持っているというのは,まれであろう.
では原田氏はどうしていたのか,元々彼はエンジニアであり,チャレンジ力の方は若い頃からあったはずだ.経営者として仕事をするようになってから,一日の仕事を分割し,異なる役割を果たしていたのではないと,私は考えている.
つまり始業前と,昼休みの社内巡回を毎日の仕事として固定していた.その時間帯は継続力を発揮する経営者としての行動を,自分に課していたのだと思う.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2010年9月号に寄稿したコラムです.