月別アーカイブ: 2019年6月

品質管理の形骸化

 少し古いが日経テクノロジーに「不良品が減らないのは、品質管理が形骸化しているから」と題するコラムがあった。

リーマンショック以降、日本の国内市場が縮小し、工場が海外シフトした事により「現場力」が低下したことで品質管理が形骸化し、不良が減らない、と言うのがコラム筆者の主張だ。彼が取り組んだ改善事例が二件紹介してあった。

一つはISO9001対応に成り下がり、形骸化したQC工程図の運用を元に戻した。
もう一つの事例は、5Sを徹底することにより現場の問題を見える化した。

確かにこれで一定の効果はあるだろう。しかし本当にこれだけで良いのだろうか?と言う違和感を持った。

ほとんどの日系工場にはQC工程図は有るだろう。
しかし新規工程を作らなければ、QC工程図にはほとんど変化はない。新機種を生産投入しても、QC工程図の改訂は無く、以前のQC工程図をコピペして新機種のQC工程図を作成する場合がほとんどだろう。
リーマンショック以前から、この様な対応で済ませていた工場が大半だろう。
リーマンショック以前から、ある意味ではQC工程図は形骸化していたと思う。

誤解を恐れずに言えば、元々QC工程図はレベルの低い工場を一定の品質レベルに揃えるための手法でしかない。QC工程図の運用を変えた所で、最低基準の品質レベルにしか到達しない。

日本製品の品質に定評が有ったのは、QC工程図の運用ではなく「現場力」の強さに有った、と考えた方が良いだろう。具体的に言えば、QC工程図には工程内検査を実施すると言う事は書いてあるが、検査規格をどう設定するかは書いてない。

例えば、電源装置の仕様に電圧保持時間の規定が有る。電圧保持時間とは、入力電源が切れてから出力電圧が保証される時間の規定だ。通常製品仕様は電源OFF後○○msは出力電圧を保証するとなっている。従って設計者は、電源保持時間が○○ms以上となる様に設計している。そのため生産技術者は工程検査の仕様を○○+αms以上と規定し、検査装置をプログラミングする。ここのαは、実使用環境と検査環境の差異を吸収するためのマージンだ。

しかしこの様な検査仕様を作成すると、ベテランの技術者から指導を受ける事になる。正しくは△△±□msと検査仕様を設定する。なぜならば、製品仕様が○○ms以上であっても、設計仕様は△△±□msにしかならないからだ。電圧保持時間に影響を与えるのはコンデンサーの容量であり、コンデンサー容量の仕様は±□%で規定されている。そのため設計者は△△ー□msが製品仕様の○○ms以上となる様に設計している。
製造が設計通りに作っているかどうかを確認するために上限も検査しなければならない、と言う理屈だ。
こういう「感性」が現場力であり、これを新人の生産技術者に教えて行く事が、現場力を維持することになる。QC工程図だけでは、現場力は取り戻せない。

5Sを維持改善するのも現場力だ。

現場力が低下してしまった原因は、リーマンショックでも国内市場の縮小でもない。バブル崩壊後、日本的経営に自信を持てなくなった経営者が、米国流の短期成果主義経営を盲目的に取り入れたのが原因だと考えている。つまり生産現場を要員化し、人的コストを変動比化した事で現場力が下がった、と考えるのが妥当だと思う。

景気の後退や国内市場の縮小が問題であれば、一経営者には解決方法はない。
人的資源を「リソース」と考えればコストになる。人的資源を「キャピタル」と考えれば、人財育成は必須の投資だ。

以前、バブル崩壊後の日本工場を訪問して驚いたことがある。
変種変量生産が可能な先進的な工場だ。しかしその工程で働いていたポニーテールの男性作業員は、手待ち時間に扇子を使って涼んでいた。その工程の責任者に問うと、派遣作業員なので直接指導が出来ないとの答えだった。私には言い訳にしか聞こえなかったが、この様な状況では、現場力を上げる事は出来ない。

不良を減らし、生産性を改善するためには、QC工程図の運用や5Sの取り組みを小手先で考えても効果は限定的だろう。自ら考え改善を継続する現場力を育成するのが本道だと考えている。


このコラムは、2015年5月18日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第424号に掲載した記事です。

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HVソフト品質管理に課題 プリウスのリコール

 トヨタ自動車は12日、ハイブリッド車(HV)「プリウス」のリコール(回収・無償修理)を発表した。HVシステムの制御ソフトの不具合が原因。トヨタは既にソフトを修正したうえで生産を始めており、現在受注済みの車両の納車に影響はないもようだ。

 今回リコールの対象は2009年3月から今月5日までに生産した車両で、輸出分も含めて約190万台。このうち国内で販売した99万7千台については、販売店で制御ソフトの修正や部品交換に応じる。顧客にはダイレクトメールなどを通じてリコールを知らせる。「プリウスα」や「プリウスPHV」「アクア」などその他のHVはリコールの対象外。

 問題となったシステムはサプライヤーからの供給品。サプライヤーの名前やリコール費用の補償については明らかにしていない。品質の最終責任はトヨタが持つが、同社はリコールなどに対応するために引当金として年間5千億円以上を確保している。

 今回の制御異常は車の発売から時間を経てから見つかっており、出荷時にはチェックしにくい種類の不具合の可能性もある。HV化が進み電子部品の重要度が増すなか、ノウハウの蓄積が比較的浅いソフト関連の品質管理が自動車各社の課題になりそうだ。

(日本経済新聞電子版より)

 トヨタのホームページのリコール情報は以下の様になっていた。

  1. 不具合の状況
    ハイブリッドシステムにおいて、制御ソフトが不適切なため、加速時などの高負荷走行時に、昇圧回路の素子に想定外の熱応力が加わることがあります。そのため、使用過程で当該素子が損傷し、警告灯が点灯して、フェールセーフのモータ走行となります。また、素子損傷時に電気ノイズが発生した場合、ハイブリッドシステムが停止し、走行不能となるおそれがあります。
  2. 改善の内容
    全車両、制御ソフトを対策仕様に修正します。
    制御ソフト修正後に素子が損傷して警告灯が点灯した場合は、電力変換器(DC-ACインバータ)のモジュールを無償交換します。

これだけでは詳細は理解出来ないが、ハイブリッド制御モジュールの組み込みソフトにバグがあり、加速時にモータの駆動用ドライバー素子に定格以上のパワーロスを与えてしまい、熱破壊してしまう、と言う故障モードの様だ。

この手の組み込みソフトのバグによる不具合は、設計検証で洗い出し、実車により妥当性を確認しなければならない。しかしこの検証や確認が困難であり、「永遠にバグはもう一つある」などと揶揄される事がままある。

設計検証時にどこ迄「非定常条件」を想定出来るかが、検証試験の鍵となる。また単体だけの検証ではなく、周辺を組み合わせた結合試験も実施する。ハイブリッド制御モジュール、駆動モジュール、モータを組み合わせて検証評価をすることになる。

「追い越し加速」と言う条件の検証項目は、あったはずだ。
この検証時に実機で検証していれば、駆動モジュールのドライバー素子は壊れたはずだ。ソフトウェアの設計担当者だけで検証していると、ハードウェアの故障を見逃す事もあり得る。ドライバー素子の破損をソフトが原因と特定せずに、ハードの問題としてスルーしてしまうと言う事だ。

メカトロニクスの設計・設計検証には、ハード・ソフトに精通したエンジニアがあたるべきだ。

今回のハイブリッド制御モジュールは、サプライヤーからの調達品だ。
しかし完成車の品質保証は、トヨタが最終責任を持っている。
従ってハイブリッド制御モジュールが、どのような手順で設計検証されたか、
確認する責任はトヨタにもあるはずだ。

最近の製品は、組み込みソフトの力を借りて機能を実現する製品が多い。
ハード・ソフト、内製・外製を問わず、量産前にバグを洗い出す品質保証の手順を確立しておく必要がある。


このコラムは、2014年2月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第349号に掲載した記事です。

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日産、米消費者情報誌の元幹部を採用 品質管理担当に

 日産自動車は22日、米国の有力な消費者団体専門誌「コンシューマー・リポート」の自動車試験センター幹部だったデイビッド・チャンピオン氏を、品質の管理や評価などを担当する部門の幹部に採用すると発表した。「コンシューマー(消費者)目線」を重視し、品質向上につなげる狙いだ。

 米コンシューマー・リポート誌は、自動車や家電製品などの安全性チェックなどで信頼が厚く、米国の消費者に大きな影響力を持つことで知られる。チャンピオン氏は、同誌で自動車メーカーが売り出した車の安全性などをテストして論評してきた経験がある。1994年から97年まで日産で品質向上関連の技術者として働いていたといい、今回は「古巣復帰」となる。

 米国日産は「彼の経験は、我々の自動車に対する顧客の満足度を高めるのに役立つ」とコメントした。(ニューヨーク=畑中徹)

(asahi.comより)

 コンシューマー・リポート誌は,独自の評価を消費者の立場で提供する専門誌として,1936年から発行されている月刊誌だ.メーカから評価サンプルの提供を受けず,第三者として評価する姿勢が,消費者の信頼を得ている.

実は私は,学生時代から「暮しの手帖」を愛読していた.主婦向けの雑誌ではあるが,製品評価記事が好きで読んでいた.大学の指導教官だった恩師の影響で読む様になった.
いずれの記事も一貫して商業主義に左右されない生活者本位の視点が貫かれ,家庭電化製品や日用品を中心とした商品テストは,その条件の厳格さで製品のメーカーに大きな影響力を持っていた.

社会人となり,メーカで開発のエンジニアになった時も,その評価手法を勉強した.同誌は家庭用品,私は工業用製品と製品のジャンルが違っていたが,使う人の立場となって評価する姿勢は大いに参考になった.

コンシューマー・リポート誌は読んだ事はないが,暮しの手帖と同様の匂いがする.その雑誌社から自動車評価の専門家をヘッドハンティングした日産の姿勢にも大いに共感する.
少し気になるのは,コンシューマ・リポート誌がどちらかというと日産に好意的な評価をしている様に思える事だ(笑)自社に批判的な記事を書くテスターを採用していたら,もっとすごいと思っただろう.

新製品開発をする場合,設計が設計仕様通りに出来ている事を評価する事を,設計検証という.新製品評価は設計検証だけではなく,より消費者の立場に立った「妥当性評価」をする.この妥当性評価は,設計担当者部署ではなく,品質保証部が中心となって実施する事が多い.

私は開発エンジニア,品質保証部門の責任者として仕事をしていた時に,若い頃暮しの手帖を愛読した経験が役に立ったと実感している.

妥当性評価の結果,設計変更を要求した事もある.しかし残念な事に,この仕事は社内ではあまり評価されない(苦笑)
なぜならば,消費者からのクレームを未然に防ぐ仕事だから,その成果が見え難い.具体的にユーザクレームが発生していれば,その損失金額は明確となる.しかし製品をリリースする前に,クレームの芽を摘んでしまうので,損失金額は見えない.

新製品のクレーム損失金額が,売り上げに対する割合をいくら以下に抑える,という目標を立てることにより,成果を経営陣にアピールする様にしていた.

しかしどちらかと言えば,縁の下の力持ち的な仕事である.
今回の様に,評価のプロを外部からヘッドハンティングして来る,という経営判断は,縁の下の力持ちたちに,自分の仕事に誇りが持てる様再認識を与える事が出来たのではないだろうか.

日本の企業は「自前主義」が根っこのところにあるが,外国人社長を迎えた日産ならではの判断だろう.

実は私も自社の海外工場の品質保証責任者としてマレーシア人を採用する様,事業部長に進言したことがある.彼はお客様のQE(品質保証エンジニア)として,インドネシアの工場に監査・指導にたびたび来ていた.その度に私が日本から出張し,顧客監査の対応をしていた.立場が違うが,お互いの力量を認め合う仲となった.

彼がインドネシア工場の品質責任者になれば,顧客監査は全て彼が対応することができる.顧客の内部事情を良く知っているので,一石二鳥だ.しかもマレーシア出身の彼ならば,インドネシア語が理解出来,現場のリーダ,作業者を直接指導出来る.

一石三鳥くらいの効果があると,事業部長を説得したのだが,残念ながら本人から断られてしまった(笑)


このコラムは、2012年8月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第272号に掲載した記事です。

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カレー鍋スープ、6万パック自主回収

 調味料の〇〇(東京)は21日、「カレー鍋スープ」の約6万パックを自主回収すると発表した。工場での殺菌処理の工程でトラブルが見つかり、雑菌が混入している恐れがあるという。

 自主回収するのは関東工場で8月1日に生産し、賞味期限が2012年7月31日の6万540パック。カレーチェーンを運営する会社と共同開発した商品で、全国のスーパーなどで販売している。

 購入者から「すっぱい味がする」との指摘を受けて調べたところ、同日の生産分のうち1344パックの殺菌処理が不十分だった。同社によると、腹痛などをおこす恐れがあるという。

(asahi.conより)

※社名等を特定する必要がないので、伏字としました。

 この記事だけでは,どの工程でどんなトラブルが発生したのか具体的には分からない.全て仮定になるが,今回の回収事故から教訓を探してみたい.

殺菌処理の工程でトラブルが見つかったとある.
殺菌処理工程には,調理に使う設備の殺菌,食品そのものの殺菌,包装パックの殺菌が推定される.記事だけではどの殺菌工程かは分からない.

また殺菌工程のトラブルの波及範囲が,1344パックと特定できているということは,1バッチ分(または数バッチ分)の生産だったということであろう.そしてそのトラブルは,認知されており,記録にも残っているはずだ.

さすがに,食品そのものの殺菌工程にトラブルが発生していたのならば,出荷は止められたはずだ.

恐らくバッチごとの,設備洗浄殺菌とか,包装パック殺菌などの補助的な工程でのトラブルなのだろう.

消費者からのクレームに基づいて,生産記録を調べても異常が見つからない.しかし設備などのメンテナンス記録を調べることにより,異常が見つかったという経緯だろう.
例えば,殺菌温度が不足していることに気が付き,殺菌設備の調整・修理が行われたという記録が見つかったのではないだろうか.

その不具合が製品に与える影響を推定しきれなかった(認識ミス).
またはその後にも殺菌工程があるので問題ないと判断した(判断ミス).
のようなミスがあったのではないだろうか.

このような人為ミスを防ぐためには,製品の品質に影響がある工程で不具合が発生したら,強制的に主ラインが止まってしまう仕組みを作ればよいだろう.原因の追究と波及範囲の特定・処理を決めた後,ライン停止解除できる仕組みにしておく.このようにしておけば,一人の作業員の認識ミス・判断ミスで不具合が拡散する可能性を低くすることが出来る.

以前半導体部品のロット不良に遭遇したことがある.
トランジスタのVbe電圧(トランジスタがONになる電圧)が,仕様を外れていた.製造元の出荷検査では,一瞬で検査が終わってしまうため不良を発見できない.しかし通常の使用状態では,トランジスタが自己発熱する為に,Vbe電圧不良が顕在化する.

製造元の調査によると,トランジスタチップをリードフレームにボンディングする設備に異常があり,調整をしたという記録が見つかった.不良の原因はトランジスタチップとリードフレームが密着していなかったため,トランジスタの自己発熱がリードフレームを通して散熱出来ずに,Vbeの温度特性により,ON電圧が仕様を外れてしまった.

このロット不良も,ボンディング設備の調整メンテナンスをした時点でその影響と波及範囲を特定する仕組みがあれば,少なくとも不良ロットを出荷しなくても済んだはずだ.またはボンディング設備の品質をモニターできるようにしておけば,不良の発生もなかったはずだ.

まずは,各工程の潜在故障が製品品質に与える影響を特定する.
製品品質に影響を与える潜在故障の発生をモニターする仕組みを工夫する.
少なくとも,故障発生時に主ラインが止まるようにすれば,回収事故にはならないはずだ.


このコラムは、2011年9月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第224号に掲載した記事です。

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管仲仁者なりしか

yuē:“huángōng(1)shāgōngjiū(2)zhào(3)zhīguǎnzhòng(4)”。 yuē:“wèirén?”
yuē:“huángōngjiǔ(5)zhūhóubīngchēguǎnzhòngzhīrénrén”。

《论语 宪问篇第十四-16》

(1)桓公:斉の君主。
(2)公子纠:桓公の庶兄(妾の子で兄)。
(3)召忽:公子糾の臣下。公子纠が殺されたため殉死した。
(4)管仲:桓公の臣下。
(5)九合:多くの人を寄せ集めること。

素読文:
わく:“かんこうこうきゅうを殺す。しょうこつこれに死し、かんちゅうは死せず。” 曰わく:“いまだ仁ならざるかと。”
子曰わく、“かんこうしょこうきゅうごうし、へいしゃもってせざるは、管仲の力なり。じんかんや、其仁に如かんや。”

解釈:
子路曰く:“桓公が公子糾を殺した時、召忽は公子糾に殉じて自害したのに、管仲は生きながらえている。こういう者は仁者とは言えないのではないでしょうか。”
孔子曰く:“桓公が武力を用いず諸侯を糾合したのは管仲の力である。管仲ほどの仁者は滅多にない。

桓公が腹違いの兄・公子糾を殺した時に公子糾の臣下・召忽は自害しています。同じく公子糾の臣下であった管仲は殉死しないばかりか、主殺しの桓公に使えた。子路はこれを「仁」の心から外れる、と言っています。
しかし孔子は桓公が武力によらず諸侯連合を築き上げ夷狄から中国を守ったのは管仲の力があったからだと言っています。
「仁」とは主従の間だけではなく、もっと広く国民のためにあるものだという教えでしょう。

JR運転士を書類送検へ 三重・名松線の無人走行事故

 津市白山町のJR名松線家城(いえき)駅で4月、車両の入れ替え準備中だった回送列車(1両編成)が無人で約8キロ自走した事故で、三重県警は、ブレーキをかけずに列車を離れた男性運転士(25)を業務上過失往来危険の疑いで、近く書類送検する方針を固めた。

 県警などによると、男性運転士は4月19日午後10時ごろ、JR名松線家城駅で車両の入れ替え準備中に列車のエンジンを始動させたまま、ブレーキをかけずに運転台を離れ、列車を同市一志町の井関─伊勢大井駅間の踏切付近まで8.5キロ自走させ、衝突などの危険を生じさせた疑いが持たれている。

 名松線では06年8月、今回と同様に家城駅に止めてあった無人の列車が車輪止めの付け忘れなどが原因で自然に走り出す事故があり、男性運転士が業務上過失往来危険の容疑で書類送検され、起訴猶予となった。

 捜査関係者は、今回も運転士のみを送検する理由について「JR側の再発防止策が不十分だったわけではなく、運転士の過失が大きいと判断した」としている。

(asahi.comより)

 記事にある06年8月の事故は,車輪止めのつけ忘れに加え,エンジンの停止時に空気圧が抜けてブレーキが緩む構造だったことが分かり,JR東海はエンジンを切った場合も制動の機能が落ちないようブレーキの機構を改良していた.

つまり,車輪止め忘れと言う人為ミスが発生しても,ブレーキの欠陥を改善することにより問題が発生しないようにしている.言ってみればポカ除けをしてあったわけだ.

今回の事故では車輪止めをはずした後にブレーキをかけ忘れている.
ポカ除けがしてあっても人為ミスを起こしたのだから,今回は書類送検となったようだ.

もちろん人の命を預かる業務をしている者が「ついウッカリ」でも良いというわけでは無い.
しかし人の命にかかわる作業であるからこそ,人の注意力に頼らない徹底的なポカ除けを考えるべきだろう.

工場の不具合発生にも同様の人為ミスはある.その不具合に対し「作業員に注意し,再教育した」「作業員を罰して,担当業務からはずした」などというレベルの低い対策を良く見かける.

今回のニュースをポカ除けの観点で見直してみよう.

06年の不具合は車輪止めを付け忘れている.
そのためブレーキの性能を上げて(エンジン停止後にブレーキが緩むという欠陥を改善して)対策とした.

今回の事故ではブレーキをかけ忘れている.人為ミスとしては同じレベルのミスだ.エンジンをかけた状態では車輪止めをつけないわけだから,ブレーキのかけ忘れが直接事故につながる場面は多いはずだ.

例えば駅に停車した際に運転席からプラットホームに降りるという状況はいくらでもあるだろう.

従って車輪止めの付け忘れと言う人為ミスよりもブレーキのかけ忘れと言うミスの方がリスクは高いだろう.
リスク=影響×発生確率と考えた時,上記のミスはどちらも同じ影響度であり,ブレーキのかけ忘れのほうが発生確率が高そうだ.

車輪止め忘れよりもブレーキかけ忘れに対するポカ除けをする方が優先度が高いはずだ.
列車の運転手は指差し点呼で人為ミス防止をしているが,これは自己チェックの機能しかなくポカ除けとはいえない.

例えばブレーキレバーを引かなければ運転席の扉が開かない構造にするなどは比較的簡単に出来るのではないだろうか.こういうのがポカ除けだ.


このコラムは、2009年7月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第107号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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完結編・灯油誤販売の対策

 今週のメルマガで,灯油とガソリンを間違えて販売してしまったという事故に対する現実的な対策を募集した.
「灯油と間違えてガソリン販売 福岡の石油店」

ヒューマンエラーをなくすためには,まずミスを防ぐ事が出来るようにはっきりと識別できるようにしておくことが重要だ.
更に一歩突っ込んでミスをしたら作業ができないようにする「ポカよけ(フールプルーフ)」まで対策ができると良い.

私が考えた「ポカよけ」は

※灯油とガソリンの給油口のネジ径を変えてしまう.

タンクローリィのホースを接続する地下タンクの給油口のネジ径を灯油だけ変えてしまう.こうすることによりガソリンを持ってきたタンクローリィのホースは灯油の給油口には接続できなくなる.

しかしタンクローリィのホースの接続口と地下タンクの給油口は規格化されており,これを変更するとなると,販売店ばかりか輸送業者にも影響がありうまく行かない.

この方法はタンクローリィのホースの接続口と給油口の間にアタッチメントを付けるようにする.

販売店は灯油のタンクローリィが来た時には,伝票を受け取るときに灯油用給油口に接続するアタッチメントをタンクローリィの運転手に渡す,アタッチメントの反対側はタンクローリィのホースが接続できる様になっている.給油後運転手は納品書と引き換えにアタッチメントを返却する.
という仕組みだ.

これでガソリンスタンド,タンクローリィともに最小限の変更で誤給油をポカよけできる.

以下ご投稿いただいたアイディアを紹介する.

※作業する上ですぐに判別出来る方法として

  • 形を変える=>給油口の変更=>費用がかかる(今回はそぐわない)
  • 給油口の色と表示を変える=>作業する人が間違わない

というのは、どうでしょうか?赤と黄色とか。

 色と表示による識別で徹底する方法ですね.
 「形を変える」というのはポカよけになります.

※設備改善等ハード面は変更できないという前提で考えました。

  • ガソリンと灯油の給油口に違う色を塗る(例えば、ガソリンは黄色・灯油は赤色)。
    灯油を販売するときに入れる容器の色をこの給油口の色と同一にする。
    表示の文字も同様に給油口の色と同一にする。
  • 給油時に、運転手や伝票とのダブルチェック
    「灯油の給油ですね。ここが灯油の給油口です。間違いないですね?」等の確認。
    納品予定との確認。

 このアイディアも色と文字による識別の徹底です.
 更にダブルチェックを追加されているところが良いですね.

※ガソリンスタンドの問題について考えてみました。
一番良いのは、物理的な対策かと思いますが、なかなか良い案が思い浮かびません。(色分け、表示、記録では弱い為)

  • 給油口の形状と給油ホースの形状を変え、間違った場合は給油(接続)出来ない様にする
     →しかし、相手側(タンクローリー給油ホース)の変更が必要なので、非現実的
  • 給油口に比重計?を付け、間違った比重のものを給油しようとしても、給油口が開かない
     →どれ位の設備投資が必要か不明

以上の通り、私の頭では良い案が思い浮かびませんでした。林さんや他の皆さんのアイディアを期待しています!

 こちらは初めから「ポカよけ」に絞って検討されたようです.
 「比重が違う物は給油できない仕掛け」というのは案外簡単な方法で実現できるかもしれません.
 例えばフロートが弁になっているような物をつけておけばできそうですね.
 ひょっとして実用新案が取れるかもしれません.

今回もすばらしいアイディアをありがとうございます.
私の設問で給油口の位置変更を非現実的なアイディアとして評価してしまったので,ちょっと「引っかけ」のようになったかもしれない.
その制約を一歩踏み込んで現実的な解決方法を考えるというのが良いだろう.


このコラムは、2008年11月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第60号に掲載した記事に加筆修正しました。

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灯油と間違えてガソリン販売 福岡の石油店

福岡県飯塚市川津の石油販売店「ラッキー石油飯塚店」(秋元潤一代表取締役)が、灯油を買い求めた客7人に間違えてガソリンを販売していたことが30日、飯塚地区消防本部の調べでわかった。客の1人は特定できたが、残る6人ははっきりしないといい、消防本部や同市が、店の周辺で広報車両や消防車両を走らせて注意を呼びかけている。同日正午までの段階では、このガソリンが原因と見られる火災の報告はないという。

 消防本部によると、29日午前10時ごろ、タンクローリー車から同店の地下槽へ灯油を補充する際、ガソリンと間違えた。気づいた店側が30日午前10時半ごろ、消防本部に連絡してきたという。灯油を買い求めた客7人に対し、ポリ容器に入れたガソリン計234リットルを販売していたという。

(Asahi.comより)

この手の事故は何度も再発している.業界全体で有効な再発防止対策が取れていないと判断せざるを得ない.

普通ガソリンスタンドでは,灯油の給油スタンドとガソリンの給油スタンドは別の場所に設けてある.ここでガソリンと灯油を間違えて販売することはまずなかろう.
推測だが,このように灯油とガソリンの給油スタンドを分けて配置するのは消防法などにより決められており,これに合致していなければ開業許可が下りない様になっているのではなかろうか.

しかしタンクローリーから地下タンクに給油する口は一列に並べてあるのが普通のようだ.
また給油口に「ガソリン」,「灯油」という表示がしてあるのを見た事があるが,もっと大きな看板の方が良いだろう.

灯油とガソリンの地下タンク給油口を別の場所に配置する.
こうすると灯油を給油しに来たタンクローリィの停車位置は,ガソリンの場合と異なる.間違いがあれば一目瞭然だ.

しかし既に給油口を設置してあるガソリンスタンドに対し給油口の位置を変えなさい,と行政指導をすると販売店側の負担が大きくなり,なかなか守れない.
罰則付きの強制指導とした場合業界から一斉に反発が来るであろう.ただでさえ廃業しているガソリンスタンドが出ている業界である.

現実的な再発防止対策はどうしたら良いであろうか.
皆さんの中にガソリンスタンドを経営しておられる方はいないであろうが,ヒューマンエラーを防止するための対策を検討する時の訓練になると思う.


このコラムは、2008年11月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第59号に掲載した記事に加筆修正しました。

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列車逆走事故

 メールマガジン829号「失敗から学ぶ:列車の制御、新時代へ」で鉄道の自動運転システムをご紹介した。
「列車の制御、新時代へ」

その後間もなく自動運転の列車事故が発生した。
「逆走列車側に不具合か 「駅の合図は正常」 横浜の事故」(朝日新聞ディジタル)

記事によると「シーサイドライン」の車両が終着駅・新杉田駅で進行方向とは逆向きに走り出し、車止めに激突。乗客14人が重軽傷を負った。

その後の調査が以下のように報道されている。
運行制御装置側には問題が見つかっていない。
列車の電気系統の断線により方向転換の指示が伝わらず、逆走した。

新聞記事から判断すると、
駅側の制御装置と列車の制御装置間の通信には問題はなかった。
列車の制御装置と駆動機器間に断線があり、方向転換がなされず逆向きに走行。

「逆走、電気系統に断線 指示、伝わらず シーサイドライン」(朝日新聞ディジタル)

このようなシステムを設計する場合、中央制御装置と列車制御装置間の通信は司令/確認のプロトコルを入れるはずだ。例えて言うと、中央指令室の運行管理官と運転手の間で司令と確認が交わされるのと同様のやりとりが、中央と列車の制御装置間で行われているはずだ。
このプロトコルが成立しない場合(中央から走行方向切り替えの指示に対して確認の応答がない)安全側に動作するように設計する。

同様に制御装置と運行機器間でも双方向のやり取りがあるはずだ。
例えば加速の指示を出すとスピードメーターからのフィードバックが得られる。
今回の事故原因が「断線」によるものだとすると、モータの反転装置からのフィードバックがなくても正常と判断する「設計欠陥」があったはずだ。

自動機がある生産現場でも同様の問題がないか点検してみる必要があるだろう。
例えば非常停止ボタンを押した場合、安全に停止するかどうか。
→主電源を落としてしまうと危険な場合もありうる。

コンベアの駆動モータをオンにしたらコンベアが動いているか。
→なんらかの理由でコンベアが動かなければ、駆動モータが過熱し火災発生。

プレス機などのエリアセンサーが機能しているか。
→エリアセンサーの電源が入っていない場合安全側に動作するか。

シーサイドライン事故の記事を見た時に「サイバーテロ」が最初に思い浮かんだ。IOTにより我々の生活の利便性が格段に上がってる。しかしその裏でリスクも大きくなっていることを認識していなければならない。


このコラムは、2019年6月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第835号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

人為ミスの対策

 先週は人為ミスについてコラムを書いた.今週は人為ミスの対策について事例を紹介したい.

人為ミスの対策として,安易に検査の二重化をしてはならない.
検査は不良の選別しか出来ず,品質の向上には貢献しない.客先出荷品質という限定された品質の保証が出来るだけだ.

例えば,不具合品が客先で見つかり,検査を二重化する.
しかし検査後に不具合品が混入したとすると,検査を二重化しても効果はない.
抜き取り検査を追加しても,AQL保証レベル・抜き取り数量と不良発生率を考慮すると,無意味な場合がほとんどだろう.全数検査で見逃した不良を,抜き取り検査で発見できる確立は,限りなくゼロだろう.
やるとすれば,検査員を換えて再度全数検査をするしかない.これとて検査員が二人とも不良品を見逃す確率をゼロに出来るわけではない.

事例として,ケーブルアッセンブリィを考えてみよう.
デスクトップPC用電源の出力ケーブルを想像していただきたい.いくつものコネクターが決められた長さの線材に取り付けられ,束線バンドで決められた位置を束線してある.

電気検査で発見できない人為ミスは,
コネクターの型式が間違っている.
コネクターの数が足りない(多い).
線材の仕様が違っている.
配線の長さが間違っている.
束線バンドの型式が間違っている.
束線バンドの数が足りない(多い).
束線バンドの位置が違っている.

通常,最終検査として上記のミスは,検査治具を使った目視検査が行われている.更に検査を二重化しても,生産コストがあがるだけで意味は無いだろう.

それよりは,結線作業,束線作業を治具化して間違いが発生しないようにする.この方が現実的であり効果的だ.
生産開始時にハツモノ検査を実施する.これは抜き取り検査の意味ではなく,間違った治具や製造指導書を使ってしまった場合の,修理手戻りを防ぐための自衛検査だ.


このコラムは、2011年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第198号に掲載した記事に加筆修正しました。

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