月別アーカイブ: 2018年6月

工程の可視化

 新聞を読んでいたら「研究中の遺伝子組み換え植物、外で育つ 名大、急ぎ回収」と言う記事が目に入った。

遺伝子組み換えの研究で作った植物が、実験室の外の自然界に漏出してしまい大騒ぎになった、と言うニュースだ。遺伝子を操作した自然界にはあり得ない植物が、実験室と言う管理された場所から漏出すると何が起こるか分からない。
不測の事態を予防するために、遺伝子操作をした植物や生物は、外界に漏出しない様に厳重に管理しているのだろう。

実験植物の種子がゴミや培養土壌と一緒に、外界に出てしまう可能性が有る。そのため、植物も土壌も高温高圧で死滅処理をしていると言う。

多分この死滅処理の過程に何か問題が有ったのだろう。
(1)死滅処理をしていない土壌を廃棄してしまった。
(2)死滅処理はしたが、設備に不調が有り、十分な死滅処理が出来なかった。
設備の不調には、設定ミス、故障、停電などによる障害などが考えられる。

(1)の潜在不適合は、我々製造業では「工程とばし」と呼んでおり、いくつも事例がある。
金属加工の熱処理が代表的な例だろう。熱処理前の製品と熱処理後の製品は見分けがつかない。
特性検査で見つけることができれば良いが、通常は破壊試験となり全数保証はできない。熱処理が寿命特性に影響が有る場合は検査に時間がかかり過ぎ、問題を見つけた時は出荷済み、と言う事態になりうる。

熱処理前、熱処理後を可視化することにより工程とばしを防ぐことができる。

「熱処理待ち」「熱処理済み」などの看板を使う、バーコードなどを使い工程管理をコンピュータ化する、などの対策が有る。
しかしこの対策が有効なのは(1)の場合だけである。

(2)の対策として設備のメンテナンスや稼働状況を見える化を実施している。熱処理投入時と完了時に設備の稼働状態を確認、チェックリストに記入などと言う作業がこれに当たる。

もっと簡単に出来る方法は無いだろうかと考えてみた。
一定温度以上になると色が(非可逆的に)変わってしまう塗料をテストピースに塗布し、製品と一緒に熱処理する。具体的には、熱処理に投入する時にテストピースを一緒に入れておく、熱処理完了後にテストピースの色が変わっているのを確認する。ロットごとにテストピースを保管すれば、品質記録になる。
塗料の変色閾値を温度×時間で調整出来ると万全だ。

こういう塗料が開発出来れば、相当需要があると思う。少なくとも名古屋大学は買ってくれるだろう(笑)

ところで名古屋大学は、今回の事故で全ての漏出実験植物を回収するため、市民にも協力を求めている。

しかしその前に、死滅処理がなぜ正しく行われなかったのか?(1)なのか?(2)なのか?を突き止め、それが波及している範囲を特定する必要がある。
死滅処理が正しく行われなかったのが、今回限りと判明すれば、今の処置で十分だ。もし設備の故障により死滅処理が正しく行われていなかったとすると、故障が発生した時を特定(いつまで正常だったかを特定)しなければ波及範囲が膨大になってしまう。

品質保証のためには、メンテナンス記録(品質記録)が重要だ、と言うのはこの様な万が一の事故が起きた時に損失コストを押さえることができるからだ。


このコラムは、2015年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第425号に掲載した記事に加筆しました。

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続・モノ造りの変遷

 先週は、日本の大手企業が設計・製造を外注化し設計・製造の現場力を下げているのではなかろうか、と言う問題提起をした。

先週のコラム「モノ造りの変遷」

経営効率を考えると、設計者の育成に時間がかかる設計部門、生産設備などの固定費を抱える製造部門は経営を重くする。それらを外注に出し、固定経費を変動費化する。そして経営資源を価値創造の商品企画に集中することになる。

しかし設計・製造を外注化したとしても、製品の品質保証は自社に有る。当然、外注化した設計・製造の品質保証をしなければならない。

製品の検査に関与するのは得策ではないだろう。せっかく付加価値の高い商品企画に集中しようと言うのに、付加価値を生まない検査を取り込んでは意味がない。

品質保証の鉄則は「源流管理」だ。最終検査に注力するより製造工程に遡る、製造より設計に遡って管理する。

具体的には、設計・製造のレビューや審査に遡って先に問題をつぶしておく事が必要となる。レビューや審査で成果を出すためには設計・製造の現場力がなければならない。と言う事で、問題は振り出しに戻ってしまった(笑)

中堅中小企業でも人財の不足などで、源流管理が難しくなっている事例を見る。

前職時代にファブレス事業部(製造は全て社外の生産委託先)の品質保証部門責任者として同様な問題を抱えていた。(当時は当たり前の事だったので問題と言う認識はしていなかった)

他の事業部を含め品質保証部門には生え抜きの品質保証マンは殆どいなかった。
研究開発、製品設計、生産技術、製造、商品企画、営業など様々な経験を持ち品質保証を担当しているメンバーばかりだった。

設計出身の者は、設計レビュー・審査で潜在的問題を嗅ぎ分ける事ができる。
しかし別の経歴を持った者はそれは出来ない。逆も然りだ。品質保証部門に色々な経歴を持った者を集めれば良い訳だが、簡単ではない。

私が実践して来た方法は、設計で発生した問題、製造で発生した問題を収集し事例集を作る事だ。

自社の問題だけではない。部品、材料の仕入れ先、生産委託先、同業者の問題も収集した。同業者の問題など知る事は不可能だと思ったら、不可能となる。可能になる方法を考えれば良いのだ。

例えば、コンピュータの電源ユニットの回収が新聞記事に出れば、秋葉原でジャンク屋を回り、回収対象品を探しまわる。手に入れた回収対象品を分解し問題を探る。それでも原因が分からない時は、顧客の品質担当者から聞き出す。
コンペチターの製品なので、当然顧客の品質担当者はコンペチターから報告を受け不具合内容を知っている。興味本位で聞いたのでは教えては貰えない。同様な問題で、顧客に迷惑をかけないためにコンペチターの電源ユニットを分解し原因を分析していると知れば、先方も教えてくれるモノだ。

そうやって、電気電子部品、半導体、プラスチック成型、機構部品、化学材料などの信頼性問題を沢山仕入れ、それが設計や製造のチェックリストになっている。それらの内、公開しても問題ないモノはホームページで公開している。参考にしていただければ光栄だ。

コラム:信頼性技術

自社に設計・製造部門がなくても、このような努力により、設計レビューや製造レビューで問題を未然に防ぐ現場力を持つ事が出来るだろう。


このコラムは、2017年11月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第585号に掲載した記事です。

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モノ造りの変遷

 日本の大手製造業のモノづくりが最近大きく変わってきているように感じる。

日本は伝統的にモノ造りの職人に対して尊敬の念を持つ心がある。(経済的に優遇されているかどうかはちょっと疑問に思うところもあるが、いかがお感じだろうか?)その伝統が日本の製造業の根っこの所を支えてきたように思う。
近年それが変わってきたように感じている。

明治以降近代化が進み、日本は先進国のモノマネを始める。当時日本製品は世界から「安かろう悪かろう」の代名詞として認識されていた。戦後の復活期にデミング博士から教えられた品質管理を愚直に徹底。小集団活動により改善を繰り返し、品質、コストダウンを追求した。そして「モノ造り日本」という称号を得て、経済大国に成長した。その背景には勤勉な日本人労働者がいる。

ここまでは、先頭ランナーの背中を追いかけていればよかった。
先頭に飛びたしてしまってから、ちょっと勝手が違ってきた。もうマネをする相手がいない。自ら価値を創造しなければならない。そんな時期にバブル崩壊がやってきた。

その時期に、日本的伝統を捨て欧米流の合理主義経営に飛びついた。
製造や設計の外部リソース化により、製造や設計を変動費化し経営を身軽にしようとした。アップルやグーグルなどの優良企業の様に、商品開発による顧客創造を目指したと言えるのではなかろうか?

中堅中小企業がこの様な戦略を取っているとは思えないが、大企業がこの戦略で、製造や設計の現場力を落としている様に思えてならない。

一方中国のモノ造りの変遷は以下の様になるだろう。
先進国の生産委託を受け入れることにより、先進国のものづくり技術や設備を取り込んだ。そして安価な労働力を背景とし、同一規格製品の大量生産により経済成長を果たす。急速に経済発展した中国は労働コストの優位性を失ない、次の展開を目指さねばならなくなっている。

中国の新興民営企業は、独自製品の設計・生産を始めている。しかし残念ながら、中国企業は現場力を極める姿勢がまだ足りない。設計力をつけてきた企業は次の段階(設計品質保証)を目指すことになる。

日本の製造業が進んできた道を、経路は違っても中国企業がキャッチアップしてくる。日本企業も次のステップに向かわねば追いつかれる。


このコラムは、2017年10月30日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第582号に掲載した記事です。

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コモディティ化

 コモディティ(commodity)とは日用品と言う意味だ。「コモディティ化」と言う時は、市場に流通している商品がメーカーごとの差異が無くなり、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差ない状態のことだ。例えるならば釘やネジがコモディティ化した商品だ。

前職時代電源ビジネスに関わっていた。計測・制御機器やシステムを製造販売している企業であり、電源の様な部品の製造販売には無縁だった。自社製品に使用する電源も、スイッチング電源は信頼性に難点が有るので採用しない、などと言う超保守的な所のある会社だった(笑)

それが協力関係に有った米国のワークステーションメーカから、信頼性の高い電源を作って欲しいと言うオファーが有り、少人数のエンジニアが集まり電源を設計、子会社工場で生産を開始したのが電源ビジネスの始まりだった。我々が生産する電源の品質が高い事を聞きつけた同社のプリンター事業部からも受注し、本格的な量産が始まった。

国内の工場で、異形部品実装ロボットを使った自働化ラインを作り、生産していた。その後、アダプター電源のプラスチックケース組み立てや、PC電源のワイヤーハーネス実装がロボット化できずに、中国の工場に生産委託をすることになる。台湾の電源メーカの中国工場で生産していた。

電源は安全規格部品であり、当初は、信頼性重視のため台湾メーカを採用する顧客は少なかった。台湾メーカの成長で、電源ユニットはコモディティ化し、価格競争が激しくなった。最初の顧客も、インターネットに仕様を公開して、公開入札でベンダーを選定する様になり、我々は受注を獲得する事ができなくなり、撤退することになった。

当初は自社の信頼性設計技術が参入障壁となっていたが、それを乗り越えたメーカが参入を始める。完全自動生産が実現出来なかったので、生産技術については参入障壁を作ることができなかった。

当然経営者としては、もっと儲るビジネスに人員を振り向けるべきだ。
前職の企業は、元々もっと利益率が高く、シェァを取っている市場向けの製品が主力だったので問題は無かった。

しかし自社製品がコモディティ化し、他社と差別化するための、商品開発技術、生産技術が間に合っていない場合どうしたら良いのか考えてみた。極論をすれば、自社のネジや釘をどうすれば売れるか、と言う事だ。

まず、顧客がメーカ指定で購入する場合を考えてみた。

(1)他の企業にはないモノ。
(2)他の企業より圧倒的に品質が高いモノ。
   ただしその品質が顧客にとっての価値でなければならない。
(3)他の企業より圧倒的に価格が安いモノ。

しかし1~3のポイントはコモディティ化したモノには当てはまらない。

では、人はどういう時に、高くてもモノを買うのかと考えてみた。

(4)必要な時に手に入れられる。

例えば、缶コーヒーはスーパーで買えば自動販売機より安く買える。
缶コーヒーよりスターバックスのコーヒーが好きだ。
しかし、今コーヒーを飲みたい時にスターバックスやスーパーが探さず、自動販売機を見つけてコーヒーを買うことになる。

つまり価格も品質も劣っている自動販売機の缶コーヒーが売れる。
当初の「メーカ指定で購入」と言う命題とずれてしまうが、自動販売機の機能を持つメーカと置き換えて考えれば、同じことだろう。

コモディティ化した製品を生産している工場は、お客様の自動販売機になれば良いのだ。
今日電話で注文を貰えば、今日中に出荷する。
これをどうしたら実現出来るのか必死に考える。
材料の調達に○○日かかる。
生産リードタイムに○○日かかる。
などとできない理由ばかり考えていては、絶対に答えは見つからないはずだ。


このコラムは、2015年5月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第425号に掲載した記事です。

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2018年の抱負

 2018年最初のメールマガジン配信にあたり、今年の抱負について考えてみた。
2018年の折り返し点を迎え振り返ってみたい。

独立して丸12年、今年から13年目となる。改めて自分の使命を整理すると、
What(何を):経営幹部、現場リーダの能力・行動力を
How(どうやって):現場活動の実践により育成・強化することにより
Why(目的):顧客の経営改善に寄与する。

この使命を果たすために製造業の経営環境の変化は
・作れば売れた時代:同一規格大量生産
・売れるものを作る時代:多品種少量生産
・価値を創造する時代:多品種変量生産
・モノ造りからコト造りの時代:製造業から創造業へ

それぞれの時代に要求される能力
・作れば売れた時代:モノマネ・手段の活用・応用
・売れるものを作る時代:商品企画・手段の開発
・価値を創造する時代:商品創造・手段の革新
・モノ造りからコト造りの時代:コト創造・目的の発見創造

それぞれの時代に要求される組織・人財
・作れば売れた時代:命令服従型組織・忍耐力
・売れるものを作る時代:説得納得型組織・問題解決力
・価値を創造する時代:参加型組織・問題発見力
・モノ造りからコト造りの時代:異業種参加型組織・統合力

現在は、売れるものを作る時代から価値を創造する時代になっていると認識している。

そして近いうちにモノの消費からコトの消費の時代がやってくるだろう。
モノ造りからコト造りの時代には、もはや製造業という概念だけでは生き残れないかもしれない。製造業は創造業になると考えている。製造業はモノを造ることにより「体験」というコトを創造する創造業になるだろう。
「創造業」という概念については、今の所具体的なアイディアはない。
例えばバルミューダという家電メーカの寺尾玄社長は「商品そのものではなく、商品を使った時の楽しさを提供する」と言っている。私の考える創造業に一番近いところにいるのがバルミューダだと思う。

以上の経営環境の変化を踏まえ、2018年は中国の工場も「設計の品質保証」を確実にすることがテーマと考えている。


このコラムは、2018年1月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第609号に掲載した記事に加筆しました。

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最高の指導者

太上,下知有之。其次,亲而誉之。其次,畏之。其次,侮之。信不足焉,有不信焉。悠兮其贵言,功成事遂,百姓皆谓∶我自然。

《道德经》第十七章“淳风“

素読文:
たいじょうは、しもこれあるを知るのみ。その次は、これに親しみてこれをむ。その次は、これをおそる。その次は、これをあなどる。しん足らざればなり。ゆうとしてそれ言を貴べ。功成り事げて、ひゃくせいみな「われみずから然り」とう。

解釈:
もっとも善い支配者は、民はその存在を知るだけである。
次に善い支配者は、民は彼に親しみ、これを賞賛する。
更に次の支配者は、民はこれを恐れる。
最低の支配者は、民に軽蔑される。信任するに値しないからだ。

もっともよい支配者は、ゆったりと、ほとんど命令せず、事がうまく行くと、民たちは「これは誰のおかげでもなく、自然にこうなったのだ」という。

鵜の夏、歩いてたぐり寄せる 和歌山・有田川

 和歌山県有田市の有田川で1日、室町時代から続く鵜飼(うか)いが始まった。鵜匠(うしょう)が川の中に入って鵜を操る、独特の「徒歩(かち)漁法」。鵜がアユをくわえて川面に現れるたびに、屋形船に乗った約300人の観光客から拍手と歓声が上がった。

 県無形民俗文化財に指定された伝統漁法だが、最盛期に90人いた鵜匠はいま4人。鵜を育て、訓練するのは1年がかりの重労働。生計を立てるのも難しく、後継者はなかなか現れないという。

(asahi.comより)

 私は子供の頃に,父親に連れられ長良川の鵜飼いを見に行ったことがある.長良川の鵜飼いは,鵜匠は船上にいて紐で縛られた鵜を何羽も川に放ち,鮎を鵜呑みにした鵜を船上に引き上げ,獲物を吐き出させる.
何羽もの鵜を紐でコントロールする手綱捌きをする鵜匠の腕は見事なモノだ.しかし鵜匠の本当の力量は,鵜が鮎を獲る様に訓練することだろう.

子供の頃は,単純に鵜の働きに感動したが,大学生なって働くということは,誰かにコントロールされることだと考える様になった.サラリーマンのネクタイが鵜の紐の象徴の様に見え,就職活動に全く興味を持てなかった(笑)多分,全共闘世代のただ中で成長した影響だろう.

人も鵜と同じ様に首に紐を付けられ,働かされている.その紐が目に見えないだけだ,と考えていた.

就職をし,人並みに部下を持つ様になって初めてその考え方が間違っていることに気が付いた.

見えない紐が「給料」であると考えると,会社に対する「忠誠心」と引き換えに給料をもらうことになる.こう考えていると,仕事は金銭を得るための「苦役」になる.

苦役であれば,当然楽しくはない.上司の命令に従って成果を出さなければ,給料がもらえない,給料が上がらないという,ネガティブな動機付けで働くことになる.指示されたとおり仕事をこなすのでは,パフォーマンスは上がらない.

見えない紐が「仕事に対する喜び」だとしたら,どうだろう.
鮎を獲るたびに観客から拍手喝采を得る.
二匹一度に飲み込み鵜匠から褒められる.
鮎を獲るたびに自己成長の喜びを感じる.
鵜がこう感じて喜んで働いていると考えるのはちょっと無理がある(笑)が,人には可能だ.

会社や上司は,仕事に対する喜びや自己成長のチャンスを与えてくれる.「会社への忠誠心」ではなく「自己への忠誠心」が働くことの動機付けとなれば,自ら進んで仕事に取り組むことになる.当然仕事のパフォーマンスは上がる.

上司が持っている手綱は,部下をコントロールするためのモノではなく,部下に動機を与え続けるための,エネルギー補給パイプだ.


このコラムは、2012年6月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第260号に掲載した記事です。

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方法より目的

 あなたの工場では,受け入れ検査をする部署を何と呼んでいるだろうか.
「品質管理部・受け入れ検査課」だろうか?

この「受け入れ検査課」と言う組織名称は,その組織が行う業務によって名付けられた名称だ.しかし受け入れ検査課が果たす本来のミッションは,受け入れ部品の品質保証であろう.

もし組織の名称を業務ではなくミッションにすれば,「部品保証課」という名称になる.

受け入れ検査というのは部品の品質を保証するための一つの方法だ.
部品品質の保証のためにはその他にも,部品仕様の検討,納入業者の選択,納入業者の品質指導などが必要となる.
受け入れ検査という方法ではなく,部品の品質保証という目的を組織名称としたほうが分かりやすいと思うがいかがだろうか.

ISOなどの文書により,各部署のミッションをきちんと定義してあるとは思うが,組織名称がそのミッションを明確にした方が分かりやすい.
拡大解釈をすれば,部品品質の保証は製品品質の保証のため,製品品質の保証は顧客満足のためだ.こんな解釈を適用すれば,社内の組織はみな「顧客満足課」になってしまうかもしれない(笑)

同様に,部下に仕事を与えるときに方法を指示するのではなく,目的を理解させることが重要だと思っている.
方法だけ与えられている場合,例外事象が発生したときにその方法が適用できなくなる可能性もある.しかし目的が理解できていれば,例外事象に適応する工夫が生まれるはずだ.

経営幹部の方が,ウチの職員はいわれたことは一生懸命やってくれるが,自分で考えて仕事が出来ない.マニュアルどおりに仕事をしてくれるが,マニュアルには全ての例外事象まで書ききれない.と嘆いておられるのを聞く.

ひょっとして,方法論の指導が中心になっているのではないだろうか?
指導法を目的中心にすることを一度試されてはいかがだろうか.


このコラムは、2010年5月31日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第155号に掲載した記事です。

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答えを教えない教え方

 「教えない教え方」とは矛盾をはらんだタイトルだ(笑)

以前「答えを教えない指導法」というコラムを配信した。

このコラムでは「教える→覚える」という伝統的な教育方法とは違う「自分で考える・調べる」という行動促進型の教育といっていいだろう。
今回のテーマは「答えを教えないで教える」という矛盾をいかに止揚するかに挑戦する。大風呂敷を広げたが大した話ではない、と先にお詫びしておく(笑)

今QCC活動を指導している企業で、生産管理部門のサークルが初めてQCC活動に参加することになった。経営者も、初めて事務部門(間接部門)をQCC活動に参加させることになり、大いに期待している。しかし彼女たちは、何をしたらいいのか見当もつかなかったようだ。

30年以上QCC活動に関わってきている。「こういうことをやるといいよ」というのは簡単だ。そこをぐっとこらえて、「お客様はどんなことに困っているか聞いて見たら?」と質問した。
生産管理部門が服務を提供する直接のお客様は社内の製造部門、検査部門、仕入先だ。お客様のお客様(製品を購入する顧客)の要求は「納期通りに製品を納入する」ことだろう。これは100%達成しているという。

しかし社内の下流工程は、仕入先や前工程の遅延により顧客納期を守るために残業で対応しなければならない。

ではこれを解決しよう!と彼女たちはQCC活動のテーマに選んだ。
大変志の高いサークルだ。直接部門をサポートするのが間接部門なので、理にかなったテーマの決め方だと感心した。

じゃ具体的に何をする?というところで迷路に入り込んだ。
彼女たちは「生産計画の精度を上げれば解決する」というイメージを持っていたようだ。しかし仕入先や、社内工程の遅延は生産計画の精度が悪くて発生しているわけではない。部材の手配遅れや、歩留まりの悪化などの不測の事態で遅延が発生している。

部材メーカの納期遅れや工程の生産歩留まりを、生産計画部門が改善するのは難しい。彼女たちはここでつまずいていた。

製造の生産歩留まりを改善するのは、生産技術や製造部門だ。
歩留まりを見越して余分に生産計画立てることは、生産計画部門にも可能だ。しかしこれは本質的改善ではなく邪道だ。部材の発注を前倒しにするのも経営的に考えれば邪道だ。

では彼女たちに出来ることは何か、答えは喉元まで出てきている。
そこを「寸止め」でこらえている(笑)

教えてしまえば、理解出来るだろうし改善もできるだろう。
しかし考える力は身につかない。自分で考える習慣を身につけ、考える力を鍛錬しなければ、同じ問題は解けても、応用問題は解けない。

これ重要なことだと考えてる。
しかしどうも世間では、答えのない問題を解くことで思考力を鍛錬しない様だ。
高学歴で高成績の優秀な役人たちが「財政赤字は悪だ。消費税を上げて財政の健全化を図らねばならない」と大合唱している。彼らは、試験勉強で「過去の正解」はたくさん記憶しているけど、これから起きることに対する洞察力に欠けているのではなかろうか?

政府は国債をたくさん発行し、日銀はどんどんお札を刷って国債を買えば良い。
これに対し役人は、
過去の事例では、お金をたくさん刷ればハイパーインフレになる。
ギリシャやイタリアの様に、国債をどんどん出せば償還できなくなる。
と考える。

しかし現実を見れば、2%のインフレターゲットすら達成できていない。
ギリシャやイタリアと違い日本の国債はほとんど全て国内で消費されている。
ということを考えれば「過去問」と同じ答えを出しても正解にはならない。

ちょっとこのメルマガのテーマから外れてしまった。
素人の浅知恵とご勘弁いただきたい。

しかし、部下の育成に関しては答えを教えずに思考力を鍛える、というのは間違いではないと信じている。


このコラムは、2018年6月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第677号に掲載した記事に加筆したものです。

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答えを教えない指導法

 以前「答えのない質問」というタイトルの雑感を書いた。

答えがない質問の例として「フェルミ推定」と「父母未生のお前は何処にいた」という禅問答をご紹介した。

今回は小学校の教室で行われた設問をご紹介したい。
「虹はなぜ七色か?」

この質問には答えがある。
虹は太陽光が大気中の水滴に反射して発生する。
太陽光には全ての波長の光が含まれている(全ての色が含まれている)。
波長の異なる光は屈折率が異なる。
という原理を理解していれば、虹が七色である事を説明可能だ。

しかし、小学低学年の子供達はこの原理を理解していない。その子供達になぜ虹は七色か問い、クラスで議論させるそうだ。

同様に「桜の花は咲く前にどこにあったか?」という設問を与え議論させる。

この授業では、教師は何も教えず議論を聞いているだけ。

この教師の狙いは分からないが、「教える→覚える」という伝統的な教育方法にない効果がある事は容易に想像がつく。

この授業で物理現象や植物に関して興味を持った子供は、図書館に行き調べるかも知れない。自分で答えを求めて調べた事は、容易には忘れない。
自分で調べなかった子供も、後に物理の授業を受けた際に小学校の時の授業を思い出し膝を打って納得するだろう。「腑に落ちた」状態となれば、記憶に定着する。

この様な指導法は学校教育だけではなく、社会人に対する教育にも有効だと思う。企業内で行われる研修や、部下の指導で答えを教えない指導をする。
全てを、答えを教えない方法で指導にする事は、不可能かも知れない。教えてしまった方が手っ取り早い。

しかし、
教えずに考えさせる。考える過程で学ぶ。
教えずに失敗させる。その失敗から学ぶ。
こういう指導法の効果は高そうだ。

命取りにならない失敗をたくさん部下に経験させる事が出来るのが、優秀なリーダの条件かも知れない。


このコラムは、2016年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第496号に掲載した記事です。

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