月別アーカイブ: 2015年12月

部下の指導

 電子デバイスで読書をする事が増えて来た。すぐに読みたい書籍は電子書籍ならばすぐに手に入る。そうやって購入した書籍が、iPhoneの中に積んドク状態となっている(笑)
電子書籍は隙間時間に読むのに好都合だ。移動中や外出中の待ち時間をつぶすのにもってこいだ。iPhoneの中の電子書籍を数えてみたら67冊あった。これを紙の本で持ち運ぶ事を考えたらぞっとする(笑)

今回はiPhoneの奥底にたまっていた書籍を紹介したい。

「ひとことの力 松下幸之助の言葉」江口克彦著

江口氏はPHP総合研究所社長を務め、23年間松下幸之助の側近として直接経営の神様から指導を受けた人だ。本書を読むと、早朝から深夜まで、公私の分け目無く指導を受け、語り合った姿が目に浮かぶ。最高の師弟関係だと、羨ましく思う。

この書籍の中から一つのエピソードを紹介したい。

ハーマン・カーンと言う米国の学者が昭和43年に来日し、松下幸之助と会う予定になっていた。松下さんは「ハーマン・カーンと言う人はどういう人か知ってるか?」と江口さんに聞かれたそうだ。当然江口さんは,カーン氏との面談予定を知っているので、新聞などでカーン氏の事は調べておいた。それを松下さんにお伝えする事ができた。
しかし翌日もその翌日も、松下さんは同じ質問を3回されたそうだ。

3回とも同じ答えをした江口さんは、はたと考えた。当然松下さんは新聞記事に出ている内容は知っていたはずだ。もっと深い内容を知りたかったに違いないと気がつく。すぐにカーン氏の書籍を買い求め、徹夜で読み上げ要旨をまとめ、その内容をカセットテープに吹き込んだそうだ。

その日も松下さんは,同じ質問をされた。朝までかかって読んだカーン氏の著作の要旨を伝え、テープを渡した。

翌日出社して来た松下さんは江口さんに「君、ええ声しとるなぁ」とひとことおっしゃったそうだ。

普通の上司ならば、二度目に同じ質問をして同じ答えが帰って来た時に、部下を叱っているだろう。一回目の質問に対して、新聞に書いてある程度の答えしか返ってこなくても、よく勉強しているなぁと褒めてやれる。しかしその時、自分の答えに不足はなかったかと勉強するのが、成長意欲の高い人間だ。

私ならば、一度目の質問に対する答えに、よく勉強しているなぁと褒め、こういう点とこういう点をもっと詳しく知りたい、調べておいてくれ、と指示してしまうだろう。

それを黙って3回同じ質問を繰り返し、忍耐強く4回目の同じ質問をする。具体的に指示をする事が必要な時もある。しかし部下が自ら気付きを得て仕事をすれば、成長度合いは大きいはずだ。
ただ仕事をさせるだけではない。それをどう部下の成長に役立てるか、そんな事を常に考えているから、何度も同じ質問をして部下の気付きを促進させる事が出来たのだろう。

そして「君、ええ声しとるなぁ」のひとことに凝縮した部下への賞賛と感謝は、江口さんの言葉によると、身震いするほど感動し、この人のためならば死ねる、と思ったそうだ。

こういう部下が一人でもいれば、私の人生は無駄ではなかったと言い切る事ができよう。

index_s「ひとことの力 松下幸之助の言葉」著者:江口克彦 出版社:東洋経済新報社


このコラムは、2015年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第447号に掲載した記事です。
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自動化のための自動化

 毎月1回くらいのペースで「無料工場診断」に出かけている。
先週はプラスチック成形の中国企業を訪問した。

経営者(董事長と総経理)とちょっと話をして、早速現場に行ってみた。現場では生産技術のエンジニアたちが、待ち構えていた(笑)
次々とこの工程を自動化したいが、どうしたら良いか?と質問攻めに逢った。

労務費が徐々に上昇している。深センの最低賃金はこの8年間で2.5倍となった。安価な製品単価で競争優位をアピールしている中国企業にとっても同じ条件だ。生産ボリュームゾーンが電気・電子製品から自動車産業に移行している。自動車用部品は、安いだけでは採用されないという事も、理解しているだろう。

そんな彼らの頭にあるのは、コストダウン=自動化という公式の様だ。

この公式を全面否定するつもりはないが、投資効果を無視した自動化は、自動化のための自動化であり、エンジニアの自己満足でしかない。

品質安定のために自動化する場合もある。この場合も本来、投資効率を考えるべきだと考えている。しかし通常、品質不良損失が過小評価される事が多く、間違った判断をしがちだ。品質とコストがトレードオフ関係にならない様にする事を優先した方が良い。

彼らから受けた質問の一つを紹介しよう。
プラスチック成形の丸椅子に製品型名、バーコード、注意書きなどのラベルが3枚貼ってある。3枚のラベルを貼る作業が、成形サイクルタイム内で完了しないため、成型品を成形機から取り出す作業1名、ラベル貼り1名で作業している。ラベル貼り作業を自動化出来れば、1人少人化出来る、というのが彼らの発想だ。

こういう発想を「自動化のための自動化」と呼んでいる。
本来この問題は、成形作業員の手待ち時間に、ラベル貼り作業をナガラ化出来ない、という問題だ。ここでの改善課題は、ラベル貼り作業を簡単化する事により成形作業員がラベルを貼ることができる様にする事だ。

私ならば、この改善課題の答えとして、ラベルを1枚にする事を考える。
貼付けラベルの枚数を少なくすれば、作業時間の短縮とラベルコストの削減が一度に可能となる。その結果作業員1名の少人化が可能となる。
しかも自動機開発の投資は必要ない。

改善コンサルの私としては、自動化を提案した方が売り上げ増になる。ほとんどの売り上げ金額は、設備製造メーカの取り分となるが、私にも設備設計のコンサルフィーとして、若干の取り分は発生する。
しかし私は楽しくない(笑)

投資コストなし(ラベル版下変更のコストのみ)で、同じ効果が得られる。
更に現場のエンジニアが、「金を出さずに、知恵を出す」考え方を習得すればその企業の一生の財産となるはずである。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2012年10月1日号に掲載した物です。
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旭化成建材、現場責任者の3割偽装 出向が大半、調査難航

 35都道府県の266件でデータ偽装を確認したと、旭化成建材が13日に発表した。残る確認作業を急ぎ、原因解明に努めるという。横浜市のマンションで傾きが発覚してから1カ月。偽装が次々に明らかになり、各地の関係者に不安が広がるなか、新たに別の大手業者の偽装も判明した。

記事全文

(朝日新聞電子版より)

 杭打ち工事のデータ偽装に関して、当初は特定の現場責任者の問題という論調で説明されていたが、予想通り業界全体に波及する問題だったようだ。今の所、データ偽装がどの程度あったのかを中心に報道されている。報道の受け手である一般市民の関心は「ウチのマンションは大丈夫か?」と言う所にあるのでやむを得ないとは思うが、なぜデータ偽装が行われたかと言う点を調査し、業界全体が改善しなければ安心は出来ない。

杭打ち工事の現場責任者は下請け企業からの出向者であり管理が困難、という論調の記事が目立つ。「管理が困難」と言うのはデータ偽造の原因ではない。
「現場監督者が出向者だから管理が困難」と言うのは因果関係としては成立する。しかし管理が困難だからデータが偽造される、と言うのは論理的に成立しない。

このような原因調査は、原因を個人の問題にするのと同様に、有効な再発防止対策の検討を難しくする。

「なぜデータを偽造しなければならなかったのか」と言う点に迫らねば、真の原因は分からず、有効な再発防止対策を打つ事は出来ない。

データの記録に時間がかかる。
測定器の誤差が大きく、測定データに信頼性がない。
データ測定が難しく、測定し損なう事がある。
などの具体的な理由があるはずだ。そのため以前のデータを再利用される。

しかし個人的な想像では、もっと構造的な所に原因がある様に考えている。
マンション建設と言うプロジェクトは、土地の取得から始まり、基礎工事、建設、内装工事、入居開始となる。その間に平行して、分譲の宣伝広告、営業。自治体への認可申請。などなど非常に多岐にわたるビッグプロジェクトだ。

多分杭打ち工事の様な基礎工事は、プロジェクトのクリティカルパスになっているはずだ。杭打ち工事が遅れれば、プロジェクト全体が遅れる事になる。杭打ち工事の現場責任者には相当のプレッシャーがかかっているはずだ。

例えば、事前の地層調査に間違いや誤差があり、納品された杭では長さが足りない。こんな事が現場で発生したらどうなるだろう。杭を再発注すれば工期が遅れ、後工程を担当する親会社や元請けに迷惑をかける事になる。こんな事になれば、零細下請け業者は明日から仕事が無くなる。建築物の方は、マージンを加味した設計になっているはずなので、今日明日どうと言う事はない。しかも現実何事も起こらなかった。
このような経験を積み重ね、杭を再発注して工期を遅らせるよりは、データを偽装した方が利口だ、と言う業界文化が出来上がっていたのかもしれない。

日本的文化では、真相は明らかにならずとも当事者に自浄作用が働き、何事もなかったかの様に収まってしまう事もあり得るが、うやむやに解決しておくと対策は次の世代に引き継がれない。時代をへて繰り返し再発する事になる。


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