自動化のための自動化


 毎月1回くらいのペースで「無料工場診断」に出かけている。
先週はプラスチック成形の中国企業を訪問した。

経営者(董事長と総経理)とちょっと話をして、早速現場に行ってみた。現場では生産技術のエンジニアたちが、待ち構えていた(笑)
次々とこの工程を自動化したいが、どうしたら良いか?と質問攻めに逢った。

労務費が徐々に上昇している。深センの最低賃金はこの8年間で2.5倍となった。安価な製品単価で競争優位をアピールしている中国企業にとっても同じ条件だ。生産ボリュームゾーンが電気・電子製品から自動車産業に移行している。自動車用部品は、安いだけでは採用されないという事も、理解しているだろう。

そんな彼らの頭にあるのは、コストダウン=自動化という公式の様だ。

この公式を全面否定するつもりはないが、投資効果を無視した自動化は、自動化のための自動化であり、エンジニアの自己満足でしかない。

品質安定のために自動化する場合もある。この場合も本来、投資効率を考えるべきだと考えている。しかし通常、品質不良損失が過小評価される事が多く、間違った判断をしがちだ。品質とコストがトレードオフ関係にならない様にする事を優先した方が良い。

彼らから受けた質問の一つを紹介しよう。
プラスチック成形の丸椅子に製品型名、バーコード、注意書きなどのラベルが3枚貼ってある。3枚のラベルを貼る作業が、成形サイクルタイム内で完了しないため、成型品を成形機から取り出す作業1名、ラベル貼り1名で作業している。ラベル貼り作業を自動化出来れば、1人少人化出来る、というのが彼らの発想だ。

こういう発想を「自動化のための自動化」と呼んでいる。
本来この問題は、成形作業員の手待ち時間に、ラベル貼り作業をナガラ化出来ない、という問題だ。ここでの改善課題は、ラベル貼り作業を簡単化する事により成形作業員がラベルを貼ることができる様にする事だ。

私ならば、この改善課題の答えとして、ラベルを1枚にする事を考える。
貼付けラベルの枚数を少なくすれば、作業時間の短縮とラベルコストの削減が一度に可能となる。その結果作業員1名の少人化が可能となる。
しかも自動機開発の投資は必要ない。

改善コンサルの私としては、自動化を提案した方が売り上げ増になる。ほとんどの売り上げ金額は、設備製造メーカの取り分となるが、私にも設備設計のコンサルフィーとして、若干の取り分は発生する。
しかし私は楽しくない(笑)

投資コストなし(ラベル版下変更のコストのみ)で、同じ効果が得られる。
更に現場のエンジニアが、「金を出さずに、知恵を出す」考え方を習得すればその企業の一生の財産となるはずである。


このコラムは、メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】2012年10月1日号に掲載した物です。
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