月別アーカイブ: 2008年7月

【華南マンスリーコラム】手帳で部下育成

記憶より記録#5
 現場に出るときはいつも作業服の胸ポケットに手帳を入れている.手帳が汗で濡れてしまわないようにビニール製のカバー付だ.
 この手帳に何でも,記録している.加齢により記憶力が減退したからではない.もとより私の大脳はモノを覚えるためには使っていない.記憶よりは創造に大脳を使っている.
 現場で即指導をモットーにしているので,記録しておく必要はないが,メモを基に後日理論付けをして再指導をするのに役立つ.
 現場指導(OJT)の「Why」を理論で教えることにより更に教育効果が上がる.
OJTは計画的に
 知識は簡単に教えられるが,能力はなかなか開発できない.教えた知識を能力に変換するのがOJTだ.
 OJTなどムダだ,と言っておられる経営者とお目にかかった事がある.彼は現場に新人を放り込んでおけば自動的に人は育つ,これがOJTだと考えていたようだ.
 これでは人は育つはずもない.これはOJTではなく放任主義,もっと厳しい言い方をすれば教育放棄主義だ.
 各自の能力を見極め,足りない部分を現場での仕事を通して鍛える.これがOJTだ.
 各自に要求される能力と現有能力の差分からOJT計画を立てる.そしてOJTのPDCA(計画・実施・評価・是正)のサイクルを回さなければならない.
行動記録で能力評価
 では能力はどう評価するか.知識であれば試験をすれば数値評価が可能である.例えば部下の指導能力とか企画能力というのはどう評価すれば良いか.
 成果主義的な考えでは,部下の成長,アウトプットされた企画の質で評価されることになる.しかしできの悪い部下しか持たない不幸な上司や,企画立案のサポートに回ったメンバーの評価が公平にできるだろうか.
 要求する能力を発揮してどのような行動が取れているか,というプロセス評価主義で評価するのが妥当であろう.
 ここで登場するのが胸ポケットの手帳である.現場での部下の行動記録によって,期待するレベルの行動が取れているかどうかを評価する.
 この評価によりOJT計画の是正を行うわけである.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.

心のスイッチ

 5月12日に発生した中国四川大地震以来,四川放送局のTVを2週間ほど毎日見続けていた.
四川地震以来の中国人の被災者を思いやる心,貢献心に大変感動をしている.
以前は中国人は,他人を思いやる心があまりない,自分の利益を第一優先にする人々だと考えていた.
地震以降の報道で,私の考え方が随分変わった.
しかし通常の生活では相変わらずである.
先週はバスに乗って出張したが,バスの入り口は我先に乗り込もうとする.
並んでいる私は一番最後の乗車になった.
バスの中では本を読んでいる私の耳元で大声で話をするカップル.
みよがしに耳栓をしてみたが,まったく気にするフシもない.
携帯電話で自分の好きな音楽を鳴らしている若者.
日本ではイヤホーンから漏れる音でさえ道徳違反だと騒がれるのに,彼は携帯電話のスピーカから音楽を流している.
思いやりのかけらもない.
こういう人たちがどうして被災者を思いやり貢献心を発揮するのだろうか.
今私がたどり着いた仮説は「共通目的」である.
地震災害により中国国民が一斉に「被災者救助」「被災地の復興」という共通目的を持った.この共通目標が彼らの心のスイッチを入れ「他人を思いやる心」「貢献心」を発揮しだしたのだと考えている.
この仮説は検証してみる価値が高いと思う.
あなたの工場には従業員の心のスイッチを入れる共通目的がありますか?

【華南マンスリーコラム】ストップウォッチで生産改善

#4
ストップウォッチで生産改善
 現場に出るときはいつも作業服の胸ポケットにストップウォッチを入れている.
 はじめて中国の工場に指導に来た頃,工場の生産技術のエンジニアがストップウォッチを持っていないのを見て驚いた.どうやって作業時間を設定し,評価をするのか?元来彼らには標準作業時間という概念がなかったのである.
 標準時間とは何か,というところから指導が始まった.指導の長い道程を憂いながら,彼らと一緒に仕事をした.しかしその次の回にはエンジニアは得意げにポケットからストップウォッチを出して見せてくれた.更に次の回には作業指導書に標準作業時間が入れてあった.
 少しずつでも現場のエンジニアたちが成長するのを見ているのは楽しい物である.
ストップウォッチで作業を見える化
ストップウォッチがなくても作業時間は計測できる.一日なり一時間に出来上がった製品の数から一台あたりにかかった時間は計算できる.しかしこれは平均値である.平均値からは作業の問題点は見えてこない.
現場でストップウォッチを片手に作業を見つめる事が重要である.同じ作業を繰り返したときに必ず作業時間のばらつきが発生する.平均値よりはこのばらつきの幅に着目する.なぜそのばらつきが発生するのか現場でじっと見ることにより作業を阻害している要因が見えてくる.ここが改善のポイントである.
同じように作業者間で作業時間のばらつきがあれば,ここをじっと見る.早く作業ができる作業者の動作を分析し,それを他の作業者もできるようにする.
ストップウォッチで作業を楽しく
お手伝いしている工場で「F1 プロジェクト」というのが始まった.この工場は設備産業であり設備の稼働率を上げる事が生産性を改善することになる.まずはロットの切り替え時間を1/3にへらすことにした.従来1時間半かかっていたので目標は30分である.
簡単に1/2になった.しかしその後がなかなかうまく行かない.そこでF1プロジェクトの登場となった.ロットの切り替えをあたかもF1のピットのように全員が一致協力して作業をする.
毎回作業の結果が見えるから仕事が楽しくなる.作業員の心に火がついた.今は目標が15分になっている.

このコラムは中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2008年4月号から1年間連載した「炎の小道具12選」に寄稿したものです.