月別アーカイブ: 2019年2月

続・朝礼の効果

 東京・浅草橋駅前で、毎朝通勤客に「ガッツ!」と気合いを入れているおじさんがいると、朝日新聞の記事に出ていた↓。

通勤客の中には、彼を見かけると一日ハッピーになる、仕事で落ち込んでも元気になれると言って「グータッチ」をして行く人もいるらしい。多分朝一番にグータッチをした人は、気分が盛り上がり、その日の生産性が上がるのではないだろうか?そして、通勤客が笑顔になり元気になれば、「ガッツおじさん」自身が元気になるはずだ。これが継続の秘訣だろう。ガッツおじさんは20年間「ガッツ!」を毎朝やり続けている。

会社の朝礼もこう有りたい。
毎朝従業員の気分が盛り上がる、朝一番からアクセル全開で仕事を開始できる。
大嶋啓介氏の朝礼は、まさにメンバーのテンションを上げる朝礼だ。

「てっぺんの朝礼」大嶋啓介著

youtubeの動画にも大嶋啓介氏の朝礼の様子が紹介されている。興味が有る方はyoutuveで「大嶋啓介」を検索すれば、多くの動画が見つかる。

問題は継続だが、先週のメルマガ「継続のコツ」に書いた様にコツを押さえれば継続は可能だ。

朝礼の式次第を決めておく。誰でも同じ様に毎朝出来る様にしておけば良い。
注意点は、朝一番に盛り上がる内容とする事だ。
前日の問題点をだらだら話したのでは、朝イチから気分は盛り上がらない。
昨日の問題は昨日のうちに解決しておく。朝礼ではアクションの確認だけで良い。

こちらもどうぞ「朝礼の効用」


このコラムは、2016年1月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第458号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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朝礼の効用

 先週土曜日は「三社交流会」を開催した。

上海の工場に勤務している若い友人Nさんが、副総経理に昇格した。
総経理は、日本本社勤務で、時々上海工場に出張に来るだけなので、Nさんが事実上の総経理だ。
彼は社内を更に活性化させるために、改革を考えた。以前東莞で見学したTさんの工場の様に、社員が感動と共感で一体化した組織を作りたいと考えた。しかし経営幹部が、中国ではそれはムリだ、と反対したそうだ。そこで経営幹部にTさんの工場を見せようと考えた。

Tさんの工場見学を開催したのは私だった。そんなご縁でNさんが私に相談に来られた。

Tさんは最近新工場を内陸部に立ち上げ、そちらの総経理も兼務しているため、ものすごく多忙だ。しかし快くこちらの願いを聞き入れてくださった。Tさんのご厚意に一方的に甘えてはいけないと思い、第七回東莞和僑会で訪問したIさんにも交流会の話を持ち込んだ。実はTさんも、第七回東莞和僑会に参加ご希望だったのだが、別の予定が入ったため、参加出来なかったのだ。

Iさんも副総経理として中国工場の経営を任されている。日本人赴任者は彼一人だ。前任者から引き継いだ途端に、生産性を4倍とし、一気に業績を改善させた。Nさんと同じ様な立場なので、ちょうど良かろうと考えた。

そんな経緯で、三社交流会をすることになった。
実はその日の夜は、東莞和僑会があるので私は出席しないつもりだった。準備が必要だったのだ。しかし、言い出しっぺのお前が参加しなくてどうする、とTさんにお叱りを受けて、参加した(笑)

結論から言うと、私も含め参加者が気付きを得られた。開催してよかった。
違う業種・業界の工場がお互いの現場を見学し合い、経営理念を語り合う事により化学変化が生まれたのだと思う。

改めて気が付いたが、TさんIさんお二人の経営に共通する部分があった。
「朝礼」だ。

朝礼により、必要な情報を共有するばかりでなく、経営理念を理解する、躾の効果もある。そして朝イチの業務から、エンジンがかかった状態でスタート出来るはずだ。
タイムカードをポチッと押し、机に座り、始業のベルにあわせて何となく仕事をスタートしても、いきなりエンジン全開にはなり難い。

朝礼でメリハリを付ける、つまり先に暖機運転をしておけば、エンジン全開で仕事を開始出来る。

今日の業務と、目標を各自が発表するなど、一人ひとりが声を出す様にすると良い。なるべく大きな声を出すのが良い。「お早うございます!」と大きな声を出すだけでも効果はあるだろう。

頭と体はつながっている。大きな声を出すことで、脳が刺激を受けスイッチが入る。以前日本の企業が、朝礼でハイタッチをしているのを見たことがある。居酒屋「てっぺん」の朝礼も有名だ。

参考:「スタッフの夢とやる気に火をつける! てっぺん!の朝礼」大嶋啓介著

中国でも、美容業界を中心に朝礼でダンスをしている。これも同じメカニズムを応用しているのだろう。

こちらの記事もご参考に「てっぺん!の朝礼」


このコラムは、2008年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第332号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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てっぺん!の朝礼

 日経BP社の「本気の朝礼 繁盛店のチームづくり」というDVDを見た.

「てっぺん」という居酒屋の朝礼を紹介したDVDである.
スタッフ全員の心のスイッチを入れモチベーションをあげる魔法の朝礼である.

ここのメンバーは全員が自分の夢を日付入りで語る.
そしてそれを実現するためにどういう自分「○○日本一」でありたいかを一人ひとりが明確にしている.

そして朝礼で心のスイッチが入ったスタッフが接客をする.だからお客様も感動をする.

居酒屋というと会社帰りに社会や会社に対する不平不満をぶちまけ,心のバランスを保つ場所というイメージがあった.
しかし「てっぺん」は違う.スタッフの活気がお客様に伝わり,ポジティブになり元気になって帰るという.

DVDの中にこんなシーンがあった.
スタッフがお客様にお出しした料理がおいしかったかたずねる.「おいしかったよ」とお客様に言っていただくと,すかさず全スタッフに聞こえるように『「おいしかったよ」いただきましたぁ~.ありがとうございます!』と叫ぶのである.

これによって,全スタッフのモチベーションを上げるだけではなく,お客様とスタッフで構成される「場」のモチベーションも上がる.

接客サービス業はスタッフの「人質」がダイレクトに「品質」を決定する.
そこで鍛え上げられた「朝礼」はきっと製造業にも役に立つはずだ.

社歌斉唱,社是唱和,ラジオ体操だけでは会社→従業員の一方通行だ.
そこに一人ひとりの「夢」を取り入れた「てっぺん式朝礼」
あなたもDVDか書籍で体験してみていただきたい.きっとあなたの組織運営のヒントが得られるはずだ.

参考:「スタッフの夢とやる気に火をつける! てっぺん!の朝礼」


このコラムは、2008年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第54号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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管制官居眠り時、別管制室は無人

 那覇空港で9月、管制塔の管制官が居眠りをして全日空便と連絡が取れずに離着陸が遅れた問題で、同じ時間帯に同空港にある別の着陸誘導用の管制室が一時、無人になっていたことがわかった。

 国土交通省が30日にまとめた調査報告で明らかにした。同省によると、9月13日未明の着陸誘導用の管制室には管制官2人が配置されていた。しかし、午前3時16分ごろ、別の管制施設から管制塔の管制官に連絡をしたところ、管制官が居眠りをしていて連絡がつかなかった。そこで同22分ごろに着陸誘導用の管制室に電話をかけたが、こちらも誰も出なかったという。

 国交省の調べに1人は「別の事務室にいた」。もう1人は「トイレではずした可能性が高い」と話したという。同省によると、午前3時台の着陸便は2機あった。同省は「2人勤務が基本なので、今後は徹底したい」としている。

(asahi.conより)

 別の記事によると,女性管制官(妊娠中)は別室で休憩,となっていた.居眠りをしていた男性管制官の気遣いにより休憩していたそうだ.

部下を思いやる気持ちは重要だが,自らの職務の重要性に対する認識はもっと重要だ.仕事に対する使命感が不足しているから,勤務中に居眠りをすることになる.
中途半端な優しさは,部下の仕事に対する使命感をスポイルすることもある.

今回の問題は,妊婦を深夜3時からの勤務にシフト配置したところにあるのではないだろうか.組織そのものが職務の使命,重要性をきちんと認識していれば,そのような時間帯に妊婦を勤務させないだろう.

妊娠・出産という仕事は男性には肩代わりできない.
子供は人類の未来だ.女性は,人類の未来そのものを身ごもり,産み落としている.
女性を尊重し,妊婦を守ることは人類に課せられた任務だ.当然社会・組織もその責任を負うている.

妊婦の体の負担を軽くしてやる.しかしそれは,職務をいい加減にして良いというわけではない.ただの優しさは,仕事に対する責任感と誇りをスポイルすることになる.


このコラムは、2011年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第225号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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仁に親しむ

yuē:“xìaochūjǐnérxìnfànàizhòngérqīnrénxíngyǒuxuéwén。”

《论语》学而第一-6

素読文:
子曰わく:“ていりてはすなわこうでてはすなわていつつしみてしんあり、ひろしゅうあいしてじんしたしみ、おこないてりょくらば、すなわもっぶんまなべ。”

解釈:
年少時は家庭にあり父母に孝を尽くし、世間に出ては年長者に従順であることが大切である。言動を慎み、信義を守り、広く衆人を愛し、仁徳のある人と親しむのが良い。そして余力があれば、古典を学ぶことを志すのが良い。

弟子を弟子でしと解釈するとそのあとの意味がわからなくなります。弟子ていしと読み、年少者と考えるのが良さそうです。文とは、詩、書、礼、楽などの中国古典のことを指す様です。

魂のこもった仕事

 NHKテレビ「仕事学のすすめ」の録画を,まとめ見した.

その中に建設機械のコマツ社長・坂根正弘氏が紹介されていた.
坂根氏が社長に就任した時に,社内はこんな状況だったそうだ.
販売した建設機械に対する顧客満足度を,毎月社長に報告していた.そのデータは,サービス部門が顧客に電話を掛け聞き取り調査をしてまとめる.

例えば,自社が販売した建設機械が48時間以上故障で稼動できなかった,など稼働状況も把握していた.しかしこのデータは,経営会議に上げられるだけで,担当営業所,設計部門,製造部門には上がらない.

経営会議で必要だから,データを集め,綺麗なグラフにする.これは「仕事」ではなく「作業」だ.魂を込めて仕事をするということは,その仕事の意味を理解するところから始めなければならない.

データを集める目的は,顧客満足状況を把握し,顧客満足を高めることのはずだ.経営会議にデータを提供することは,手段であって目的ではない.このデータを顧客満足を高めるために,製品設計の改善,生産品質の改善などに役立てなければならない.

日々のルーチンワークに陥り,仕事を作業としてしまうと,仕事には魂がこもらない.
コマツといえば,TQM先進企業だ.そのコマツでさえこういう事態に陥っていたのだ.

毎日の生産記録を班長日報で報告させているが,その記録は誰も見ていない.
品質管理部が毎月工程内不良率をまとめて,QA会議で報告するが,製造部門はそれを把握していない.
顧客クレーム内容は,製造部門にはフィードバックしているが,設計部門にフードバックしていない.

経営会議,QA会議などでのデータを見ると,きちんと運営できているように見えるが,内実は上記のような事態に陥っているのを見ることがある.

一度ご自信の会社で点検してはいかがだろう.

参考書籍
建設機械のコマツ会長・坂根正弘氏のダントツ経営(NHKテレビテキスト)
『ダントツ経営―コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」』小松正弘著


このコラムは、2011年10月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第225号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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自分を変える

 5Sを指導している工場で,久しぶりに経営トップとお話をした.いつもは,5S事務局を任されている品質部のトップと仕事をしている.

この工場は5Sを導入した時には,従業員が皆一生懸命やってくれグループ会社の中でもトップクラスの工場になった.しかしそれから暫くして,徐々に管理状態が崩れてきており,いくら発破をかけても導入当時の状態には戻らなくなってしまった.というのがこの経営トップの悩みだ.

各部署のトップの真剣度がまだ足りない.彼らのやる気を変えましょうという話をした.しかし彼は,いくら言っても変わらなければ,取り替えるしかないという心境になっているようだ.

もちろん経営者の方針について来れない人を,無理やり組織に残しておくのは,双方にとって良いことは何もない.

しかし私にはまだ経営トップ自身にも変わらねばならない余地があると思える.5Sが経営の基本であり,その結果業績という数字が出てくる.ということは理解しておられるようだが,まだ心底腑に落ちてはいないようだ.その証拠に,6回の指導でまだ一度も現場指導に立ち会っておられない.今回も指導前の30分ほど話をした程度だ.当然経営者としてしなければならないことはたくさんあるはずだ.しかし5Sが経営の基本だというのならば,5Sの指導に立ち会えないほど重要な仕事とは何であろうか?

「他人を変えることは出来ない.まず自分が変わらなければならない」
という話をさせていただいた.

人を変えれば,組織は変わる.しかし他人は変えられない.だから自分を変えなければならない.
この矛盾をはらんだ議論はなかなか理解し辛いであろう.

「読むだけで「人生がうまくいく」48の物語」という本にこんなエピソードがある.

首を痛めてずっと天井を見たままの患者のために,窓際のベットの病人が毎日窓の外の様子を話して聞かせていた.外を見ることが出来ない患者は,窓際の男が毎日語る話を楽しみにしていた.

ある日窓際の男が退院し,自分が窓際のベットに寝ることになった.
早速窓際の男から聞いていた窓の外の風景を見るのだが,そこには隣のビルの壁があるだけだった.

窓際の男は,自分を変え「絶望」(ビルの壁)の向こうに「希望」を見続けていた.それが隣に寝ていた患者の心にも希望を与えたということだ.

窓際の男は,他人を変えようとしたのではない,自分自身が見ているものを,絶望ではなく希望だと思うように,自分の心を変えたのだ.その結果首を痛めた患者も変わった.

経営者というのは,嵐の日でも雲の上に太陽あることを信じ,それを従業員に語って聞かせることが仕事なのだと思っている.


このコラムは、2011年7月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第212号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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改善の火をともす

 クライアントの工場で改善活動をして成果を上げる.これが私の仕事だがこれだけでは不十分だと考えている.このまま仕事を終わってしまうと,いつしか改善の効果は元の木阿弥となってしまう.

工場のリーダや作業員が継続して改善するモチベーションを植えつけておかなければならない.

まず改善活動を始めるときに改善モチベーションを高めなければならない.
今まで現場で上司の指示どおりに仕事をしてきたリーダたちに,自分で考えて行動を起こさせるためには,それなりの初期エネルギーを与えないとだめだ.

まず小さな改善で成功体験をしてもらう.
しかしここですでに変えることに抵抗を示す.「変更する前に上司に話を通してほしい」といってくる.

無理もない.今まで改善の訓練を受けていない上に,よそ者のコンサルに「ここを変えよう」と言われているのだ.うまく行かなかったときの責任が自分に降りかかってくるのを恐れてしまう.

こういうリーダたちはほとんど死んだ目をしている.

私はこういうメンバーたちにまずミーティングをしている.
私「何のために仕事をしているの?」
 「??」
 「……」
今まで当たり前すぎて考えたこともないのだろう.誰も答えない.
しばらく待って
 「家族のため」
 「会社のため」
などと言う答えが返ってくることもある.

私「仕事をするのは自分のため.
  仕事を通して自分の能力を高めるのが目的.
  能力が高まれば,給料が上がり家族が幸せになる.
  会社も利益が上がる.
  そして自分自身が幸福になる」
そんな話をすると「!!」と目が輝きだすリーダが出てくる.

私「会社のためじゃなくて自分のために仕事をしなさい.
  知識ではなく能力を高めなさい.
  会社は給料をくれてそういう機会を与えてくれる場所だ」

こんな話をして目が輝きだす人が一人でもいれば,その人に改善の方法を教え成果を見せる.成功体験が自信となる.
次々と課題を与え自分で考えさせる.
最後には課題を自分で見つけさせる.

ここまでできるとそのリーダの背中はピカピカと輝きだす.
それを見ている周りのリーダの目が輝きだせば大成功だ.
急速に職場には背中がピカピカ輝いた人間が増えてくる.

言われたことをきちんとこなすリーダよりも,問題を見つけてくるリーダを重用する.そしてそういうリーダが評価される仕組みをきちんと作っておく.

こういうことができて「改善文化」が出来上がってくる.


このコラムは、2009年11月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第124号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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確信ミス

 今週は「ヒヤリハット」に続いてミスについてもう少し考察してみたい。
ミスにはいくつかタイプが有る。

  • 無知ミス:知らない事により発生するミス。
  • うっかりミス:知っているのに何らかの理由で発生するミス。
  • 確信ミス:間違った理解により確信を持って起こすミス。
  • 過信ミス:能力を過信することにより、回避不能となり発生するミス。
    良いネーミングが思い浮かばなかった。ご容赦願いたい。

無知ミスやうっかりミスに関しては、上述したヒヤリハットの様に、有効な対策が有る。作業を定型化したり、ポカよけを入れることにより予防可能だ。

厄介なのは、確信ミスや過信ミスだ。間違った理解や過信により、基本動作を無視してしまうミスだ。チェルノブイリの原子炉メルトダウンは過信ミスによるモノだと言われている。臨界点を越えているのに、まだ制御可能と過信したために手遅れとなった。

30年前のJAL機御巣鷹山墜落事故は、圧力隔壁に修理時に確信ミスが有ったと、事故調査委員会は考えた様だ。
事故機の圧力隔壁交換修理時に、ボーイング社の指示書通りの修理がされず、上下の隔壁をつないだ箇所のリベット留めが不十分で強度が足りない状態になっていた。修理担当者の証言が得られず、調査報告書には記載出来なかったが、事故調査委員の見解は、修理作業員の確信ミスと判断した様だ。
つまり、作業担当者が指示書通りではパーツ間に隙間ができるため問題だと思い込み、隙間ができないように継ぎ板を切断したのではないか。その結果、リベット留めの強度が不十分になった、と推定した。

以前指導したメーカでは、コストダウンの為に保護回路を取ってしまった。
元エンジニアのオーナ経営者の「過電圧保護など必要ないだろ」の一言に誰も反論出来なかった。しかし寿命設計が不適切であり、部品の寿命により過電圧が発生。保護回路がない為に周辺を巻き添えにして破損すると言う市場不良が多発してしまった。この時点で相談を受けても手遅れだ(苦笑)

これらの事例には共通点が有る。局所的な問題点を、全体を理解せずに対処してしまうと、この様なミスが発生する。これは当人が確信を持ってミスを犯しているので、防ぐのは困難だ。

修理にはしばしば「現物合わせ」と言う異常行為が行われる。
ボーイング社の修理事例では、現物合わせをしなければならない理由を検証していれば、飛行中に圧力隔壁が吹き飛んでしまうなどと言う事故は発生しなかったはずだ。

設計変更は本来、変更による影響を検証しなければならない。上述の例では過電圧が発する可能性を漏れなくあげていれば、過電圧保護回路を取ると言うコストダウンはせずに、不適切な寿命設計を発見出来ていただろう。
この寿命設計ミスを修正して初めて、過電圧保護を取ると言うコストダウンが可能となる。ちなみに過電圧保護機能を外しても、2,3点の部品を減らす事が出来るだけだ。金額にすれば数円だ。

いずれの場合も、正規の手順から外れた場合に「標準手順」を愚直に実施する他に事故を回避する手段はないと考えている。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に修正・加筆しました。

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「ヒヤリハット手帳」を作成、ミスを最大限防ぐ

 仕事のミスは防ぐべきものだが、気の緩みや勘違いなどで、思わぬミスをしてしまうことはよくある。そんなミスにすぐ気づき、「ヒヤリとする」「ハッとする」。そこまではいい。問題はその後だ。小さなミスをしたあなたは、ホッと胸をなで下ろして、やり過ごしていないだろうか。やってしまったミスと正しく向き合い、その後のミスを防ぐ方法を紹介する。

全文

(日本経済新聞電子版より)

 記事は「ヒヤリハット」を個人資産として手帳に蓄積しよう、と言う趣旨だ。
私は「ヒヤリハット」を組織資産として蓄積活用することを推奨している。

「ヒヤリハット」と言うと、ハインリッヒの法則を想起される方が多いだろう。労働災害を調査したところ、1件の重大事故の背後には29件の軽事故が発生しており、300件のヒヤリハットが発生している、という経験則を見つけている。これがハインリッヒの法則だ。

ヒヤリハットをなくすことで重大事故を防ごうと言うのが、災害防止の考え方だ。災害防止と同様に、ヒヤリハットをなくすことで顧客クレームも予防出来ると考えられる。

例えば、作業員が生産中の製品がいつもと違うと言う違和感を持った。それを班長に告げたところ、製造ミスに気が付き全数修復した。もしこの作業員が気が付かなかったら、もしくは気が付いても何も言わなかったら、大量の不良が客先に流出するところだった。
この話は実際にあった例で、この作業員には報奨金が与えられた。詳細は記憶にないが、当時にしては破格の金額だった。

設計でも同じ様なことは有る。検図や設計レビューで気が付けば良いが、生産開始後に気が付くと、相当な損失となる。金額だけではなく、製品リリースが遅れる事が致命傷となることも有る。

この様なヒヤリハット体験を、組織の知恵として蓄積する仕組みを持つ。この仕組みが機能する為には、まずはミスを隠さない組織文化が必要だ。

前職時代には、過去数年間の設計ミス事例を洗い出し、1項目1ページの定型レポートを作った。このレポートを分析し、設計レビューチェックリストを作成した。設計完了後、設計者自身でチェックをし、チームリーダが設計者と面談で確認しながらダブルチェックをすると言う仕組みを作った。設計審査は、このチェックリストが完成しなければ開催出来ないルールとした。

このチェックリストを運用し始めてから、設計ミスは格段に減った。
実際には、チェックリストだけではなく計算機支援でデザインルールチェックも入れた。デザインルールは、上記の設計ミス事例集から抽出している。

プリント基板に後加工でパターンカットやジャンパ線を追加する事はほとんど無くなった。ほとんどと書いたのは、設計後仕様変更があり、プリント基板に後加工をする必要が発生する事が時々有ったからだ。(こちらは別の方法で削減しなければならない。)

しかし、チェックリストを作っても運用が形式的になれば効果は期待出来ない。ルールとは別に、チョットした仕掛けを入れた。
上述したチェックリスト運用ルール中のチームリーダとのダブルチェックは設計者に対する教育効果を狙っている。若手の設計者が、先輩の失敗と言う「財宝」から学ばなければ、それこそ宝の持ち腐れだ。

製造のミスも同様だ。工程内不良が事故に於けるヒヤリハットに当たる。
工程内不良の原因をしっかり分析し、再発防止をする。これを作業指示書に反映するとともに、次の機種の作業指示書には最初から再発防止を組み込むようにしておく。

このようにして組織でヒヤリハットを蓄積共有し、活用する事が重要だと思っている。特にこれからの中国でのモノ造りは、単純に製造部門だけのモノ造りでは無くなって来る。工程設計、製品設計も中国でやる様になるだろう。この様な考え方を導入しておかねばならない。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に加筆しました。

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