月別アーカイブ: 2009年9月

【儲かる工場の作り方】第五話「ポカよけ」

儲かる工場の作り方
「熟视无睹」

人間の視覚,注意力というのは驚くべき性能を備えている.フォーカスした部分に関しては実に詳細に観察する事ができる.しかし裏を返せば,興味の無い部分や注意力が落ちれば,殆ど何も見ていないのと同じになってしまう.

例えば,いつも見ている腕時計を見ずにそのデザインを詳細に描ける人は少ないだろう.これは時計を見るという行為が,時間を知るという目的にフォーカスされているため,時計のデザインはマスクされてしまっているためだ.

同様に市場を俯瞰しても顧客一人ひとりの顔は見えてこない.
工場の中で不良率を見ていても,不良原因は見えてこない.不良原因が見えなければ,不良を減らす事ができない.

常にモノを見るという行為の目的を意識していなければ,いつも目にしているモノから何も見えてこないことになってしまう.

品質は工程で作りこむ

1:10:100の法則というのがある.部材の時点で不良を発見できた場合の損失を1とすれば,工程内で発見した場合は10倍,顧客まで流失した場合は100倍の損失になるという意味だ.
従ってモノ造りの工程の中では,作業員一人ひとりが異常(いつもと違う)に注意力を払い,不良を作りこまないようにしなければならない.

これができていれば出荷保証検査をする必要は無いはずだ.しかし出荷検査という「ムダ」も100倍の損失というリスクを考えれば「ムダ」とはいえないだろう.

「ついうっかり」には「ポカよけ」

工程での品質作りこみができれば不良が発生する余地は無いはずだ.しかし不良は発生する.人がやる作業には「ついうっかり」というのが付きまとう.

「ついうっかり」による不良が発生するたびに,「作業員に注意しました」「作業員に再教育をしました」という改善対策書を書いていないだろうか?このような対策では「ついうっかり」は永遠になくならない.
ここで登場するのが「ポカよけ」だ.治工具を工夫することにより,不良を作れない,不良が次工程に流れなくする仕組みだ.

ここでも「熟视无睹」に気をつけねばならない.こだわりがあれば「ポカよけ」は思いつかない.また他所でやっている「ポカよけ」を取り入れることもできない.

例えば旅客機が登場口を開閉する際に乗務員がやっている「ドアモードの変更」作業に組み込まれている「ポカよけ」を観察してみていただきたい.きっとあなたの仕事にも応用できるはずだ.

ドアモードの変更はこちらを参照ください.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年10月号に寄稿したコラムです.

【儲かる工場の作り方】第四話「省人化」

人海戦術
兵法「人海戦術」

 安価な労働力が大量に確保できる.こんな魅力で中国が世界の工場といわれるまでに発展した.
 多くの日系企業も,生産コスト削減のために中国に進出したと思う.農村出身の女工さんを大量に並べ,モノ造りをしてきた.

 しかし状況は大きく変化した.最低賃金は毎年十数%上昇.中国政府は労働集約型工場に対する優遇政策を徐々に縮小してきている.

 また無尽蔵と思われた内陸部からの人材供給も陰りが見えている.必要な人数だけ工員を集められる工場はまれだ.
 既に中国の生産現場では人海戦術は通用しなくなっている.

変種変量・多品種少量生産へ

 同時に市場の要求も変化している.今までのように規格商品を大量に生産しても売れない.モノ造りも少品種大量生産から,変種変量・多品種少量生産に変化しなければならない.究極の姿は鮨屋のカウンターだ.お客様が食べたいモノを食べたいだけ食べたい時に提供する.

 このような生産を人海戦術で対応しようとすれば,無駄が多すぎる.では完全自動で作業員を極限まで削減すればよいかというと,これも違う.少品種大量生産では力を発揮するが,変種変量・多品種少量生産には向かない.

 大きな投資をすれば,設備の稼動率が気になる.稼動率を気にすれば売れないモノを大量に生産することになる.稼動率を決めるのは工場ではない.顧客の需用だ.

省人化改善

 量の拡大を目指す改善ではなく,少ない人数で作る改善をする.量の改善がなくても生産性が改善されれば良いはずだ.同時に生産スペースを縮小すれば,工場の潜在生産能力は向上する.これで変種変量・多品種少量生産への柔軟性が手に入る.

 例えば800台/時間の加工ができる機械をフル可動させるために前準備に2人投入する.3人の作業員で機械はフル可動できる.しかし1人で出来る量だけ可動させれば,500台/時間生産できる.量が減っているが,2人で生産すれば1000台/時間が可能だ.省人化改善を目指して量の改善も手に入れられた.一番大きいのは受注に合わせて生産能力を無駄なく可変できる柔軟性だ.

 省人化とは一人ひとりの生産付加価値を上げさらに高い生産効率を得ることだ.言ってみれば省人化は活人化だ.

 省人化の鍵は「抜苦与楽」.作業のムダ・ムラ・ムリを省く.作業が楽になれば結果的に効率は上がるはずだ.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年9月号に寄稿したコラムです.

経営理念

千葉県の公務員による不正経理事件が報道されている.
納品書なしで検収をあげるなど一般の企業では考えられないことだ.
仕事の手順,仕組みに問題があるといわざるを得ないが,それ以前に職員の仕事に対する誇りがまったく感じられない.
往々にして公務員の尊大な接客態度を目にする.
市役所に行って受付の段階でたらいまわしにされる.
最後にたどり着いたところは最初に尋ねた窓口だったという経験がある.
職員のデスクが職場の役職者を中心に配置されており,顧客と対面すべきカウンターの方を向いてない.自分たちの都合で仕事をしている.
銀行では職員はみな顧客と対面する方向に座っている.
行政サービス機関の改革にはまず,自分たちの目的・目標を明確にすることが重要だろう.
自分たちの顧客は誰で,その顧客のためにどんな仕事をするのか,これを明確にし職員一人ひとりが誇りを持って仕事ができるように行動規範を決める.
いわゆる経営理念を従業員に明確にし,共有するということだ.
一般企業では,経営理念を従業員,顧客,納入業者などのパートナー,株主,社会に対し告知しているところが少なからずある.
行政サービス機関でも同じような取り組みができるはずだ.
実際に滝沢村役場では「行政経営理念 」を策定し公開している.
滝沢村というのは岩手県の小さな村で人口53,351人( 20,164世帯)という過疎村だ.
■経営理念
「幸せ地域社会」の実現をめざします
私たちは、
地球的視野から地域を見つめ、
顧客一人ひとりが求める
「幸せ地域社会」の実現をめざし、
人々と協働して地域価値の創造に挑戦します。
そして職員,組織の行動規範として「経営の姿勢」「職場のあり方」「行動指針」を定義している.
■経営の姿勢
確たる経営志心を持って「地域価値」創造に取り組みます

聴く心を持つ人間

学ぶ姿勢を持つ職員

変革へ勇気をもつ組織

人々と共に誇れる気持ちを持つ経営体
■職場のあり方
私たちは、
人々に学び、一人ひとりが「輝き」を持ち、
創造する職場をめざします
相互のふれあいと対話の場

学ぶ心を大切にする学習の場

創造性あふれる場

継続的改善に挑戦する場
■行動指針
-日本一顧客に近い行政活動への挑戦-
『私たちは、か・わ・り・ま・す』
私たち一人ひとりは、
常に社会的環境の変革に俊敏に対応し、
「幸せ地域社会」をめざし、
「かわります」をキーワードとして
自ら変革と向上に努めます。

「か」 改革します

「わ」 分かり易く伝えます

「り」 理解し合います

「ま」 真心で接します

「す」 すばやく行動します
私たちは、的確に判断し、迅速に行動します。

【儲かる工場の作り方】第三話「ムダ取り」

兵不血刃
兵法「兵不血刃」
 敵も見方も流血なく戦争を勝利できれば,これに越したことはない.これを工場に当てはめて考えるとどうなるか?
 兵器(設備)の導入というのは資本の投下を必要とし,一種の「流血」だろう.固定費の増加が損益分岐点の上昇となり,簡単に流血すること(赤字)になる.
 あらゆるムダを取る事が必要だ.ムダ取りをしないで機械化すると,ムダも一緒に機械化してしまう.
動作のムダを取る
 手を伸ばす,振り返る,しゃがむ,歩く,あらゆる動作のムダを省く.工場で付加価値を生んでいるのは,原材料や半製品に「変化」を与えた時だけだ.前述の動作は付加価値を生まない動作である.
 例えば手を伸ばすことを止めれば1秒動作時間が節約できる.一秒を馬鹿にしてはいけない.作業員はこれを一日に何千回も繰り返しているのだ.
 動作のムダ取りをすれば作業員の疲労も軽減される.楽をして生産効率を上げる.これも「兵不血刃」であろう.
 動作のムダは作業員の動作をリアルタイムに観察することによって見えてくる.
ムダの集計で更に大きなムダ取り
更に,チョコ停,部材の欠品,部品の問題などによるライン停止
のムダも看える様にして改善する.
これらのムダはリアルタイムに観察をしても見えてこない.問題が発生したらすぐラインを止める.止まった理由ごとに停止時間を集計すれば,改善しなければならない点が明確になる.
ラインを止めるのは勇気が必要だ.現場は時間と量のプレッシャーにさらされて仕事をしている.ラインを止めたくないというのが人情だ.しかし問題が起こるたびにラインを止め改善する方が長い目で見れば有利となる.
私は,作業員はラインを止めるのが仕事,班長はラインが止まらないように改善するのが仕事,と教えている.つまり作業員は問題を発見・報告するのが仕事.そのため作業員にはライン停止のボタンを持たせる.班長は問題が再発しないように改善するのが仕事,というわけだ.
プロダクションレコーダを使いライン停止時間と理由をPCに集計する.集計の結果から前工程や部材業者の問題も見えてくる.設備のチョコ停,遅配,品質不良など理由にあわせて改善を進める.プロダクションレコーダは生産数量管理だけではなく,改善の小道具として使う事ができる.

本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年8月号に寄稿したコラムです.