「熟视无睹」
人間の視覚,注意力というのは驚くべき性能を備えている.フォーカスした部分に関しては実に詳細に観察する事ができる.しかし裏を返せば,興味の無い部分や注意力が落ちれば,殆ど何も見ていないのと同じになってしまう.
例えば,いつも見ている腕時計を見ずにそのデザインを詳細に描ける人は少ないだろう.これは時計を見るという行為が,時間を知るという目的にフォーカスされているため,時計のデザインはマスクされてしまっているためだ.
同様に市場を俯瞰しても顧客一人ひとりの顔は見えてこない.
工場の中で不良率を見ていても,不良原因は見えてこない.不良原因が見えなければ,不良を減らす事ができない.
常にモノを見るという行為の目的を意識していなければ,いつも目にしているモノから何も見えてこないことになってしまう.
品質は工程で作りこむ
1:10:100の法則というのがある.部材の時点で不良を発見できた場合の損失を1とすれば,工程内で発見した場合は10倍,顧客まで流失した場合は100倍の損失になるという意味だ.
従ってモノ造りの工程の中では,作業員一人ひとりが異常(いつもと違う)に注意力を払い,不良を作りこまないようにしなければならない.
これができていれば出荷保証検査をする必要は無いはずだ.しかし出荷検査という「ムダ」も100倍の損失というリスクを考えれば「ムダ」とはいえないだろう.
「ついうっかり」には「ポカよけ」
工程での品質作りこみができれば不良が発生する余地は無いはずだ.しかし不良は発生する.人がやる作業には「ついうっかり」というのが付きまとう.
「ついうっかり」による不良が発生するたびに,「作業員に注意しました」「作業員に再教育をしました」という改善対策書を書いていないだろうか?このような対策では「ついうっかり」は永遠になくならない.
ここで登場するのが「ポカよけ」だ.治工具を工夫することにより,不良を作れない,不良が次工程に流れなくする仕組みだ.
ここでも「熟视无睹」に気をつけねばならない.こだわりがあれば「ポカよけ」は思いつかない.また他所でやっている「ポカよけ」を取り入れることもできない.
例えば旅客機が登場口を開閉する際に乗務員がやっている「ドアモードの変更」作業に組み込まれている「ポカよけ」を観察してみていただきたい.きっとあなたの仕事にも応用できるはずだ.
ドアモードの変更はこちらを参照ください.
本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2009年10月号に寄稿したコラムです.