月別アーカイブ: 2015年4月

チャンスに備える

 なかなかチャンスが回って来ない。チャンスは大手企業にばかりやって来る、中小企業にはチャンスなんて来ない。なんて考えている方は居ないだろうか?

チャンスは平等に来ている。違いはチャンスに気が付いているか、気が付いていないかの差だけだ。企業規模は関係ない。確かにチャンスを活かして業績を上げた事例は、大手企業の事例が多い。中小・零細企業の事例は余り見ない。しかしこれは、報道などの情報に載るのは、大手企業の事例の方が多い、と言うだけの話だ。

この様なからくりは、報道や情報伝達のメカニズムを考えれば、理解出来よう。報道する側も、情報を受け取る側も一定の価値観がある。その価値観に見合う情報が流通するのだ。例えば、倒産寸前だった零細企業が、チャンスを活かし100万円の利益を上げる、と言うニュースと、業界トップの○○公司が前年度の赤字を解消し、100億円の利益を計上、と言うニュースのどちらが多くの視聴者の興味を引くか、と言う道理だ。

まずはチャンスに気が付く事が重要だ。
一般紙、経済紙、業界紙に目を通すのは当たり前。一番良いのはお客様から「一次情報」を聞き出す事だ。新聞などに載る情報は、一次情報を集約・加工した情報だ。当然、集約・加工した人や組織の思惑が入る。そして、あなたがその情報を得た時点で、何百万人ものビジネスマンが同時にその情報を得ている。

「一次情報」を自分の頭で考え、人より先にチャンスに気が付く事だ。

そしてチャンスを活かす準備をしておく。チャンスと分かっても、それを活かせるかどうかは別な話だ。例えば、自動車業界向けの部品を生産するのがチャンスと気が付く。しかし設備稼働率を上げるために、事務機器業界向けの部品受注を沢山取り生産が手一杯になっていれば、引き合いが来ても応える事は出来ない。

自動車業界にチャンスが有ると分かれば、稼働率を下げてでも自動車業界の受注準備をする。
民生用同一規格大量生産品よりも、産業用多品種少量生産品にチャンスが有ると考えたら、多品種少量生産のための生産方式を磨き上げる。
以前指導したケーブルメーカは、電源コードを生産していた。同業者がどんどん増え、販売価格が下がる。「なんとかしなければ……」と言う経営者のために、多品種少量生産方式を指導した。その結果、利益率の高い産業用のケーブルの受注が取れる様になった。マンション建設ラッシュの時には、エレベータ用のケーブルを大量に受注した。今では産業用ケーブルが、業績の第二の柱になっている。

全ての変化はチャンスになりうる。
業界の景気後退により受注量が激減する。この様な変化に備え、別業界の顧客を開拓しておけば、景気後退と言うピンチさえチャンスになる。

色々な変化を想定し、チャンスがやって来た時のために準備をしておく。
こういう仕事が、経営者の仕事だ。

このコラムは、毎週月曜日に配信している無料メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。このメールマガジンの配信をご希望の方は、こちらから登録出来ます。

メールマガジン無料登録

続・認識レベルを上げる

 コラム「認識レベルを上げる」で、問題解決の認識レベルについて書いた。認識レベルを上げれば、問題解決が上手く出来る様になる。こういう考え方は一般の仕事にも適用出来る。

例えば顧客監査。顧客の新規取引先監査は、非常に重要な意味を持っている。合格すれば、新規顧客が増え売り上げが上がる。不合格となれば、是正計画をまとめ、再監査をお願いすることになる。最悪の場合は、顧客から取引可能のレベルではないと、烙印を押されることになる。

「監査を受ける」と言う認識でいると、なかなか上手く行かない。まずは「監査する」認識で準備をする。監査する側の認識を持てば、顧客監査官は何を見たくて、何を見たくないかが分かるはずだ。そしてその基準の背景にある「要求」を理解出来れば、監査官がまだ気がついていない要求への対応を見せる事が出来る。

認識を「監査を受ける」「監査をする」「監査をさせる」と上げて行くことによりより高いレベルで監査準備ができるはずだ。
「認識レベルを上げる」と言う言い方が分かり難ければ、「相手の立場に立つ」と言う言い方で理解すれば良かろう。
自分の立場(監査を受ける)だけではなく、顧客監査官の立場で物事を見て考える。更に顧客監査官の上司の立場で物事を見て考える、と言うことだ。

こういうことは昔から「仕事の心得」として、何度も形を変えて言われ続けて来たことだ。ヒラの職員は、班長、組長の立場で考える。班長は、組長、課長の立場で考える。これが認識レベルを上げると言う意味だ。

モノを売ると言う認識では、物は売れない。顧客満足を得ると言う認識に立てば、物が売れる。顧客の潜在要求を理解しようと言う認識を持てば、自社製品だけが売れる。

顧客監査も、営業も認識レベルを上げる事で上手く行く。

このコラムは、毎週月曜日に配信している無料メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。このメールマガジンの配信をご希望の方は、こちらから登録出来ます。

メールマガジン無料登録

世界を変える

 私の友人が第25回シチズン・オブ・ザ・イヤーを受賞した。友人の名前は原田燎太郎と言う。彼は学生時代に中国ハンセン氏病隔離村をボランティア活動で訪れたのをきっかけに、ハンセン氏病元患者を支援する活動を継続している。

シチズン・オブ・ザ・イヤーとは、時計のシチズンが毎年市民社会に感動を与えた無名の人々を選び、その行動や活動などを讃える賞だ。1990年から、人知れず心震える活動を継続している人々に、毎年賞を贈っている。

原田燎太郎が、ハンセン氏病元患者の支援をする学生ボランティアのための母体として「家-jia-」と言う組織を作り、活動している。この10年間の活動が評価され、今回の受賞となった。

原田燎太郎と初めて知り合ったのは、深セン和僑会が開催した「ドリーム・プラン・プレゼンテーション」(ドリプラ)だった。彼の活動に感動した私は、どうしたら彼の活動を支えられるか考えた。私がわずかばかりの寄付をするだけでは、何の効果もない。彼の組織「家」が自ら活動資金を稼ぐ事が出来る様になる事が重要だ。

学生が隔離村でボランティア活動に傾倒し、卒業後に「家」のスタッフになる者もいる。スタッフになっても、満足な給料などでない。両親に泣かれても自分の道を行きたいと言う若者がいるのだ。こういう若者の組織への帰属意識や貢献意欲は、尋常なモノではないだろう。
企業内でも従業員がこの様な帰属意識や貢献意欲を持てば、業績への好影響は確実だ。そんな考えから、学生ボランティアと同じ様に、隔離村でのワークキャンプ体験を「行動変容研修」としてある企業に提案した。残念ながら提案は通らなかったが、「家」は社会人ワークキャンプを始めた。

この様な体験型の行動変容研修を、新入社員研修や、昇格時研修などに組み込めば、知識偏重の座学研修より、よほど効果が期待出来るだろう。

実は原田燎太郎がドリプラに出た頃「家」の財政状態は破綻寸前だったそうだ。
周りの人間が、背中を押してドリプラに出ると言う小さな一歩を踏み足した。そのため、彼の周りの世界が変わった。金銭的な支援ばかりではなく、講演の機会を提供してくれる人が、中国・日本を問わず増えた。それにより少しだけ財政危機が小さくなった。

原田燎太郎を取り巻く世界が変わったのだが、本当の所は彼の小さな一歩が変えたのは彼自身だ。その結果周りに今までと違う人が集まり世界が変わった。

彼らの活動は、支援者から元患者への一方的な支援活動ではない。支援者は元患者から多くの気付きや学びを得ている。元患者の中には、支援者の活動を見て、自分も小さな一歩を踏み出す人も出て来た。欧さんだ。彼は、自分たちがおかれている状況を皆に知ってもらおうと思い、大学に行き学生に講演活動を始めた。子供の時に隔離村に入れられ学歴は無い。話す言葉は広東語だけ。
勇気を出して小さな一歩を踏み出した。そして60歳を過ぎて、普通語の勉強をした。広東語訛りは有るが、コミュニケーションには問題が無くなった。そして中国国内だけではなく、日本でも300人超の聴衆が集まる会場で講演している。

欧さんも小さな一歩で自分を変えてしまった。
そして今まで不可能だったと思っていた政府の対応も、徐々に良くなって来た。太陽熱温水器が設置され、新しい住宅が用意され、24時間対応可能の看護師が2名常駐する様になったのだ。

欧さん自身の変化が、元患者の世界を変えた。
そして学生ボランティアたちも、欧さんの行動から勇気を学びを得ている。

この様な自分自身を少し変える小さな一歩の連鎖が、世界を変える大きな力になる。その秘訣は「使命感」と「喜び」だと思う。

自分たちの存在目的や共通の夢が「使命感」を育成する。
しかし使命感だけでは、活動の継続は難しい。時間とともに疲弊し、いつかは疲労破壊の様に、ポキッと逝ってしまう。活動には「楽しさ」が絶対に必要だと思っている。ボランティアたちの活動を記録した写真には、輝く様な笑顔のボランティアが写ってる。

トイレの穴を掘る時に「作業」だと思えばただの苦役だ。
今掘っている穴がトイレになると理解したら、それは「仕事」であり、目標と達成感が得られる。
元患者の幸せのためにトイレを作りたいと願う者は「夢」を持っており、簡単な事では折れない強さを持つはずだ。

「夢」を持つ者には「人のために役立つ事」「人から頼りにされる事」に喜びを感じると言う最強のモチベーション原動力が与えられる。

だから「家」のボランティアたちは最高の笑顔でトイレの穴を掘る。

これは、人類がお互いに助け合って活きて行く様に、神が我々のDNAに仕込んだ秘密なのではないだろうか。予想以上に人類が発展してしまったために、人の関係が稀薄になる様に調整が始まっているのが、現在なのかもしれない(笑)

いずれにせよ、世界が変わってしまう程の改革も元をたどれば、一人の小さな一歩が多くの人の感動や共感を巻き込んで小さな一歩の連鎖を引き起こした結果なのだと思う。

あなたの組織を理想状態に変えたいのならば、無理に組織内の人を変えようとするよりは、まず自分自身を変える小さな一歩を踏み出すことだ。

このコラムは、毎週月曜日に配信している無料メールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】に掲載した物です。このメールマガジンの配信をご希望の方は、こちらから登録出来ます。

メールマガジン無料登録

PK

 PKとはサッカーのペナルティキックのことだ.ゴールエリアで反則があると,キーパーと一対一で対決することになる.中国でも,よく『PK』と言う言葉を聞く.この場合は,サッカー用語ではなく「一対一の対決」と言う意味で使う.

以前指導していた中国人経営者(かりにZさんとしておこう)は,しょっちゅう『PK』と言っている.先週久しぶりにその中国人経営者Zさんと会った.相変わらず『PK』を連発していた.

自分はビル・ゲイツを越えたい,という意味で『PKビル・ゲイツ』という.まぁ,人それぞれ夢があるのだから,それも良いだろうと思う(笑)

しかし経営者として『PK』だけではいかにも能がない.
我々から見ると,ビル・ゲイツの宿敵は,Apple社を率いていたスティーブ・ジョブスの様に見える.ビル・ゲイツとスティーブが互いに『PK』をしていたかと言うと,ちょっと違うだろう.マイクロソフトは,マッキントッシュ用にオフィスを開発している.ライバルと対決するよりは,手を結ぶ方がより高度な経営決断だと思う.

PK経営者は,自分の従業員に対しても『PK』と言う言葉を使う.
業績の悪い従業員に対して『PK』すると言う文脈で使っている.

Zさんは,従業員に対して相場より多く給与を支払っている.
そして期待通りの成果を出さない従業員にたいしては『PK』をしてクビにする,と言う訳だ.
彼の理屈によれば,給与が相場より高いのだから,優秀な人間が集まって来る.だから『PK』をしても,次々と優秀な人が来るはずだ,と言うことになる.

地方都市の中小企業,しかも油まみれの工場に,給与だけで優秀な人間が集まって来るとは思えない.若者の製造業離れもあり,簡単には集まるはずもない.そうなると,人材を集められないとして,人事部門の責任者に『PK』の矛先が向く.

高い給料さえ払えば人は一生懸命に働く,などと言う考え方は今時通用しない.
今更ハーズバーグの「衛生理論」を説明するまでもなかろう.
部下に対して『PK』と言うが,ではその部下を採用した自分の責任をどう考えるか,と言うことだ.

すべては人のココロから始まる.
経営者たる者,初歩の心理学くらいは勉強して,どうすれば人のココロを掌握出来るか考えた方が良かろう.

このコラムをメールマガジンで配信したら、読者様からメッセージをいただいた.

※読者様のメッセージ
 久しぶりの投稿?になります。私は2006年から2010年まで広東省恵州市に
 あります香港系会社(主にACアダプタ類を生産)に勤務していましたが、
 当時私が勤務間もなく「Pk]の言葉をトップが使うようになりました。当然、
 戦いをさせるためですが、コンサルタント会社からの要求?でもありました。
 当時、そのコンサルタント会社に「その仕組みは罰金が目的ではないのか」
 をただしたことがありましたが、マインドコントロールのように「PK」の
 言葉がどんな時でも出て来ておりました。当時在職していました会社は
 「PK」=「罰金」でした。言葉自体懐かしく思いメッセージしました。

中国人経営者や中国人コンサルの多くは,未だに罰金が有効だと信じている人が多い様に思う.先週ご紹介した『PK』経営者Zさんも中国人コンサルを呼んで,罰金制度を含む目標管理を幹部に社内研修したそうだ.

組織にとって好ましくない行動に対し罰金をする.その結果好ましくない行動が抑制される.
組織にとって好ましい行動に対し褒賞を与える.その結果好ましい行動が強化される.

こう言う考え方が『PK式経営』の根底にあるのだろう.
高い給与で釣っておき,好ましくない行動をとればPKをする.いわゆる「飴と鞭」式の管理だ.

従業員は,目を離すとさぼる.管理をしないとちゃんと働かない.
多くの経営者がこう考えている様だ.
ここで「管理」と言うのは,コントロール(中国語では『控制』)の意味だ.中国語で『管理』と言うと日本語のマネジメントに当たる.

私の観察によると,香港人,台湾人経営者に中国人は管理しなければ働かないと考えている人が多い様に思う.そして,香港式,台湾式経営管理が優れていると思っている中国人経営者も,同じ経営スタイルをとるのだろう.

以前指導していた台湾資本の工場では,出荷不良を半年で半分,1年で1/3にする,と言う目標を立てて活動をしていた.
不良発生を誰かの責任にする,と言う企業文化を少しずつ変えて行き,社内の全部署が協力して不良を減らす体制を作り上げた.半年で不良半分は楽勝で達成出来た.その後もいい感じで出荷不良は減り続け,1/3の目標は達成可能と確信していた.

しかし台湾から出張に来たオーナー経営者が,深セン龍華の大手顧客工場を訪問した際に,その顧客の罰金制度を知り,自社工場にも導入すると言い出した.
反対したが,林は日本人だから中国人の民族性が分かっていない,と私の意見は却下された.

その後,社内に出来上がって来た良い文化は元の木阿弥.むしろ罰金にされる事を回避するために,互いに責任のなすり合いとなった.
ほぼ達成目前だった目標は,あっという間に活動前の状態に戻った.

今でもそのオーナー台湾人経営者に会うことがあるが,彼は未だに自分が正しいと思っている様だ(苦笑)

このコラムは【中国生産現場から品質改善・経営革新】と言うメールマガジンで配信しました.このメールマガジンは無料で毎週月・水・金曜日に配信しています.
無料購読をご希望の方はこちら↓から購読登録・解除が出来ます.
【中国生産現場から品質改善・経営革新】