私の友人が第25回シチズン・オブ・ザ・イヤーを受賞した。友人の名前は原田燎太郎と言う。彼は学生時代に中国ハンセン氏病隔離村をボランティア活動で訪れたのをきっかけに、ハンセン氏病元患者を支援する活動を継続している。
シチズン・オブ・ザ・イヤーとは、時計のシチズンが毎年市民社会に感動を与えた無名の人々を選び、その行動や活動などを讃える賞だ。1990年から、人知れず心震える活動を継続している人々に、毎年賞を贈っている。
原田燎太郎が、ハンセン氏病元患者の支援をする学生ボランティアのための母体として「家-jia-」と言う組織を作り、活動している。この10年間の活動が評価され、今回の受賞となった。
原田燎太郎と初めて知り合ったのは、深セン和僑会が開催した「ドリーム・プラン・プレゼンテーション」(ドリプラ)だった。彼の活動に感動した私は、どうしたら彼の活動を支えられるか考えた。私がわずかばかりの寄付をするだけでは、何の効果もない。彼の組織「家」が自ら活動資金を稼ぐ事が出来る様になる事が重要だ。
学生が隔離村でボランティア活動に傾倒し、卒業後に「家」のスタッフになる者もいる。スタッフになっても、満足な給料などでない。両親に泣かれても自分の道を行きたいと言う若者がいるのだ。こういう若者の組織への帰属意識や貢献意欲は、尋常なモノではないだろう。
企業内でも従業員がこの様な帰属意識や貢献意欲を持てば、業績への好影響は確実だ。そんな考えから、学生ボランティアと同じ様に、隔離村でのワークキャンプ体験を「行動変容研修」としてある企業に提案した。残念ながら提案は通らなかったが、「家」は社会人ワークキャンプを始めた。
この様な体験型の行動変容研修を、新入社員研修や、昇格時研修などに組み込めば、知識偏重の座学研修より、よほど効果が期待出来るだろう。
実は原田燎太郎がドリプラに出た頃「家」の財政状態は破綻寸前だったそうだ。
周りの人間が、背中を押してドリプラに出ると言う小さな一歩を踏み足した。そのため、彼の周りの世界が変わった。金銭的な支援ばかりではなく、講演の機会を提供してくれる人が、中国・日本を問わず増えた。それにより少しだけ財政危機が小さくなった。
原田燎太郎を取り巻く世界が変わったのだが、本当の所は彼の小さな一歩が変えたのは彼自身だ。その結果周りに今までと違う人が集まり世界が変わった。
彼らの活動は、支援者から元患者への一方的な支援活動ではない。支援者は元患者から多くの気付きや学びを得ている。元患者の中には、支援者の活動を見て、自分も小さな一歩を踏み出す人も出て来た。欧さんだ。彼は、自分たちがおかれている状況を皆に知ってもらおうと思い、大学に行き学生に講演活動を始めた。子供の時に隔離村に入れられ学歴は無い。話す言葉は広東語だけ。
勇気を出して小さな一歩を踏み出した。そして60歳を過ぎて、普通語の勉強をした。広東語訛りは有るが、コミュニケーションには問題が無くなった。そして中国国内だけではなく、日本でも300人超の聴衆が集まる会場で講演している。
欧さんも小さな一歩で自分を変えてしまった。
そして今まで不可能だったと思っていた政府の対応も、徐々に良くなって来た。太陽熱温水器が設置され、新しい住宅が用意され、24時間対応可能の看護師が2名常駐する様になったのだ。
欧さん自身の変化が、元患者の世界を変えた。
そして学生ボランティアたちも、欧さんの行動から勇気を学びを得ている。
この様な自分自身を少し変える小さな一歩の連鎖が、世界を変える大きな力になる。その秘訣は「使命感」と「喜び」だと思う。
自分たちの存在目的や共通の夢が「使命感」を育成する。
しかし使命感だけでは、活動の継続は難しい。時間とともに疲弊し、いつかは疲労破壊の様に、ポキッと逝ってしまう。活動には「楽しさ」が絶対に必要だと思っている。ボランティアたちの活動を記録した写真には、輝く様な笑顔のボランティアが写ってる。
トイレの穴を掘る時に「作業」だと思えばただの苦役だ。
今掘っている穴がトイレになると理解したら、それは「仕事」であり、目標と達成感が得られる。
元患者の幸せのためにトイレを作りたいと願う者は「夢」を持っており、簡単な事では折れない強さを持つはずだ。
「夢」を持つ者には「人のために役立つ事」「人から頼りにされる事」に喜びを感じると言う最強のモチベーション原動力が与えられる。
だから「家」のボランティアたちは最高の笑顔でトイレの穴を掘る。
これは、人類がお互いに助け合って活きて行く様に、神が我々のDNAに仕込んだ秘密なのではないだろうか。予想以上に人類が発展してしまったために、人の関係が稀薄になる様に調整が始まっているのが、現在なのかもしれない(笑)
いずれにせよ、世界が変わってしまう程の改革も元をたどれば、一人の小さな一歩が多くの人の感動や共感を巻き込んで小さな一歩の連鎖を引き起こした結果なのだと思う。
あなたの組織を理想状態に変えたいのならば、無理に組織内の人を変えようとするよりは、まず自分自身を変える小さな一歩を踏み出すことだ。
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