月別アーカイブ: 2019年1月

業務のマニュアル化と業務改革

 今週のメルマガ「ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革」で、ノリタケの仕事改革・間接業務のマニュアル化による業務改革についてコラムを書いた。本日は、業務のマニュアル化と業務改革について考えてみたい。これは間接業務、直接業務を問わず共通の課題だ。

業務マニュアルを作るためには、まず標準作業を決める。その上で作業者に理解しやすい様に作業手順を文章化する。文章化には写真、イラスト、図表等が含まれる。

ちょっと余談だが、業務マニュアルで標準作業を決めても、作業は標準化されない。なぜならば教え方が標準化してないからだ。この点にフォーカスをするのが、TWI-JI(企業内訓練・仕事の教え方)だ。
TWI-JIでは、標準作業を分解し教え方のシナリオを作る方法で教え方を標準化している。

業務マニュアルの作成にしても、TWIの作業分解にしても、ただ標準作業を記述するだけではない。標準作業を記述する際に、本当にこの作業は必要なのか?より効率の良い方法はないか?と言う視点で作業を見直しながら作るべきだ。つまり業務マニュアル作成の過程で、業務改善をするつもりで取り組むのだ。

もう一つ重要な事がある。標準やマニュアルは作ったその日から改訂を考える。標準やマニュアルは、今日ベストな方法を決めただけだ。明日もそれがベストとは限らない。標準やマニュアルを放置すれば、作ったその日から陳腐化が始まる。

無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」は現在13分冊2,000ページある。
ムジグラムは、現場からの要求で毎月20ページ程改訂されている。毎月1%は改善が進んでいると言う事だ。

つまり業務マニュアルを決めるだけではなく、業務改善を継続する。

まずは標準作業を決める。作業の「形」を作ると言う事だ。業務マニュアルが「形」を表現する。これが無いのを「形無し」という。形があるから、改善すべき所が見える。そして業務マニュアルが改訂される。この螺旋上昇循環を作る事が業務改革だ。


このコラムは、2017年8月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第554号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

ホワイトカラーを「多能工化」 ノリタケが働き方改革

 ノリタケカンパニーリミテドは営業、管理部門などで担当ごとの業務を
マニュアル化する。家族の急病や子どもの行事で特定の社員が休んでも、いつ
でも他の社員が交代できる体制を整える。今後、育児だけでなく、高齢化を
背景に家族の介護が必要になる社員も増える見込みだ。ホワイトカラーの
「多能工化」を進めることで働き方改革を加速する。

記事全文

(日本経済新聞電子版より)

 このメルマガで、何度も「働き方改革」が「残業時間の上限規制」問題にすり替えられている、と苦言を呈して来た。日経の記事に有るノリタケの取り組みが本来の意味の「働き方改革」に向かう取り組みだと思っている。

記事にはノリタケの取り組みを次の様に紹介している。

  • 複数の社員で対応可能にする。
  • 営業・管理部門の職員が休みやすくする。
  • 社員の働きやすさを推進する。

その結果残業時間が短縮する事になる。残業時間の上限規制や残業時間短縮は働き方改革の目的でも目標でもない。本来の目的は、仕事の質と効率を上げ業績に貢献する事であり、目標はその目的に沿った指標となるべきだ。働き方改革の結果として残業時間短縮が実現するのだ。

ホワイトカラーの仕事は、能力が必要でありブルーカラーの様に簡単に多能工化する事は出来ない、と考えるのはホワイトカラーの思い上がりだ。製造現場で働く職人の仕事を習い覚える方がよほど難しいはずだ。

「事務処理仕事をマニュアル化し誰でも出来る様にする」と言うテーマでQCC活動をしたサークルが昔有った。これは子供が熱を出しても休めない、という切実な問題を解決したかった女性事務員が一人で取り組んだQCC活動だ。「サークル活動」と言う名前の通り、複数のメンバーで取り組む活動が本来のQCC活動である。それにもかかわらず、たった一人の活動が認められてQCサークル誌に取り上げられていた。
彼女は、課題を解決する過程で、参照しなければならない資料を減らすなどの改善を実施し、業務の効率化も同時に達成している。この活動の結果、彼女は子供の誕生日に休暇が取れる様になった。

こういう事が「働き方改革」だと思っている。

以前メルマガで無印良品の業務マニュアル「ムジグラム」をご紹介した。
第383号「無印良品のムジグラム」

この様なマニュアルがあれば、人財の流動化は怖くはない。新人でもすぐに作業に習熟出来る。必要な人財を必要な部署に回す事が出来る様になる。

従業員に取っても、職場で「余人を持って換えられない存在」と言う評価は嬉しいかも知れない。しかしそれは該当職場に「飼い殺し」にされていると言う事に他ならない。「余人も持って換えられない」と言う理由で、人生に訪れる何度かのチャンスをつかみ損ねているのだ。

本当に部下の事を考えるのであれば、「余人も持って換えられない」と言う耳触りの良い言葉ではなく、ジョブローテーションに出して成長を促すべきだ。

これが本当の意味の「働き方改革」であり、その結果人財は活性化し、企業の業績は良くなる。「残業時間の短縮」はその結果現れる現象に過ぎない。


このコラムは、2017年8月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第553号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

中国華南の産業構造変化

 いささか大仰なタイトルとなってしまったが,お許しいただきたい.
私は経済評論家でもないし,マーケットウォッチャーでもない.マクロに市場をみて中国華南の産業構造変化を語る資格も,データも持ち合わせていない.自分の身の回りをミクロに見て,中国華南で産業構造変化が起こっていると感じている.

従来電気電子製品のお客様が多かったが、新規のお客様の業種は自動車産業が多くなっている.長期契約をいただいているお客様は,全部自動車関連部品メーカである.
直近に工場無料診断で訪問したお客様2社は2社とも,自動車産業向けに製品をシフトしているところだ.

中国華南の産業構造は,PCなどの電気電子製品が牽引して来たが,現在は自動車産業にシフトし始めているようだ.

自動車産業は非常に裾野が広い産業だ.
完成車メーカを頂点にして,多くの部品メーカが完成車メーカの生産を支えている.業種も電子部品,金属加工,プラスチック部品,ガラス部品,配線部品などなど多岐に渡る.

多くのメーカは電気電子製品向けの部品生産から,自動車部品の生産にシフトしようとしている.そのようなメーカを訪問して感じるのは,まずは品質要求の違いに戸惑っておられると言うことだ.

例えば電子部品業界では,納入品の不良率は20ppm以下であれば,とりあえず合格点がいただける.しかし自動車部品の世界では,納入不良率を語ること自体がナンセンスとなる.

人の命がかかる部品だから,不良はゼロが当たり前と言う考え方だ.
そうはいっても,ウチの部品は,走行系にも,ブレーキ系にも関係ないからと言う声も聞こえるが,フロアマットが原因で市場回収が発生する業界だ.回収はフロアマットの品質問題が原因ではないだろうが,どんな部品であろうと不良ゼロが当たり前と言うことになる.

そのような業界では,不良発生の予防保全が重要となる.
従って,自動車関連メーカの採用監査や新製品立ち上げの工場監査は厳格なモノとなる.この様な工場監査での指摘は,監査官の意図を正確に理解しないと,自分の首を絞めることになりかねない.

受注欲しさに,何でも対応しますと口先で約束して,不良を出してしまう.指摘事項の意図を理解せずに,検査工程などをどんどん追加して,利益が出なくなる.

いずれも発注側・受注側にとって不幸な結果だ.

厳しい納期要求に応えるために,完成品倉庫を拡大する.中間在庫を大量に抱える.見かけの効率を追求し設備を専用化し,稼働率を下げてしまう.
この様な目に見えないロスや潜在的品質不良を抱えている工場もよく見る.こういう状況に陥ると,受注はあるが利益が出ない,キャッシュフローが回らないと言う,経営的に深刻な状況になる.

こういう状況が,我々コンサルの出番だと思っている.


このコラムは、2012年10月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第297号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

続・まず信頼する事

 先週のコラム「まず信頼する事」にお二人の読者様からメッセージをいただいた。今週は続編を書いてみる。

松下幸之助は、従業員に対する「信頼」が重要だと説いた。
些細な言葉上の問題だが、私は従業員に対する「信用」が重要だと思っている。

「信頼」という言葉を分解してみると、「信じて頼る」となる。一方「信用」は、「信じて用いる」だ。つまり従業員や部下を信じて頼ってしまうのではなく、従業員や部下を信じて用いると言う事だ。

たびたびご紹介している私の工場経営の師匠・原田師は「犬の散歩」といっていた。犬を散歩に連れ出すと、好奇心に任せてあちらこちらと歩き回る。飼い主は、リードを持って犬が行きたい方向に任せ、後ろからついて行く。危ない場面でリードをちょっと引っ張ってやれば良い、と言う意味だ。

犬はどうも不当な評価を受けている様で、「○○の犬」とか「犬死に」などとネガティブな意味の表現で用いられる事が多い。「犬の様に働く」と言うと、主人の言いつけに従い盲目的に働くと言うニュアンスがある。しかし犬は好奇心を持ち、色々な事を調べながら散歩をしている。そしてそれを大いに楽しんでいる。仕事もこのように取り組めば、成果を上げる事が出来、仕事を通して成長する事が出来るはずだ。

極論すれば、従業員や部下に失敗させ、そこから学ばせる事が上司の役割だ。
しかし致命的な失敗をさせてしまうと、部下の心が折れてしまったり、会社に大きな損失を与える事になる。そう言う局面で後ろからリードをそっと引いてやる。これが「犬の散歩」の意味だ。

それを可能にするのは、上司が部下を信じて用いる事だ。
部下を信じる事が出来ず、失敗を恐れれば、全てを上司自身で仕事をせざるを得ないだろう。部下が数人しかいない時はそれでも何とかなる。しかし職位が上がり、部下が増えれば不可能になる。

部下を信用出来るのは、常より部下を育成しその能力を高めているからだ。育成とは座学ではなく、仕事を与え成果を出させる事だ。この過程で部下は、能力と自信を高める。部下が失敗するかも知れないと心配していれば、この境地には到達出来ない。

しかしむやみに部下を信用する事は出来ない。部下を育成出来ていると言う自分に対する自信がなければならない。つまり部下を信用すると言う事は、自分自身を信じる事だ。

従業員や部下を信用し、仕事を任せ能力と自信を高める。その先に「信頼」の境地がある、と考えている。


このコラムは、2017年7月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第539号に掲載した記事です。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

知者は水、仁者は山

yuēzhì(1)zhěshuǐrénzhěshānzhìzhědòngrénzhějìngzhìzhěrénzhě寿shòu

《论语》雍也第六-23

(1)知:zhìに同じ。

素読文:
子曰く:“知者は水を楽しむ。仁者は山を楽しむ。知者は動く。仁者は静かなり。知者は楽しむ。仁者は寿いのちながし。”

解釈:
知者は水に歓びを見出し、仁者は山に歓びを見出す。知者は活動的であり、仁者は静寂である。知者は変化を楽しみ、仁者は永遠のなかに安住する。

知者は、水の流れ、動、変化を好む。
仁者は、山、静寂、変わらぬ永遠を愛する。
つまり知者はその知恵で世の中を改善することに喜びを見出す。一方仁者は世の中の真理に目を向けそれを守ろうとする。と解釈しました。

ある社長の悩み・離職率

 仕事柄経営者の方とお話をさせていただく事が多い.
この方の悩みは作業員の離職である.作業員の離職率は年率で50%ほどに達している.

離職率対策として,近隣の工場より高額の給与を出している.また福利厚生も格段に良い.宿舎は広く一部屋に4人,二段ベットではない.食事はトレーに乗せたぶっ掛け飯ではなく,丸テーブルに座ってちょっとしたレストラン並の食事が出る.年に一回従業員を慰安旅行に連れて行っている.

ここまでしても離職率が下がらない.自分にはもう打つ手が無いというのだ.離職する作業員の理由は「仕事がつまらない」ということらしい.

いくら給与や福利を良くしても仕事に対するモチベーションが上がらなければ,辞めてしまう作業者はいるだろう.ひところのように,お金を稼いで田舎の弟,妹を学校に通わせなければならない,家族の生活を支えなければならないという状況が少なくなってきている.最近は工員さんでも立派な携帯電話を持っている時代だ.

仕事のモチベーションは仕事で上げなければならない.
仕事が楽しくなるのは,仕事を達成し上司や仲間から認められる,仕事を通して自己成長の実感がある,という状況になったときだろう.

既に中国は豊かになってきており,給与をたくさん出して「安全・安定の欲求」を満たしただけでは不十分になってきている.
「人から認められる」「自己実現」というより高度な欲求を満たしてあげなければ仕事に対するモチベーションは維持できないだろう.

従業員の離職に関してはこちらもご参照ください。
高離職率
離職率と多能工化のジレンマ
作業員の離職率


このコラムは、2008年4月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第31号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

品質記録

 先週と今週は、中国民営企業で現場改善を指導している。

現場で以下の様な状況を発見した。完成品の最終検査で不具合が見つかり、不良内容をテープに書いて不良現品に貼付けてある。大きな製品なので、不良品を入れる箱に入れる事は不可能だ。不良品置き場に隔離する事も、現実的ではない。不良を示すテープを貼る事は合理的だと思う。不具合内容も書いてあるので、後の修理処置も明確になる。

しかし驚く事に、この不良は記録されていない。

検査では検査数量,不良数量を記録している。不良の責任工程も記録してある。しかし不良内容が記録されていない。検査記録の目的が、我々の常識とは違っている様だ。彼らの検査記録は、出来高制の給与計算が目的なのだろう、と勘ぐってしまう。

彼らは、生産工程ごとに品質検査をしており、正しく加工出来た事を、1台毎に添付された検査記録表に記録している。ISOの要求だから記録している、と言う事なのだろう。

品質記録は自分たちの改善に活用すべきだ。各工程で発生した不良を記録する様に指導をした。品質管理担当の副総経理が、私の話を聞きながら熱心にメモしているのを見て、少し驚いた。このレベルから指導をしなければならない、と言うのは彼らの伸び代が大きいと言う事であり、私の貢献意欲が大いに刺激される(笑)

何かのコマーシャルで「物より記憶」と言うキャッチコピーが有った様に記憶している。社会が豊かになると、物への欲求より「思い出」の様な精神的な欲求が強くなるのだろう。

生産現場では記憶より記録が重要だ。

この工場の生産記録には、投入台数と完成台数だけしかなかった。更にかかった工数、正規工数よりよけいにかかった時間とその原因などの項目を追加した。

その結果色々な事がデータとして分かる。
生産現場のリーダや管理職は、部材が計画通りに揃わない事が、生産ロスの最大の原因だと主張している。しかしデータから判断出来る事は、生産機種の変更に最も時間がかかっていると言う事だ。

彼らの主張通り,部材調達問題の改善に取り組んでもそれほど大きな効果は見込めないだろう。機種変更段取り時間をいかに短縮するかが、優先課題だ。

この記録から、ある工程では、5月上旬を境に生産性が平均70%向上している事が一目瞭然となった。生産性が急増した境目は、前回指導時に与えた宿題が実施された日だ。

実はこの工程に与えた宿題は2S(整理・整頓)だけだ。
不要不急の部材を整理し、今生産する為の部材を適切な場所に整頓する。たったこれだけの事で生産性が70%向上した。


このコラムは、2016年5月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第477号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

記憶より記録

 2010年4月5日配信のメルマガで「記憶より記録」と言うタイトルでコラムを書いた。行動主義で部下を評価する、そのためには記憶より記録が重要だ、と言う論旨だった。

今回は別の切り口で「記憶より記録」について考えてみたい。

QCC活動などで問題解決のテーマに取り組む場合、正しく課題を設定する事、原因分析により真の原因を発見する事が重要となる。

原因分析には色々な手法があるが、QC七つ道具の「特性要因図(魚骨図)」を描いて安心してしまうサークルが多い様に思う。確かに特性要因図は、問題の原因となる要因を沢山挙げるための有効なツールだ。その要因が真の原因である事を確かめる。今回の原因ではないが、潜在的不具合要因に対策を検討しておく、などの様に活用する事が出来る。

QCC活動の指導をしている企業で、金属表面処理の不良改善に取り組んでいるサークルがある。何時間もかけて表面処理をした結果、不良となる。その間のコストだけではなく、再処理のために金属表面を化学処理で元の状態に戻す時間とコストが必要になる。彼らの目標は数%の改善だが、その年間費用改善効果は数100万元を越えている。(計算は直接損失コストしか含んでいないが、不良ロットの修復にかかるコストや、納期遅延による顧客信頼ロスを含めるともっと改善効果は高そうだ)

初めてQCC活動をする彼らも、特性要因図を描いた所で安心している(笑)
その結果、表面処理設備の真空ポンプと蒸着の陽極電源の故障が主原因と分析した。彼らは今までの経験(記憶)に従って,不具合発生の要因を挙げ、その中から主原因を選択している。やり方が間違っている訳ではないが、証拠を揃えながら原因分析をしなければならない。

彼らは、金属表面処理の専門家ではあるが、設備(真空ポンプや高圧電源)の専門家ではない。彼らが取るべきアプローチは、過去に発生した設備故障の原因と製品不良の因果関係を記録によって調べる事が最初だろう。その結果、何が主要因であるか絞り込む事が出来、更に真の原因を分析する事が出来るはずだ。真空ポンプや高圧電源は彼らに取って専門外の固有技術であっても、管理技術で分析した結果を元に、設備メーカと協力して原因分析、対策検討が出来るはずだ。

管理技術だけで問題解決をする事は出来ない。しかし「記憶」と言う不確かな状況証拠だけではなく、「記録」と言う客観的な証拠を元に管理技術を駆使し固有技術を持っている人の協力を求める。こういうアプローチで改善が出来るはずだ。


このコラムは、2017年6月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第534号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

記憶より記録

 先週のメルマガでは,従業員が学習したことを記録することにより,組織の知恵を蓄積する企業文化について書いた.

今週は,上司,指導者の記録について触れる.

従業員のモチベーションに大きな影響を持つ因子に,公平な評価がある.
自分に対する評価に不公平感を感じると,モチベーションが下がり,逆に自分が正しく評価されていると感じると,モチベーションは上がる.

そのため評価を公平にする,公平感があるようにしておくことは重要である.
例えば,達成した業績が数値で計測可能な場合は,公平感を持たすのは簡単だ.また能力も数値計測が可能ならば,公平に評価が出来る.

しかし数値評価が出来ない場合の方が多いだろう.
例えば,「協調性」という能力をどのように公平に測定したらよいだろうか.
あいつは協調性がある;◎
あいつはちょっと協調性に欠ける;△
などという評価をしていたら,評価者ごとに違う結果が出てしまう.なおかつその結果の説明性が,非常に乏しい.これでは公平な評価とは言えない.

つまり公平な評価とは,

  1. 評価者が変わっても,評価結果の誤差が納得できる範囲にある.
  2. 評価結果に対する説明が可能.

評価の再現性と説明性が保証されていれば,公平な評価と感じるだろう.

では実際に「協調性」に対してどう評価したらよいか.
協調性を発揮した場合とられる行動をリストアップする.逆に協調性が不足している場合にとられる行動をリストアップする.

そして普段の行動から,プラス行動,マイナス行動を評価すれば,評価者に依存しない評価の再現性が保てるであろう.そして記憶による評価ではなく,評価対象者の行動を記録しておくことにより,説明性が確保できる.

つまり,上司は部下の行動を記憶で評価するのではなく記録で評価しなければならない.
これは言葉で言うほど簡単なことではない.しかし上司の評価により,部下の収入・生活が変わる.部下に対する評価は真剣勝負でなければならない.


このコラムは、2010年4月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第147号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】

記録する文化

 中国の工場で指導をしていてしばしば感じるのは,一部の人間に指導した内容がなかなか全体に伝わらないということだ.これでは指導が,個人の知恵になるだけで,組織の知恵にはならない.

個人の知恵(暗黙智)を組織の形式智とし,それを個人に対して形式智として再教育できるようにしておく.こういう循環を作っておくことが,成長する組織の暗黙智だ.

そのためには,指導した内容を記録として残しす.
例えば先週の「作業に計画性を与える」に書いたような指導をいちいち記録し蓄積しておく.

倉庫で指導した内容を,オフィスに帰って記録する.これは忙しい指導者にとってなかなか出来ることではない.これを自動化する仕組みを作れば良いのだ.

職員全員に,受けた指導を記録させる.その記録を公開,蓄積してゆけば,指導を受けた者が記録をしてゆくことになる.

これをうまく機能させるためには,従業員に対し記録の意義をしっかり理解させる必要がある.
「組織の成長のため」という管理者目線で意義を理解させようと思っても難しい.なぜなら従業員には自分のメリットが感じられないからだ.

従業員目線で教えなければならない.記録するのは自己成長のため.
教えられたこと(インプット)は実践する,人に教えること(アウトプット)によって初めて,知識は能力に変換される.こういうことを,事前にしっかり理解させておく.

そして記録をたくさん残した者が,評価されるようにしておく.言ってみれば,たくさん叱られた者が成長度合いが大きいという共通認識を作る.

こういう記録する文化を作り上げれば,組織の成長速度は加速する.

「原田指導語録」はこうした記録する文化から生まれたものだ.原田氏の秘書が,現場での指導を記録し,まとめたものが「原田指導語録」だ.この記録を読むと,原田氏の指導方法だけではなく,経営哲学を理解できる.
原田氏が世を去られた後も,次の世代がその考えを継承することが出来る.


このコラムは、2010年3月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第146号に掲載した記事に加筆しました。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】