記録する文化


 中国の工場で指導をしていてしばしば感じるのは,一部の人間に指導した内容がなかなか全体に伝わらないということだ.これでは指導が,個人の知恵になるだけで,組織の知恵にはならない.

個人の知恵(暗黙智)を組織の形式智とし,それを個人に対して形式智として再教育できるようにしておく.こういう循環を作っておくことが,成長する組織の暗黙智だ.

そのためには,指導した内容を記録として残しす.
例えば先週の「作業に計画性を与える」に書いたような指導をいちいち記録し蓄積しておく.

倉庫で指導した内容を,オフィスに帰って記録する.これは忙しい指導者にとってなかなか出来ることではない.これを自動化する仕組みを作れば良いのだ.

職員全員に,受けた指導を記録させる.その記録を公開,蓄積してゆけば,指導を受けた者が記録をしてゆくことになる.

これをうまく機能させるためには,従業員に対し記録の意義をしっかり理解させる必要がある.
「組織の成長のため」という管理者目線で意義を理解させようと思っても難しい.なぜなら従業員には自分のメリットが感じられないからだ.

従業員目線で教えなければならない.記録するのは自己成長のため.
教えられたこと(インプット)は実践する,人に教えること(アウトプット)によって初めて,知識は能力に変換される.こういうことを,事前にしっかり理解させておく.

そして記録をたくさん残した者が,評価されるようにしておく.言ってみれば,たくさん叱られた者が成長度合いが大きいという共通認識を作る.

こういう記録する文化を作り上げれば,組織の成長速度は加速する.

「原田指導語録」はこうした記録する文化から生まれたものだ.原田氏の秘書が,現場での指導を記録し,まとめたものが「原田指導語録」だ.この記録を読むと,原田氏の指導方法だけではなく,経営哲学を理解できる.
原田氏が世を去られた後も,次の世代がその考えを継承することが出来る.


このコラムは、2010年3月29日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第146号に掲載した記事に加筆しました。

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