月別アーカイブ: 2018年5月

椅子を捨てよ,現場に出よう

格言NO.74:報告書を捨てよ、現場に出よう。

昔,寺山修司が「書を捨てよ,街に出よう」と言う本を書いた.
若い頃,この本を読んだ.横尾忠則の装丁を見ると当時が懐かしい.
今は,会議室やオフィスで報告書ばかり読んでいる幹部職員に,こう言いたい
「報告書を捨てよ,現場に出よう」

 毎週追加している改善格言は先週で74個目となった.
先週の格言に対し読者様からメッセージをいただいた.

※N様のメッセージ
 お久しぶりです。
 格言の「報告書を捨てよ,現場に出よう」

 本当にそう思います。

 机の前ばかりに居て、現場に出ない人が多い。

 現場経験者が少なくなっているので、
 どう現場で何したらいのか?何を指示したらいいのか?
 分からないんでしょう。

 最近は、メールで報告書をばらまくので、
 PCも捨てた方がいいかもしれません。。

先週の格言は,今イチしっくり来ていなかった.内容ではなく語呂が悪い.寺山修司の「書を捨てよ,街に出よう」に比べると,しゃきっとした語感がない.

N様のメッセージに返事を書いていて,思いついた.
「椅子を捨てよ,現場に出よう」に変えようと思う.

実はこの格言は,キャノン電子の酒巻氏の書名からパクったものだ.
「椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる! 」著者:酒巻 久

元々アイディアと言うのは,今あるものの組み合わせでしかない事が多々ある.寺山修司と酒巻久志と言う「斬新な」組み合わせを思いついた時点で,大いに新鮮な格言となっていると,勝手に解釈している(笑)
丸パクリではないし,コラージュ,パロディと言う表現手段もある.

ところで,酒巻氏とはかなり違うやり方だが,私も「着席従業員」の椅子を捨てたことがある.

以前指導していた台湾資本の中国工場には,品質工程師と呼ばれる職員が数人いた.品質工程師の仕事は,客先クレームに対する対策報告書を作成する事だ.この人たちは,大した作家先生たちであり,日がな自分のデスクに座り,PCに文章を打ち込んでいる.

彼らは,顧客から不良として返却された製品の不良分析が出来る訳ではない.不良分析は,専門の分析屋がいて彼らが書いた報告書を読んで,英語に翻訳した上で客先提出報告書に転記する.従って不良現品を手にする事はない.

現物も見ないで,不良解析を書き,現場も見ないで再発防止対策を書く.全部机の上で書き上げる「作文」なのだ.
彼らの存在意義は,海外顧客の為に英文で報告書が書ける事だ.
従って彼らが書く再発防止対策は,「作業員に再教育をした」などと言う,効果を実感出来ないものばかりだ.

そういう彼らを見るたびに,現場に行けと尻を蹴飛ばしていた.

そして毎朝開催していた品質会議(前日工程内で発生した不良の原因分析と,再発防止をレビューする会議)に全員参加させた.最終的には,彼らをオフィスから追い出して,生産現場に机を移動させた.

勿論これだけで,彼らが不良分析出来る様になったり,再発防止対策を考える事が出来る様になった訳ではない.しかし彼らが書く客先提出報告書のレベルは格段に上がった.

もしあなたの仕入れ先からの不具合再発防止対策報告書に,不良原因は「人為ミス」対策は「作業員の再教育」などと書かれていたら,仕入れ先を訪問し,報告書をどのようにして書いているのか確認した方が良かろう.

蛇足ながら,当時オーナ経営者は私の為にオフィスに応接セットを用意してくれていた.私はその豪華応接セットを即捨てた(笑)代わりに立ち飲みバーで使う様なテーブルを用意してもらった.私の部屋での会議は立ったまま行っていた.


このコラムは、2013年4月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第303号に掲載した記事に加筆したものです。

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機能こそデザイン、こだわって少品種

 羽根の無い扇風機を2009年に売り出して世界の消費者の心をつかんだ英ダイソン。今年はパナソニック、シャープなどが同様の商品を売り出し、ダイソンも日本仕様の新機種で迎え撃つ。「元祖」の開発に携わったダイソン・シニアデザインエンジニアのマーティン・ピーク氏(37)が朝日新聞のインタビューで開発秘話を語った。

 ――羽根無し扇風機「エアマルチプライアー」のアイデアはどうやって生まれたのですか。
 「きっかけは、日本では発売していない我々のハンドドライヤーでした。手のひらの水を風でそぎ取るように乾かすのですが、開発中、細い隙間から強い風を送り出すと周囲の空気を巻き込んで大きな空気の流れができることがわかったのです。私を含む約150人のチームで3年をかけ、数百種類の試作機を作って製品化にこぎ着けました」

 ――元々掃除機だけの会社じゃなかったんですね。
 「20年前に創業者のジェームズ・ダイソンが生み出したサイクロン掃除機を主力に、エアフロー(空気の流れ)を扱う会社です。今は掃除機、ハンドドライヤー、扇風機の3分野ですが、約10年前には空気の流れの研究を水流に生かした洗濯機を発売したこともあります。二重のドラムが逆回転し、汚れがよく落ちたのですが、期待ほどは売れませんでした」

 ――なぜ?
 「サイズが少し大きかったのが原因だと考えています。失敗を生かし、現在我々の製品は能力は高いまま、少しでも小さくすることを重視しています」

 ――掃除機も扇風機も、洗練されたデザインです。
 「ウソだと思われるかもしれませんが、実はダイソンにはデザインを専門に手がける『デザイナー』は一人もいません。エンジニアが機能を突き詰めた結果が製品の形になっています。全てのデザインが機能を持っているのです」

 ――研究はどのような体制で行っているのですか。
 「本社はダイソン氏の故郷である、ロンドンから2時間の田舎にあります。約850人のエンジニアがおり、週1度ダイソン氏がやってくると皆が我先にと相談や議論を持ちかけます」

 ――20年で生み出した製品が4ジャンル。効率的でないようにも見えます。
 「確かに、もっと多くの製品を売ればもっと大きな会社になっていたかもしれません。ジャンルが少ないのは、『他社より優れていない製品は売り出さない』というダイソン氏のこだわりが原因です。彼は完璧主義者ですからね」

(asahi.comより)

 「ダイソン」の名前は,サイクロン掃除機や羽根のない扇風機で知っていた.羽根のない扇風機を初めて,家電量販店の店頭で見た時は,どうして風が出るのか不思議で,いつまでも売り場を離れることができなかった(笑)

中国でも,ダイソンの丸パクリの扇風機をよく見かける.
パナソニックも,羽根のない扇風機を出しているが,相当形状が違っている.マネシタ電器と揶揄された事もあるが,さすがに中国企業の様な事はしないだろう.

そのパナソニックによると,扇風機は3.11以来需要がほぼ倍増しているそうだ.

ところでこのダイソンと言うメーカは,自社技術にこだわり,磨きをかけるタイプの企業の様だ.

売れるならすぐ真似をする.
売れるなら技術を買って来てでも造る.

MBAでマーケティングなどを勉強した人は,こう言う戦略を肯定的に捉えるかも知れないが,私の様に技術者上がりの人間には,どうも「品格」がない戦略と見えてしまう.

ダイソンに意匠デザイナーはいない.
機能を追求すれば,自ずと意匠デザインが出来上がる.
何と無骨かつ素朴なデザイン論だろうか(笑)
今時こんなことを言っているメーカはないだろう.自分たちの技術に自信があるからなのだろうか.

『他社より優れていない製品は売り出さない』
我々も自社製品に対して,「価格」以外で他社より優れている,と言える様にこだわりを持ちたいモノだ.


このコラムは、2013年4月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第303号に掲載した記事に加筆したものです。

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作業員の評価

 先日、日本人経営者と中国人幹部の作業員評価に関する会議に立ち会った。

日本人経営者は、作業員は「業績評価」より「勤務態度・意欲評価」の割合を高めたいと考えている。
一方中国人幹部は、数値目標を与え、その達成度合いで評価したいと言う。
例えば、標準作業時間で生産出来る数量を目標として、各自の生産良品数で5段階評価する、と言う考え方だ。
この様な評価により、以下のメリットが有ると中国人幹部は考えている。
・評価者ごとのバラツキが少なくなる。
・より公平な評価ができる。
・具体的な目標を与えることにより、達成感を持たせることができる。

その裏には、「協調性」「積極性」「自己成長意欲」と言う評価項目を公明・公平に評価する事が難しいと中国人幹部たちが感じている。当然、作業員全員を自分一人で評価する事は出来ない。普段作業者と一緒に仕事をしている課長、係長が一次評価をする。彼らが、同じレベルで公平に評価出来る様にする自信がないのだろう。
当然評価が不公平だと感じれば、作業員は不満を持ち離職する場合もあり得る。

しかし、数値目標だけを評価基準にしてしまうと、仲間が困っていても自分の仕事を優先する。経営者は多能工化を推進したいと考えているのに、新しい仕事になれば、生産量目標を達成出来ない可能性があるので、多能工研修を拒否する。など経営者が目指す組織とは違う方向性を持った、従業員が高評価を受けることになる。

難しいから「態度・意欲評価」を放棄して、簡単な数値評価をする。その結果経営方針とは違う方向に進んでしまうことになる。
どうすれば「態度・意欲評価」を公平に出来るかを考える方が建設的だ。

例えば「積極性」をそのまま評価しようとするから難しくなる。
まず「積極性が有る行動」「積極性がない行動」を列挙しておく。普段の行動観察により、好ましい行動(プラス得点)と好ましくない行動(マイナス得点)を集計する。このようにしておけば、ある程度客観的な評価が可能となる。
被評価者から評価に関してクレームが有った時に、「こういう行動が有ったので、マイナス評価になった」と説明が出来る様になる。

この様な評価基準を、評価者全員でブレーンストーミングで作っておくと、評価者、被評価者の納得性も高くなるはずだ。


このコラムは、2014年10月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第395号に掲載した記事に加筆したものです。

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笹子トンネル天井崩落事故

写真はイメージです。

 先週のメルマガ「ボルト、引き抜ける状態 笹子トンネル、6割が強度不足」に,読者様からメッセージをいただいた.

※Z様からのメッセージ
 私は土木工事のプロではありませんが、有資格者(一級土木施工管理技士)なので、ちょっとばかり知っている範囲で、書きます。

問題のアンカーボルトは、多分一般にケミカルアンカーと呼ばれているものではないかと思います。37年前の状況は?ですが、20年ほど前は、すでに一般的に使用されていました。

当初からアンカーボルトの下穴1個に対し、薬剤(ガラス製のカプセルやチューブ)は1個です。またアンカーボルトの太さで、穴の径、深さとカプセルのサイズも決まっています。

薬剤をケチって規定より小さいサイズのものを使えば、若干の節約になるかもしれませんが、その場合すべてが薬剤不足になります。

また穴にカプセルを落とし込み、そこに先端を鋭角にしたアンカーボルトを打ちこみ、カプセルを割って使用するので、二つの穴で薬剤1個といった使い方はできないはずです。

私の推測する原因は、施工不良です。
ケミカルアンカーは、下向き、横向きに打ち込むのであれば容易ですが、天井に下から上向きに打ち込むのは、難しいと推察されます。もちろん、薬剤は急速に硬化しますが、カプセルを割った直後に流れ落ちる可能性もあります。天井へのアンカー打設の経験が、私はありませんので、断定できません。半分素人の私の推測です。

アンカーボルト1本に対し,カプセル1個使用する,ということであれば,先のカプセル使用数量の間違い,という不適合原因推定は外れとなる.

Z様の推定の様に,施工不良の可能性が高い.
抜けてしまったアンカーボルトの写真から,接着剤が付いていた痕跡がほんの少ししかないのが分かる.天井に開けた下穴に,カプセルを埋め込み,そこへアンカーボルトを打ち込む訳だ.何らかの方法で,接着剤が流出しない様にしなければならない.多分工法上で何らかの工夫があるのだろう.

この施工作業時に何らかのミスが有ったと推定するのが合理的の様に思える.

やはり新聞記事,写真だけで原因分析をするのは,限界がある.
原因分析は,あくまでも三現主義でなければならない.


このコラムは、2013年2月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第296号に掲載した記事に加筆したものです。

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ボルト、引き抜ける状態 笹子トンネル、6割が強度不足

写真はイメージです。


 中央自動車道笹子トンネルの天井崩落事故で、国土交通省は1日、天井板をトンネルに固定するボルトの約6割が調査で抜けたと発表した。ボルトはたとえ下に引っ張っても、きちんと固定されていれば抜ける前にボルト自体が折れる設計で、接着剤の不足などで強度が足りなかった可能性があるという。

 国交省がトンネル内の崩落していない区間で計183本のボルトを引っ張って調べたところ、113本が抜けた。うち16本は、天井板やつり金具を支えるだけの力もなかった。16本は崩落現場の周辺に集中し、一部はさびていた。

 引き抜かれたボルトには先端の一部にしか接着剤が付着していなかったものが多数あった。関係者によると、崩落現場でボルトが抜け落ちた穴でも、接着剤はごく一部にしか残っていなかったという。一方で、トンネルの
コンクリート壁やボルト自体には、強度に問題は見つからなかった。

 トンネル施工時には、接着剤や砂利などが入ったカプセルを穴に入れてからボルトを差し込む工法が用いられていたとみられ、国交省は「接着剤の量が不十分だったか、長期間天井板を支え続けたことによる劣化が強度の低下につながった」とみている。

 国交省は崩落の主原因は接着剤が不十分だったことによる強度不足で、こうした状況が全体に広がっていることから、施工自体に問題があった可能性を視野に調べている。

(asahi.comより)

 昨年12月2日中央高速笹子トンネルで発生した天井崩落事故の記事を読んだ時は,アンカーボルト脱落は37年間で接着剤が劣化した事が原因かと思った.
調査結果によると,接着剤の量が規定より少なかった様だ.

接着剤の量が少なかった原因は明らかにされていないが,原因を推定すると,

  1. )うっかりミスにより接着カプセルの量が足りなかった.
  2. )必要数量を間違えていた.

  3. )意図的に使用量を減らした.

以上3つの可能性があるだろう.

以下それぞれに再発防止を考えてみた.

  1. )事故後に引っ張ってみたアンカーボルトのうち約2/3が抜けてしまったという事は「うっかりミス」は可能性が低そうだ.
    うっかりミスには「十点法」が有効だ.「十点法」は数量管理法の事だ.つまり10個の材料を使うのならば,10個だけ供給し過不足なく使用した事を確認する方法だ.

    アンカーボルトの下穴に必要な数だけの接着剤カプセルを作業者に供給する.
    アンカーボルトを打ち込む前に,使用量の確認をする.
    カプセルを余分に入れた穴と少ない穴があれば,全体のつじつまが合ってしまうので,下穴はカプセルが余分に入らない深さにしなければならない.

  2. )使用すべき量を間違えていれば,引っ張れば全てのアンカーボルトが抜けるはずだ.従ってこれも可能性は少ない.全体の1/3だけうっかりミスで「余分に」入れてしまった可能性はあるが(笑)

    これを防止するためには,最初に一カ所だけサンプルで打ち込み,引き抜きテストを実施すれば良い.製造業では「初物チェック」と呼んでいる検査だ.

  3. )大変残念な事に,意図的に使用量を減らしたというのが,最も可能性が高いのではないだろうか?別の記事に,負荷がかかっていないアンカーボルトも簡単に引き抜けた,とある.この記事が本当ならば,意図的と考えたくなる.

    施工業者が意図的に使用量を減らし,施工コストを減らし不正利益を得た.作業者が意図的に使用量を減らし,着服した.接着剤カプセルを着服しても,利益はなさそうだが蛇の道は蛇の例え通り、それを換金する闇ルートが存在したりする.37年も前の事だから,真相は藪の中だろう.しかしこういう問題を「倫理」に訴えるだけでは,効果が限定的だ.(念のために申し上げるが,「倫理」はどうでも良いと言っている訳ではない)

    例えばアンカーボルト1本に対し,接着剤カプセル1個にしてしまえば,着服や数量調整は不可能になる.

    接着剤カプセルの形状を見た事がない者がいい加減なことを言うな,とお叱りを受けそうだが,素人の発想を馬鹿にしてはいけない.素人の発想を実現するのが玄人だろう.

ところで,国土交通省は全国にトンネル点検を指示しているが,対象の市町村全てが,トンネルの点検方法などを定めたマニュアルを持っていないことが,判明している.管理すべき責任者(市町村)を決めているのに,方法,基準を示していない.また市町村側も,管理責任者として指名されているのに,何らアクションを起こしてこなかった.

部下に指示だけして,方法や基準を教えていない.
あなたの組織はそんなことになっていないだろうか?


このコラムは、2013年2月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第295号に掲載した記事に加筆したものです。

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二宮尊徳

 私と同じ様な年頃の皆さんは、小学生の頃、二宮金次郎が薪を背負い本を読んでいる銅像や石像が、学校に有ったのを覚えておられると思う。我々は二宮金次郎と覚えているが、大久保忠真から二宮尊徳と言う名を貰っている。「徳を尊ぶ」五常(仁義礼智信)を説き「推譲」を実践した二宮尊徳にぴったりの名前だ。

残念ながら、最近は二宮金次郎の銅像が小学校から撤去されていると聞く。
本を読みながら道を歩くと、交通事故に遭うと言うのがその理由だそうだ。我が子にまともな教育も出来ない親達が、そのような馬鹿な事を言っているのだろう。驚くべき事に、学校側もその意見に組していると言う。

「ゆとり教育」以降日本の教育行政は、目も当てられない状況だと思う。子供達は、我々の未来そのものだ。未来を育てる教育行政が此の様な体たらくでは、先行きが心配だ。

突然二宮尊徳の話が出て来て戸惑われている方も多いかもしれない(笑)
二宮尊徳の「道徳を忘れた経済は罪悪である。経済を忘れた道徳は寝言である」と言う言葉を稲盛和夫氏が引用しておられた。それで二宮尊徳の本を拾い読みなおしたと言うのが、真相だ(笑)

「二宮尊徳の経営学」童門冬二著

私たちは、二宮尊徳を寸暇を惜しんで勉学に励んだ人として記憶し、勤労・勤勉の姿勢を学んだ。しかし彼には、篤農家、財政再建者の側面もある。

二宮尊徳の信条は「利他」であり「推譲」だ。

「利他」と言うのは「利己」の対立概念であり、自分の利益よりは他人の利益を優先すると言う考え方だ。
「ウィン・ウィン関係」などと言う言葉がもてはやされているが、「ロス・ウィン関係」でちょうど良い。まずは相手に利を与える。ずっとそれで良い訳ではない。ずっとロス・ウィン関係であれば、いつかは関係の維持が出来なくなる。いわば「経済なき道徳」だ。経済なき道徳では、継続が出来ない。

先に「利他」を尽くせば、相手との信頼関係が出来る。信頼関係が出来れば、相手は喜んで利をこちらに与えてくれる。

「推譲」も同じ様な概念だ。
譲(ゆずる)に更に「推」がついている。ただ譲るだけではなく、積極的に譲る。

中国では、孔子が『恕』と言っている。
中文
『子贡问曰:“有一言而可以终身行之者乎?” 子曰:“其‘恕’乎!己所不欲,勿施于人。”』
日本語読み下し文
『子貢問とうて日わく、一言にして以て身を終うるまで之を行なうべき者有や。子日わく、其恕か。己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ。』

弟子の子貢に「一生涯貫き通す事を一言で言えば何か?」と問われ「恕」であると孔子は答えている。「己の欲せざる事を、人に施してはならない」と解説しているが、ポジティブに言い直せば「人が望む事をして上げなさい」と言うことになる。

二宮尊徳も、我々も「譲」「利他」を中国から学んでいる。
現代中国では、バスで年寄りに席を譲る若者を多く見る。しかし「拝金」や「利己」がはびこっていると言わざるを得ない。他人を騙してでも「利己」を得ようとする。

我々がここで出来る事は微力であっても、無力ではない。自分の周りだけでも「利他」「推譲」の精神で接したい。継続すれば「積小為大」となる。そうなれば、きっと利は自分に返って来るはずだ。


このコラムは、2014年7月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第372号に掲載した記事に加筆したものです。

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9本の指を失ってなお山に挑み続ける

 登山家・栗城史多(くりき のぶかず)氏の記事がに朝日新聞電子版に掲載されていた。(残念ながら記事は現在保存されていないようだ。URLのリンク先には記事はなかった。)

彼は学生時代に付合っていた女性に振られる。その彼女が登山愛好家だった。彼は元カノに対する未練で大学の山岳部に入部したと言っている。不純な(笑)動機で始めた登山だったが、先輩と二人で中山峠から小樽に至る縦走を1週間かけて達成する。無理だと思っていた事が達成出来た。無理だと自分自身で限界を設定している事に気がつく。それ以降登山にのめり込んでいく。
単独登頂にこだわり世界五大大陸の最高峰制覇を目指している。単独登頂に加え、無酸素登頂というハンデを自らに課している。8,000m級の高所では新雪の中を一歩進むのに、6回深呼吸が必要だそうだ。下手をすると、脳に酸素が行かなくなり視界がホワイトアウトしてしまう。少ない酸素で活動出来る様に、修行僧の様にひたすら鍛錬する。

ここ数年は秋季エベレスト登頂にチャレンジしている。エベレスト登頂は、装備やサポートのシェルパさえ揃えれば難しくはない。春期にはエベレスト山頂付近は大渋滞するそうだ(笑)しかし秋季はジェットストリームが吹き荒れ様相は一変する。秋季にエベレスト登頂した者はいないそうだ。

登山中に滑落し九死に一生を得て生還。天候の変化により両手、両足、鼻が重度の凍傷となり、指9本を失う。今年の挑戦は天候不順により中止となった。そんな過酷な失敗を繰り返しつつ、登頂を果たす事は出来ていない。エベレストに登るためには、多額の費用が必要になる。成功しても何ら報酬は発生しない。
なぜ再び山に入るのだろうか?

彼は「失敗こそが人生を豊かにしてくれる」と言っている。
滑落し満身創痍となる。天候の変化により凍傷にかかる。そのような経験を得て自己成長をし続けているのだろう。その体験を「見えない山」を登り続けている我々と共有し「出来ない」「ムリ」という否定の壁を取り払う事を発信し続けている。

我々が体験する失敗は、命に関わる様な事は希だ。
一度や二度の失敗で挑戦を諦めることはない。出来るまでやれば必ず成功する。
そんな勇気を彼の生き様から得る事が出来た。


このコラムは、2017年1月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第509号に掲載した記事に加筆したものです。

2018年5月22日、8度目のエベレスト登頂にチャレンジ中の栗城史多さんの訃報に触れ信じられない気持ちです。ご冥福をお祈りします。

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改善指導

読者様からご相談をいただいた。
ご相談者は、経営幹部として中国企業に招聘され、社内改革を進めておられる方だ。

※K様のご相談内容
会社設立して、10年ですが、土足で工場内に入らないようにすることもできていない状態です。
一人でしゃかりきになって、トラブルを起こして意味がないと思っています。
今の段階でも、私の改善や指示のペースについてこれないようで、脱落者が出そうです。
あまり慌てては、墓穴を掘ることになるか もしれません。

今のところは、こういった嘆かわしい状態から脱出して、先生をお呼び出来るぐらいの状態にすることが目標です。

実は私も、コンサル現場で似た様な経験をしたことがある。
この現場では、経営者から生産性の改善を依頼された。初日に現場に入ったら、現場リーダから「何しに来た」と詰問された(笑)
経営幹部(日本人)と現場リーダの間でコミュニケーションが出来ていないと言う大きな問題をまず発見出来た。

経営者の改善イメージは、自動化により、作業員を削減し、生産効率を上げる事だったが、莫大な投資をして全自動化の設備を構築しても、人の作業が必ず残る。

人と機械の調和をとって生産する「自働化」と言うコンセプトでLCA(ロー・コスト・オートメーション)を目指している私としては、現場で働いているリーダや作業員の意欲を高めなければ、改善は上手く行かない。
無理矢理改善をしても、コンサル契約が終わった後も、その効果が維持出来るとは限らない。
現場リーダの改善能力を高める事により、我々の仕事が終わった後も、改善が維持・継続する事を主眼としている。

従って、現場リーダ・作業者とのコミュニケーションや信頼関係は重要だ。

ご相談者の「一人でしゃかりきになって墓穴を掘ることになる」と言う認識は正しいと思う。まず「改善」をするのではなく、まず「関係」を構築するのが良い。

上下・左右・斜め全方位で関係を構築する。
経営者から、信頼と期待を獲得し、全従業員に発破をかけてもらう。
部下から信頼されれば、多少厳しいことを言っても付いて来る様になる。
改革は一部門の努力で達成出来るモノではない。社内全部門の協力・支援が必要だ。一人でしゃかりきに改善をすると、部分最適になったり、他部門から浮いた存在になってしまうことがある。

前述の顧問先で、私がとった信頼関係構築の方法を紹介しよう。

まず経営幹部を叱り飛ばした(笑)部下に対する「ホウレンソウ」が全く出来ていない、こういう状態は仕事の管理など不可能だ。「叱り飛ばした」と言うのは相当誇張が入っているが、現在は歳をとった分、老練になった(笑)

次に現場リーダの信頼を得る方法を考えた。
言葉を尽くしてもムリだ。こちら側の能力が圧倒的に高い事を実感させる。「言う事を聞いた方が得だ」と分かってから、初めて言葉で意欲を高める事が出来る様になる。

具体的には、現場を観察してリーダ達が困っている事を探した。
当然聞いただけでは、何も答えない。信頼していない相手に「困っている」などと言いたくないのが人情だ。

観察の結果、どのラインも共通の作業工程がボトルネックになっているのを発見した。単純な人作業なのだが、熟練度の差が大きく、その工程で大量に滞留している。作業者を観察し、その作業動作のキーポイントを見つける。
そしてリーダに、ビデオ動画を見せてキーポイントを解説、上手く作業する方法の指導方法を教えた。リーダは即各ラインの班長を呼び、もう一度説明してくれと頼んで来た。心の中で「やった!」とガッツポーズを作ったモノだ(笑)


このコラムは、2014年7月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事に加筆したものです。

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視線を上げる

 以前メルマガで、二宮尊徳の「遠きを計る者は富み、近くを計る者は貧す」と言う言葉をご紹介した。

「遠きを見て計る」
参考:「二宮尊徳の経営学」童門冬二著

言うまでもないが、企業の中でも遠くが見えている者は仕事ができる。
目の前を見て仕事をしている者より、視線を上げ遠くを見て仕事をする者が大きな成果を出せるはずだ。

職位が上がれば視線も上げる必要がある。逆に言えば現状の職位より一つ二つ上位職の視線を持っている者が昇進するのだろう。

昨年から始めたQCC道場では、二期でのべ14サークルの指導をした。
経理、課長クラスがリーダのサークル、班長・組長クラスだけのサークルが混在した状態で実践活動を指導した。

例えば班長・組長だけのサークルは、作業効率改善のテーマで3人の作業を2人で出来るようにする、という目標を立てたりする。33%も効率が上がる。立派なテーマではあるが、少し視線を上げて課全体を見渡すことができれば、同じ改善で10人の作業を6人にすることも可能だろう。

当然班長・組長が任されている仕事の範囲からすれば、3人を2人に改善するだけで十分だ。しかし普段から視線を上げる訓練をしておけば、上位職に昇進しても即力を発揮できるだろう。

誰でもちょっとしたきっかけで、視線を上げることができる。「目から鱗が落ちる」と言うが、まさに上を遮っていた頭の中のフィルターがポロリと落下し視界が広がる。

教えるより気づかせる。
指導者対学習者の学びだけではなく、学習者相互の学びの効果を入れる。
QCC道場はこんな考え方で視線を上げ、実践により問題発見、問題解決能力と意欲を高めることを目指している。


このコラムは、2018年4月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第648号に掲載した記事に加筆したものです。

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部下に対するホウレンソウ

 先週の読者様ご相談に対して別の読者様からご質問をいただいた。

※H様のご質問
 現場リーダとの信頼関係を結ぶ方法は、大変参考になりました。
 自分も実践してみます。まずは現場に行く事が大切ですね。

 ところで、経営幹部に対し「部下に対するホウレンソウ」が出来ていないと叱り飛ばしたとありますが、ホウレンソウとは部下が上司にする事と理解しています。部下に対するホウレンソウの意味を、教えていただければ 幸いです。

経営者や管理者の仕事は、成果を出す為に組織や部下のパフォーマンスを最大に上げる事と言えるだろう。そのためには部下の能力を高め、正しい方向を向かせる事が必要だ。ノミュニケーションも有効だが、現場で指導をする事で、信頼関係を構築する事が出来ると考えている。

お客様の経営幹部を叱り飛ばした、と言うのは痛快な表現かもしれないが、相当誇張が入っている。「提言した」位の穏当な表現にしておけば良かったと後悔している(笑)

多分H様は、最近私のメールマガジンを読み始めてくださった方だろう。
何度かメールマガジンで「ホウレンソウ」の事を書いたが、「ホウレンソウは上司がするモノだ」と考えた方が上手く行く、と言うのが私の考え方だ。

先週のメルマガの例でいえば、経営幹部は自分の部下に対し、まず自分たちの生産性をもっと高めなければならない事を伝えなければならない(報告)
今回林と言うコンサルタントに現場改善指導をお願いした。現場での指導を良く聞き、学習して欲しい(連絡)
コンサルタントと一緒に現場改善をするメンバーを公募し、意欲のある者を選考したい(相談)
と言うホウレンソウをしなければならない。

部下に対して、目的目標を理解してもらい、実践方法を伝え、意欲を上げる。
これが上司のホウレンソウだ。

当然部下からホウレンソウが上がっている様にしておかなければならない。
ホウレンソウを待っていては駄目だ。どういうタイミングで報告をするか、どういう事を誰に連絡するか、どんな事が発生したら誰に相談するか、これらを事前に決めておく事は上司がすべき事だ。

部下にホウレンソウが出来ていないと叱るよりは、ホウレンソウを仕事の手順、スケージュールに埋め込んでおけば良いのだ。

部下と上司は立場が違う。立場の違いをホウレンソウで埋めるのならば、双方がそれぞれの立場で行動しなければならない。


このコラムは、2014年8月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第374号に掲載した記事に加筆したものです。

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