ボルト、引き抜ける状態 笹子トンネル、6割が強度不足


写真はイメージです。


 中央自動車道笹子トンネルの天井崩落事故で、国土交通省は1日、天井板をトンネルに固定するボルトの約6割が調査で抜けたと発表した。ボルトはたとえ下に引っ張っても、きちんと固定されていれば抜ける前にボルト自体が折れる設計で、接着剤の不足などで強度が足りなかった可能性があるという。

 国交省がトンネル内の崩落していない区間で計183本のボルトを引っ張って調べたところ、113本が抜けた。うち16本は、天井板やつり金具を支えるだけの力もなかった。16本は崩落現場の周辺に集中し、一部はさびていた。

 引き抜かれたボルトには先端の一部にしか接着剤が付着していなかったものが多数あった。関係者によると、崩落現場でボルトが抜け落ちた穴でも、接着剤はごく一部にしか残っていなかったという。一方で、トンネルの
コンクリート壁やボルト自体には、強度に問題は見つからなかった。

 トンネル施工時には、接着剤や砂利などが入ったカプセルを穴に入れてからボルトを差し込む工法が用いられていたとみられ、国交省は「接着剤の量が不十分だったか、長期間天井板を支え続けたことによる劣化が強度の低下につながった」とみている。

 国交省は崩落の主原因は接着剤が不十分だったことによる強度不足で、こうした状況が全体に広がっていることから、施工自体に問題があった可能性を視野に調べている。

(asahi.comより)

 昨年12月2日中央高速笹子トンネルで発生した天井崩落事故の記事を読んだ時は,アンカーボルト脱落は37年間で接着剤が劣化した事が原因かと思った.
調査結果によると,接着剤の量が規定より少なかった様だ.

接着剤の量が少なかった原因は明らかにされていないが,原因を推定すると,

  1. )うっかりミスにより接着カプセルの量が足りなかった.
  2. )必要数量を間違えていた.

  3. )意図的に使用量を減らした.

以上3つの可能性があるだろう.

以下それぞれに再発防止を考えてみた.

  1. )事故後に引っ張ってみたアンカーボルトのうち約2/3が抜けてしまったという事は「うっかりミス」は可能性が低そうだ.
    うっかりミスには「十点法」が有効だ.「十点法」は数量管理法の事だ.つまり10個の材料を使うのならば,10個だけ供給し過不足なく使用した事を確認する方法だ.

    アンカーボルトの下穴に必要な数だけの接着剤カプセルを作業者に供給する.
    アンカーボルトを打ち込む前に,使用量の確認をする.
    カプセルを余分に入れた穴と少ない穴があれば,全体のつじつまが合ってしまうので,下穴はカプセルが余分に入らない深さにしなければならない.

  2. )使用すべき量を間違えていれば,引っ張れば全てのアンカーボルトが抜けるはずだ.従ってこれも可能性は少ない.全体の1/3だけうっかりミスで「余分に」入れてしまった可能性はあるが(笑)

    これを防止するためには,最初に一カ所だけサンプルで打ち込み,引き抜きテストを実施すれば良い.製造業では「初物チェック」と呼んでいる検査だ.

  3. )大変残念な事に,意図的に使用量を減らしたというのが,最も可能性が高いのではないだろうか?別の記事に,負荷がかかっていないアンカーボルトも簡単に引き抜けた,とある.この記事が本当ならば,意図的と考えたくなる.

    施工業者が意図的に使用量を減らし,施工コストを減らし不正利益を得た.作業者が意図的に使用量を減らし,着服した.接着剤カプセルを着服しても,利益はなさそうだが蛇の道は蛇の例え通り、それを換金する闇ルートが存在したりする.37年も前の事だから,真相は藪の中だろう.しかしこういう問題を「倫理」に訴えるだけでは,効果が限定的だ.(念のために申し上げるが,「倫理」はどうでも良いと言っている訳ではない)

    例えばアンカーボルト1本に対し,接着剤カプセル1個にしてしまえば,着服や数量調整は不可能になる.

    接着剤カプセルの形状を見た事がない者がいい加減なことを言うな,とお叱りを受けそうだが,素人の発想を馬鹿にしてはいけない.素人の発想を実現するのが玄人だろう.

ところで,国土交通省は全国にトンネル点検を指示しているが,対象の市町村全てが,トンネルの点検方法などを定めたマニュアルを持っていないことが,判明している.管理すべき責任者(市町村)を決めているのに,方法,基準を示していない.また市町村側も,管理責任者として指名されているのに,何らアクションを起こしてこなかった.

部下に指示だけして,方法や基準を教えていない.
あなたの組織はそんなことになっていないだろうか?


このコラムは、2013年2月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第295号に掲載した記事に加筆したものです。

【中国生産現場から品質改善・経営革新】は毎週月・水・金曜日に配信している無料メールマガジンです。ご興味がおありの方はこちら↓から配信登録出来ます。
【中国生産現場から品質改善・経営革新】