毎月定例で,「人財育成勉強会」を開催している.中国で頑張っておられる経営者が,集まって中国人材をいかに「人財」に育て上げるかというテーマで話し合う勉強会だ.
9月は「360度評価」を導入されたS社長から事例を発表していただいた.
「360度評価」というのは,人事評価を上司だけではなく,同僚,部下,関連部署,顧客から多面的に実施する制度だ.
- 評価の偏りをなくし公正・公平性を保てる.
- 会社全体の利益を考えて仕事をするようになる.
などのメリットが期待できる.
日本で導入している企業の事例は何例も聞いたことがある.導入の難しさはあるが,おおむね良好な意見が多いように思う.中国の非製造業での実施事例に対して,ある中国人幹部は部下からの評価が当てにならないと,否定的な感想を持っていた.中国の製造工場で導入している事例は聞いたことがない.
S社長は,人事評価の公正・公平性をあげるために360度評価を導入された.初めは人事考課に360度評価を応用するつもりだったので,年1回実施の予定であった.
しかしこの評価が,従業員のモチベーションアップに活用できるという着想により,4月から毎月1回実施しそのたびに成績を社内発表している.
上司,同僚,部下,関連部署各々から3名を目安にし,10名ほどの評価者が,評価しその平均値を360度評価得点としている.360度評価得点は,S社長の観察による従業員個人の「X型,Y型指数」と強い相関を示している.
またこの評価により,従業員が自ら自分の過ちに気がつき,飛躍的な成長のきっかけを掴んでいる.
ある従業員は4月の評価で,平均的な得点しかえられなかった.
これに不満を持ち,社内に360度評価の無効を訴えるメールを同時配信した.
360度評価制度とそれを導入したS社長を名指しで批判する内容だ.
彼はそれ以降モチベーションを落とし続け,7月の評価では最下位から2番目となる.
その彼があるきっかけで,自分の過ちに気がつく.そして自分が間違っていたことを詫びるメールをまた社内に同時配信する.
最初の不満メール配信以降S社長は,彼が辞職するかもしれないと覚悟はしていたが,何も指導をせずに見守っていただけだ.その彼が8月の評価では,再び以前の得点を得た.そしてモチベーションも戻ってきた.
彼がモチベーションを取り戻したのは,360度評価制度そのものによる訳ではない.しかし評価得点の変化を注目していれば,モチベーションの変化を知ることが出来る.適時に適切な指導をすることにより,モチベーションを持ち直す,あるいはモチベーションを更に伸ばすことも可能になるはずだ.
今回の勉強会はこんな貴重な事例を紹介いただいた.
メンバーの一人は早速第二工場に導入してみるといって帰られた.
○○は中国ではムリ.
△△の事例がうまくいったのは□□だから,ウチではムリ.
と考えてしまっては,絶対にうまくはゆかない.
中国ではうまく出来ない理由,ウチではうまく出来ない理由をきちんと分析し,それを克服する方法を考えなければならない.
いつも新しいことがうまく出来ない最大の障壁は自分自身の中にある.
このコラムは、2010年9月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第171号に掲載した記事を修正・加筆しました。
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