見えない部分の品質


 プロジェクター用のスクリーンを購入した.
文房具市場を探しても見つからず,店員に聞くと電脳城に売っていると教えられた.バスで電脳城に行きスミからスミまで探しても見つからない.
なんとカメラを売っている店の奥にひっそりと展示してあった.74インチのスクリーン(三脚付き)が500元で買えてしまう.
オフィスに戻り実際にプロジェクターを投影してみる.良い感じだ.
三脚の高さを調整してみてびっくりした.
スクリーンの周辺は黒く塗られている.スクリーンを目いっぱい引き出すと,枠部分の黒が途中でフェードアウトしている.それもきちっとこの部分までは塗っておく,という意思が全く感じられない.
途中まで塗っておいて,この辺でいいかと中断したような形になっている.
プロジェクタースクリーン
プロジェクタースクリーン
半ばあきれて,この製品の製作図面はどうなっているのかと想像してみた.
我々の常識から言えば,スクリーンを目いっぱい引き出したときに塗られていない部分が見えないように,設計するはずだ.
コストダウンのために黒く塗る範囲を小さくするとしても,あらかじめ見えている部分と同じ幅だけは黒く塗るよう設計するだろう.そして工場はその指示範囲をマスキングなどをしてきちんと塗る.
しかし私の手元にある製品は,マスキングをした様子もなく,適当にこの辺で終わりにした,という感じだ.このようにモノを作るためには,どう図面を書いたらよいのか見当も付かない.
500元でプロジェクタースクリーンが買えた,という喜びは,あっという間に500元ならこんなもんか,という諦めに変わった.
見えない部分の品質が,製品の品格を作る.
品格がある製品は,値引きとは無縁だろう.
品格がなければ値引きをしなければ買ってもらえない.
こういう事例はいくらでもある.
製品の取扱説明書が,並行直角にきちんと折りたたんで入れてある.これが普通だ.取扱説明書が,いい加減に四つにたたんで入れる.
これを見た顧客はどう感じるか?
以前指導していた中国ローカル企業で,これを何度指導しても理解してもらえなかった.
きちんと折りたたむには時間(コスト)がかかる.自分たちの製品はそんなに厳格でなくても大丈夫,というのが現場リーダの「言い訳」だ.
自らどうしたらコストをかけずに済むかという思考を停止し,製品の「品格」を落としている.
彼らは1枚両面印刷の取扱説明書をまとめて四つに折りたたみ,それを1枚ずつ製品梱包箱に押し込んでいる.従ってほとんど丸めて突っ込んだといった方が良い状態だ.
コストをかけずに「品格」を保って取扱説明書を添付することはいとも簡単だ.
折りたたむのを止めればよいのだ.
製品を入れる前に,A4サイズの取扱説明書を折りたたまずに梱包箱に入れる.
この方がコストが安くなり且つ「品格」は格段に上がる.


このコラムは、2010年9月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第172号に掲載した記事です。

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