月別アーカイブ: 2018年11月

予防保全

 以前このメルマガで,今住んでいるアパートのエレベータに閉じ込められた事故を,書かせていただいた.
「エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが」
引っ越して来て5年経ったが,この5年間で5回エレベータに閉じ込められている.最後の一回は,エレベータのかごを吊っているワイヤーが切れて,10階から7階まで落下した.
アパートの管理事務所の職員は,5本あるワイヤーのうち1本が切れただけだから,大したことはない.と言う認識だ.

アパートには4機のエレベータがあり,落下したエレベータには,なるべく乗らない様にしている.最近別のエレベータが長期間運転を停止している.掲示板の貼り紙を見たら,このエレベータも牽引ワイヤーが切れた様だ.

今回の事故で4機のエレベータの牽引ワイヤーを再点検した.その結果が貼り紙に書かれていた.なんとすべてのエレベータの牽引ワイヤーに問題がある.今停まっているエレベータは5本のワイヤーのうち3本に問題がある.その他の3台は,各々3本,2本,1本のワイヤーに問題が見つかった.

ワイヤーは切れている訳ではないが,点検により問題ありと分かっていながら,普通に運転をしている.

ワイヤーが1本切れても,あと4本あるから大丈夫.
ワイヤーが切れても,ブレーキシステムが作動し停まるから大丈夫.
と言うロジックは,他に故障がない場合にだけ適用可能だ.

例えば,1本のワイヤーが切れた時に,その衝撃により問題のあるワイヤーが一気に切れる.残った2本のワイヤーだけでかごを吊ることになる.その時にブレーキシステムが正しく動作すると言う保証があるとは思えない.

エレベータは,オーチス製である.
安全に関しては,何重にも冗長化設計がしてあると,信じたい.しかし,設計にも製造にも問題がなくとも,運用に問題があれば,事故は発生する.

エレベータは,国家基準により年1回の定期点検が実施されている.点検の機会は年に1回だけではないはずだ.エレベータはしょっちゅう故障している.その度にメンテナンス会社が来ている.

今回の落下事故で改めてワイヤーの点検をして,20本あるワイヤーの内9本のワイヤーに問題が見つかっている.今までノーチェックだったとしか思えない.

今住んでいるアパートは築7年だそうだ.
まともなメンテナンスをしていれば,エレベータがたった7年で,こんなに故障が多発するとは思えない.

メンテナンスとか,予防保全は故障した所を修理することではない.
故障が発生しない様にすることだ.


このコラムは、2013年4月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第304号に掲載した記事に加筆修正しました。

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シンドラー製エレベーター、全国5500台を緊急点検 国交省、事故の再発防止めざす

 国土交通省は清掃会社の従業員がシンドラーエレベータ社製のエレベーターで死亡した事故を受け、来週にも緊急点検を実施する。対象は全国にある同社製のエレベーター約5500台。原因究明を徹底し、事故の再発防止を目指す。

 同省は都道府県などに通知を出す。事故の原因とみられるブレーキのほか、カゴの停止位置や扉の開閉を制御する装置、ドアのスイッチ、エレベーターの巻き上げ機などを集中的に調べる。

(中略)

 事故機は2006年に起きた事故のエレベーターと、ブレーキや制御装置などが同型。国交省は09年から、新設エレベーターに安全装置をつけることなどを義務化した。だが既存エレベーターに装置をつけさせる強制力はなく、今回の事故機にも設置されていなかった。

 シンドラー社製エレベーターの事故は今年10月31日に金沢市のホテルで発生した。エレベーターに乗ろうとした清掃会社の従業員が扉が開いたまま上昇したカゴの床と扉上部の枠の間に挟まれて死亡した。同社は06年にも東京都の集合住宅で死亡事故を起こしており、再発防止策が急務となっている。

(日本経済新聞より)

 先週お伝えした,金沢でのエレベータ死亡事故の続報だ.

他の記事から,以下のことが分かっている.

  • 2006年に高校生が死亡した事故は,シンドラー社の同型機である.
  • 東京の事故機,金沢の事故機は,前後4ヶ月以内に設置されてた.
  • 06年当時の調査では,当初ブレーキに異常な磨耗痕を発見していないが,3年がかりでブレーキパッドの磨耗を事故原因として特定した.
  • この原因調査を受けて,国土交通省は扉が開いた状態でかごが動いたら自動停止する保護機能の設置を再発防止として,09年から義務付けている.
  • しかし金沢の事故機は,1998年に設置されており,規制の対象外だった.
  • 金沢の事故機も,06年と同様に扉が開いたまま上昇をしている.
  • 金沢の事故機は15年間点検異常は発見されていない.

これらの事実から推定すると,06年に事故調査は真の原因に達していなかった.したがって国土交通省の再発防止対策は,真因対策ではなかった.しかし真因対策ではなくとも,事故防止の効果があるはずだ.何らかの故障が発生しても,人身事故には至らない.設置済みのエレベータにも対策を実施すべきだったと考えられる.
国土交通省の強制力がなくとも,エレベータ業界,特に事故を発生させたシンドラー社は自主的にでも,再発防止を設置済みエレベータにも実施すべきだったろう.

一故障で即人身事故につながるようでは,人の安全に関わる装置としては信頼性が十分とは言えない.逆に言うと扉が開いた状態で,上昇・下降の駆動系にインターロックがかかっていないと言う設計に問題がある.

先週に引き続き素人の大胆原因予測をすると(笑)

  • エレベータの制御ロジックにバグがあり,一定の条件が揃うと扉が開いたまま上昇してしまう.
  • 外来ノイズなどの影響により,制御回路が誤動作する.

これらの疑いを調査するためには,

  • 制御ロジックの設計検証,妥当性確認を何処までやったか.
  • 耐ノイズ性能はどのようにして検証したか.
  • 通常耐ノイズ性能は,タイプテスト(試作機でのテスト)しかしないが,耐ノイズ性能が量産品でも保証される論理に漏れはないか.

と言うことを,設計時の検証記録から調べる必要があるだろう.

それにも増して,事故機の現場・現物での検証が重要なことは言うまでもない.設計がキチンと保証されていても,製造過程,メンテナンス過程で瑕疵が発生することはありうる.

このような事故を再発させないためには,該当企業の真摯な事故原因調査が必要だ.役所に「調査される」と言う態度ではなく,業界全体の威信回復に向けて,積極的,自発的に行動していただきたい.

この事件から,以前ご紹介したタイヤのハブ破損事故を思い出してしまう.
「空飛ぶタイヤ」池井戸 潤

自社の利益のみを考えて,リコール隠しの様な事は避けていただきたい.


このコラムは、2012年11月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第283号に掲載した記事を修正加筆したものです。

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同型エレベーター80台 シンドラー製、金沢の女性死亡

 金沢市で女性が挟まれて死亡したエレベーターは、2006年に東京都港区で高校生が死亡したエレベーターとブレーキなど主要部分が同型だったことがわかった。同様のエレベーターは全国に約80台ある。金沢の事故機は06年の事故原因の対策をしており、国土交通省は別の不具合があった可能性があるとみて調べている。

 シンドラーエレベータ社によると、同型なのはブレーキのほか、巻き上げ機や制御盤などエレベーターの基幹部分。同社は2日、80台のうち約8割の点検を終えたが、異常は見つかっていないという。

 06年の事故を調査した国交省の報告書によると、扉が開いたままかごが上昇して男子高校生が挟まれた。ブレーキが中途半端にかかった状態で運転を繰り返したためブレーキパッドが摩耗。ブレーキのききが弱くなり、ブレーキをかけてもかごが上昇してしまった。製造後の定期点検では、こうした不具合が見つけられなかった。

 事故後、シンドラー社は同型のブレーキではパッドの摩耗を検知するセンサーを取り付けるようになった。金沢の事故機にもセンサーは取り付けられていた。しかし今回も、女性が扉の開いたエレベーターに乗り込もうとしたときにかごが急に上昇して挟まれた。

 金沢の事故機には2日までの石川県警や国交省の調査では目立った異常は見つかっていないため、06年の事故とは原因が異なるとみられる。ブレーキの不具合以外の点検ミスや、エレベーター本体に製造上の欠陥があった可能性を視野に入れ、国交省は事故機の調査だけでなくシンドラー社や保守業者にも話を聞く方針だ。

(asahi.comより)

 中国でエレベータに乗るときは,細心の注意が必要だ.
私は今のアパートに引っ越して5年目になるが,その間に5回エレベータに閉じ込められている.そのうち4回目は,エレベータの牽引ワイヤが切れ,2,3階分落下した.普段から激しい異音がしていたのに,壊れるまで修理されなかった.

近所のホテルのエレベータは,21人(!)乗せ19階から地下1階まで落下し重症を含むけが人を6人も出した.積載重量オーバーのセンサーが正常に動作していなかった,と思われる.

別のオフィスにあるエレベータ乗った時に,扉が閉まるのを止めようとして手を出し,ヒヤリとしたことがある.通常扉に付いているバンパーがなくなっていたのだ.バンパーにリミットスイッチが連動しており,扉が閉まったことを検出するようになっているはずだ.何かの都合で,バンパーがごっそり外され,センサー回路を殺して運転していたものと思われる.

いくらまともに設計製造してあっても,いいかげんなメンテナンスでは,正常に運用は出来ない.
メンテナンスとは,点検により壊れているところを探して,修理することではない.壊れる前に,修理をすることをメンテナンスと言う

今回取り上げたシンドラー製エレベータの事故は,メンテナンスの問題ではないと思う.
素人の大胆な考えを言わせてもらえば(笑),ブレーキがかかっている状態で,上昇用の牽引ワイヤー巻上げモーターが回っていると言うのが解せない.設計不良なのではなかろうか?

モータはエンジンと違って,簡単にON/OFF出来るはずだ.
ブレーキが作動した時点で,モータの回転を止めれば,このような事故は発生しないはずだ.

もしエレベータの専門家がいらっしゃったら,なぜブレーキがかかっている状態でモーターをOFFに出来ないのか,是非教えていただきたい.

もう一点,エレベータ専門家に教えていただきたいことがある.
エレベータには積載重量を計測するセンサーが付いていると思う.たくさん人が乗ると,ブザーが鳴り扉が閉まらなくなり,事故防止の保護が働くようになっている.
この保護機能は,エレベータの定期点検でどのように点検しているのだろうか?点検中のエレベータをしばしば見かけるが,点検作業員が1tの点検用重りを持っているのは見たことがない.
上記の21人乗りのエレベータ落下事故以来,ずっと気になっている疑問だ.

もしご存知の方がおられたら,是非教えていただきたい.
この記事にはコメントを残せるようにした。


このコラムは、2012年11月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第282号に掲載した記事です。

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エレベーターのワイヤ3本切れ、女性がけが

 東京メトロは29日、有楽町線平和台駅(東京都練馬区早宮2丁目)のエレベーターでかごをつっているワイヤロープが切れ、乗っていた女性がけがをする事故が起きていたと発表した。

 同社によると、事故が起きたのは26日午後3時。エレベーターが地下1階から地上へ上昇中にかごが急降下し、安全装置が作動して緊急停止した。同社が調べたところ、ワイヤロープ3本が全て切れていた。女性は緊急停止の際、しりもちをつくなどして2週間の打撲を負った。

 安全装置は一定速度以上の降下を感知した際、かごの横からブレーキパッドをあてて落下を防ぐ仕組みになっている。

(asahi.conより)

 実は私も29日午後8時(現地時間)頃,マンションのエレベータに閉じ込められていた.
日本ではエレベータに閉じ込められるなどという経験は一度もない.
今のマンションに引っ越してきてから4度目の事故だ.

以前の3回は,途中で止まってしまった,扉が開かなくなったという比較的軽度の事故だった.しかし今回はかなり重度の事故だった.

外出のため12階から下りのエレベータに乗った.
動き出してすぐ,異常な揺れに気が付いた.10階で2名乗せ下降する際に,同様の揺れを感じたと思ったら激しく揺れ,急降下を始めた.同時にかごの上部に,何かが落下して激突している音も聞こえた.

たぶんワイヤが切れたのではなく,滑車のような部品が破損してエレベータのかごに落下してきたのではあるまいか?もしくはワイヤが切れた後,安全停止のためのブレーキパッドをいくつか吹き飛ばしながら,停止した?

エレベータのワイヤーとか滑車など運行の安全部品が切れたり,破損するということはあってはならない.ましてやブレーキパッドなどのように,事故発生時の安全装置が機能しないというのは致命的な欠陥だ.そのために定期的メンテナンスが法律で定められているはずだ.

平和台駅のエレベータは7月14日に保守点検を受け問題はなかったそうだ.私のマンションのエレベータには5月に保守点検を受け,次回点検は来年5月となっていた.
しかしこのエレベータは,6月に故障し,部品待ちで一ヶ月近く止まっていた.

記録上は,修理後に点検が行われなかったことになっている.

保守点検,修理後というのはとかく事故が発生しやすいものだ.

点検中に部品を破損したのに気が付かない.点検のための措置を戻し忘れる.などのミスが発生する可能性がある.特に安全停止ブレーキなどのように,普段使わない機能は点検方法をよく検討しないと,うまく点検できていない,点検のための処置を戻し忘れて事故になる,などの潜在問題がある.


このコラムは、2011年8月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第216号に掲載した記事です。

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東大でシンドラー製エレベーター事故 学生1人けが

 国土交通省によると、千葉県柏市の東大柏キャンパスの総合研究棟(地下1階地上6階建て)で11日午後、シンドラーエレベータ社製のエレベーター(定員19人)が扉が開いたまま、1階から地下1階方向に下降した。かごを脱出しようとした男子学生1人がひざを打撲して軽いけがをした。同省が16日発表した。

 同省の調べでは、1階から18人が乗り込んで上昇するはずだったが、いきなり下降を始めた。あわてた学生が1階フロア側に脱出しようとした際、かごが下がって生じた段差に足を引っかけ、けがをしたとみられる。事故機は保守点検もシンドラー社が請け負っていたが、原因は不明という。同省はシンドラー社に対し、同型のエレベーターでブレーキに異常がないか点検するよう指示した。

(asahi.comより)

 Wikipediaによると,シンドラー社のエレベータは,扉が開いたまま上昇または下降,乗客の閉じ込めなどの事故が多いようだ.大阪府の西成警察署では,署内に2基あるエレベータのうち1基が,無人のまま最上階の7階まで上昇し,天井に衝突して停止すると言う事故が起きている.

国土交通省はブレーキの異常を点検するように指示をしているが,2007年に東京都港区が実施したシンドラー社エレベーターの電磁ノイズ耐性調査によると,電磁ノイズ耐性が低いことが分かっている.

今回の事故も,制御回路がノイズにより誤動作したのではないだろうか.
エレベータの構造を考えると,携帯電話から発する高周波電磁ノイズよりは,エレベータ自身に内蔵している,リレーやソレノイドから発生するバーストノイズ(低周波電磁ノイズ)の方が,影響を与えやすいと思われる.

このようなノイズによる誤動作は,電機・電子製品業界では既に30年ほど前にメカニズムを解明し,対策も確立したと考えていた.このメーカでは,これらの技術がエンジニアの世代を超えて伝承できなかったのではないだろうか.

ノイズ対策技術などは,世間から注目を浴びるものではない.ノイズによる誤動作を止めたとしても,それで当たり前のレベルになるだけだ.このようなあまり報われない技術がきちんと社内に蓄積され,世代を超えて
伝承されなければ,10年,20年のスパンで同じような不具合が繰り返し発生することになる.


このコラムは、2010年8月に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第180号に掲載した記事を修正加筆したものです。

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仁者は孤独ならず

yuē:“yǒulín。”

《论语 里仁第四-25》

素読文:
子曰く:“とくならず、かならとなり有り。”

解釈:
徳を積んだ仁者は孤高ではない。必ず同じ志持つ仲間が隣にある。

たとえ遠くに住んでいても孤独ではないという事ですね。
ともえんぽうより来る有り、また楽しからずや。
人知らずして慍らず

車両火災

 小田急小田原線の代々木八幡ー参宮橋間で9月10日に発生した車両火災事故に関して考えてみたい。経緯をまとめると以下の様になる。

  • 沿線のボクシングジムで火災発生。16時6分119番通報。
  • 消防士の要請により現場にいた警察官が踏切緊急停止ボタンを押す。16時11分。
  • 火災現場前に停止した車両の屋根に延焼。
  • 消防士の指示で列車が移動(ただし後部車両は火災現場前に残る)。16時19分。
  • 乗客の避難完了。16時42分。

幸いけが人はなかった様だが、過去には桜木町事故(1951年)、北陸トンネル事故(1972年)で車両火災事故があり多くの死傷者を出している。

桜木町事故は、車両扉の非常時開閉コックが乗客が操作しない事を前提に設計されており多くの人が車両外に避難出来ずに死亡した。この事故以降、非常開閉コックは乗客が操作する事を前提にし、改善された。

北陸トンネル事故は、火災発生時にトンネル内で停車したため消火活動、避難が困難となり多くの人が亡くなった。運転手は火災発生時には停車する様に運転マニュアルに定められていた。この事故以降、トンネル内、橋梁上で車両火災発生時には、速やかにトンネル、橋梁を抜けた後に停止する様マニュアル改訂が行われている。

今回の事故の最初の誤りは、踏切の非常停止ボタンを押してしまった事に有る、と言えそうだ。警察官は非常停止ボタンを押した場合、列車は自動停止する事を知らなかったのであろう。火災現場で停止すれば、列車に延焼する事は容易に推測出来る。

運転手は非常停止し前方の踏切を確認に行っている。この時、後部車両から火が出ているのを発見。消防士の指示で車両を移動。ただし後部車両は已然火災現場前にあった。消防士は列車の長さを把握せずに停車位置を指定したのだろう。この時に最後部にいた車掌は何をしていたのだろうか?火災現場が前方に見えており、車両に延焼した事も知れる位置にいたと思われる。

これだけの情報で何かを判断するのは無理だが、あえて私見を述べるならば、乗客の安全責任を持っている運転手、車掌の判断が何も入っていない事に問題が有ったと考える。警察、消防など非専門家の指示を鵜呑みにしてしまった。

運転手も車掌も規定通りの仕事をした様だが、「現場の判断」に基づいた仕事が出来なかった。マニュアルや規定は万全ではない。インシデントに直面している現場の裁量で判断しなければならない事もあるはずだ。

当然運転手も車掌も、その技能を認定され職位についているはずだ。
異常時の判断能力もその技能に含まれるべきだと考える。

例えば製造業では、作業訓練時に「正常作業」ばかりでなく「異常作業」も訓練すべきだ。例えば、ミリねじとインチねじを取り違えた時の作業感、ねじを斜行して締めてしまった場合の作業感を、体験訓練する事により異常に気が付く感性を養えるはずだ。

当然ミリねじとインチねじが混入している事が問題であり、混入防止対策が必要だ。しかし完全に防止する事が出来ないのであれば、作業者の気付きが最後の砦となる。

今回の車両火災事故も同様だ。
鉄道路線沿線の建築基準を変更すれば、事故は発生しなくなるかも知れない。しかし現実的ではないだろう。運転手、車掌に対して異常時対応訓練をする事で能力を上げる事が出来るだろう。当然マニュアルで規定された事を確認する訓練では不足だ。どのような潜在問題があるか、議論する所から訓練を始める。
この様な訓練を継続、蓄積する事により訓練内容は深化するだろう。

KYT(危険予知訓練)もこのような手順で進めれば、予測したインシデント以外にも潜在インシデントを蓄積する事が出来よう。


このコラムは、2017年9月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第568号に掲載した記事です。

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火災事故の本質

 先週先々週と思わぬ原因による、火災もしくは爆発事故についてコラムを書いた。

粉塵爆発
うどん屋火災

S様からこんなご感想をいただいた。

※S様のコメント

「火種がなければ火災は起きない」との思い込みがもたらした事故にも見えます。
「失敗」は水平展開することで「学び」になるのだと思いました。
「失敗に学んだのか」。社内でもよく聞く言葉ですが、「問題の本質は何か」まで掘り下げていかないと再発してしまうことを時々感じます。

コメントいただいた通り「本質」が重要だと思う。

火災事故の「本質」は
・酸素の存在
・可燃物の存在
・可燃物の発火温度以上の熱源(火種)
以上の3点が同じ場所、同じタイミングで揃うことだ。

そして酸素が十分に供給され続ければ、爆発事故になる。

「油の酸化熱」が火種となり、うどん屋火災事故が発生している。

1996年山梨厚生病院で発生した事故は、高気圧酸素治療装置内に使い捨てカイロを持ち込み爆発事故を起こした。
使い捨てカイロの発熱は鉄の酸化熱だ。高気圧酸素が満たされた治療装置内で酸化熱が火種となりアクリルの下着が、高気圧酸素下で爆発的に燃焼した事故だ。この事故の「本質」を社会が共有していれば、うどん屋の火災は発生していないはずだ。

1969年の飛行船ヒンデンブルク号爆発事故は静電気放電が火種となった。
水素を充填した飛行船はもはや見かけないが、静電気による事故は未だにある。

世の中の事故はほとんどが既知の原因による再発事故だ。

個別の事故原因・不良原因ではなく、事故の本質・不良の本質に目を向け対策をしなければならない。


このコラムは、2018年3月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第646号に掲載した記事です。

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天かす自然発火

うどん店全焼、天かす自然発火か 消防「保管に注意を

 福岡県嘉麻市のうどん店で7日未明、天かすの自然発火が原因とみられる火災が発生した。熱を持ったままの天かすは1カ所に集めて置いておくと、余熱で燃え出すことがある。消防や警察は、飲食店や家庭で天かすを扱う場合は十分注意するよう呼びかけている。

全文

朝日新聞より

この火災はは、天かすが自然発火した事が原因だ。
こういう記事を読んだ時に、ウチはうどん店ではないからと、安心すべきではない。

天かすが発火したメカニズムを考えると、天かす表面に残留した天ぷら油が酸化→酸化熱が発生→酸化熱がこもり温度上昇→天かすが発火、という事になる。ここでキーワードとなるのは「酸化による発熱」「熱がこもる」だ。これはうどん店でなくとも発生しうるメカニズムだ。

先週ご紹介した「粉塵爆発」は、アルミ材料の研磨工程でアルミの研磨粉が空気と一定の割合で混合され、火種があれば爆発する。
この場合のキーワードは「粉体と空気の混合比」「火種の存在」だ。
つまりアルミ粉がなくとも、木工の削り粉でも粉塵爆発が発生するし、静電気放電も火種になりうる。つまりアルミホイールの工場だけではなく、家具工場でも同様な事故は発生する。

失敗事例から未然防止対策を導くということは、上記の様に失敗の本質(キーワード)を抽出して対策を検討することだ。


このコラムは、2018年3月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第643号に掲載した記事です。

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続・未知の災害

 先週のメルマガで未知の災害であっても、他社、他業種、他業界から学ぶべきことがあり、未然防止が可能であると言う趣旨のコラムを書いた。その事例として、米国は9.11同時多発テロを紹介した。その後9.11同時多発テロに関する情報を見つけたので、今週は続編としてお伝えしたい。

米政府の原子力規制委員会(NRC)は同時多発テロの翌年2002年2月に「原子力施設に対する攻撃の可能性」に備えた特別の対策(通称B5b)を各原発に義務づけている。

  • 電源喪失
    交流電源と直流電源両方を同時に喪失する事態を想定。中央制御室を含むコントロール建屋の全滅も想定。
  • 原子炉内部の減圧
    持ち運び可能な直流電源で「逃し安全弁」を現場で開け閉めする方法の準備を義務づけている。
    バッテリーを運ぶ台車や、交流電源を直流に変換する整流器の準備も促す。
  • 原子炉の冷却
    直流電源や交流電源がない状態でも、IC(非常用復水器)やRCIC(原子炉隔離時冷却系)を手動で起動・運転する方法の文書化を義務づけている。
  • 格納容器ベント(排気)
    ベント弁を手動で開けるための準備を義務づけ。空気駆動の弁を開けるのに必要な物資は被災を避けるため少なくとも100yd(91m)離れた場所に保管するよう明記。

B5bが2002年に日本の原発にも適用されていれば、2011年の福島原発メルトダウンは防げただろう。

福島原発では、

  • 電源喪失
    交流電源の喪失しか想定していなかった。実際には交流・直流電源共に津波で水没した。
  • 原子炉内部の減圧
    「逃し安全弁」を開けるのに手間取り、炉内に水を注入するのが遅れた。
  • 原子炉の冷却
    電源喪失により監視盤が使えず、1号機のIC、2号機のRCICの作動状況を見誤り、対応を誤った疑いがある。
  • 格納容器ベント(排気)
    ベント弁を開ける準備がなく、格納容器内部のガスを外に放出して減圧するのが遅れた。

B5bには事細かく非常時に対する準備や手順の策定を規定している。
「テロ」と「自然災害」を置き換えて考えれば、B5bを導入出来たはずだ。


このコラムは、2018年4月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第658号に掲載した記事を修正・加筆しました。

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