先週のメルマガで未知の災害であっても、他社、他業種、他業界から学ぶべきことがあり、未然防止が可能であると言う趣旨のコラムを書いた。その事例として、米国は9.11同時多発テロを紹介した。その後9.11同時多発テロに関する情報を見つけたので、今週は続編としてお伝えしたい。
米政府の原子力規制委員会(NRC)は同時多発テロの翌年2002年2月に「原子力施設に対する攻撃の可能性」に備えた特別の対策(通称B5b)を各原発に義務づけている。
- 電源喪失
交流電源と直流電源両方を同時に喪失する事態を想定。中央制御室を含むコントロール建屋の全滅も想定。 - 原子炉内部の減圧
持ち運び可能な直流電源で「逃し安全弁」を現場で開け閉めする方法の準備を義務づけている。
バッテリーを運ぶ台車や、交流電源を直流に変換する整流器の準備も促す。 - 原子炉の冷却
直流電源や交流電源がない状態でも、IC(非常用復水器)やRCIC(原子炉隔離時冷却系)を手動で起動・運転する方法の文書化を義務づけている。 - 格納容器ベント(排気)
ベント弁を手動で開けるための準備を義務づけ。空気駆動の弁を開けるのに必要な物資は被災を避けるため少なくとも100yd(91m)離れた場所に保管するよう明記。
B5bが2002年に日本の原発にも適用されていれば、2011年の福島原発メルトダウンは防げただろう。
福島原発では、
- 電源喪失
交流電源の喪失しか想定していなかった。実際には交流・直流電源共に津波で水没した。 - 原子炉内部の減圧
「逃し安全弁」を開けるのに手間取り、炉内に水を注入するのが遅れた。 - 原子炉の冷却
電源喪失により監視盤が使えず、1号機のIC、2号機のRCICの作動状況を見誤り、対応を誤った疑いがある。 - 格納容器ベント(排気)
ベント弁を開ける準備がなく、格納容器内部のガスを外に放出して減圧するのが遅れた。
B5bには事細かく非常時に対する準備や手順の策定を規定している。
「テロ」と「自然災害」を置き換えて考えれば、B5bを導入出来たはずだ。
このコラムは、2018年4月25日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第658号に掲載した記事を修正・加筆しました。
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