月別アーカイブ: 2018年4月

組織事故

【中国生産現場から品質改善・経営革新】

 先週のメルマガ第649号ではのぞみ34号の車両台車に亀裂が入るという重大インシデントについて考えた。

「運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル」


このコラムにM様からコメントをいただいた。

※M様のコメント
 毎回楽しみに拝見させていただいています。「のぞみ34号トラブル」の件、私が思うのは、直接的な関係者の「運航を止める」という事に対する心理的 ハードルを如何に下げられるか、という事が最も重要と感じています。
 「結果的には運航を止めるほどではなかった」というときでも、上層部が「よく止めた」と褒め、外部から発生する非難に対し、上層部のみが受け止め、運航担当者に類が及ばないようにする、これがしっかりとできるか、でき続けるか、だと思います。
 「順調な運航」も鉄道事業者の責任ですが、それ以上に「安全第一」。このような企業文化、企業体質にならないと、このような事故は決して無くならないと思います。

M様のご指摘はもっともだと思う。私も同意見だ。
今回の事故(重大インシデント)の発生は、個人のミス、違反が起こしたものではなく「組織事故」だ。

組織事故とは、組織内に長期にわたり潜在的に存在した欠陥が、知らず知らずのうちに拡大し、事故に至ったものを指す。これらの欠陥は、直接的に事故の発生原因となるものではない。しかし組織の風土や文化という形で組織に定着
し、いくつかの要因が積み重なることによって、大事故を引き起こす場合がある。

参考:ヒューマンファクター10の原則 吉田一雄編著

組織事故の事例は多い。上記参考図書は以下の事例を挙げている。

  • 信楽高原鉄道列車衝突事故
  • JOC臨界事故
  • 横浜市大付属病院患者取り違え事故
  • 雪印乳業中毒事故
  • 関西電力美浜発電所3号機事故
  • JR西日本福知山線脱線事故

各々について詳細は解説しないが、組織事故として共通の要因がある。

  • 組織内で手順・規則が遵守されない風土がある。
  • トラブル情報、失敗経験が共有されない。
  • 潜在リスクに対する認識が弱い。
  • 安全軽視の風潮がある。
  • 責任の所在が不明確。
  • 権威勾配が強く、批判・指摘がしにくい。
  • 安全に対する教育・啓蒙が不十分。

このような組織的要因は、旧式の縦割り組織によく見られる。


このコラムは、2018年4月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第652号に掲載した記事に加筆したものです。

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品質保証の仕事

 中華系の工場の経営者と話をしていてあきれる事がある.
彼らは品質保証とは検査装置を買ってきて検査をすることだと考えている.もちろんちゃんとした考えをお持ちの経営者もいるのだが,中にはこんな考え方をしている人が本当にいるのだ.

こういう考えの下では品質保証部は検査をすること,不良が出た場合の客先対応が仕事となる.

工程内検査員を品質保証部の職員にしている.品質保証部の職員が異常に多い工場がある.こういう工場の経営者は,品質保証部の職員比率が高い,品質保証は製造部と独立した権限を持たせている,などと間違った自慢をしたりする.

製造部は不良でもなんでもただモノを作れば良い.それを品質保証するのが品質保証部の仕事である.という考え方である.

こういう工場で働いている従業員は品質保証部は「尻拭い」の仕事だと理解してる.
昔指導をしていた工場でもこういう風潮が蔓延しており,まずこの考え方を改めさせるところから指導が始まった.
生産技術にしろ,製造にしろこういう発言をする人間を叱りつけ,徹底的に品質保証のあり方を説明した.

すなわち,品質保証は会社のすべての部署の成果の「積」である.
「和」ではなく「積」であるといっているのは,どこかひとつの部署がゼロであれば,全体がゼロになってしまうという意味である.

したがって各部署が自部署の仕事の品質を保証する責任がある.

では品質保証部の仕事は何か?
「各部署が品質を保証できている事を確かにすること」が品質保証部の仕事である.
すなわち各部署が品質保証が出来るように仕組み・仕掛けを作る,品質保証が出来ている事を確認する仕事である.

これは決して「尻拭い」の仕事ではない.「尻拭い」をしなくても良くする仕事である.

品質保証部のリーダが「ウチの製造部は品質意識が低くて」と嘆いているのを良く耳にする.製造部が品質意識を高め品質保証が確実になるようにすることは,品質保証部の仕事である.
したがってこの嘆きは,自分の仕事がちゃんと出来ていませんと言っているのと同じだ.

品質保証部の職員は場合によっては製造部の管理者に生産を停止させる権限を持っていなければならない.中国式の縦割り型タコツボ組織は往々にしてこの権限発動を妨げる.

品質保証部の職員が生産現場のリーダに生産停止をするように言っても,上長の指示ではないのでいうことは聞かない.
品質保証部の上司に報告し製造部の上司から指示をしても,部署間の縄張り意識があり言う事を聞かない.
工場長まで上げて初めて生産停止が出来る.
この間に不良品を作り続けるわけである.

組織の責任と権限を明確にしておかないとこういうばかげた事態が日常的に発生することになる.
権限・責任とともに「品質意識」も高める必要がある。

こちらもご参考に「品質意識」


このコラムは、2008年9月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第50号に掲載した記事です。

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ISOアリバイ審査



 先週のメールマガジン「跨部門活動」に関して読者様からメッセージをいただいた。

※N様のメッセージ
 いつも楽しい話題をありがとうございます!
今回は下記の言葉↓にピンっ!とアンテナ立ちました。
「ISOのアリバイ審査」
この言葉、流用させて頂きます(笑)

やはり今どこの会社でも同じなのでしょうか、アリバイ審査横行なのですね。
ひどい時など、ISO審査前なので遡って資料作るぞ、そんな本末転倒なことまで起きてることを見受けることさえありますからね。アリバイ審査、この言葉しっくりきました。・・・・さて問題はこの言葉からどう展開するかですが。
考えるヒントをありがとうございます。

メッセージをいただくたびに、このメルマガの読者様は大変意識の高い方が多いと感じる。N様は、私の拙文中の言葉からヒントをつかみ、活用する事を考えておられる。メールマガジンを配信する者の冥利だ。

「ISOのアリバイ審査」と言う言葉は、ある会社で行われている受注審査を指して使った。つまりISOで決まっているから「しようがなしにやる審査」と言う意味だ。N様がご指摘の通り、このような動機で行われている審査は、ISOの更新監査があるので、前日に品質記録を調べ直し、足りない部分は後から作成する。杭打ちデータ、燃費データの捏造が発生するのと同じ組織倫理だ。

前職時代ISO9001が発行されて間もない頃、オランダの支社からの認証を取得しなければ欧州で製品販売が出来なくなる、と認証取得をするよう強い要求が来た。
まずは欧州での主力製品群を扱っている事業部で認証取得にトライして、全社に展開すると言う全社方針が決まり、当時私が所属していた事業部に先頭バッターとして白羽の矢が当たってしまった。
当時設計開発部門に所属していた私は、当然(笑)余分な仕事が来たと消極的な感想を持っていた。技術部長も同じ思いだった様だ(笑)
「上に政策あれば、下に対策あり」と言うが、当時の技術部長は実験ベンチの測定器全部に「校正対象外」のシールを貼ってしまった(笑)

当時の社長は、認証をとるなら一番厳しい認証機関の審査を受けようと考えた。
そのため、予備審査の段階で認証機関から指摘を受け、設計開発部門の「校正対象外」のシールは貼り替える事になった。

ISO9001導入時期には、「ISOだからしようがない」は全社的認識だった(笑)

その後品質部門を担当する事になり、事業部内で問題を見つけるたびに是正のための会議を開催しようとするのだが、先方の部長からスケジュールが取れない、とのらりくらり逃げられてしまう。

「ISOだからしようがない」を利用する事にした。「不適合是正会議」という言葉を使うのをやめて「臨時内部監査」と言う言葉を使う事にした。「会議」だと何かと理由を付けて延期する、代理出席でごまかすが、「内部審査」ではそうは行かない。「ISOだからしようがない」となる。

ISO9001の部門運用マニュアルに、「臨時内部監査」と「緊急内部監査」を追加し、品質保証部門長に開催権限を付与した。これで私はサッカーの審判のように、イエローカードとレッドカードを手中にした(笑)

部門の品質システム運用マニュアルの改訂権限(最終承認は事業部長)を持っていた私は「ISOだからしようがない」と言う認識を活用しやりたい放題だった(笑)

当然「理」や「義」にかなわぬ事をしてはならない。
しかしどの部門で働いていても、会社のために、社会のために自分の職権を活用する事は出来るはずだ。

余談であるが、職権とは職位の高い者が持つ権限の事ではない。守衛係でも職権はある。
レクスサス星が丘営業所の守衛さんは、仕事中に道端に立っている職権を利用し、店舗の前を通るレクサスに最敬礼をし続けた。その結果エリア外からも顧客が集まる人気店となった。

一日中外で立っている事を職責と考えれば、苦役となる。
一日中外で立っている事を職権と考えれば、やりがいとなる。

「レクサス星が丘の奇跡」志賀内泰弘著


このコラムは、2016年6月27日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第482号に掲載した記事です。

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跨部門活動

 『跨部門活動』と言うのは部門を跨がった活動と言う意味の中国語だ。

現在中国企業を指導している。先月訪問時に製造工程が大混乱していた。原因を聞くと、材料の納入が間に合わなかったため、材料待ちで大幅に工程遅れが発生した、と言う事だった。その結果、遅れを取り戻そうと無理な進め方をし、工程の混乱を招いている。

これは実践指導の良いチャンスと思い、『跨部門活動』で問題解決をする事にした。
技術、品証、購買、製造の関係者を集め、趣旨を説明し『跨部門』で原因分析、対策検討をする様に、宿題を出した。

今月再訪問時に宿題の結果を見せてもらった。
一枚の報告書にまとめてあったが、残念ながら意味のある対策とは言えない。私の所見では、この報告書は一人で書き上げた様に思えた。とりまとめ担当に聞いた所、各部門の代表者は、これは購買の問題だから購買部門で報告書を書くのが妥当だと、一人に押し付けた様だ。

私の趣旨説明は完全に無視された(苦笑)
せっかくのチャンスをムダにはしたくないので、再びメンバーを集めた。
報告書の経緯説明に、顧客の特注仕様の部材調達に時間がかかり、部材の調達が遅れた、と書いてある。今回は前回のメンバーに、販社を追加した。直感的に、受注審査に問題が有ると感じたからだ。

この会社の製品(バス)は、既存の製品プラットフォームに顧客の要求により、外装デザイン、内装デザインなどをカスタマイズ設計して生産するタイプだ。
顧客要求確認→受注審査→納期・価格回答→正式受注のプロセスを経て、設計、調達、生産準備がスタートする。

実際の経緯を全員から聞き取り調査をした。正式受注までのプロセスは正しく行われた。
問題は購買部門のコミュニケーション不足、ベンダーの能力不足、購買担当者の責任感不足が原因であり、対策は担当者の再教育、認定ベンダーの審査強化、とお決まりの文句が彼らの対策書に並んでいる(苦笑)

受注審査の実施方法は、受注審査フォーマットを各部署持ち回りで確認サインする事になっている。いわゆる「ISOのアリバイ審査」だ(笑)

販社ものんきなもので、納期遅延はお客様にお願いすれば飲んでもらえるので問題ない、と言っている。地域での市場シェアが高く、慢心感がある様だ。
しかし納期遅延が慢性化すれば、既存顧客の信頼は徐々に低下する。新規顧客、市場シェアの低い地域への拡販は難しい。これを納得してもらい、受注審査のやり方を改善する事にした。

このような問題解決のアプローチは、購買部門単独では難しい。『跨部門』で問題の原因、対策検討をしなければならない。

実は同じ様な問題を、業種は違うが台湾企業の指導でも体験した事がある。この時は経営者が「プロジェクトマネージャ」を選任して、受注から生産,納入まで一人の人間が管理をする、と言う対策を考えた。私に言わせれば、屋上に屋を掛けるムダな管理であり、各部門の責任感は増加しない。
この時は「受注審査会議」を新設し、納期、コストを精査し、見積もり提出をする方式とした。

このような発想をすれば、責任部署の押し付け合いはないし、より効果的な運用が可能になるはずだ。販社にしても、無理な納期を設定し何度も顧客に謝りに行く必要は無くなる。初めに言っておけば「説明」だが、後から言えば「言い訳」となる。当然顧客の心証は悪くなる。上手く説明すれば、在庫の標準部材を使う事が出来、納期・コストともに特注部材を手配するより楽になるはずだ。


このコラムは、2016年6月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第481号に掲載した記事です。

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副総経理の役割

 
今年は中国企業の指導が増えている。中国企業の経営幹部に対して、豪華な応接セットのある執務室に一日座っていると言うイメージを持っていた。
しかし最近指導している中国企業の製造担当副総経理は、生産現場を歩いている事が多い。彼と話をしたいときは、オフィスを尋ねるより現場を探した方が早い(笑)

経営幹部となっても現場を重視し、現場で作業員に話しかけている。立派な経営幹部だと思っていた。しかし、彼は自分の仕事を間違えている様だ。5Sや品質意識の指導時には、製造部門が忙しい事を理由に製造部門の部課長を出席させない。

生産現場の5Sが乱れているからムダな作業ばかりしていて忙しい。品質問題が多発しているために、手戻り作業、修正作業が発生し、より忙しくなっている。こういう状況は、足しげく現場に出かけているので了解しているはずだ。

自分一人で現場を支えるのは無理な話だ。現場を支える部下を育成する。育成の度合いを確認し、不足点があれば再指導する。そのために現場の巡視をする。これが彼がやらねばならない仕事だ。現場で直接作業員を指導すれば、部下である部課長・監督職の仕事を奪うことになる。

本来副総経理の仕事は、現状を打破するために長期的な戦略を考える事だ。生産方式の革新、生産設備の導入など部課長ができない仕事に時間を使う。今日しなければならない仕事の比率はうんと低いはずだ。

改善実践研修に現場の部課長を参加させないと言われた時は、副総経理が現場改善の「癌」だと感じ、怒りすら覚えた。しかしよく考えると、彼が重要な事に気がつく様に指導する事が、私の仕事だ。
こう考えると「怒り」は自分の「出番」に変わる(笑)


このコラムは、2016年7月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第484号に掲載した記事です。

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【中国生産現場から品質改善・経営革新】

 臨済宗円覚寺・横田南嶺管長のお話をうかがう機会があった。もちろん直接お目にかかってお話を伺ったわけではない。ありがたい事に、世界中のどこにいても、日本の高僧のお話を聞く事が出来る。IT技術により、私たちは計り知れない自由を手に入れている。

もちろん横田老師や私が若い頃は、そのような自由はなかった。(驚く事に横田老師は私より相当お若い様だ)横田老師は、若い頃に影響を受けた書籍の著者や、尊敬する方に直接手紙を書き会いに行っている。直接会って話を聞く。ネット上にある情報から得られる知識の数十倍、数百倍の価値があるはずだ。

既に若くはない私も、見習わなければならない。

横田老師のお話で特に印象に残ったのは「戒」に関するお話だ。「戒律」「十戒」などの「戒」だ。「受戒」「戒名」は、私の様な葬式の時だけ仏教徒になる様な不信心な者でも知っている。

「戒」とはやってはいけない戒律と言うイメージが有った。
しかし横田老師によると、「戒」とは良き習慣、良き習慣に導くと言う意味だ。

つまり「殺すべからず」と言う戒律は、やってはいけない事として、殺人罪と言う罰則とセットで、守らされている。
「戒」を良き習慣と理解すれば、「殺すべからず」と言う戒律は「命を愛する」と言う良き習慣となる。

良き習慣が、正しい智慧を生む。正しい智慧に基づく行いが慈悲である。
お釈迦様は、良き習慣を身につける事により幸せになる方法を説かれたのだ。

ここまで聞いて、すとんと腑に落ちた。
これは5Sの「躾」そのものだ。私には仏教を説き、布教する力はないが、5Sを通して、「戒」を説く事は出来る。

5Sとは、働く人々を幸せにするモノでなくてはならない。その結果企業の利益が上がる。これが5Sの根本原理・原則でなければならない。

「いろはにほへと―鎌倉円覚寺 横田南嶺管長 ある日の法話より」


このコラムは、2016年7月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第483号に掲載した記事です。

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比喩力


 リーダに必要な能力として「説得力」「感動力」を前々回,前回のメルマガで考えてみた.部下を説得と納得で動かす力「説得力」は「感動力」によってパワーアップする.
今週は同じく「説得力」をパワーアップする力「比喩力」を考えてみたい.

相手を説得・納得で指導する場合,「相手目線」で話をすることが必要だ.
相手が理解可能なレベル,または少しの努力で理解可能なレベルで話をする.

以前生産現場の班長たちに5Sの意義を教えたことがある.班長たちには,朝礼で作業員たちに分かりやすく教えるように指示をした.翌朝朝礼の様子を横から観察してみると,作業員に「5Sをしっかりしなさい」と言っている.これでは駄目だ.

中学を卒業して,農村から出稼ぎに来た作業員たちにいきなり5Sと言っても,通じない.彼らが理解できる比喩で説明しなければならない.

例えば「整理」の説明をする時.
整理とは使わないものを捨てるということだ.これは誰しも「もったいない」という気持ちが有り,なかなか捨てられない.

こんな比喩で説明する.
畑の作物を収穫した後,すぐに残っている作物を捨て次の作付けをする.ウラナリの実があっても,次の作付け時期を逃してしまえば,収穫ができなくなる.ウラナリの実をもったいないと感じて残しては駄目だということは,彼らにもよく理解できるだろう.

農村では収穫した芋を穴を掘って埋めておく.しかし都会には穴を掘る土地が無い.だから使わない在庫は整理しなければならない.

こんな比喩で説明すれば,理解しやすいだろう.

難しいことを難しいまま説明をすると,自分が難しいことを分かっている様な気がする.しかし,相手が理解できて初めて説明の意味がある.難しいことを相手に合わせ簡単に説明できる能力が必要だ.

これがリーダに必要な比喩力だ.


このコラムは、2010年3月22日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第145号に掲載した記事に加筆したものです。

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感動力


 先週のメルマガではリーダに必要な能力として「説得力」を考えてみた.
今週はリーダに必要な能力として「感動力」を考えてみたい.

感動力というのは、部下を説得・納得させる時や,部下のココロをつかみ引っ張って行く時に重要な力だ.同じ話をするのでも,聞く人に感動を与える話が出来れば,相手のココロに伝わる力が増す.

まず話のツカミとして,感動のエピソードを話す.そしてその後にこちらが伝えたいことをそのエピソードから抽出すれば良いのだ.

例えば人を助ける,という話をする時にこんなエピソードを枕にする.

妊娠している奥さんが定期健診に行く日に,勤務があり付き添ってやれない警察官がいた.彼はその日の朝出勤する時に「今日一日いいことがあるように,おまじないをかけてやる」といって奥さんを抱きしめてやる.

奥さんは病院に行くために外出するが,その日一日本当に良いことばかりが起こる.バスに乗ったら,車掌が座っている乗客を立たせて座らせてくれた.一人で診察の順番待ちをしていたら,通りかかった看護婦が順番待ちの列の先頭に並ばせてくれた.そして席を譲った人も,順番待ちをしていた人たちも,笑顔で快く譲ってくれたのだ.

仕事が終わって帰宅したご主人に,一日の出来事を話すと彼は笑顔で「おまじないが効いた様だね」といって彼女の背中から,朝抱きしめた時にそっと貼った紙をとって見せた.その貼り紙にはこう書かれていた.
「私は警察官をしており仕事で妻に付き添ってやれません.どうか妻を助けてやってください」

こういうエピソードで感動したココロには,素直に相手の言うことが染込んで来るだろう.

感動力を磨くのは簡単だ.たくさん本を読んで感動する話をメモすれば良いだけだ.

若い中国人に仕事をする意味と意義を教えたい時には,こんな本が役に立つ.
「私が一番受けたいココロの授業 人生が変わる奇跡の60分」

著者の比田井和孝先生は,地方都市の専門学校で就職指導をしておられる.彼もまた感動力の持ち主であり,感動力で若い学生さんに働く意義と喜びを教えておられる.

比田井先生の新著も要チェックだ.
「私が一番受けたいココロの授業 講演編 与える者は、与えられる」


このコラムは、2010年3月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第144号に掲載した記事に加筆したものです。

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説得力


 先週のメルマガではリーダに必要な能力として「予知能力」を考えてみた.
今週はリーダに必要な能力として「説得力」を考えてみたい.
ちなみに説得力は中国語では『说服力(shuo1 fu2 li4)』という.

部下に仕事をしてもらう時に仕事の指示を与えなくてはならない.
指示に従って部下に仕事をさせるためには,指導者・リーダの説得力が必要だ.
命令を与え,それに従わなければ罰則を与える.いわゆる「命令・服従型」の組織を作り上げれば,説得力は特に必要ではないかも知れない.

しかしこの様な「命令・服従型」の組織では,個人がやる気を出して働く,働く喜びを知る,ということは難しいだろう.

個人がやる気を出す,働く喜びを知るためには「説得・納得型」の組織でなくてはならない.そのためには指導者・リーダが説得力を持ち,部下を納得させる力を持っている必要がある.

もちろん時には「命令・服従型」を使わなければならない局面もある.
例えば火災が発生している現場で,消火活動の意義を納得させたり,人命や財産の尊さを説いていたのでは間に合わない.「火を消せ!」と命令し従ってもらわなければならない.

しかしここで賢明な読者はすでにお気づきと思うが,火災という非常事態で危険に直面しながら,「火を消せ!」という命令に従うことが出来るのは,普段から説得と納得が出来ているからだろう.

ではどのようにして説得力を磨くか?
まずはコミュニケーションを通して信頼関係を築き上げる.
そのために普段から「褒める」「叱る」をきちっとしておく必要がある.「褒める」「叱る」というのは「怒る」のとはまったく違う.「怒り」は合意されない期待から発生する不満の感情発露である.

部下が,こちらが期待する仕事の質に応えられない時に,不満が怒りとして発露する.この感情を部下にぶつけてみても,部下からは反発若しくは萎縮の反応しか帰ってこない.これでは反省・成長に結びつかない.

それに対して「褒める」「叱る」は相手の成長を願ってやることである.
「褒める」「叱る」はルールがあり,コツがある.
手元にある谷口祥子氏の「ほめ方のルール」という本から紹介してみよう.

  • 叱る」と「怒る」の違いを知ろう
    谷口さんは昔和菓子店でアルバイトをしていたことがある.このとき包装が上手に出来ず,お客さんから「ごめんね.これは大切な人に贈る物だから,もう一度包み直してくれる?」といわれたそうだ.
    この様に叱られたのならば,アルバイト店員の心にストンと落ちる.
    これが「包みかただへただ!」と怒られたらば,反発心が発生するだけで,反省心は発生しない.
  • 「Iメッセージ」で叱ろう
    「Iメッセージ」というのは自分の感想,思いを伝えるということだ.一方 「Youメッセージ」はお前は××だ,と決め付けること.
    叱る時は「お前の態度はなっていない」と言うのではなく「私はお前の態度を不愉快に感じた」と叱ろう,と言うルールだ.

「褒める」「叱る」を通して部下との信頼関係を築く.
そうすれば説得力も上がるはずだ.


このコラムは、2010年3月8日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第143号に掲載した記事に加筆したものです。

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