5Sのスタートは捨てることだ.
私の友人は中国で会社を経営している.彼は,中国人従業員がオフィスのトイレを清潔に保てないのに業を煮やしていた.そしてついに,オフィスのトイレを捨てると言う快挙(暴挙?)に出た.オフィスのトイレを撤去し,廊下の先にある共用トイレを使うことにしたのだ.
是非はあるが,究極の「整理」と言ってもよいだろう.必要なモノ,不要なモノを区別する際に「聖域」を作らない.トイレといえど整理の対象になりうる.
顧客資産の金型でさえ,整理の対象だ.何年も使わない金型が,倉庫に鎮座しており,作業安全性までも脅かしかねない状況となっている.顧客の資産だから捨てられないと言う「理由」は理解できる.しかし捨てる「方法」を考えてこそ,改善があるというものだ.
書架の扉は捨てる
新しいオフィスに引っ越す際に,書架を新調した.ガラスの引き戸付きの書架を購入した.しかしガラス引き戸は,使い始めて3日目に捨てた.書類ファイルを取り出すたびに引き戸を開け閉めしなければならない.左右の引き戸が重なる棚の中央にあるファイルが取り出しにくい.引き戸が邪魔をしている.引き戸を捨てることによって,ファイルのアクセスは効率が良くなった.
要らない物を捨てれば,空間が捻出できる.不要物を保管するという,付加価値を生まない空間を,付加価値を生む生産空間に変えられる.
活用しない記録用紙を捨てることで,無駄な記録作業も捨てることが出来る.
要らない物を捨ててすっきりするだけではなく,効率向上,安全確保,品質確保など,整理には多くの効能がある.
在庫は問題を隠す悪
倉庫に在庫があれば,お客様の需要に即納できる.お客様にとっては都合が良いが,生産者にとって良いことはひとつもない.在庫金額の金利負担が増える.更に悪いことは,生産リードタイムに問題があることが表に出なくなる.問題として認識されなければ,改善はありえない.
中間在庫も同様だ.工程に問題が発生していても,中間在庫により生産は継続できる.現場は残業をして,つじつまを合わせる.しかし残業代の分だけコストアップしているはずだ.最悪なのは,工程で発生した問題を改善するチャンスを失うことだ.
製品在庫,中間在庫は不要な物とは言い切れない.しかし,今必要な物ではない.今不要な物も,整理の対象だ.
ある工場で,完成品在庫の30%削減を目標に改善活動をした.元々の活動内容は,余分な生産投入をしないように業務担当に教育をし,生産投入の基準を作る,ERPの導入,となっていた.問題の本質を解析していないので,この様な対策になる.本質対策により在庫は,1/3に低減できるだろう.本質的改善をしないままERPを導入しても効果はない.
捨てるカミあれば,拾う改善あり.
こちらもご参考に。
5S実践研修
本コラムは香港,中国華南地区で発行されている月刊ビジネス雑誌「華南マンスリー」2011年8月号に寄稿したコラムです.