書籍名:子どもの心のコーチング
著者:菅原 裕子 (著)
出版社:PHP研究所
機械のパフォーマンスは変動することはない.もしも変動しているとしたら,その機械を含む工程の工程能力が不足している,メンテナンスが不十分ということだ.
しかし人間のパフォーマンスは,簡単に倍半分に変動する.身体的理由によるモノは,機械のメンテナンスと同じことだ.それよりも大きな要因は,心の問題.モチベーションだ.
モチベーションの高い低いで,人間のパフォーマンスは簡単に変動する.
子育てと部下の育成には多くの共通点がある.
福利厚生や賃金は,仕事に対するモチベーションとなるだろうか?
子供にお手伝いをしたら,お小遣いをあげる.宿題が終わったらゲームをしてもよい.
福利厚生や賃金は,こういうモチベーションの与え方と同じだ.
その効果は否定しないが,限定的だ.
こんな事例がある.
ある行動科学者が幼稚園児に次の実験を行った.
園児達は「絵を描くのがとっても好き」であり,毎日絵を描いても飽きることはない.
その園児を3つのグループに分ける.
1つ目のグループは「素晴らしい,素敵な絵を描いたらご褒美をあげるよ」と動機付けた.絵を描く前に,ご褒美が貰えることが分かっている.
2つ目のグループは「自由に絵を書いてね」と動機付けた.ご褒美の事は知らないし,ご褒美を貰えるわけではない.
3つ目のグループは「自由に絵を描いてね」と言って,書いたあとにご褒美を上げた.ご褒美の事は知らないが,絵を描けば貰える.
この実験をして,2週間も経たないうちに1つ目のグループは絵を描かなくなってしまった.
それは,楽しいお絵描きが,ご褒美をもらうために絵を描くという,仕事になってしまったからだ.
絵を描くのが楽しいはずが,楽しくなくなった.
楽しい絵を描く事に,ご褒美という動機付けは,モチベーションになんら良い影響を及ぼさなかったのだ.
逆に,ヤル気を失わせてしまった.現在多くの経営者が信じている「アメ(報酬)とムチ(罰則)」では,全く想像もつかない真逆の結果となったのだ.
では子供のモチベーションを高めるにはどうしたらよいのだろうか?
それは褒められること.ただ褒めるだけではない.
人の役に立ったと実感出来る褒め方がモチベーションをあげる.
褒めるのと同時に感謝を伝えることが重要だ.
金銭によるモチベーションは,徐々に要求金額が上がってゆく.同じ金額ではモチベーションがあがらなくなる.
「人の役に立つ」をモチベーションとしても,同様に要求はあがる.
「人の役に立ちたい」から「もっと人の役に立ちたい」になる.
つまり動機付けが自己再生産されることになる.
これは部下育成に応用できるはずだ.
「子供の心のコーチング」の著者・菅原裕子氏は,子供へのコーチング「ハートフルコミュニケーション」を主に活動しておられる.
ちなみに菅原氏は部下のコーチングに関する著書も書いておられる.