月別アーカイブ: 2018年8月

サムスン、最新スマホ250万台回収 電池に異常

【ソウル=小倉健太郎】サムスン電子は2日、8月19日に発売したスマートフォン(スマホ)の最新製品「ギャラクシーノート7」で、販売済みのほぼ全量にあたる250万台を米国や韓国など10カ国・地域で回収すると発表した。日本では発売していない。消費者から充電時に出火したなどといった連絡を受けて調査したところ、一部の電池に異常が判明した。10カ国・地域では当面販売も中止するため、業績への影響は避けられない。

(以下略)全文

(日本経済新聞電子版より)

 以前、メルマガでボーイング787のリチウムイオン電池発火事故に関してコラムを書かせていただいた。当時運行再開を目指してとった対策は、リチウムイオン電池セルの異常発熱の原因を特定しないまま、「リチウムイオン電池の冗長化」だった。

サムスンのギャラクシー発火事故では、リチウムイオン電池の製造過程による不良により、電池内部で正極と負極が短絡し発熱発火したという結論になっている。

サムソンの発表によると、

  1. バッテリー内部でセルの極端子が押される。
  2. 絶縁テープが乾燥する過程で一部収縮する。
  3. バッテリーを包むパウチパックは電池を巻くことになっているが、いくつかが一部弱い部分側に上がっている現象が発見された。

製造時に1と2の不具合がある製品、3の不具合がある製品で、電極間の短絡が発生し発熱発火する、という事だ。

電池の構造も製造工程も分からないので、この説明の意味が理解出来ないが、本来内部構造以外にも電極間短絡を引き起こす原因があるはずだ。
それらに対して、どう検証し、今回の原因から外したのかをキチンと説明するべきだろう。(新聞記事にそこまで要求するのはムリがあるが、社内もしくは顧客に提出する不良解析レポートは、そのようなロジックで書くべきだ)

設計時の問題。
材料の問題。
製造過程の問題。
運用中の問題。
という様に、もれなくだぶりなく問題を列挙し、一つずつ検証する。

B787機の事故の真因は後の情報で「過充電」であった疑いがもたれている。
電池側の冗長化で耐発熱性能を上げるよりは、電源側に過充電防止の冗長性を持たせる方が、よほど効果的であり安価に対策出来たはずだ。

サムソンの事例が今後どのような展開になるのかはまだ不明だが、少なくともB787の事例は、中途半端な解析(もしくは政治的決着)による対策は有効とはいえない、という教訓を与えてくれた様に思う。


このコラムは、2016年9月5日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第492号に掲載した記事に加筆しました。

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リチウムイオン電池発煙・焼損事故

 リチウムイオン電池による発煙・焼損事故が、航空機から携帯端末に至るまで広い範囲の応用で、頻繁に発生している。NITE(製品評価技術基盤機構)の事故情報データベースを検索してみると953件がこの10年間で報告されている。(リチウム以外のバッテリーを含む)

残念なら、こちらのデータベースは「事故の発生原因」を取り扱っており、根本原因であるリチウムイオン電池の発熱原因については簡単な記述に留まっている。

それらの原因をピックアップしてみると

  • バッテリーセルの封口部に製造上の不具合によって生じた導電性異物による内部短絡。
  • 製造上の不具合によるバッテリーセル内の短絡。
  • 製造上の不具合のより負極板上に異物が付着したためセパレータが破損、内部短絡。
  • 電池セルのかしめ工程の作業不良による電解液流出。
  • 充電極性違い(他社製充電器仕様)
  • 落下等による変形でセパレータが絶縁劣化
  • 水没による回路基板のトラッキング。

などがあった。

ほとんどが製造上の不具合となっている。
具体的な不具合の記述はないが、リチウムイオン電池を生産している企業には、どの様な不具合なのか想定出来るだろう。これらの潜在不良を発生ないため、工程FMEAなどにより予め対策をしておく。
電池メーカでなくても「短絡」「かしめ作業」等のキーワードから潜在不良を洗い出し、同様の未然防止対策が可能となる。

またユーザの取り扱いによる事故(最後の3件)に関して、どのような対策を実施すべきか事前に検討をしておく。

なかには、充電器コネクタ部の絶縁不良による焼損事故もあった。
コネクタの絶縁部に使用している難燃剤(赤燐)による絶縁劣化と推定される。この不良現象は、過去から知られており難燃材料を赤燐から臭素に変更する事で対策していた。しかしRoSH指令により、臭素系の難燃剤が使えなくなり再び赤燐を使用する事になり、このての事故が再発している。
これは電池メーカ以外にも大いに参考になるだろう。

この様に他社事例を研究し、自社製品の不具合未然防止に役立てる事が重要だ。


このコラムは、2016年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第504号に掲載した記事に加筆しました。

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B787、遠のく空 原因特定難航

 ボーイング787型機のバッテリートラブルは、運航停止命令を受けて世界中の同型機が1カ月近く飛べなくなる異例の事態になった。日米両国が調査を続けているが、原因は不明だ。国内2社の欠航は約2千便に上り、「夢の飛行機」と呼ばれた最新鋭機の視界は晴れない。

 「認可時の想定より不具合の発生率が高い」

 米国家運輸安全委員会(NTSB)の7日の会見で、ハースマン委員長はこう指摘した。ボーイングは、バッテリーが発煙する確率を1千万時間のフライトで1回以下と想定していた。だが実際は、就航から10万時間以内に日本航空機と全日空機でトラブルが2回起きた。

 NTSBは、日航機の出火は電池内部のショートが発端だとしている。電池のプラスとマイナスがつながってしまう現象だ。ショートで発生した高熱が電池の化学反応を促し、さらに高温になる「熱暴走」が起き、並んでいる電池に広がった。ただ、ショートの原因はわかっていない。

 高松空港に緊急着陸した全日空機のバッテリーでも熱暴走があったことがわかっている。日本の運輸安全委員会は、製造元のGSユアサ(京都市)に持ち込んで分解を続けるが、詳細な調査は難航している。

 熱暴走の原因は何か。東京理科大の駒場慎一准教授(電気化学)は「過充電を挙げる。リチウムイオン電池は容量を超えて充電すると、溶けた金属リチウムが内部でとげ状になり、プラスとマイナスの電極をつないでしまってショートを引き起こすという。

 リチウムイオン電池は国産充電池の7割を占め、電気自動車やノートパソコンにも使われている。燃えやすい有機溶媒を使っているので過充電を防ぐ保護回路があるのが一般的だ。駒場准教授は「保護回路がうまく機能しなかったか、保護回路の限界を超えた瞬間的な電圧がかかった可能性がある」と指摘する。

(asahi.comより)

 メルマガ293号で取り上げた,B787機のバッテリー焼損事故の続報だ.

焼損事故の原因究明は相当難しい.

出火元(バッテリィ)の特定は比較的簡単だが,なぜバッテリィが出火元となったかを,現物の解析から特定するのは,困難な場合が多い.「陽極と陰極がショートし,熱暴走が発生した」と原因特定が出来た様に見えても,ではなぜ陽極と陰極がショートしたのか?と更に原因特定を進めようとすると,証拠が残っていないことが多い.全てが燃えてしまっている.

つまり陽極と陰極がショートしたというのは,まだ現象レベルであり,原因ではない.

電池内に残留または混入した金属粉によるショート.
電池内の絶縁セパレータの絶縁不良によるショート.
充電電圧が高いことにより,リチウム金属が析出することによるショート.
などショートが発生する原因の他にも,電池の短絡による内部温度上昇による焼損も,事故後には見分けがつかなくなっていることが多い.

例えば,電源コードを束ねている結束帯「ねじりっこ」の芯は金属製の方が作業性がずっとよい.しかしプラスチック製の芯材を使った物が一般的だ.それは,万が一火災事故が発生した場合に,金属芯を使った結束帯の場合は針金だけが燃え残るからだ.燃え残った現物調査で,電源コードの結束帯が火災の原因と特定されては困るので,作業性が悪くてもプラスチック芯の結束帯を使う.

焼損してしまった物から,事故の真因を分析するのは困難な作業となる.
通常は,可能性のある原因を列挙し,再現実験またはシミュレーション実験をすることになる.

例えば充電回路の不良が原因であっても,焼損を受けており,特定するのは難しい.

製造時の検査記録から機能的に問題がないと分かっても,出荷後に問題が発覚することはままある.例えば,出力電圧を決定する部品が,出荷後劣化し電池に高電圧がかかっても,証拠はすべて焼けてしまっている.

今回の事故は,電池,充電回路,保護回路のメーカがそれぞれ別のメーカになっている.これも原因解析を難しくする要因となる.


このコラムは、2013年2月11日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第296号に掲載した記事に加筆しました。

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B787トラブルの原因、バッテリーか全体のシステム設計か

 全日本空輸が運航する米ボーイング787型機が高松空港に緊急着陸したトラブルで、国土交通省運輸安全委員会は17日、同機のメーンバッテリーが黒く炭化していたことを明らかにした。バッテリーはジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)が供給するリチウムイオン電池。原因は特定できていないが、かつて発火トラブルが起きた電池の安全性が再び問われることになった。

 今回のトラブルで米連邦航空局(FAA)は世界で飛ぶ787型機の運航を当面見合わせるよう航空各社に命じた。バッテリーの安全が確認できるまでとしており、期限は明示していない。

 運輸安全委によると緊急着陸した787型機のバッテリー内部は真っ黒に炭化。
電解液などが噴き出したとみられ、重量は約5キロ減っていた。金属製のバッテリー容器は2センチほど膨張。過剰な電流や電圧によって電解液が過熱して噴き出した可能性があるという。

 GSユアサは17日、技術者3人を高松空港に派遣。運輸安全委の航空事故調査官らと合流し、原因究明を始めた。18日朝には米運輸安全委員会(NTSB)やFAA、ボーイング社から計4人が加わり、安全委と合同で調査を進める予定。

 バッテリーの重点調査が進むのは、米ボストン国際空港でトラブルが起きた日本航空の787型機の出火元もバッテリーだったため。GSユアサはボストンにも技術者を派遣、調査をしている。

 リチウムイオン電池は小型で大容量の電気を蓄えられる。ただ従来のニッケル水素電池より過熱・発火しやすいとされ、2006年にはノートパソコン用のソニー製電池が発火、大規模回収に追い込まれた。原因は製造工程で異物が混入、ショートしたこととされた。

 こうした経験を踏まえ同電池で先行してきた日本メーカーは安全のノウハウを蓄積。GSユアサは三菱自動車の電気自動車やホンダのハイブリッド車向けにリチウムイオン電池を供給。高い安全性が必要な車載用や産業用で実績を積んできた。

 787型機の調査ではトラブルの原因がバッテリー自体にあるのか、システム全体にあるのかが焦点。GSユアサ幹部は「バッテリーは周辺部品と組み合わせたシステムとして運用される。単体で発火・過熱することは考えられない」と語る。

(日経電子版より)

 B787機は,開発が3年間遅れた上に,立て続けに問題が発生している.
新聞の報道から判断すると問題は,燃料漏れとバッテリー焼損の二つある様だ.

バッテリー焼損は,本記事の1月16日高松空港での全日空機の発煙事故以外に1月7日にもボストン空港で日本航空機が火災事故を起こしている.

両方とも,今回旅客航空機に初めて採用されたリチウムイオン電池が原因となっている.

事故を起こしたANA機は,昨年就航し1ヶ月後に電気系統に不具合が見つかっている.10月にはエンジンがかからずバッテリーを交換したと言う.
実はこの機体固有の問題が,まだ解決せずに表面的な処置(バッテリー交換)しか出来ていないのかもしれないが,事故の頻度を考えると,波及性のある問題の様だ.

以前リチウムイオン電池搭載の携帯電話でやけど事故,ノートPCで発煙事故が発生した.電池内の異物によるショート,過充電による発熱などを,製造の技術,充電回路技術で克服して来た.民間航空機では初の採用だが,自動車,戦闘機,人工衛星には既に採用されていると聞く.

飛行のメカニズムを電気化し,機体を軽量化する事が可能になり「低燃費」をB787機のセールスポイントとして実現している.その陰の立役者がリチウムイオン電池だ.

30数年前,駆け出しのエンジニアだった頃,リチウム電池を製品に搭載するために評価実験をしたことがある.電池に関する知見がなかったので,リチウム電池に関する論文を片っ端から読んでみた.リチウム電池の安全性評価実験に「ショットガンテスト」というのが有り,驚いた事を今でもよく覚えている.電池をショットガンに詰めてオーク材の板に撃ち込む試験だ.ずいぶん乱暴な評価試験をするモノだと驚いた.リチウムという材料に対する不安を,消去するにはそのくらいの事をしなければならなかったのだろうと推測している.

B787の開発でも,慎重に評価が行われたはずだ.航空機の故障は,一気に数百人の命が失われるリスクを持っている.故障は限りなくゼロに近くしなければならない.初期故障は起こるモノ,などと言う言い訳は通用しない.一号機から事故ゼロを目指さなければならない.

世の中で発生している故障や事故のほとんどは,再発事故と言える.
今回の事故は,以前のリチウムイオン電池事故の形を変えた再発なのか?
それとも,新たな原因による事故なのか?
今後発表されるであろう,事故調査の結果を注視したい.


このコラムは、2013年1月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第293号に掲載した記事に加筆しました。

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RQCとPQC

 RQC、PQCとは何だ?と疑問に思われた読者様も多いだろう。
無理もない、私の勝手な造語だ(笑)
RQC(Reactive Quality Control):反応的品質管理
PQC(Proactive Quality Control):積極的品質管理

例えば工程内不良を分析し、再発防止対策を実施する。これはRQCだ。
不良が起きなければ改善は出来ない。
それに対し、PQCは不良の発生を予測し事前に対策を実施する。

例えばP管理図やC管理図で工程管理するのはRQCだ。一定期間の生産が終わった所で不良率や欠点数を計算して初めてP管理図又はC管理図が描ける。管理図を見て問題を発見した時は、既に問題が有った生産は完了している。
同じ管理図でも、生産開始時に初物検査でx-barR管理図を描けばPQCになる。初物検査で問題を見つける事が出来れば、生産開始前に改善が可能となる。

工程能力指数(Cp、Cpk)も同様にRQCとしてもPQCとしても機能する。
試作時に工程能力指数を計算し、しかるべき手を打てばPQCとなる。ロットごとに工程能力指数を計算するのはRQCだ。

PQCを更に高度にした場合を考えてみよう。
例えば、生産設備にセンサを取り付けて、故障を先に予測し保守作業を事前に行えば、設備起因の不良や、生産停止は大幅に削減出来るだろう。
マイクや振動センサーを使えば、設備の振動の変化で異常を事前に感知出来る。
非接触温度計で刃具の先端温度を測定していれば、刃具の摩耗が進むと先端温度が上昇するはずだ。

以前勤務していた会社は、工場のオートメーションのための自動制御システム、各種のセンサーや測定器を開発商品化していたので、このような設備のPQC応用も研究していた。しかし本当のノウハウは、それを必要としている現場にある。


このコラムは、2017年1月16日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第511号に掲載した記事に加筆しました。

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剛毅木訥

yuē:“gāng(1)(2)(3)jìnrén。”

《论语》子路第十三-27

(1)毅:guǒgǎn:勇敢で決断力がある。
(2)木:质朴zhìpǔ:素朴な、質素な
(3)yánchídùn:口数が少ない。

素読文:
子曰わく、ごうぼくとつは仁に近し。

解釈:
物事に屈しない、勇敢で決断力がある、飾り気がない、言葉少ない、そういう人が仁に近い。

剛毅つよきが故に憂えず、朴訥としていられる。ということでしょう。
気になるところは『剛毅木訥』が「仁」だとは言っていないところです。「仁に近し」としか言っていない。『剛毅木訥』だけでは足りないのでしょう。

3回にわたって『仁』について考えて見ました。
『孝悌』:親や目上の人に対する思いやり。
『巧言令色』:相手を立てるためというよりは、自己の利益を中心に考える利己心から生まれるモノでしょう。
『仁者不忧』:仁の徳があれば、あれこれ憂えることはない。

この中で『孝悌』は『剛毅木訥』に含まれない様な気がします。

『剛毅木訥』に『孝悌』を加えると『仁』になるのでしょうか。まだまだ道は遠い様です。

人材と組織力

 先日中国ローカル企業の経営者と話をする機会があった.1時間余り話をした.彼は日本の技術に興味があり,いろいろなことを質問された.

彼は,
台湾企業が日本的経営をよく理解しており,中国企業の先を進んでいる.
中国人,台湾人,日本人の違いは何か.
と言うことに興味があるようだった.

残念ながら,私は台湾人経営者で日本的経営を本当に理解している人にはお目にかかったことが無い.
私が知っている台湾人経営者達は,必要な能力・人材は外から調達すれば良いと思っているフシがある.確かにその方が即効性があり,企業の力を増すことが出来るかもしれない.

しかし本当にこのやり方で組織の力を高めることが出来るであろうか?

営業力,技術力,管理力を買われて外から「金の力」で招聘された人材は,確かに高い能力を持っているだろう.しかしその能力は個人のものであり,その人材を雇っても組織力の向上にはならない.

なぜなら,その人材が持っている能力は彼の労働市場価値を差別化し,高給を得るための源泉だ.彼にとっての「金のなる木」を簡単に別の人間に与えることは無い.

例えば,営業能力を高めるためにどこかのトップセールスマンを引き抜いたとしよう.彼は自分が持っていた人脈を活用し,短期的に営業成績を上げることができるだろう.しかしその人脈は組織の力にはならない.新たに職を得た会社で更に彼の「個人人脈」を拡大し,また別の会社に出てゆく.

つまり「金の力」で得た人材は「金の力」で他に買われてゆくのだ.

台湾人経営者は,優秀な人材を雇用している間に得た売り上げ利益と,彼に支払った報酬の差額がプラスであれば良いと諦観しているように見える.しかし彼が退職する時には元からあった顧客ごと,出てゆく可能性もある.

この様なことを繰り返していても,組織の力は一向に強くならない.
即戦力を期待して雇った人材は,戦力は発揮するが組織力は高められない.

経営理念をしっかり定め,人材を育成することにより組織力を高める経営を目指さなくては,いつまで経っても優秀な人材を探すことしか出来ないだろう.


このコラムは、2010年5月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第154号に掲載した記事に加筆しました。

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組織風土の改革

 部下の仕事ぶりにこんな不満を持っておられる方はいらっしゃるだろうか?

  • 指示したことしかできない.
  • もう少し気を回して欲しい.
  • 指示待ちではなく,自発的に仕事をして欲しい.

こういう不満は,中国だからとか,従業員の年代とかに関わらず,普遍的な不満だ.

一方部下の方もこんな風に考えているのではないだろうか?

  • 上司の指示が曖昧で何をすればよいか良く分からない.
  • 毎日毎日同じような仕事でつまらない.
  • もっとやりがいのある仕事があればすぐ転職したい.

上司と部下がこの様な関係では,仕事で成果を出すのは困難だ.

上司は部下を「管理」しようとし,組織にはいつも緊張感が高まっている.
部下は「管理」される息苦しさを感じ,職場は閉塞感が漂っている.
こんな残念な結果になっていないだろうか?

こういう残念な結果に陥っている組織は,圧倒的にコミュニケーションの量が不足している.
この状況を打開するためには「共通の言語」が必要だ.「言語」と言っても中国語とか日本語という意味ではない.

「共通の価値観」と言った方が分かり易いかもしれない.日々話す言葉の様に共通のモノが組織内に必要だ.

ここに来るのは「組織の目的」とか「経営理念」というモノではなく,もっとベーシックな組織風土のようなモノだと考えている.組織風土がまず強固に出来上がっていなければ,「経営理念」も砂上の楼閣となろう.

顔を合わせたら挨拶をする.仕事を始める前に職場を掃除する.
こうした皆が暗黙のうちにとる行動の元になっている価値観を「共通言語」と表現してみた.
神が人々に複数の言語を与えたため,バベルの塔が崩壊したという伝説は、共通言語欠落の象徴だろう。

そうした共通言語を持つ事が「躾」であり,共通言語の上に「ホウレンソウ」が芽生える.
ホウレンソウは勝手に生えて来る訳ではない.
ホウレンソウに適した土壌が必要であり,種を蒔かねば生えてこない.
そこに適切に水を与え,日光と肥料を与えなければならない.

これは経営者や経営幹部の仕事だ.
組織風土を改革出来るのは,経営者であり,それを支援するのが経営幹部だ.


このコラムは、2013年1月14日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第292号に掲載した記事に加筆しました。

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細部にこだわる

 あなたは,QC七つ道具の一つ,パレート図をExcelを使って正しく描くことが出来るだろうか?

パレート図を普通にExcelでグラフにすると,累積比率を表す折れ線グラフが,左端の棒グラフの上辺真ん中からスタートする.

正しいパレート図では,累積比率を示す折れ線グラフは,原点から出発し,左端の棒グラフ右肩を通らねばならない.

実はこれをどう実現するか,ずっと悩んでいた.
Excelで描いたパレート図が,少しくらいおかしくても役には立つ.ただ累積比率の折れ線グラフが,少しずれているだけだ.しかしパレート図を描くたびにすっきりしない気分を持っていた.

細部にこだわることに,どれほどの意味があるのか議論はあろうが,私は細部にこだわり続けた.そして昨年ついに,Excelで正しいパレート図を描く方法を考えついた.

こだわりを持っていなければ,この方法は見つけられなかったろう.

モノ造りも同じだ.
梱包は,お客様の工場に入れば捨てられてしまう.しかしここにも,きちんとこだわりを持つ.例えば,段ボール箱を封止している透明テープの長さが,皆揃っている.製品が入れてあるポリ袋が,直角並行にきちんとたたまれている.こういうこだわりを持ちたい.

品質は細部に宿る.
一見製品の品質とは関係ないようだが,こういうところにこだわりが持てる工場は製品の品質も良いはずだ.

これは品質だけではない.コストにも影響を与える.
前述の透明テープの長さが揃っていれば,余分な材料を使っていないということだ.

また,細部にこだわる文化があれば,従業員の態度も変わる.
あるベンダーから納入された部品の梱包箱に,足跡が付いていたことがある.足跡が製品を梱包した後に付いたのか,梱包箱を組み立てる前に付いたのか不明だが,細部にこだわる心があれば,梱包箱に足跡が付いていることはありえない.


このコラムは、2010年8月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第164号に掲載した記事に加筆しました。

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組織の使命・任務

 先週のメルマガで,「組織の壁」に関して書いた.
組織の壁がない企業文化は,一夜にして完成しない.まずは組織の壁を低くする仕組みを持つ.その仕組みの一つが,各組織,各個人の職務分掌をオーバーラップさせておくという趣旨だった.

しかし職務分掌が拡大することになり,従業員の不満又は給与アップの要求が出ないかという心配もあろう.私は,職務分掌を決める前に,組織の使命・任務を職員自身で決めてもらうという方法を取っている.
今まで何例か試してみたが,全ての例で従業員のモチベーションは上がった.

「職場の使命・任務をお前たちで考えろ」と丸投げしても,結果は出ない.今まで与えられた職務分掌で仕事をしてきた人に,いきなり180度異なる成果を求めても,どうすればよいか戸惑うだけだ.

まずは経営者が,会社の使命・任務を明確にする.
経営理念に基づいて,従業員・顧客・仕入先などパートナー・社会・株主など会社の利害関係者に対して,会社はどういう使命を持ち,どういう任務を果たしているのかを明確にするのだ.

その会社の使命・任務を決めた過程を従業員に明確に示す.
その上で,組織単位ごとにリーダ,志願者でチームを作り,各組織の使命・任務を決定する.これも○○日までに提出するように,と指示をするのではなく1,2日経営者,経営幹部も一緒に缶詰になって決める.

これをやって従業員のモチベーションが下がった事例は,今のところ一例もない.
与えられた職務分掌に従って仕事をするより,自ら自分の仕事のあり方から考えた方が,モチベーションが上がる.
これでモチベーションが下がってしまう幹部職員は,本当に会社にとって価値のある人材かどうか再考した方がよいだろう.


このコラムは、2010年7月12日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第161号に掲載した記事に加筆しました。

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