全日本空輸が運航する米ボーイング787型機が高松空港に緊急着陸したトラブルで、国土交通省運輸安全委員会は17日、同機のメーンバッテリーが黒く炭化していたことを明らかにした。バッテリーはジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)が供給するリチウムイオン電池。原因は特定できていないが、かつて発火トラブルが起きた電池の安全性が再び問われることになった。
今回のトラブルで米連邦航空局(FAA)は世界で飛ぶ787型機の運航を当面見合わせるよう航空各社に命じた。バッテリーの安全が確認できるまでとしており、期限は明示していない。
運輸安全委によると緊急着陸した787型機のバッテリー内部は真っ黒に炭化。
電解液などが噴き出したとみられ、重量は約5キロ減っていた。金属製のバッテリー容器は2センチほど膨張。過剰な電流や電圧によって電解液が過熱して噴き出した可能性があるという。GSユアサは17日、技術者3人を高松空港に派遣。運輸安全委の航空事故調査官らと合流し、原因究明を始めた。18日朝には米運輸安全委員会(NTSB)やFAA、ボーイング社から計4人が加わり、安全委と合同で調査を進める予定。
バッテリーの重点調査が進むのは、米ボストン国際空港でトラブルが起きた日本航空の787型機の出火元もバッテリーだったため。GSユアサはボストンにも技術者を派遣、調査をしている。
リチウムイオン電池は小型で大容量の電気を蓄えられる。ただ従来のニッケル水素電池より過熱・発火しやすいとされ、2006年にはノートパソコン用のソニー製電池が発火、大規模回収に追い込まれた。原因は製造工程で異物が混入、ショートしたこととされた。
こうした経験を踏まえ同電池で先行してきた日本メーカーは安全のノウハウを蓄積。GSユアサは三菱自動車の電気自動車やホンダのハイブリッド車向けにリチウムイオン電池を供給。高い安全性が必要な車載用や産業用で実績を積んできた。
787型機の調査ではトラブルの原因がバッテリー自体にあるのか、システム全体にあるのかが焦点。GSユアサ幹部は「バッテリーは周辺部品と組み合わせたシステムとして運用される。単体で発火・過熱することは考えられない」と語る。
(日経電子版より)
B787機は,開発が3年間遅れた上に,立て続けに問題が発生している.
新聞の報道から判断すると問題は,燃料漏れとバッテリー焼損の二つある様だ.
バッテリー焼損は,本記事の1月16日高松空港での全日空機の発煙事故以外に1月7日にもボストン空港で日本航空機が火災事故を起こしている.
両方とも,今回旅客航空機に初めて採用されたリチウムイオン電池が原因となっている.
事故を起こしたANA機は,昨年就航し1ヶ月後に電気系統に不具合が見つかっている.10月にはエンジンがかからずバッテリーを交換したと言う.
実はこの機体固有の問題が,まだ解決せずに表面的な処置(バッテリー交換)しか出来ていないのかもしれないが,事故の頻度を考えると,波及性のある問題の様だ.
以前リチウムイオン電池搭載の携帯電話でやけど事故,ノートPCで発煙事故が発生した.電池内の異物によるショート,過充電による発熱などを,製造の技術,充電回路技術で克服して来た.民間航空機では初の採用だが,自動車,戦闘機,人工衛星には既に採用されていると聞く.
飛行のメカニズムを電気化し,機体を軽量化する事が可能になり「低燃費」をB787機のセールスポイントとして実現している.その陰の立役者がリチウムイオン電池だ.
30数年前,駆け出しのエンジニアだった頃,リチウム電池を製品に搭載するために評価実験をしたことがある.電池に関する知見がなかったので,リチウム電池に関する論文を片っ端から読んでみた.リチウム電池の安全性評価実験に「ショットガンテスト」というのが有り,驚いた事を今でもよく覚えている.電池をショットガンに詰めてオーク材の板に撃ち込む試験だ.ずいぶん乱暴な評価試験をするモノだと驚いた.リチウムという材料に対する不安を,消去するにはそのくらいの事をしなければならなかったのだろうと推測している.
B787の開発でも,慎重に評価が行われたはずだ.航空機の故障は,一気に数百人の命が失われるリスクを持っている.故障は限りなくゼロに近くしなければならない.初期故障は起こるモノ,などと言う言い訳は通用しない.一号機から事故ゼロを目指さなければならない.
世の中で発生している故障や事故のほとんどは,再発事故と言える.
今回の事故は,以前のリチウムイオン電池事故の形を変えた再発なのか?
それとも,新たな原因による事故なのか?
今後発表されるであろう,事故調査の結果を注視したい.
このコラムは、2013年1月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第293号に掲載した記事に加筆しました。
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