月別アーカイブ: 2015年2月

改善の着眼点

時々友人の工場に出かけ、打ち合わせをしている。この工場に訪問するたびに、毎回新しい変化を発見している。廊下に従業員の改善提案がびっしり貼り出してあるが、今回はその他に「サンキューカード」が貼り出してあった。
上司が部下に、部下が上司に、同僚同士それぞれが感謝を伝え合う為のカードだ。カードに書くことにより、照れや恥じらいなく感謝を伝えられる。当り前と思っていた事が、感謝に値する事だと気が付く。こういう活動を継続することにより、感謝し合い協力し合う組織風土が出来上がる。

以前、他の工場にも同じアドバイスをして『3Q卡』と言う制度を作った事がある。
3Qは「Thank you」の語呂合わせだ。
実はこちらの工場は、余りうまくいっていない。アドバイスを受けた幹部が、まず自部署で展開しうまくいったら、全社に展開します、と言っていた。こういう仕掛けの狙いには、部門間の風通しを良くする事も入っている。全社一斉に取り組むことにより効果が何倍にもなる。

本日のコラムは、「サンキューカード」ではない、改善提案だ。
友人の工場では、改善提案を「気付き提案」と「改善提案」に分けている。
「気付き提案」とは、ここが不便だからなんとかして欲しい、と言う提案。
「改善提案」は、こうしたら良くなる、と言う提案。
改善が実施してなくても「気付き」「提案」だけで報奨金がもらえる制度だ。

友人は作業員を含む全従業員に改善を考える習慣を植え付ける為に、まず質より量を狙った。ある程度「量」が集まらないと「質」への転化は起こらない。
そろそろ「質」への転化時期に来たと判断した友人は「気付き」を「提案」に「提案」を「行動」に進化させることにした。

放っておいても進化はしない。彼は「改善委員会」を設置して、気付きや提案を評価し、気付きを具体的な改善方法に、改善提案を具体的な改善行動になる様に提案者にアドバイス(赤ペン指導)する事とした。

すばらしい展開だが、彼の悩みは改善委員会メンバーにどうやってアドバイス能力を付けるかだ。

こういう能力は、まず事例を沢山見る事だ。シャワーを浴びる様に沢山見る。これは自社内の事例に限らない、あらゆる工夫を発見する。
そしてそれに名前を付ける。

例えば広州の地下鉄に乗って、乗降扉の可動部分を固定するボルトに黄色い線が引いてあるのを見つける。これがネジ緩み点検の為の線だと気が付けば事例となる。これに「ネジ緩み点検I(アイ)マーク」と名前を付ける。

こういう事例の引出しを沢山持てば、改善の着眼点はどんどん広がる。ネジ締め検査時にアイマークを付ける。設備の調整ダイアルにアイマークを付ける。電子部品の極性点検をアイマークにする。等など一瞬にして改善方法が思い浮かぶ様になる。

そして事例を個人の頭の中だけでなく、文書にする。文書にすれば、事例の蓄積が組織の能力蓄積となる。

私自身は、自分がどうやって発想しているのかを考えて、フレームワーク化している。この方法ならば、経験がなくてもチョットした訓練で改善の着眼点を見つける事が出来る様になる。


このコラムは、2014年1月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第345号に掲載した記事です。

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改善活動

お客様工場の現場で改善活動の指導を始めて11年目となった。
前職勤務時代に生産委託先を定期的に指導していた期間を入れると、既に19年になる。色々な業種の工場を指導して来たが、幹部・リーダで改善チームを作って現場で改善を実践するスタイルは同じだ。

大手のコンサル会社(中国企業)で改善指導をしている友人は、コンサル会社側でプロジェクトチームを作り、メンバーを現場に駐在させて改善を推進する方式をとっている。

中国のコンサル会社が現場改善指導をする時は、こういうスタイルが多い様だ。

私はこの方式をとらない。なぜならば「誰かが決めた方法」に現場のリーダや作業員が従わなければならなくなるからだ。どんな改善をしても、それを実践するのは現場の作業員であり、作業員と密に接しているのが現場リーダだ。彼らが納得しなければ、狙った成果は出ない。

外部の力だけで、現場改善をしたいと言う意向のお客様のお手伝いをしたことがある。この時は、現場の抵抗に合い散々だった(笑)
作業改善の為の治具を作っても、班長が何かと言い訳をして使わない。現場に入っても、邪魔者扱いだ(苦笑)
この現場では、まず班長を束ねている主管の信頼を得る所から始めなければ、ならなかった。

このプロジェクトは、生産の自動化を狙ったモノで、私の役割は自動化すべき作業工程の洗い出しだったので、それでも問題はなかったのだが、ほとんど投資なしで改善出来る事が目の前に有るのに、現場の協力が得られずフラストレーションがたまったモノだ(笑)

私のスタイルは、現場リーダで改善チームを作り一緒に改善活動をする。自分で考えた改善ならば、自ら頑張る。そしてその活動の経験が、現場リーダの意欲と能力を育てる。

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第一期TWI導入サポート企業募集中

弊社では、第一期TWI導入サポート企業様5社を募集中です。

第一期TWI導入サポート企業様の募集は終了しました。
第二期TWI導入サポート企業様の募集は2015年9月の予定です。

  • 新人の作業ミスによる不良問題がしばしば発生する。
  • 作業員の流動性が高く、新人の教育訓練の効率を上げたい。
  • 多能工育成が課題になっている。

このような問題や課題をお持ちの企業様に、TWIの導入を提案いたします。
TWIとは(Training Within Industry)の略で、現場リーダの作業指導能力を高めるためのシステム的なアプローチの事を指します。
日本では戦後間もなく導入され、日本産業訓練協会が中心となり日本全国で指導をしています。弊社の日本産業訓練協会認定トレーナーが御社のTWI導入のお手伝いをさせていただきます。

TWIについてはこちらもご参考にしてください。
「TWI-JI」仕事の教え方

TWI導入サポート第一期の企業様5社で、3月7日にキックオフを開催します。

キックオフ後、サポート企業様個別にTWI-JI導入支援、監督者に対する研修、作業指導標準の作成支援を実施します。

その後、各企業様でTWI-JIを実践していただきます。
(約半年の間、必要に応じて個別指導をします)

各企業様での約半年の導入成果を発表する交流会を9月に開催いたします。

今後第二期第三期とTWI導入サポート企業様が増えて行きますが、第一期のサポート企業様は、今後開催されるTWI成果発表交流会にご招待いたします。

詳細の日程は以下の通りです。

  • 3月7日(午後):弊社会議室
     TWI導入企業経営者様の交流
     TWI導入の意義
     TWI導入成功のために考えるべき事
     TWI-JIの具体的内容。
     導入先行企業の事例

    対象:経営者様
  • 2日目(全日):お客様工場
     TWIの沿革と紹介
     監督者の意味と必要な五つ条件
     不完全と正確の指導方法
     四段階法
      受講者実例の演習
     作業分解の学習
      受講者実例の演習
     一日のまとめ

    対象:現場監督者
       管理職、経営者様のご参観を推奨
  • 3日目(全日):お客様工場
     2日目内容の復習
     訓練予定表の学習
      受講者実例の演習
     多能工の育成
      受講者指導方法の演習1
      受講者指導方法の演習2
     特殊な指導方法
     摘要と結論、受講者の感想

    対象:現場監督者
       管理職、経営者様のご参観を推奨
  • 4日目(全日):お客様工場
     監督者研修のフォロー
     現場指導

    対象:現場監督者
       管理職、経営者様のご参観を推奨
  • 9月:TWI成果発表交流会
    (東莞にて開催します)
  • 料金:29,800元(発票込み)
    交通費は実費を請求させていただきます。

第2日目以降は、御社のご都合に合わせ日程を決定させていただきます。
4日目以降の実践フォローも御社のご要求に合わせてサポートします。

お問い合わせ、お申し込みは下のフォームからお願いいたします。
[contact-form-7 id=”1450″ title=”第一期TWI導入サポート企業募集”]

送信後に「第一期TWI導入サポート」と言う件名のメールが自動送信されます。万が一届かない場合は、迷惑メールフォルダーに入っていないか、登録したメールアドレスが正しいかご確認をお願いいたします。

最大ではなく最適を目標とする

「最大ではなく最適を目標とする」は,ドラッカーの言葉だ.

人は目的意識を失うと,最大,最小,最速,最長,最短を目指してしまう.

昔電卓付きのライターがあった.ライターの大きさで電卓も付いているので,電卓としては最小サイズだろう.しかしテンキーが小さすぎて指では押せない.
テンキーを押すためにマッチも一緒に携帯することになる.
こんな笑話のような事例は,すぐにおかしいと気が付く.

しかし工場の中で改善をしていると,最適を忘れて最○を目指してるのに気が付いていない事がしばしばある.

ある工場で,半自動設備を最速で動かすために,半自動設備操作員の他に作業員2人が準備作業をしていた.3人で1時間800個生産出来る.
最速を目指すのを止め,1人で準備作業と半自動設備操作をすることにした.その結果1人で1時間500個生産出来た.2人で作業をすれば1時間で1,000個生産出来る。作業員が1人減り生産量は25%アップ、生産効率は87.5%アップとなった。
これが最速を止めて、最適を目指した改善だ.

別の事例は,一つの製品を組み立てるのに16人×3班で生産していた.
このラインを,12人×4班で生産する様に変更した.班長は,生産が間に合わないと反対するが,人数が減った分生産台数が75%になっても大丈夫だと説得してやらせてみる.

1班の人数を16人から12人に減らしても,全体では48人いる訳だから,1班の生産量が75%に落ちても全体では変わらないことになる.ところが12人×4班で生産すると,16人×3班て生産した時より20%生産量が上がった.
作業員の数が減った分だけ、作業員間の取り置きのロスが減っている。また、1工程の作業量が増えることにより、1人当たりの作業時間が長くなった。持ち時間が長い方が作業改善がし易くなる。
これにより、1班16人を12人に減らしても、生産量は75%とはならず、80%となり、4班全体で20%の生産量が上がった訳だ。

これら二つの改善事例の成果は、生産量の向上だけではない。少人数で生産出来ることになったため、生産量の増減に柔軟に対応出来る様になった。

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人財育成

昨年11月に23日、和僑会世界大会が香港で開催された。翌日月曜日は参加者の中から有志を募り、深センの視察ツアーを開催した。

午前中に深セン沙井の工業団地の工場を2軒訪問、午後は深セン特区内の商業施設2ヶ所を視察した。プログラムを盛り込みすぎたため、文字通り駆け足のツアーになった。

最初の訪問工場は、ツアー企画段階から自分自身が訪問を楽しみにしていた。
その工場は、深セン志専刺繍有限公司という。(株)ジートライが約30年前に設立した刺繍工場だ。

深セン和僑会のメンバーから、素晴らしい工場だと聞いていた。
ホームページから中国人従業員の日本研修日記「古月の日本おもてなし研修記」を読んで、この会社は従業員を大切にしている会社だとすぐに分かった。

中国の工場で指導を始めてから、如何に従業員のモチベーションを上げるかが私のテーマになっている。
きっとこの刺繍工場にはその秘密があると直感した。
今回の訪問は、工場を見せていただくだけではなく、ジートライ・合田社長と昼食時に直接交流することができた。

生産現場を見せていただくと、従業員の躾が行き届いた工場だとすぐに分る。
・使っていないミシンには埃よけの布がかかっている。
・検査選別用のトレーは使っていない時は全てひっくり返しておいてある。
・ミシン台には長さを測る目盛りが付けてあり、物差しを探す必要がない。
細かい事だが、こういう事を徹底させる事が「躾」だと思う。

工場を案内してくれた若い女性に、質問をしてみた。
彼女は安徽省出身で4年制大学の日本語科を卒業している。
私「この会社のどこが好きですか?」
女性「皆が優しい所です」即答だった。本当にそう感じているのだろう。
私「会社で仕事をしていて、どんな時が嬉しい?」
女性「お客さんに喜んでもらえた時です」
私「でも工場で仕事をしていると、自分たちが作った製品を買ってくれるお客さんが見えないよねぇ」
女性「でも日本から、製品が店舗に並べてある写真や、お客様の感想を知らせてくれるから、私たちにも分かります」

合田社長にこの話しを伝えると、フィードバックを制度化していて工場にも伝わる様にしているそうだ。概してフィードバックと言うと、顧客クレーム等ネガティブな事が多くなりがちだ。当然顧客クレームを再発させないためにも、フィードバックは必要だが、ジートライ社の様にポジティブな情報も積極的にフィードバックすべきだろう。
自分たちの仕事が、顧客に喜んでもらえている、こう感じることができれば、仕事は生活のための「苦役」ではなく「喜び」になるはずだ。

その他にも合田社長から、モチベーションアップの秘訣を教えていただいた。
・仕事が出来る従業員に日本語を勉強させる。
・成績の良い従業員を日本に研修に出す。
・作業員から幹部職員になるキャリアパスが有る。
実際に社内にこういう事例がある。だから従業員のモチベーションが上がる。

人を大切にし、育てて使う。これが合田社長の経営哲学の根幹と理解した。

アジアで会社経営をしている方々の中に、ローカルスタッフを「バナナ」と表現される方がいる。表面は黄色で我々と同じだが、皮を剥くと白く、白人と同じ様に打算的に転職をしてしまうと言う意味だ。こういう人達は、人財育成に腰が引けている。「せっかく教えても、辞めてしまうから」と言う。
しかし合田社長も、現地法人の高橋総経理も「教えないから、辞めてしまう」と多分言うだろう。

こんなノウハウも教えていただいた。
採用時に「日本が好きな人」を採用する様にしているそうだ。
日本語が出来る出来ないよりも、日本が好きかどうかが重要だそうだ。
それは、アニメでも何でも良い。好きであれば、日本語を勉強してみたい、日本に行ってみたいと言う気持ちが強いはずだ。そういう人のモチベーションを上げるのはたやすい。
合田社長は出張のたびに、日本のコミックや日本のお菓子等のお土産を持って来るそうだ。

経営とは、数字ばかりではない。人の心を理解し、それに寄り添う経営が高い成果を上げると考えている。

合田社長の経営哲学は、深センテクノセンター創業者の石井次郎氏から学んだと言っておられる。石井氏の事が書かれた「望郷と訣別を」を読み感動し、すぐに深センまで会いに来たそうだ。

「望郷と訣別を─国際化を体現した男の物語」
「中国・広東省でやる気向上 女子工員が大先生」

上記の2冊が石井氏の経営哲学を紹介している。しかし残念ながら既に絶版となっている。ご興味が有る方は、古本市場で探してみていただきたい。
私は2冊とも確保出来た(笑)

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無印良品のムジグラム

IMG_0703書籍名:『無印良品の、人の育て方』
“いいサラリーマン”は、会社を滅ぼす
著者:松井忠三
出版社:角川書店

 文房具やガジェット好きの私は、日経トレンディと言う雑誌のPodcast番組を毎週聞いている。この番組は、たまにスタジオにゲストを招いてインタビューをすることがある。
良品計画の松井忠三会長がゲスト出演した時の放送を聞き、「無印良品の人の育て方」を電子書籍で読んだ。
松井会長は、赤字転落した良品計画の社長に就任して1年でV字回復させた経営者だ。良品計画の業務マニュアルとして有名な「ムジグラム」を作り上げた人だ。

ムジグラムは、現在13分冊2,000ページになると言う。
業務ごとに、店舗ディスプレイ、接客、レジ清算などに分冊化されており、レジに近づいて来るお客様に、どの位置で挨拶をするか、目線は相手の目を見る、手にされている商品に目をやらないなど、事細かに書かれている。

こういうマニュアルは、人事部門の教育担当や、現場を離れた管理職が書ける物ではない。現場一線にいる人の気付きで出来上がったマニュアルだ。

松井会長が、このマニュアルが出来上がった経緯を話されている。
元々無印良品の社員は、先輩の仕事ぶりを見習って成長すると言う「経験主義」の育成を受けていた。そのため100人の店長がいると、100通りの店舗が出来る。
そしてその店長の指導を受けた人が店長になると、また少し違ったスタイルの店舗が出来る。

中には抜群のセンスを持った店長がいて、顧客に愛されるすばらしい店舗を作ることができる。しかし一方で、平均点以下の店舗しか作れない店長もいる訳だ。全員100点でなくても良い。まずどの店舗も80点以上にする。そのために「標準」を作る。それがムジグラムの始まりとなった。

私も常々言っているが、標準とかマニュアルは進歩を止める物だ。今日一番良い方法が、標準作業となりマニュアルに書かれる。従って標準作業、マニュアルが明日も一番良い方法であるとは限らない。むしろ日々改善が行われ、明日は更に良い方法に変わって行かねばならない。

ムジグラムは、現場からの要求で常に改訂されているそうだ。2,000ページの内20ページは毎月改訂される。毎月1%、一年で12%変わることになる。多分初版のままのページは1ページもないだろう。

こういうマニュアルが有れば、人財の流動は怖くはない。
新人が即戦力となる。ノウハウが人ではなく組織に残る。この様な状態に到達すると、店舗間の異動、職種の異動を大胆にすることができる様になる。

松井会長は、人事異動が人を育てると言っている。仕入れ担当だった役員と、販売担当の役員を入れ替える、などと言うコトを簡単にやってしまう。これは人の成長ばかりではなく、組織の風通しを良くする役割も有る。
例えば製造部門一筋で出世して来た部長と、営業部門一筋の部長は、大概仲が悪い(笑)各々が部門の利益を代表しているから、部門間の調整などが上手く行かなくなる。部長を入れ替えてしまえば、双方の都合が理解出来、お互いに助け合うことができる。

我が師匠・原田師も、社内のジョブローテーションを制度化していた。
役職者はその職位によって一定期間しか同じ職位にいられない様になっている。
つまり製造係長は3年しかその職位にいられない。3年以内に別の部署に異動
するか、課長職に昇格しなければならない。課長職も部長職も同様だ。
こうする事によって、中国人組織にありがちな部門の壁は一切なくなる。

松井会長のもう一つの人財育成のコツは「修羅場」だ。
たった一人で海外店舗に赴任した者は、異文化環境の修羅場の中で必死に経営
をする。この経験が人を一回りも二回りも大きくする。帰任した時に、周りの
同僚・部下からも尊敬の眼差しを受ける。これによって、周囲の人財も修羅場
に飛び込んで行く覚悟が出来る。

index_s『無印良品の、人の育て方 “いいサラリーマン”は、会社を滅ぼす』

伝える技術

 今年も明治大学の経営学部の皆さんに講義をして来た。学生さんたちのレポートを採点していて愕然とした(笑)
私が伝えたかった事を理解出来た人が少なく感じられたからだ。

レポートの採点結果を、送り返す時に「伝える能力に自信をなくした」と愚痴を書いた。助手の方から「それは学生のせいです」と言う返事をいただいた。
多分落ち込んでいる私を、慰めてくださったのだと思う。しかしそれを読んで、我に返った。愚痴など言っている場合ではない、もっと自分の伝える技術を磨かねばと反省した。

問題の原因を他人に求めれば、愚痴が出て解決出来ない。己の成長はない。
問題の原因を自己に求めれば、対策が出て解決出来る。これが成長だ。

実務経験のバックボーンが全く違う。年齢的ギャップが大きい。これらを克服する方法を見つけることができれば、大いに自己成長出来るはずだと考えた。
中国で指導している若者達の事を考えてみた。実務経験のバックボーンは違う、年齢ギャップはある、更に言語の壁が有る。

ではなぜ、日本人の学生さんに私の考えを伝えられなかったのか?
自己分析してみると、同じ日本語で話し合える事が問題だったのかも知れない、と思い至った。言葉が通じることにより、バックボーンや年齢のギャップに対する配慮が足りていなかった。

中国の生産現場で仕事をしていると、中国語でのコミュニケーションが完璧ではないと言うハンデが有るため、伝わる様に工夫する、伝わったか確認すると言うコトをしている。日本語が通じる相手だと、この様な努力を怠っているのだろう。

以前、日系企業の日本人総経理が、自分の考えを通訳が50%理解し、通訳から中国人従業員に伝わる時にまた50%しか伝わらない、とおっしゃっていた。
そうすると、経営者としての自分の考えは従業員に25%しか伝わらない。
この様な絶望的な状況を嘆いても始まらない。伝える努力が必要だ。

中国でも日本でも経営者と従業員にはギャップが有る。

  • 経験のギャップ:経験の違いで、自分には見えても部下には見えない事が有る。
  • 年齢のギャップ:年齢のギャップは経験のギャップとなる。
     年代が違えば、受けた教育も育った時代も違う。
  • 立場の違いによるギャップ:経営者と従業員の立場が違えば、モノの見方や考え方が変わる。

これらのギャップを考えると「異文化」とは同じ国の中でも発生するモノだ。

中国ではこれに加えて、言葉のギャップ、育った環境のギャップなどホンモノの異文化が加わる。

「違う事」を前提にコミュニケーションする。
それは違いを理解するとともに、同じ所に着目する事が重要だと考えている。