昨年11月に23日、和僑会世界大会が香港で開催された。翌日月曜日は参加者の中から有志を募り、深センの視察ツアーを開催した。
午前中に深セン沙井の工業団地の工場を2軒訪問、午後は深セン特区内の商業施設2ヶ所を視察した。プログラムを盛り込みすぎたため、文字通り駆け足のツアーになった。
最初の訪問工場は、ツアー企画段階から自分自身が訪問を楽しみにしていた。
その工場は、深セン志専刺繍有限公司という。(株)ジートライが約30年前に設立した刺繍工場だ。
深セン和僑会のメンバーから、素晴らしい工場だと聞いていた。
ホームページから中国人従業員の日本研修日記「古月の日本おもてなし研修記」を読んで、この会社は従業員を大切にしている会社だとすぐに分かった。
中国の工場で指導を始めてから、如何に従業員のモチベーションを上げるかが私のテーマになっている。
きっとこの刺繍工場にはその秘密があると直感した。
今回の訪問は、工場を見せていただくだけではなく、ジートライ・合田社長と昼食時に直接交流することができた。
生産現場を見せていただくと、従業員の躾が行き届いた工場だとすぐに分る。
・使っていないミシンには埃よけの布がかかっている。
・検査選別用のトレーは使っていない時は全てひっくり返しておいてある。
・ミシン台には長さを測る目盛りが付けてあり、物差しを探す必要がない。
細かい事だが、こういう事を徹底させる事が「躾」だと思う。
工場を案内してくれた若い女性に、質問をしてみた。
彼女は安徽省出身で4年制大学の日本語科を卒業している。
私「この会社のどこが好きですか?」
女性「皆が優しい所です」即答だった。本当にそう感じているのだろう。
私「会社で仕事をしていて、どんな時が嬉しい?」
女性「お客さんに喜んでもらえた時です」
私「でも工場で仕事をしていると、自分たちが作った製品を買ってくれるお客さんが見えないよねぇ」
女性「でも日本から、製品が店舗に並べてある写真や、お客様の感想を知らせてくれるから、私たちにも分かります」
合田社長にこの話しを伝えると、フィードバックを制度化していて工場にも伝わる様にしているそうだ。概してフィードバックと言うと、顧客クレーム等ネガティブな事が多くなりがちだ。当然顧客クレームを再発させないためにも、フィードバックは必要だが、ジートライ社の様にポジティブな情報も積極的にフィードバックすべきだろう。
自分たちの仕事が、顧客に喜んでもらえている、こう感じることができれば、仕事は生活のための「苦役」ではなく「喜び」になるはずだ。
その他にも合田社長から、モチベーションアップの秘訣を教えていただいた。
・仕事が出来る従業員に日本語を勉強させる。
・成績の良い従業員を日本に研修に出す。
・作業員から幹部職員になるキャリアパスが有る。
実際に社内にこういう事例がある。だから従業員のモチベーションが上がる。
人を大切にし、育てて使う。これが合田社長の経営哲学の根幹と理解した。
アジアで会社経営をしている方々の中に、ローカルスタッフを「バナナ」と表現される方がいる。表面は黄色で我々と同じだが、皮を剥くと白く、白人と同じ様に打算的に転職をしてしまうと言う意味だ。こういう人達は、人財育成に腰が引けている。「せっかく教えても、辞めてしまうから」と言う。
しかし合田社長も、現地法人の高橋総経理も「教えないから、辞めてしまう」と多分言うだろう。
こんなノウハウも教えていただいた。
採用時に「日本が好きな人」を採用する様にしているそうだ。
日本語が出来る出来ないよりも、日本が好きかどうかが重要だそうだ。
それは、アニメでも何でも良い。好きであれば、日本語を勉強してみたい、日本に行ってみたいと言う気持ちが強いはずだ。そういう人のモチベーションを上げるのはたやすい。
合田社長は出張のたびに、日本のコミックや日本のお菓子等のお土産を持って来るそうだ。
経営とは、数字ばかりではない。人の心を理解し、それに寄り添う経営が高い成果を上げると考えている。
合田社長の経営哲学は、深センテクノセンター創業者の石井次郎氏から学んだと言っておられる。石井氏の事が書かれた「望郷と訣別を」を読み感動し、すぐに深センまで会いに来たそうだ。
「望郷と訣別を─国際化を体現した男の物語」
「中国・広東省でやる気向上 女子工員が大先生」
上記の2冊が石井氏の経営哲学を紹介している。しかし残念ながら既に絶版となっている。ご興味が有る方は、古本市場で探してみていただきたい。
私は2冊とも確保出来た(笑)
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