月別アーカイブ: 2019年10月

製造品質

 「製造品質」というときの「品質」とは何をさすのだろうか?工程内不良が少ない、出荷品不良が少ない、という事を製造品質の評価指標として良いのか?

先週設計の品質を議論した際に、設計ミスの多少を品質指標として語ったが、設計品質は、その他に「機能」「操作性」「意匠」などが設計品質に含まれる。一言で表現すればユーザー・イクスペリエンスと言えば良いのだろうか。

「品質」という言葉を分解すると品(物)の質となる。漢字の束縛から自由になれば、ユーザー・イクスペリエンスという発想が生まれるだろう。

では、製造品質にもこの発想を適用するとどうかるか?
生産効率、生産リードタイムも製造品質と考えて良さそうだ。すなわち製造品質向上とは、不良削減ばかりではなく生産効率向上、リードタイム短縮もその範疇に入る。高度な設計公差に応える。美しい意匠デザインを量産で実現する。これらも製造品質だ。

価格競争が厳しいからこの程度の品質で……と考えるのは、品質とコストをトレードオフする考え方だ。こういう考え方をしていると、価格競争から逃れる事は出来ない。高度な設計要求に応える高度な製造品質があれば、価格競争から距離を置けると考えるが、いかがだろう。


このコラムは、2016年11月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第503号に掲載した記事を改題・加筆しました。

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設計品質

 前職時代は、設計技術者としてプロセスオートメーション設備のハード設計でキャリアをスタートした。典型的な重厚長大製品で多品種微量生産だ。
その後、真逆の量産製品を海外の生産委託先で生産するという経験を品質保証の立場で経験した。生産委託先での生産立ち上げなどで、必然的に生産技術的なサポートもする。
この様な経歴で、商品企画から設計、生産、品質保証の全工程を修行した。

独立した当初は、日系企業、台湾企業の仕事がメインだった。本社で開発設計した製品を中国工場で生産する。従って工場の生産性向上、生産の品質向上がメインの仕事となる。

製品開発などの上流工程の仕事は殆どなかった。しかし中国企業からの依頼も増えており、上流工程の仕事も増えて来た。当然だが彼らは開発設計も中国国内で行っている。
昨年は中国企業の開発部門で、設計品質の向上プロジェクトを支援した。
先週は、技術系の中国企業から相談を受け、設計プロセスの革新を検討中だ。
連休中もデスクに貼り付いている(笑)

ところで、日系企業も少し様子が変わって来たように感じている。
ローコスト生産を目指し中国に進出して来た企業は、製品開発設計は日本国内で完結していた。しかし既に中国はローコスト生産国ではない。ローコスト生産を目指す企業はアセアン方面に出て行った。残った企業はローコスト生産から、消費地生産に切り替えている。開発設計は日本本社だが、顧客対応のエンジニアリングは中国工場で設計する企業が増えている様だ。
統計的なデータがある訳ではない。企業研修を提供している会社から設計部門に対する研修の依頼がじわっと増えている。

こちらの記事もご参考に
「設計品質」


このコラムは、2017年5月1日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第526号に掲載した記事を改題・加筆しました。

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品質月間

 2019年11月は第六十回品質月間だ。今年のテーマは「みんなでつくる つなぐ お客様の笑顔」となっている。

以下は三年前に品質月間に合わせて配信したメールマガジンです。

 日本では、毎年11月に品質月間の行事が開催される。第57回となる今年の品質月間テーマは「あなたが主役 みんなでつなぐ 感動と安心を!」だ。

戦後間もない頃「Made in JAPAN」は安物の代名詞だった。安いだけならば結構だが、品質が悪い、すぐ壊れるという悪評ばかりだった。そんな状況を払拭せんと、企業が個別に品質管理強調月間を設け品質管理の意識を浸透し始めていた。品質管理活動を国を挙げて取り組もうと、日本科学技術連盟、日本規格協会、日本生産性本部、日本能率協会が主催機関となり、科学技術庁、通産省、日本商工会議所、日本放送協会などの後援を受けて「品質月間委員会」が結成された。この時(1960年)より毎年11月が品質月間と定められている。

頭初より品質月間は製造業ばかりでなく、消費者も一緒に参加する活動であるという趣旨により「品質管理月間」「品質管理強調月間」という生産者よりの名前は採用されなかった。つまり私たちの先輩諸氏は、60年も前から品質管理は自分たちのためではなく、お客様のためにすべきものと考えていたのだ。

品質管理、品質改善を従業員全員の品質第一のココロで進める。これは全て顧客満足を上げる活動だ。戦後、日本が急激に復興し工業国として世界的地位を築いた背景にはこの様な活動があったからだろう。

QC活動はTQC活動と呼ばれる様になり、製造部門ばかりではなく全社に広がる。さらにTQCからTQM(Total Quality Management)となり、品質以外の業務改善活動にも広がってきた。

しかし日本は中国に「世界の工場」の地位を奪われた感がある。日本人の完璧を目指す品質意識が中国との競争に負けた、と論評する人もいる。確かに家電業界は、軒並み日本勢が追い込まれている。しかし中国人が憧れる日本製炊飯器は、中国製と比較して2倍の炊飯時間がかかり、10倍の価格だ。それでも、わざわざ日本にまで行って買って帰ってくる。

世界のマスマーケットは、未だ「安かろう悪かろう」かも知れない。
しかし我々日本企業が、その様なモノ造りを続ける必要があるだろうか?
「安かろう悪かろう」のモノ造りを続けていても、従業員も会社も成長しない。

中国企業は金の力で業績不振に陥った日本企業の設計力を手に入れている。設計力が日本企業並みとなり、同じ中国人労働者を雇用している中国企業に対し、我々日系企業はどの様な戦略をもって競争優位となすべきだろうか?


このコラムは、2016年11月7日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第501号に掲載した記事に加筆しました。

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無駄を許容する

 青森県沖で訓練中の航空自衛隊機が墜落した。メルマガ執筆時、パイロットは依然行方不明であり、事故原因も不明だ。「レーダーから機影が消えた」という報道があるが、ステルス機がレーダーで捕捉できるのだろうか?墜落の原因は何か?など知りたいことは多くあるが、軍用機なのでその性能や弱点などを含む情報が公開されることはないだろう。

今日は事故原因からではなく、別の角度でこの事故を考えて見たいと思う。

航空自衛隊は、次期防衛戦闘機としてF35を導入することを決めているようだ。すでに150機ほど納入済み(あるいは納入決定)らしい。保守・修理を考えれば、すべて同型機で揃えるのが常識だろう。

整備・修理用の保守部品、機材、修理・メンテナンス中の予備機などの準備は同一機で運用する方が経済効果が高いはずだ。更に整備・修理工やパイロットも単一機とした方が育成コストが安く済む。

しかしもう少し踏み込んで考えると、揃えた戦闘機に致命的な欠陥が発見されると、代替えで運用できる戦闘機は無くなる。過去のF15が再登板する事になれば、戦闘時に性能的に劣勢になるかもしれない。軍備は相手と拮抗している事により「抑止力」となる。明らかに劣勢であれば、捨て身で本当に戦うことになる。

これは工場も同じだろう。同型の設備に統一しておけば、保守・修理などの運用コストは抑えられるが、その設備に固有な致命的問題が発生すれば生産が止まってしまうリスクがある。

組織も同様だと思う。
アリは働き者だという認識が一般的だが、実は一定割合でサボるアリがいる、という研究結果がある。その不埒なアリを集団から排除してしまうと、別のアリが働かなくなり、怠け者のアリの比率は一定となるそうだ。

全てのアリが休む事なく働き続ければ、多くのアリが疲れ切り集団の存続が危うくなる。「種の保存」原理が働いているのではなかろうか?
人間も、効率ばかり優先する集団より、無駄を許容する集団の方が、生産性や創造性が高くなるのではなかろうか?


このコラムは、2019年4月15日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第810号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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君子の徳、小人の徳

kāng(1)wènzhèngkǒngyuē:“shādào(2)jiùyǒudào(3)?”

kǒngduìyuē:“wéizhèngyānyòngshāshànérmínshànjūnzhīfēngxiǎorénzhīcǎocǎoshàngzhīfēngyǎn”。

《论语》颜渊第十二-19

(1)季康子:国の三人の家老の一人。姓は季孫、名は肥、康はおくりな
(2)无道:道徳に外れた者。無法者。
(3)有道:道徳のある者。道を守る者。

素読文:
こうまつりごとこういてわく、どうころして、もっ有道ゆうどうかば、何如いかん。孔子こたえて曰わく、まつりごとすに、いずくんぞさつもちいん。ぜんほっすればたみぜんなり。君子のとくかぜなり、しょうじんとくくさなり。草これに風をくわうればかならす。

解釈:
季康子は孔子に政治について尋ねた。“無道な者を殺し、有道な者を助ける政策はいかがか”
孔子答えて曰く。“政治を行うのに人を殺す必要などない。あなたが善を望めば、民は自ずと善に向かう。君子の徳は風、小人の徳は草なり。風が吹けば草はその方向になびくものだ。”

親は子供が不道徳なことをすれば叱ります。しかし親が不道徳であれば、子供は親の行いを真似ます。最も良い躾けは、親自らが道徳を守ることでしょう。為政者(君子)と小人(民)の間でも同じことです。
君子の徳は風、小人の徳は草、言い得て妙です。人の上に立つ者は、他人に良い影響を与える風とならねばなりません。

オンライン点検

 「オンライン点検」などという言葉があるのかどうかわからない。
通常点検・メンテナンスは非稼働時に行われる。稼働中の設備を止めて、又は非稼働時を狙って点検を行い、必要があれば設備を止めてメンテナンスを行う。

以前JR西日本でのぞみ34号の台車に亀裂が入っているのにそのまま運行した重大インシデントについてメルマガに書いた。

メルマガ第607号:運行停止判断、なぜ遅れた? 「のぞみ34号」トラブル

メルマガ第649号:のぞみ34号

メルマガ第652号:組織事故

この事故は、走行中に異常を感知しながら、運行を止めて点検する判断が出来なかったという問題だ。幸いにも何事もなかったが、一つ間違えれば大事故につながる重大インシデントだ。

直接のぞみ23号に関わる記事ではないが、JRは運行中に線路点検をしている、という記事を見つけた。

「鉄道の点検は列車にお任せ、首都圏でハイテク車両活躍中」(朝日デジタル)

運行車両にセンサーを取り付け、線路などの状況を運行中に監視するという。
通常は保線区の職員が、徒歩で線路の状態を点検する。ハイテク車両はレーザ照射、カメラなどの装備を備え、画像診断でレール、枕木、留め具などの異常を発見する。

新幹線でも「イエロードクター」という路線点検用列車が走っているそうだ。
記事のハイテク車両は営業運転中の車両に点検装備が積み込んであるので、リアルタイムで点検が可能になる。更にこういう仕組みがあると保線要員が歩き回る必要は無くなる。

同様の発想で、車両の各部にセンサーを貼り付け振動解析をすれば、今回重大インシデントとなった台車の亀裂は簡単に発見できるだろう。

工場の設備も同様のことができる。
ベテラン保全マンは、設備の稼働音を聞いただけで設備異常の兆候を察知する。このノウハウをセンサーと音声解析に落とし込むことで、故障する前に予防保全が可能になるはずだ。


このコラムは、2018年5月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第664号に掲載した記事に加筆したものです。

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朝日新聞ヘリの緊急着陸、部品の摩耗が原因 運輸安全委

 東京都健康長寿医療センター(板橋区)の敷地内にある空き地に4月、朝日新聞のヘリコプターが緊急着陸した原因について、運輸安全委員会は17日、「回転翼を操作するスイッチの部品が摩耗していて操縦に障害が生じた」とする調査報告書を公表した。

 報告書によると、ヘリは4月27日午後、取材から戻る途中に板橋区上空で操縦装置に不具合が生じた。機長は速度を上げようと、回転翼の傾きを操作する「コレクティブスティック」を引き上げようとしたが上がらず、空き地を見つけて着陸した。

 安全委がスティックの摩擦抵抗を緩めるスイッチ部分を調べたところ、ねじが緩んでがたついていた。このため、部品の一部が摩耗し、スイッチを最後まで押し込めない状態になっていたことが分かった。スイッチのねじ部分は覆いがあるため、「目視による点検は不可能だった」と指摘。メーカーに「材質を摩耗しにくいものに変えることが望ましい」とした。

 朝日新聞社広報部の話 予防的に緊急着陸しました。今後も安全運航に一層努めます。

朝日新聞ディジタルより

 私はヘリコプターのメカニズムに関しては,まったくの素人だ.従ってこのコラムは,ヘリコプターの事故を題材にした,メンテナンス,予防保全に関するコラムとして読んでいただきたい.

記事によれば,事故はネジの緩みにより部品が磨耗,コレクティブスティックが操作不能になったということのようだ.運輸安全委員会の報告書には,部品の耐摩耗性をあげることをメーカに推奨しているという.

しかし,部品の磨耗がネジの緩みにより発生したのならば,ここに対策を打たねば事故を未然に防ぐことは出来ないだろう.耐摩耗性の向上だけでは,延命になるだけだ.

常に振動がかかっている部分に使用されるネジは,点検増し締めが必要だ.
しかしこのネジは外部から目視不可能という.ネジの緩みがメンテナンス不良などの人為的原因により発生したのでなければ,ネジは点検増し締めが可能な構造にしなければならないだろう.

操縦不能によって発生するリスクは,乗客,乗務員の生命の危険だ.これはトップクラスのリスクであり,最優先で改善しなければならない.

4月の事故が12月に報告されたのでは,同型ヘリの他の機体に対して点検・予防保全をするのが手遅れになる.

工場の設備も同様だ.
万が一事故があったときは,リスク(生命財産への危険,生産継続への障害など)により優先度,緊急度を決定して,すぐにアクションをとるべきだろう.

設備ばかりではない,車載用の電装モジュールなどは,生産時にモジュール内部のネジ締めは厳重に管理されている.ネジ一点ごとに締め付けトルク,斜行によるネジの浮きがチェックしている.これは抜き取りや目視検査によって行われるのではない.工程内で100%自動検査が行われている.


このコラムは、2010年12月20日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第184号に掲載した記事に加筆したものです。

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ハインリッヒの法則

 このメールマガジンを読んでおられる方で「ハインリッヒの法則」をご存知ない方はおられないだろう。ハインリッヒという名前を知らなくても「ヒヤリ・ハット」といえばご存知であろう。

大怪我を負うような事故1件につき軽傷事故が29件、事故にはならなかったがヒヤリ・ハットするような事象が300件ある、という経験則をハインリッヒの法則とよんでいる。

これは安全災害だけではない。
例えばお客様の苦情を放置していた結果、保険金未払いで金融庁から業務停止命令を受けた保険会社もある。

我々製造業でも同じだ。
ある製品の工程内不良が0.7%あった。特に出荷を止めなければならないほど不良率が高かったわけではない。しかし全て同一部品による同一現象の不良であった。出荷を見合わせ、解析をした結果部品のロット不良と判明した。検査合格品でも動作環境によっては市場で不良現象が出る可能性があった。

以前指導していた中国企業は、『售后服務部』(アフターサービス部門)に寄せられる顧客からの情報は設計部門にも製造部門にも共有していなかった。

製造部門の工程内不良、アフターサービス部門の顧客からの情報、これらはヒヤリハット情報といっても良いだろう。

不良率だけではなく、不良現象別に不良率をリアルタイムに集計していれば異常を早期発見できる。大量の工程内不良が発生する前に対策することが可能になる。その結果不良が市場に流出するという最悪の結果を未然に防ぐことができる。

アフターサービス部門の情報を全社で共有すれば、顧客クレームの無い製品を設計できるようになるはずだ。また修理情報などから部品の寿命データを収集できる。この結果顧客に対する予防保全サービスの提案ができるようになるし、新製品の設計に活かせば、他社との差別化にもつながるはずだ。

製造の不良情報、アフターサービスのクレーム情報、修理情報などネガティブに捉えることなく、社内で共有する体制を作るべきだ。


このコラムは、2018年11月28日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第751号に掲載した記事に加筆・修正したものです。

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不立文字

 りゅうもんとは禅宗の教義を表す言葉で、文字や言葉による教義の伝達のほかに、体験によって伝えるものこそ真髄であるという意味。

通常私たちは,文字や言葉を使って他人とコミュニケーションをしている。
しかし相手に伝わる情報は言葉よりも、表情、仕草などの言葉以外の要素によるところが多いと言われている。口角を上げる、ウィンクをする、親指を立てる。こういった仕草が言葉以上の情報を相手に伝えることもある。

しかし不立文字で得る情報は,相手の感情ではなく禅宗の教義だ。単純な事柄ではない。言葉を使わずに禅宗の教義を理解することができるのだろうか?

禅宗には「只管打坐」という言葉がある。真理を会得するためには教えを請うのではなくひたすら坐禅をせよ、という意味だ。

真理とは何かを百言を費やしても理解できないであろう。だからこそ不立文字であり只管打坐なのではなかろうか?

百言を費やして説き教えるよりは、自ら体験することで理解させる。
このように簡単に言葉にしてしまうと、ありがたみがなくなるが(笑)
「教える」とは、体験を通して自ら理解させることではないだろうか。


このコラムは、2019年9月2日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第870号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・女工さん不足

先週の「女工さん不足」の記事に読者様からメッセージをいただいた.

K様のメッセージ

今回の記事の女工さん不足の件ですが、湖北省・武漢の近くの出身者が言っていましたが、最近、武漢に多くの企業が進出したそうです。

華南のそれに比べて若干の給料差はあるようですが、ほぼ地元で収入を得られるためにわざわざ華南地区まで出稼ぎに来なくても良いという子が増えているとのこと。

当然親もバスに乗ればすぐに帰ってこられる地元が安心できるでしょう。

今までは内陸部に工場が少なく、沿岸部まで出稼ぎというパターンでしたがアパレルやおもちゃでしょうか、人件費の高騰に音を上げ内陸部に移設しているという話を聞きましたが、この関係も大きいと思います。

華南の人手不足は続くと思います。

K様メッセージありがとうございます.
ご指摘のとおり,内陸部に農村の余剰労働力を受け入れる受け皿が増えている.

90年代末ころ東莞の新聞に重慶(だったと思う)の工場の人材募集広告が出ていた.東莞と同じ条件で採用する,という広告だった.当時はまだ工場の前に人材募集の赤紙を貼ればいくらでも応募者が並んだのでそれほど脅威には思わなかった.

それがあっという間に女工さんが雇えなくなり,工場の中に男子工員が増え始めた.業種によっては男子工員のほうが良いのだが,電子部品の組立てのように細かい作業はやはり女子工員のほうが忍耐強く作業をしてくれる.

当時女工さんがずらりと並んだ工場を見てオートメーションをもじって「乙女ーション」といっていたのが懐かしい.今では男子工員の数が目立つ.

従業員の数だけではなく,質も変わってきた.
中国では若い人たちの気質の変化を「80后」(’80年以降生まれ)「90后」と表現する.
親の生活を支えるため,弟,妹の学費を稼ぐために農村から出てきた女工さんたちは「苦役」に耐え,田舎に帰ることを夢に見て働いた.

しかし最近では,都会の生活にあこがれて出てくる若者が増えているように見える.

工場を見ていても作業員が携帯電話を持っている.太った若者が増えてきた.
残業を喜ばない者が増えてきた.工場が街から離れているという不満が出る.
90年代後半にはなかった現象だ.

この流れは国の発展に伴う必然の変化だろう.日本の歴史を見れば明白だ.

ではもう華南地区で工場経営を維持するのは不可能なのだろうか.今までどおり多くの女工さんを集め苦役に耐えながら作業をさせるという考え方を変えなければ,工場経営の未来はないだろう.

若者の気質の変化は考えようによっては,都合の良い変化だ.
「苦役に耐える覚悟」を持って出てきた若者はやがて疲れて故郷に帰ってゆく.しかし「都会に対する憧れ」をもって出てきた若者は指導の仕方で,憧れを夢に,夢を現実に変えるため仕事を通して自己成長を遂げるだろう.

こういうモチベーションの高い若者を正しく導き,少数精鋭で高品質・高付加価値・高フレキシビリティなモノ造りに転換してゆけば,激しいコスト競争の外側で経営ができるはずだ.

時代の流れは変えられない.
変えられないことを嘆くよりは,自ら変えられるところに注力すべきだ.


このコラムは、2009年10月26日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第122号に掲載した記事に加筆したものです。

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