月別アーカイブ: 2017年5月

続・内部監査

 先週のメールマガジンで、ISO9001の認証維持のために内部監査を「お義理」でやらずに、有効利用してはどうかと提案した。
その方法の一つとして部門間で相互監査をすると、部門間でベンチマーキング・ベストプラクティスを促進する事が出来ると書いた。

このコラムに対して、読者様からベンチマーキング・ベストプラクティスの例を教えて欲しいと言う要望をいただいたので、先週の続編としてお答えしたい。

相互監査をしたら良いと思い付いたのは、品証部門長として各部門の内部監査を実施していた時だ。

営業部門の内部監査を実施した時に、年度品質目標の説明を受けた。
その営業部門は、売り上げ目標などの業務目標も品質目標の中に入れていた。品質目標の中に売り上げ目標が入っているのに違和感を感じ、営業部長になぜ売り上げ目標を品質目標の中に入れたのか尋ねた。
彼の答えは、
「部内の月例会議で業務目標の管理をしている。品質目標の中に売り上げ目標や利益目標を入れておけば、その他の品質目標も自動的に月例会議で進捗を管理出来る」
と言う事だった。

つまり、品質目標の管理がお座なりになりがちなので、自部門の業務目標も品質目標の中に入れてしまった訳だ。
このアイディアにいたく感銘し(笑)他の営業部門にも、○○部長は業務目標をISOの品質目標に入れている、と教えこのやり方を推奨した。
その発展で、相互に監査し合えば、もっと気付きがあるだろうと考えて、部門間の相互内部監査をする様になった。

各部の部門長が内部監査員の資格を持っていれば良いが、そうでない場合は、有資格者が監査員となり、部門長はオブザーバとして参加していただく方式で運用した。


このコラムは、2014年3月3日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第351号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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百聞は一見に如かず

 随分昔の事だが、指導していた工場で工程内のムダを何度説明しても分からなかったが、ビデオに撮って見せたら一発で理解し、改善出来た事例がある。
「百聞は一見に如かず」パワーだ。

先週末は、お手伝いしている工場で交流会を実施した。この工場は5Sにしっかり取り組んでおり、5S工場のベストプラクティスといって良いレベルだ。

以前お手伝いしていた企業の幹部に、5Sベストプラクティス工場を見学して貰う事が目的だ。この企業の経営者は、お客様から5Sが素晴らしい工場だと言う評価を受け、工場見学で受注がとれる工場にしたいと考えているが、幹部が「事の重要性」に気が付いておらず、5Sの指導をしても、そこそこのレベルにしか到達しなかった。経営者と幹部間の5Sに対する認識ギャップを、5Sベストプラクティス工場を見せ、可視化しようとした訳だ。

実は、ビデオの百聞は一見に如かずパワーに気が付いていたので、5Sベストプラクティス工場の活動をDVDにして以前見てもらっていた。しかし「生」で見る効果が圧倒的だった。

経営者も5Sの成果をしっかり語ってくれたが、幹部職員が自分の言葉で語り、現場を案内する。これが訪問側の幹部の腑に落ちた様だ。
やはり「百聞は一見に如かず」パワーは絶大だと再認識した。

ホスト側の工場も、案内役となった幹部のモチベーションが上がる。見学者が来ているのを目にする一般作業員も、自分の工場が注目されている事に誇りを感じることができれば、モチベーションが上がる。

どちらにもプラスの効果がある。
今後こういう機会を増やして行くつもりだ。

========
日本のモノ造りはトヨタ生産方式などの高度な生産システムばかりが紹介されてるが、5Sが社内の基礎的文化となっているから、トヨタ生産方式がきちんと機能する事を見逃していると言う事実に、多くの人が気が付いていない。

5Sを徹底したことにより生産性が4倍になった。
倒産寸前の会社が3S(整理・整頓・清掃)をやっただけで高収益企業となった。
等の事例がいくつでもある。


このコラムは、2015年8月10日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第436号に掲載した記事に加筆したものです。

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知識より経験

 10年ほど前までは、日系企業と言えども中国人従業員に教育訓練を施すのはムダだと考えている経営者がいた。せっかく教えても転職してしまう。そんな徒労感から、ムダだと考える経営者がいたのだろう。

台湾企業は、初めから割り切っている様に感じていた。朝採用試験に合格した作業者は、午後には生産現場に上がって来る。導入教育をしていると言っているが、2時間ほどでは社内や寮生活の決まりを説明しただけで終わりだろう。
工程を細分して作業を単純にしているので、生産現場でも短期間の訓練で作業が出来る様になる。一見問題は無い様に思えるが、仕事に対する意欲や、問題発生時に対応する能力はおぼつかない。問題が発生すれば班長が対応するが、班長も作業者として雇用され、ろくな教育訓練も受けずに昇格しているので、同じ事だ。

さすがに最近は、教育訓練がムダだと言う経営者に会う事は無くなった。
しかし教育訓練の成果が見えないと嘆いている経営者は相変わらず多い。

私なりに分析してみると、「知識偏重の研修」に問題が有りそうだ。
教育訓練の目的は、対象者の好ましい行動の強化だ。
知識を与えても行動には結びつかない。
知識を能力に変換し、行動を促す。そして行動が習慣になればゴールだ。

このプロセスで重要なのは、知識の習得ではない。知識の習得は初めの一歩だ。その後の能力、行動、習慣のプロセスは「経験」により達成される。

稲盛和夫氏は「知識より体得を重視する」と言っておられる。

「京セラフィロソフィ」

私の仮説だが、中国人はこの「体得」が苦手なのではなかろうか?
仮説というより、妄想といったほうがいいかもしれないが、「漢字」が学校教育を記憶偏重型にしているように思う。日本も同じように漢字を使うが、日本の子供たちは最初に「さいた、さいた、さくらがさいた」とひらがなで習う。しかし中国の子供はいきなり漢字だ。しかも覚える数は、日本の当用漢字の数を、はるかに上回っている。

記憶偏重の学校教育を受けた人達が、教育訓練をすれば知識偏重にならざるを得ないだろう。教育訓練を受ける側も、記憶偏重型の学校教育で育っている。
その結果、以下のような課題を持ったリーダが多くなる。

教えた事は出来るが、応用が出来ない。
知識はあり評論できるが、自ら課題解決が出来ない。
自ら問題を発見し、解決課題を設定出来ない。

そんな課題を抱えたリーダも、経験を通して体得させることにより、成長するはずだ。


このコラムは、2014年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第382号に掲載した記事に加筆したものです。

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続・顧客工場監査

 先週のコラムで顧客工場監査について書いたら、読者様からメッセージをいただいた。

※F様のメッセージ

いつも有意義な情報をありがとうございます。毎週愉しみにしております。
今回の工場監査の件は目からうろこでした。確かに毎回小職がてきぱき回答していて成功したと思っておりましたが、監査する側の心理を考えておりませんでした。今後は現場リーダの教育機会の側面もあるとの観点から対応します。筆者の方の体験の豊富さがにじみ出ている良い建議でした。重ねてお礼申し上げます。

過分なご評価をいただき、恐縮しております。
私の場合は、顧客監査を受けるだけではなく、仕入先の監査・指導もしていたので、両方の心理が分かっているだけだと思う。

経営者や品証幹部が全て答えるのではなく、現場の作業者が正しく答えることができれば、ちゃんと教育が行き届いていると安心出来る。そしてそれが、たまたま答えられたのではなく、仕組み化してあるのが分かれば、もっと安心していただける。

例えば、倉庫の保管期限を質問された時に、その場にいた作業員がすらすらと答えたら相当安心していただける。そして、新人でもちゃんと答えられるね、と理解してもらえたらもっと安心していただける。この「なるほど」と思っていただくのがコツだ。

倉庫の事例では、倉庫の目立つ場所に保管期限の規定を貼り出しておく。○○類:6ヶ月、△△類:1年、□□類:2年などと倉庫保管期限を貼り出す。別途有効期限がある材料は、直接袋や瓶に書いておく。そして、マニュアルの文書番号も小さく書いておく。有効期限が切れた時の手順を聞かれたらば、この文書番号を頼りに、マニュアルを持って来て説明すれば良い。

マニュアルの内容が覚えられずに、適当に答えてボロを出すのが最悪。
マニュアルに書いてあります、と答えてマニュアルを見せることができれば、合格だが、ここでモタモタする様だと「大丈夫か?」と疑惑が湧く。

マニュアルに書いてあります、と答えるだけではまだ駄目だ。顧客監査官が一目見てどのように管理しているのか分かる様に「見える化」しておく。こうしておけば、現場の作業員がたとえ新人でも、正しく判断出来る。このレベルになれば、日々のオペレーションが安心出来る様になる。これが、監査を通してレベルアップすると言う事だ。

当然作業者は、日本語は理解出来ない。通訳を通して答えさせる訳だが、そこまでやる価値がある。

昔指導していた生産委託先で、顧客監査を受けた際に材料倉庫の管理についてお叱りを受けた。部品が入っている段ボール箱の蓋が、開封したまま開いていたのだ。倉庫担当の課長に対策を検討させたら、毎日班長が自主巡視をして改善する、そして週末は毎日の自主巡視報告書の内容を確認する為に自分で巡視する。と言う改善案を出して来た。
実はこの課長は、どちらかと言うと人の面倒見は良いが、管理が上手く出来るタイプではなかった。その彼が自分で改善案を考えて来た。黙ってやらせてみたが、何週間経っても蓋が開いた段ボール箱がゼロにならない。

毎日の自主巡視報告書には、蓋が開いている段ボールを見つけるたびに、封をしましたと書いてある(笑)これでは改善ではなく処置をしただけだ。蓋の封が出来ない理由を考えて対策をしてごらんと教えたら、キッティング台車にガムテープを乗せる場所を作った。

この改善を生産委託先の工場長にも知らせ、倉庫の課長は成長し始めたから良く見てやってくれとお願いしておいた。その後彼は、隠れていた能力をどんどん開花して行った。今は自分で工場を経営している。

これも監査をきっかけにして、人が成長した事例だ。


このコラムは、2014年8月4日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第373号に掲載した記事に加筆したものです。

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作業員の離職率

 毎年日本の明治大学で、経営学部の学生さんに講義をしている。
毎週日替わりで現役の著名経営者が講義をする。私から見ると、大変羨ましい授業だ。その特別講義のトップバッターとして登壇させていただいた。

その講義の後に、中国人留学生からご相談を受けた。
彼女のお父様は、中国で300人規模の工場を経営されているが、従業員の離職率が高くて困っている。どうすれば作業員を定着させることができるか、と言うのがご相談の趣旨だ。

非常に問題意識の高い現実的なご質問だと感心した。
自分が20代の頃は、経営的な問題意識は微塵もなかったが、まだ20代前半の彼女は、経営者としての問題意識をしっかり持っている様に思えた。

「離職率が高い」と言う現象に対して、解決課題をどう定義するかを、まず考える。

「離職率を下げる」と言うのも解決課題になるが、他にも解決課題は設定可能だ。つまり離職率が高くて問題になるのは、作業員の熟練度が不足する、人員の確保が難しい、などの原因により、生産性、品質、納期などを、望む範囲にコントロール出来ない事だ。

従って「離職率を下げる」以外にも、「少人数で生産出来る様にする」という解決課題も出て来るはずだ。
又は「作業員の教育・訓練の質と効率を上げる」という解決課題とする事も出来る。
この解決課題に関しては、こちらの記事をご参照いただきたい。

「班長の仕事」

今回はとりあえず、「離職率を下げる」と言う解決課題に関して、根源的なアドバイスをさし上げた。

まず従業員が辞める理由を理解しなければ、離職率を下げる事は出来ない。
ここで多くの経営者や経営幹部が犯す間違いは、最近の若者は理解出来ない、と考える所に有る。

「違い」に着目すれば、当然理解出来ない。
たとえ「違い」を見つけることができたとしても、それがどうマネジメントの役に立つのか考えてみると良い。
今の若者は、上からの指示に従うことに慣れていない。では指示をせずに仕事をしてもらうことができるだろうか?
多くの一人っ子は、両親祖父母に大事に育てられたから、叱るとすねる。では全く叱らずに仕事を教えることができるだろうか?

「違い」を理解してもマネジメントの役には立たない。
「違い」に着目すれば、このように矛盾する事ばかり列挙することになる。

「違い」ではなく「共通点」に着目すべきだ。
70后、80后、90后どの世代にも、経営者でも作業者でも、人間としての共通点があるはずだ。その共通点に着目すれば、年代の差、職位の差は無くなる。
その共通点は、幸せになる事だ。幸せになる事は、人として共通の人生の目的と言って良いだろう。

仕事を通して成長することにより、幸せになる。これが実感出来れば、人は簡単には離職しなくなる。なぜなら、仕事と人生の目的が一致するからだ。
逆に言えば「仕事を通して成長することにより、幸せになる」と言う理念に納得出来ない人は、辞めてもらった方が企業にとって好結果となるはずだ。


このコラムは、2014年10月6日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第382号に掲載した記事です。

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内部監査

 ISO9001は内部監査の実施を要求している。
あなたの工場でも、内部監査を年に1回は実施しているだろう。ISOのためにやる内部監査ならば、1回で良いかも知れない。しかしこれを1回しかやらないのは勿体ない(笑)

私は前職時代に、臨時内部監査と称して定期内部監査以外にも、しばしば実施していた。不適合が発生した時に対象職場を臨時監査をする。不適合の原因を追求して行くと、原因の更に奥にその問題を誘発させた遠因が見つかることがある。多くの場合その遠因は、マネジメントの問題である。
そんな理由で、事前通知も何もなく突然レフリーがイエローカードを出す様に臨時監査を始める事があった。

通常内部監査をするのは、品証部門の内部監査官だが、部門ごとに内部監査を相互にし合う。これにより、部門間でベンチマーキング・ベストプラクティスを促進する。
ISO9001は内部監査官に資格を与えなければならないことになっている。
従って、正式な内部監査と言う訳には行かないだろうが、こういう活動をすることにより、5Sなど社内活動の部門間温度差を減らすことができるだろう。

あなたの工場でも、何かテーマを決めて相互内部監査をやってみてはいかがだろうか。


このコラムは、2014年2月24日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第350号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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なぜなぜ5回

 定期開催している品質道場では、「顧客クレームの対応」をテーマとする回がある。

毎期同じテーマで開催している。昨年開催時に、参加者から困っている慢性不具合を聞いてみた。
色々な不具合があったが、要約してしまうと、人為ミスによる不具合が慢性化し易い様だ。もしくは人為ミスに対する再発防止対策をどうしたら良いか?と言う点に困っているケースが多かった。

参加者皆で例題として取り組んだ人為ミスは、出荷梱包に乾燥剤の入れ忘れがあり、顧客からクレームをいただいた、と言う不具合だ。
製品をトレーに入れて、2トレーごとにビニール袋で簡易真空パックする。
顧客要求でビニール袋に一個ずつ乾燥剤を入れることになっている。

これをなぜなぜ5回の演習として皆で演習した。
「なぜなぜ5回」と言う名前から、本当に効果的な分析が出来るのか?と思う方もあるかもしれない。しかし適切になぜなぜ5回が出来る人がやれば効果がある。まずは最初の問題の定義の仕方が重要だ。

この不具合を「乾燥剤を入れ忘れた」と定義しては駄目だ。
「乾燥剤が入っていない製品が、客先で見つかった」と定義する。

「乾燥剤を入れ忘れた」としてしまうと、入れ忘れ以外の原因に気が付かなくなる。「乾燥剤が入っていなかった」と定義すれば、入れたがその後に落ちてしまったと言う可能性も気が付く。

今回の不具合の原因が脱落でなくても、ビニル袋に乾燥剤を入れた後、真空パックするまでの間に乾燥剤が脱落する、取り出すなどの可能性があれば、そこに事前に対策を打っておくことができる。

「客先で見つかった」と定義することにより、乾燥剤が入っていない物を流出させた事が明確になる。これにより、なぜなぜ5回は最初の質問で二つに分岐して、発生原因と流出原因を分析することになる。
つまり
「なぜ乾燥剤が入っていなかったか?」
「なぜ乾燥剤が入っていない物を出荷したか?」
と言う二つのなぜに分岐することになる。

これで発生原因対策と、流出原因対策の両方を検討出来る。

参加者でやったなぜなぜ5回により、
(1)作業方法の改訂
  ・乾燥剤を入れる位置をビニールパックの外から見える位置に規定
  ・乾燥剤を入れる作業に十点法を採用
(2)作業指導書の改訂
(3)梱包作業者による確認(流出防止対策)
以上三つの対策が出来た。

作業者への注意喚起、再指導と言う再発防止対策よりは、ずっと効果がありそうだ。
この様な即興のなぜなぜ分析を私が全てやった訳ではない。
参加者した中国人幹部が分析をした。
適切な指導さえすれば、現場リーダでも出来る様になる。


このコラムは、2013年12月23日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第341号に掲載した記事に加筆修正したものです。

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究極の教え方

 先週土曜日に第一期TWI導入サポート企業様のキックオフミーティングを開催した。何度でも再現できる教え方を習得し、教え方を標準化することにより、指導者が変わっても、作業員が変わっても、作業がバラつかない様にする。これがTWI-JIの目指すところだ。「科学的職業訓練」と言う名前を付けてみた。
これと対極の位置に有るのが「伝統的職業訓練」だと考えている。伝統的職業訓練とは「徒弟制度」の事だ。

TWIの導入を推薦している私は、徒弟制度を否定しているかと言うと、実は逆で徒弟制度は究極の職業訓練だと考えている。師匠の元に住み込み、弟子として、便所掃除からお茶汲みまで仕事と関係のない事から叩き込まれる。効率は非常に悪い。しかし徒弟制度で受継がれるのは、仕事の技術ではなく「魂」なのだ。師匠の命は限りが有る。いつかは亡くなる。しかし師匠の魂は弟子達によって次の世代へと受継がれる。そしてそのまた次世代の弟子へと受継がれて行く。

徒弟制度は、師匠の「業」をその魂と一緒に、大河の如く未来に受継いで行くためのシステムなのだ。

しかし我々の様に、工場でのモノ造りに関わっている者にとっては、徒弟制度は効率が悪すぎる。ほとんどの従業員が出稼ぎであり、3年で全員入れ替わる様な職場で「匠の業」を人生をかけて受継いで行く訳にはいかない。科学的職業訓練に頼ることになる。

私には、中国人の弟子がある。さすがに寝起きまで共にする訳には行かないが、そういう人達には、自分の全てを伝えたいと考えている。そうすれば、私が死んだ後も、私が先輩から受継いだ経験や考え方が人々の役に立つはずだ。

こちらの本は、家具職人の秋山利輝氏の弟子の育て方が書いてある。
「一流を育てる 秋山木工の職人心得」秋山利輝著

書籍中にある秋山氏の言葉を以下に紹介する。
「技術がいくら一流でも、技術だけではすぐ追いつかれてしまいます。でも 心はすぐには真似できません。……
 感動してもらうモノ造りは、心が一流でないと出来ないのです。……
 「できる職人」ではなく、一流の心と技術を持った「できた職人」を育てたいのです。」


このコラムは、2015年3月9日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第414号に掲載した記事です。

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TQCを捨てたツケ

 

TQCを捨てたツケ

日本メーカーの高品質を支えてきたTQC(統合的品質管理)や、TQCに欧米のマネジメント要素を取り込んだTQM(総合的品質管理)をやめてしまったからでしょう。1990年代、いわゆる「バブル景気」の崩壊により、日本メーカーは全体的に自信を失いました。そこから脱するために、米国式の経営管理手法を日本メーカーは積極的に導入しました。MRP(資材所要量計画)やERP(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)といったものです。
ところが、これらは主に財務管理を強化するためのもので、品質については後回しになってしまった。そして結果的に、多くの日本メーカーはTQCやTQMをやめてしまったのです。実際、この頃、日科技連などでも品質関連の講座の受講者が大幅に減ったと聞いています。

(以下略)

 自動車業界で大規模リコールが何件も発生している。日本メーカの品質力は落ちてしまったのだろうか?と言う問いに対し、日野三十四氏(モノづくり経営研究所イマジン所長)は、品質が落ちていると言うよりも停滞しているとしながら、その原因をバブル崩壊以降自信をなくした日本人経営者が安直に、米国の合理的経営手法を真似したために、手を広げ過ぎ忙しくなりすぎたからと分析しておられる。

私も、バブル崩壊後に米国式経営に飛びついたのが、日本の品質力を落とした原因と考えている。しかし日野先生の分析とは少し違っている。

米国式の株主至上主義経営が、短期の利益を追求するあまり「現場力」を落としてしまったため、日本の品質力が落ちたと考えている。つまり現場の作業者を、派遣要員、契約社員に置き換えることにより短期的な経営数字改善を狙う経営をした。その結果現場にあった「暗黙智」が霧散してしまったのだ。

米国式のMRP、ERP、SCMを導入すれば、導入当初は手が回らなくなるのは理解できる。しかしこれらのツールは、オフィスワーカの生産性を上げる物であり、程なく余裕が出て来るはずだ。
現場力が失われたと言う私の分析の方が、的を射ている様に思うがいかがだろうか。

現場力が失われた結果TQC、TQMなど現場改善の活動が下火になって来た。
TQC、TQM活動の総本山である日本科学連盟(日科技連)に登録されているQCサークル数が年々減少傾向にある。以前は登録QCサークル数の年間推移グラフが公表されていたが、それが「累積登録数」となり、最近は日科技連のHPを探しても、単年度の登録QCサークル数しか見当たらなくなった(苦笑)

もう一度「現場力」を取り戻すためにQCサークル活動を活性化すべきだと考えている。QCサークル活動停滞の歴史を教訓とすれば、以下の様な活動方針に変えてゆくのがよいと思う。

・管理職が積極的に参加する。
 QCサークル活動は「ボトムアップ」活動として、一般従業員の自主性に任せられていた。自主性に任せる、と言えば聞こえはよいが、現実には「丸投げ」状態となっており、業務からかけ離れた活動となってしまった。活動はサークルメンバーの自主性に任せるが、活動テーマ選定時には、経営幹部、管理職も一緒に議論する。活動の成果が業務に直結すれば、サークルメンバーの達成感も経営側の満足度も上がる。

・QCサークルメンバーの自己実現の場とする。
 QCサークル活動による、メンバー個人の知識・経験の成長実感、達成感を重視する。チームワークを通して感動共有を計る。

・楽しくやる
 QCサークル活動を通して、仕事の楽しさを実感する。

この様な方針で活動をすれば、QCサークル活動がまた活性化すると考えている。社内のQCサークル活動の成果発表会や、他社との成果発表交流会がより活性化を高めるだろう。


このコラムは、2015年9月21日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第442号に掲載した記事です。

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TWI工場見学会

 2014年の2月に、主催している東莞和僑会の定例会で工場見学・交流会を開催した。
訪問した工場は、光センサーを応用した製品を生産する日系工場だ。

こちらの工場は、2007年に一度訪問したことがある。当時指導していた工場の幹部を数名連れて、工場見学をさせていただいた。全く違う業種だが何かしら得るモノがあるはずだが、ただ見ただけでは何も分からないだろう、と言う経営者の意向により、私が引率することになった。
当時から、コンジットパイプで作った作業ステーションを組み合わせた、フレキシブルな工程を作っておられた。

その後もご縁があり、同社の人事部長さんと知り合いになった。
社内にTWIを導入しようとしている彼女に、人財育成勉強会でスピーチしていただいた事もある。

TWIとはTraining within Industryの略で、仕事の教え方・指導方法を体系化したものだ。この手法は特に製造業の方々の参考になると思い、実際にTWIを実践しておられる現場での見学・交流会を開催することにした。

導入のきっかけは、離職率の上昇により、新人作業者が増え、生産性や品質が不安定になってしまった。新人に対する作業指導を改善し、品質、生産性を安定させるのが動機だった。そのために、現場の班長さんクラスにTWI手法を習得させることになった。これにより誰が指導しても同じレベルに教えることができる様になった。その結果、作業者が変わっても作業のバラツキが発生しない。従って品質が安定し、生産性は向上した。

離職率が高くても、問題がない体制を構築出来たが、実は離職率も半分近くに下がっている。

新しい事に取り組み、成果を出し継続する事は、多くの困難を伴うものだ。
ここ迄成果を出し、継続発展出来ている理由を自分なりに考えてみた。

◆幹部への権限委譲
TWI導入のアイディアは、日本人総経理が出している。しかし彼は「TWIという手法があるらしいよ」と言っただけだ。後は幹部が自ら調べ、導入を決めた。総経理があれこれ指示を出した訳ではない、部下を信じて任せた。
当然幹部達は、自分で考え自分で行動することになる。これが活動の意欲を上げる元になったと考えている。

◆人事部門の参与
TWI導入の鍵となったのは、人事部門だ。通常ならば、製造部門、生産技術部門が中心となってもおかしくはないはずだ。
人間は、変化に対して抵抗感を感じる傾向にある。新しい手法を制度として導入する場合、抵抗勢力が生まれる事がままある。人の心のマネジメントは、人事部門が一番良く知っている、だから人事部が中心となって進めました、と導入時の人事部長が語ってくれた。
TWI導入によって、給与制度や監督職・管理職の昇進要件も変更している。
導入後1年近くは、人事部門のスタッフが現場に入り込んで活動をした。

◆企業文化
上記の2点はともに「人」のモチベーションに関わる問題だ。
この工場には、人を育てて幸せにする、自己成長を目指す、と言う経営者と従業員間に共通した企業文化がある様に感じる。
この企業文化がTWI導入により更に強化されたのだろう。

その他に生産現場の見学で、以下の点に感銘を受けた。
◆新人ライン
新人だけで実生産ラインを組んでいる。通常導入時の研修をするとすぐに実生産ラインに新人を投入してしまうだろう。しかしこの工場は新人ばかりのラインを持っている。簡単な機種、ダブル品質検査をすることにより、リスク管理をしつつ新人の熟練度を上げることができる。

◆作業OJT
ネジ締め、リードカットのOJT実習をやっている。
通常半田付け、圧着作業などの特殊工程に関しては、OJT実習と資格制度を設けている工場は多い。特殊工程とは、品質検査をする事が不可能、又はコスト的に不合理な作業工程であり、品質保証が作業者のスキルに依存する工程を言う。
従ってネジ締め、リードカット作業も特殊工程であると言うのが私の持論だ。

東莞和僑会では、異業種との交流、工場見学により、経営者・経営幹部の気付き、成長が得られる様な定例会を開催している。


このコラムは、2014年2月17日に配信したメールマガジン【中国生産現場から品質改善・経営革新】第349号に掲載した記事です。

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